2016/10/20

アフリカツメガエルの複雑なゲノムを解読:脊椎動物への進化の原動力「全ゲノム重複」の謎に迫る

 

国際アフリカツメガエル・ゲノムプロジェクト・コンソーシアム

《 代表:平良 眞規(東京大学)、ダニエル・ロクサー & リチャード・ハーランド(カリフォルニア大) 》

 

発表のポイント

  • 2種類の祖先種が異種交配して「全ゲノムが重複」したとされるアフリカツメガエル。その複雑なゲノムの全構造を明らかにした。これにより、ついに全ての主要モデル生物のゲノム情報が出揃った。
  • 祖先種から受け継いだ2種類のゲノム(サブゲノム)を特定することに成功し、約1800万年前の「全ゲノム重複」の後に、ゲノムがどのように進化したかを初めて明らかにした。
  • 本ゲノム情報は、生命科学の発展に多大な貢献をするだけではなく、約5億年前に脊椎動物が誕生する過程で起きたとされる「全ゲノム重複」の謎を解く鍵、ロゼッタストーンとなる。

発表概要

さまざまな生物の全ゲノム解読は、全遺伝子の解明を通じて広く生命科学に寄与するとともに、生物進化の研究に多くの知見をもたらしてきました。多くの動物は父方と母方からの同一のゲノムをもつ「二倍体」ですが、アフリカツメガエルは、異種交配と全ゲノム重複により一つの生物の中に異なる2種類のゲノムをもった「異質四倍体」とされていました。そのため、非常に有用なモデル生物であるにもかかわらず、全ゲノム解読が非常に困難と諦められ、主要モデル生物の中で唯一行われていませんでした。しかし日本とアメリカを中心とする国際コンソーシアムは、アフリカツメガエルの全ゲノム解読に挑み、見事その全貌を明らかにしました。得られた情報は今後生物学から医学に至るさまざまな研究分野に大きく貢献すると期待できます。加えて、アフリカツメガエルのゲノムの中にある2種類のゲノム(サブゲノム)が別々の染色体のセットに分かれて存在するという重要な発見をしました。それにより、このカエルは約1800万年前に、2つの種が異種交配と全ゲノム重複を起こして誕生した異質四倍体であること、その後2つのサブゲノムが一つの生物の中で異なる進化を辿ったことが明確に示されました。今日の地球上には実に多様な種類の脊椎動物が生息し繁栄していますが、その最大の要因と考えられるのが約5億年前の古生代カンブリア紀に起きたとされる「2回の全ゲノム重複」です。その謎を解くための重要な鍵、いわゆるロゼッタストーンとしてアフリカツメガエルのサブゲノムの進化の仕組みが役立つことになります。これは生命科学における画期的な成果です。

発表内容

<背景と課題>
一つの生物がもつ全遺伝情報をゲノム(注1)と言い、その本体はDNAです。今日、種々の生物のゲノムDNAが解読されており(注1)、そこで得られたゲノム情報は生命科学の発展に大きく寄与しています。それと共にゲノム情報を生物間で比較することは、生物進化の研究に多くの知見をもたらしてくれます。それは、数十億年の生物の歴史のなかで途切れることなく子孫へと受け継がれてきたゲノムを調べれば、その中に痕跡として残されている進化過程を探し出すことができると考えられるからです。これまで脊椎動物のゲノム解読は、まずヒトで行われ、その後はマウスやゼブラフィッシュ、メダカなど世界的に多くの研究者に用いられている実験モデル生物を中心に行われてきました(図1)。

図1. 脊椎動物の系統樹と全ゲノム重複。系統樹は分類群の分岐年代に従って表し、右端にゲノム解読された動物名を示す。全ゲノム重複(星印)は、脊椎動物の共通祖先種で約5億年前に2回起きたとされている。さらに真骨魚類の共通祖先種では約3.2億年前に3回目の全ゲノム重複が起き、ニジマスの系統では1億年前にさらに4回目の全ゲノム重複が起きた。両生類ではアフリカツメガエルの系統で1800万年前に3回目の全ゲノム重複が起きた。

 

アフリカツメガエル(注2)(図2)は、1950年代から現在に至るまで、動物の発生の仕組みや細胞の性質を調べる上で非常に有用な実験モデル動物として使われてきました。2012年に山中伸弥博士と共にノーベル生理学・医学賞を受賞したジョン・ガードン博士はこのカエルを用いて、「細胞の初期化」を初めて実験的に示したことで有名です。しかしながら、研究の歴史が古くこれまで多くの重要な発見をもたらしてきた主要モデル生物の中で、唯一ゲノム解読されていなかったのが、複雑なゲノムのため解読が困難とされていたアフリカツメガエルでした。

図2. アフリカツメガエルとネッタイツメガエル。(a)成体メスの比較。外見は良く似ているが、アフリカツメガエルの方がネッタイツメガエルより大きい。(b)頭部の拡大図。アフリカツメガエル(上)とネッタイツメガエル(下)では顔つきが異なる。このアフリカツメガエルは近交系のJ系統である。(c)胚の比較。アフリカツメガエル(上)とネッタイツメガエル(下)の胚。アフリカツメガエルとネッタイツメガエルの卵の直径はそれぞれ1.2 mmと0.7 mmであり、アフリカツメガエルの方が大きく、この時期の胚も大きい。

 

多くの生物は、父方と母方から受け継いだ同一種類のゲノムを2つもつ「二倍体」ですが、一つの生物の中に2種類のゲノムを2つずつもつものがあり、これを「異質四倍体」と言います(注3)(図3)図3に示すように異質四倍体となるきっかけは近縁な2つの種の異種交配であり、そのあと染色体数の倍加、すなわち全ゲノム重複(注4)が起こり異質四倍体となります。

図3. 異質四倍体は雑種の全ゲノム重複によってつくられる。ここでは簡単にするため祖先種の染色体は1対のみを描いてある。実際の染色体数は、祖先種は9対もち、アフリカツメガエルは18対をもつ。

 

アフリカツメガエルは、新生代の頃に2つの種の異種交配で生じた異質四倍体の種であると考えられていました。しかしこれら2つの祖先種は既に絶滅し、現存していません。このようにアフリカツメガエルのゲノムはいわば、1種のカエルの中に2種の絶滅した祖先種ガエルのゲノム(これをサブゲノムと言います(注5):図4)が共存した状態といえます。

図4. 異質四倍体は祖先種に由来する2つのサブゲノムをもつ。ここでは簡単にするため祖先種aとbの染色体は1番と2番の2対のみを描いた(実際は祖先種は9対でアフリカツメガエルは18対である)。異質四倍体化の直後は、同祖染色体間に区別がないが現在までに一方が短くなったと考えられる。そこで長い方をL(long)、短い方をS(short)と命名した。今回、詳細なゲノム解析を行った結果、染色体LのセットとSのセットが、祖先種由来のゲノム(これをサブゲノムという)にそれぞれ対応することが示された。そこで、二つのサブゲノムをLとSと命名し、さらに祖先種もLとSと命名した。この発見により、倍数化後のサブゲノムの変化を解析することが可能となった。

 

したがって全ゲノム解読はこれらの2種類の互いに良く似たサブゲノムを区別して解読する必要があるため、非常にチャレンジングでありました。しかし、主要モデル生物として生命科学の発展に不可欠であること、また、脊椎動物の初期の進化の過程において起きたとされる2回の全ゲノム重複に重要な示唆を与えることから、2009年に日本と米国で期を同じくして独立にプロジェクトチームが立ち上がり、全ゲノム解読が始まりました。

<研究内容>
日本チーム(代表:東京大学・平良眞規)と米国チーム(代表:カリフォルニア大学・ダニエル・ロクサーとリチャード・ハーランド)は、2012年に国際コンソーシアムとして共同でゲノム解読を行うことで合意しました。それを可能にしたのが、日本が独自に作出した近交系動物(J系統(注6);図2)を、両チームが用いたことです。J系統はゲノムのDNA塩基配列に個体差がないため、2種の祖先種由来のサブゲノムの塩基配列の違いを浮かび上がらせることができました。それにより米国チームは、短く断片化したDNAの塩基配列を明らかにし、それらをパズルのピースのようにつなげていくことが可能となりました。しかしそれだけではよく似た2つのサブゲノム由来の塩基配列を区別して解読するには不十分です。日本チームの国立遺伝学研究所の藤山秋佐夫・豊田敦グループは、非常に長いDNA断片の塩基配列を明らかにし、名古屋大学の松田洋一・宇野好宣グループがそれらのDNA断片がアフリカツメガエルの染色体18対のうちどの染色体に対応するかを何百も調べました。さらに日本ツメガエル研究会(XCIJ)を母体とする研究グループ(広島大学・鈴木厚、北海道大学・福井彰雅、長浜バイオ大学・荻野肇、東京大学・近藤真理子ら16名)が、根気の要る緻密な確認作業を丹念に行いました。これらの共同作業により、ようやくゲノムの全体を、しかも非常に正確に、染色体ごとに解読することに成功しました。

次に、解読された全ゲノムDNA塩基配列を用いた解析を行いました。広島大学の彦坂暁グループは、「化石化した」トランスポゾン(注7)のDNA塩基配列に注目することで、2つの祖先種から受け継いだサブゲノムをみごとに区別しました(図4と図5)。

図5. アフリカツメガエルのサブゲノムの同定。サブゲノムSに特異的な“化石化”DNA配列を用いて、染色体(青)をFISH法で赤く染色したもの。染色体1番~9番(9_10番)のSの染色体により多くの赤い染色が見られる。これらは祖先種Sに由来したものと考えられる。9番目の染色体は、ネッタイツメガエルの9番と10番染色体が融合した染色体に相当するため染色体9_10番と呼ぶ。

 

驚いたことに、2つのサブゲノムは一つの細胞の中でそれぞれが9本の染色体のセットとして維持されていました。つまり絶滅した祖先種それぞれがもっていた9本の染色体のセットがほぼそのままアフリカツメガエルの中に残っていたことになります。しかも注意深く比較すると、一方の染色体セットの染色体の長さが他方に比べて少しずつ短いことが分かりました(図4と図5)。そこで長い染色体のセットをL(long)、短い方をS(short)と名付け、それらの起源となる絶滅した祖先種もLとS、さらにそれに対応するサブゲノムもLとSと名付けました。

サブゲノムLとSが区別できたことで、2つの祖先種が誕生したのが約3400万年前であること、それらが異種交配して異質四倍体になったのが、新生代の中新世に入った約1800万年前であることが分かりました(図4)。アフリカツメガエルの遺伝子はゲノム中に全部で45,099個見つかりました。この数は二倍体の近縁の種のネッタイツメガエル(注8)の約2倍でした(表1)。

表1. 遺伝子数の比較と同祖遺伝子の保持について。

 

染色体に存在する遺伝子を対応させると、ネッタイツメガエルの1本に対してアフリカツメガエルの2本の染色体LとSが丁度対応しました。そこでさらに詳しく比較をすると、染色体セットLの方がネッタイツメガエルの染色体に良く似ており、染色体セットSの方がより多くの遺伝子が無くなっていることが分かりました。さらに使われ方にも大きな差があり、染色体セットLに存在する遺伝子の方がより多く使われていました。これらの結果から、異質四倍体になる時の全ゲノム重複の後、どのようにサブゲノムが進化するかが初めて明らかになりました。

<結論と今後の展望>
では異質四倍体になることの利点は何だったのでしょうか。ツメガエル属のカエルの生息域を見てみますと、二倍体の種は赤道付近に限られていますが、異質四倍体の種は生息域を大きく広げています(図6)。

図6. 異質倍数化により何がもたらされたか。アフリカにおける、ツメガエル属の二倍体種と異質四倍体種の生息域を示す(Evans et al, 2004改変)。二倍体種は赤道付近の熱帯地方に限られているが、四倍体種はチャドから南アフリカまで広く分布する。このことから、異質四倍体化により環境適応能力が増して広範囲に生活範囲を広げたと考えられる。なお、二倍体のネッタイツメガエルの適温は26度前後、異質四倍体のアフリカツメガエルは14~23度である。

 

この広い生息域には、アフリカツメガエルを含めた、幾つもの異質四倍体の種が生息していますが、それらの種はいずれも約1800万年前に一度だけ起きた異質四倍体化が基になっています。このように異質四倍体となった最初の種は、異なる2つのサブゲノムを獲得したことで、環境適応と生存競争に打ち勝つ進化の潜在能力が備わり、その結果、幾つもの種に進化しながら生息域を広げて行ったと考えられます。二倍体の祖先種が絶滅したのも、2つの種のそれぞれの優れた遺伝子をゲノムに合わせもった異質四倍体の子孫に凌駕されたため、と想像するに難くありません。

全ゲノム重複は生物の進化の過程でしばしば起こる現象と考えられています。その例が、約5億年前の古生代カンブリア紀に脊椎動物が出現する過程で起きたとされる「2回の全ゲノム重複」です。これによって遺伝子数を格段に増やしたことが、脊椎動物の誕生とその後の多様化と繁栄をもたらした要因であったと考えられています。その後、脊椎動物の中には、さらに3回目、4回目の全ゲノム重複を起こしたものがいます。例えば、魚類の仲間の真骨魚類の系統では約3.2億年前に3回目の、さらにニジマスの系統では約1億年前に4回目の全ゲノム重複を起こしています(図1)。しかしいずれもゲノム重複後に1億年以上も経過しているため、サブゲノムを明らかにできていません。今回、約1800万年前という比較的最近に全ゲノム重複が起こったアフリカツメガエルのゲノムを解読することで、初めてサブゲノムを区別することができ、それを基に重複後のサブゲノムの変化を初めて明らかにすることができました。ツメガエル属のカエルの中でも、さらに4回目と5回目の全ゲノム重複が想定される種が見つかっています。今回のような解析をさらに進めることで、これまで謎であった約5億年前に起こったとされる脊椎動物の初期の進化での2回の全ゲノム重複や、約3.2億年前や約1億年前に起こったとされる魚類の系統での全ゲノム重複が、その後の進化にどのようなインパクトを与えたかを読み解く鍵、すなわちロゼッタストーン(注9)になるものと期待されます。このようにゲノムの中に痕跡として残されている脊椎動物の進化の道筋の謎を解き明かすことは、人類にとっての大きな知的財産となります。

全ゲノム情報の利用方法は多岐に渡ります。アフリカツメガエルはこれまでもモデル生物として、胚の発生や細胞の機能などにおける遺伝子の役割やその分子メカニズムの解析に使われてきましたが、今回の研究で得られた全ゲノム情報を用いることで、さらに多くの知見がもたらされると期待されます。例えば、遺伝子を改変する「ゲノム編集」という技術が近年注目されていますが、全ゲノム情報を基にこの技術を使えば、任意の遺伝子を改変してその遺伝子のもつ役割を解析することができます。アフリカツメガエルを用いたこれらの解析は、ヒトの遺伝的疾患の診断や治療などに役立つものであり、生命科学の発展に大きく貢献するものです。

◇本論文に関わった日本チームの機関と共著者一覧(18機関、23研究室)
東京大学(平良眞規、近藤真理子、道上達男、鈴木穣)、国立遺伝学研究所(藤山秋佐夫、豊田敦)、名古屋大学(松田洋一、宇野好宣)、広島大学(高橋秀治、彦坂暁、鈴木厚)、基礎生物学研究所(上野直人、山本隆正、高木知世)、産業技術総合研究所(浅島誠、原本悦和、伊藤弓弦)、北海道大学(福井彰雅)、長浜バイオ大学(荻野肇)、山形大学(越智陽城)、国立成育医療研究センター(黒木陽子)、東京工業大学(田中利明)、徳島大学(渡部稔)、立教大学(木下勉)、メリーランド大学(太田裕子)、北里大学(回渕修治、伊藤道彦)、バージニア大学(中山卓哉)、新潟大学(井筒ゆみ)、沖縄科学技術大学院大学(安岡有理)

◇主な研究費
科研費新学術研究「ゲノム支援」(国立遺伝学研究所、東京大学、国立成育医療研究センター)、科研費・基盤(A、B、C)

◇その他の主な機関と主な共著者
カリフォルニア大学バークリー校(米国)(アダム・セッション、ダニエル・ロクサー、リチャード・ハーランド)、ウルサン国立科学技術研究所(韓国)(テジュン・クワン)、ラドバウンド分子生命科学研究所(オランダ)(サイモン・ファン・ヘーリンゲン、ガート・ヴィーンストラ)、ソーク研究所(米国)(イアン・キグレイ)、沖縄科学技術大学院大学(日本)(ダニエル・ロクサー、オレグ・シマコフ)

 

発表雑誌

雑誌名 Nature
(10月20日版)
論文タイトル Genome evolution in the allotetraploid frog Xenopus laevis
(異質四倍体であるアフリカツメガエルXenopus laevisのゲノム進化)
著者 全著者数は74名、うち日本の著者は30名(海外在住も含む)。3名の筆頭著者と3名の責任著者を以下に示す。
Adam Session1, Yoshinobu Uno1, Taejoon Kwon1, Richard Harland*, Masanori Taira*, Daniel Rokhsar*
DOI番号 10.1038/nature19840
論文URL http://www.nature.com/nature/journal/v538/n7625/full/nature19840.html

 

用語解説

注1 ゲノム

ゲノムとは遺伝子の基本セットで、父親と母親からそれぞれ1セットずつ子に受け継がれる。その実体であるDNAはA、G、C、Tの4つの文字(塩基)からなり、DNAの長さ(塩基の数)と塩基の並び順が生物を特徴付ける。ヒトのゲノムのDNA塩基配列の数は約31億である。このようなゲノムのDNA塩基配列を全て決定することを解読という。またDNAはタンパク質に巻き付いて染色体と呼ばれる構造体となり、細胞の中に存在している。ヒトは23対の染色体をもつ。

注2 アフリカツメガエル

両生類・無尾目(カエル目)ツメガエル属に属し、学名をXenopus laevisといい、ゼノパスとも呼ばれる。他のカエルと異なり一生を水の中で過ごす。南アフリカ原産で、日本各地で養殖されており、発生学、細胞生物学、生化学、薬学、医学などで広く使われているモデル生物である。18対の染色体をもち、ゲノムのDNA塩基配列は約31億である。

注3 異質四倍体

図3を参照。異なる2つの祖先種が異種交配すると、通常は精子や卵子を作れず、子孫を残すことができない。しかし、何らかの偶然で雑種ゲノムが全ゲノム重複を起こすと、精子や卵子を作れるようになり、子孫を残せるようになる。

注4 全ゲノム重複

生物が持つ遺伝情報の1セットであるゲノムが、そのまま倍加することを全ゲノム重複という。全ゲノム重複で遺伝子数が一度に倍になると、余剰な遺伝子に新たな機能をもたせることができるため、生物進化の大きな原動力の一つとされている。脊椎動物は今日の地球上で最も繁栄している生物種の一つだが、その要因として今から5億年前にその祖先種において2回起きた全ゲノム重複が考えられている(図1参照)。しかしその後に5億年も経ってしまったため、現存する脊椎動物のゲノムにはその痕跡が断片的に見られるのみである。

注5 サブゲノム

異質四倍体のゲノムのうち、一方の祖先種から由来するゲノムのこと。図4を参照。

注6 J系統

片桐千明と栃内新(北海道大学)によって1973年からオスメス一番(ひとつがい)を用いて樹立された、アフリカツメガエルで唯一の高度に純化された近交系。近交系とは、兄弟姉妹の集団から近親交配を繰り返して得られた、父親由来のゲノムと母親由来のゲノムが同じになった系統のことである。JはJapanから命名。現在その系統が井筒ゆみ(新潟大学)により維持され、免疫学の実験に用いられている。

注7 トランスポゾン

動く遺伝子と呼ばれ、自身のDNA塩基配列をコピーしながらゲノムの中で位置を変えつつ増殖していく。たくさんの種類が知られているが、動物種ごとに特有な配列を持つものが存在する。また、長い時間の間にその転移活性がなくなり、それ以上増殖しなくなったものは「化石化」したと言われ、進化学的にゲノムの起源を探る貴重な手がかりとなる。

注8 ネッタイツメガエル

アフリカツメガエルと同じツメガエル属に属する近縁なカエルで、両者は約4800万年前に分岐した(図1参照)。ネッタイツメガエルは異種交配および異質四倍体化しておらず、外見はアフリカツメガエルと良く似た形だが体のサイズが小さい(図2)。ゲノム解読は2010年に発表された。

注9 ロゼッタストーン

エジプトのロゼッタで1799年に発見された石碑の一部と考えられる石版。碑文には同一の文章が三つの言語(ヒエログリフ、デモティック、ギリシア文字)で記述されており、1803年にギリシア文字の部分が完全に翻訳され、それを基に20年後にヒエログリフとデモティックの文章が解読された。これによって、それまで解読不能であったヒエログリフが初めて解読可能となった。現在ではこの言葉は「暗号を解くための決定的な鍵」という意味で用いられている。

―東京大学大学院理学系研究科・理学部 広報室―