南極最大の大気レーダー「PANSYレーダー」が可能にする南極大気の精密研究
発表者
- 情報・システム研究機構 国立極地研究所
- 国立大学法人 東京大学
概要
南極昭和基地大型大気レーダー(PANSYレーダー;Program of the Antarctic Syowa MST/IS Radar)は、高度1~500kmの3次元風速やプラズマの温度、密度を高精度・高解像度で観測できる南極最大の大気レーダーです。佐藤薫教授(東京大学教授/国立極地研究所客員教授)らが中心となって計画・観測を進めており、2012年にアンテナの一部を使った観測を開始、すでに新たな知見が得られています。
(1)極中間圏雲(高度80~90kmに現れる雲。人間活動の影響で発生するようになったと考えられている)に関連する「極域中間圏夏季エコー(PMSE)」を観測し、PMSEの発生源である電波反射層が傾いている可能性を指摘しました。この結果は極中間圏雲の発生メカニズムを知る重要な手掛かりとなります。
(2)2012年6月に昭和基地上空で発生した上下方向の強風は、風が山脈などの障害物にぶつかり、風下で巻き上がる「ハイドローリックジャンプ」と同様の現象であり、この現象は対流圏全層に及んでいることを明らかにしました。この現象が南極の大気と気候に与える影響はよく分かっておらず、PANSYレーダーの観測による解明が期待されています。
(3)昭和基地上空に対流圏界面(対流圏と成層圏の境目)が複数発生した時に、成層圏の下部で大気の揺らぎ(擾乱)が生じている様子が観測されました。さらにモデル計算との組み合わせで、この擾乱が、はるか西方の高気圧・低気圧から放射された慣性重力波とよばれる小さな大気波動が昭和基地にたどり着いて引き起こされた可能性が高いことを明らかにしました。この成果は、現在の地球規模の気候モデルにこのような重力波の発生や水平伝播の効果を組み込むことで、モデルの精度が向上する可能性があることを示唆しています。
また、PANSYレーダーは2015年3月、1045本のアンテナすべてを使った観測を開始しました。フルシステムのPANSYレーダーによる高精度・高解像度データが蓄積されれば、オゾンホールや極中間圏雲などの極域特有の大気現象だけでなく、地球全体の気候・気象システムの解明に大きく寄与すると期待されます。
詳細については 国立極地研究所 のホームページをご覧ください。