超深海・海溝生命圏を発見
発表者
- 独立行政法人海洋研究開発機構
- 国立大学法人東京工業大学
- 公立大学法人横浜市立大学
- 国立大学法人東京大学
概要
独立行政法人海洋研究開発機構(理事長 平 朝彦、以下「JAMSTEC」という。)海洋生命理工学研究開発センターの布浦拓郎主任研究員らと国立大学法人東京工業大学、公立大学法人横浜市立大学、国立大学法人東京大学の共同研究グループは、世界最深の海であるマリアナ海溝チャレンジャー海淵内の超深海(水深6000m以深)水塊(水温や塩分などの特性が比較的均質な海水の広がり)中に、上層に拡がる深海水塊とは明瞭に異なる微生物生態系、即ち、独自の超深海・海溝生命圏が存在することを世界で初めて明らかにしました。
超深海の海溝環境における微生物調査の歴史は1950年代に遡りますが、これまでの研究は主に海底堆積物を対象としており、海溝内水塊は未探査の海洋微生物生態系として残されていました。このため研究グループでは、2008年6月、KR08-05航海にて、チャレンジャー海淵中央域(11˚22.25’N, 142˚42.75’E, 水深10300 m)において、海洋表層から海溝底直上(水深10257m)までの海水試料を大深度小型無人探査機 「ABISMO」により採取し、分子生態解析、化学解析を展開しました。
その結果、海溝内超深海層と上方の深海層(水深4000~6000m)では、塩分、温度、栄養塩濃度等の物理化学環境からも、また微生物数にも明瞭な違いが見られないにも関わらず、超深海の微生物群集構造は、深海層の微生物群集とは明瞭に異なり、従属栄養系統群が優占することが明らかになりました。このことは、超深海環境特有の有機物源に依存する微生物生態系が超深海で発達していることを示唆しており、海洋微生物生態系像に全く新たな知見をもたらすものです。
マリアナ海溝は他の海溝から独立しているため、他の海溝からの有機物流入など、上層水塊と完全に異なる有機物源の存在を考えることは困難です。従って、今回発見された海溝水塊独自の生態系は、いったん海溝斜面に堆積した有機物が、地震等による海溝斜面の崩壊に伴って放出される現象に支えられている、即ち、超深海・海溝生命圏は、海溝地形を形作る地球活動に支えられた生態系であると考えられます。
なお、本研究の一部は、日本学術振興会の科研費24370015の助成を受けて実施したものです。本成果は、米国科学アカデミー紀要「Proceedings of the National Academy of Science」に2月24日付け(日本時間)で掲載される予定です。
詳細については JAMSTEC のホームページをご覧ください。