2014/12/18(配信日12/17)

地底深くに生息する微生物の代謝活動を検出

発表者

  • 鈴木庸平(東京大学 大学院理学系研究科 地球惑星科学専攻 准教授)

発表のポイント

  • 地底深部において、極貧栄養状態にも関わらず硫酸呼吸(注1)により微生物が生息することを、地下水の長期観測により初めて明らかにした。
  • 新たに考案した地下坑道からの調査法によって従来は地上の微生物が混入するために検出が困難であった微生物(注2)の代謝活動(注3)を検出した。
  • 高レベル放射性廃棄物の地層処分において、放射性核種の移動を抑制する地下水の水質を微生物が形成していることを明らかにした。

発表概要

図1

図1. 瑞浪超深地層研究所用地内に建設された大型地下研究施設のレイアウト図。 深度200メートル、300メートル、400メートルの掘削孔から採取した地下水を用いて研究が行われた。

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図2

図2. 2007年から2012年の6年間に亘る地下水分析の結果。縦軸は塩化物濃度で、深度と相関関係にある。(A) 深度に伴う硫酸濃度の変化。(B)深度に伴う硫酸の硫黄同位体組成の変化。質量数34の硫黄に富む正の方向へのシフト から微生物代謝によって硫酸が呼吸されていることを示す。 (C) 硫酸濃度の減少と硫黄同位体分別から見積もられた微生物による硫酸の代謝量。

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足下深くに広がる地底は、地球上最大の微生物生態系が存在すると推定されている。しかし、多様な生命にあふれた地上からの調査では掘削に伴って地上の微生物が混入する汚染によって、極貧栄養状態で地下深部に生息する微生物がわずかに消費または生産する化合物を識別することは困難で、その実態は謎に包まれていた。

東京大学大学院理学系研究科の鈴木庸平准教授らの研究グループは、(独)日本原子力研究開発機構、(独)産業技術総合研究所、名古屋大学、金沢大学との共同研究によって、国内の大型地下研究施設を有する岐阜県瑞浪超深地層研究所(注4)で、深度200メートルから400メートルの地下水を地下坑道から採取し(図1)、20種類を越える化学成分の分析を6年間に亘り継続した。その結果、これまで識別が不可能であった微生物の硫酸呼吸により生じる硫酸の変化を検出し、極貧栄養状態の地底深部において微生物が生息することを明らかにした。

また、地底深部において微生物が硫酸呼吸の過程で硫化水素を生成することにより、放射性核種の移動を抑制する地下水水質が形成されていることを示した。これらの成果は、地底深部に微生物生態系が存在するという仮説を支持し、今後地上とは異なる新規な微生物が発見される可能性が期待される。

発表内容

光合成により生産された有機物と酸素に満ちた地上とは異なり、地底は生物に必要な栄養素が欠乏しているため生命の存在しない「死の世界」と考えられてきた。一方で、1980年代から地底の微生物調査が始まり、地殻の基盤岩を覆う堆積岩(注5)では岩石中の隙間が小さく均質な多孔質で、掘削による汚染を回避できるため微生物の研究が進められてきた。しかし、地底の大部分を構成する基盤岩は、マグマの冷却により形成された緻密な結晶質岩(注6)から成り、微生物の生息場所は岩石内に発達する亀裂に限られる。多孔質な堆積岩と異なり花崗岩(注7)に代表されるこのような結晶質岩では、地上からの掘削では汚染なくして試料を採取することが困難であった。

岐阜県の瑞浪超深地層研究所は、地下深部の花崗岩を研究対象とした地下施設を有し、500メートルまでの深度において、花崗岩の亀裂から深層地下水を採取することが常時可能である。東京大学大学院理学系研究科の鈴木庸平准教授の研究グループは、(独)日本原子力研究開発機構、(独)産業技術総合研究所、名古屋大学、金沢大学との共同研究によって、2007年から6年間に亘り地下水の詳細な化学成分を分析してきた。試料採取から分析・解析に至る一連の研究手法を確立した結果、花崗岩中で微生物は硫酸を用いて呼吸することで生息していることが明らかになった。深度と共に硫酸濃度は減少しており、質量数が34の重い硫黄同位体に富む正の方向へのシフトから(注8)、硫酸代謝量を正確に見積ることに成功した(図2)。

今回の成果から、微生物の代謝活動も高レベル放射性廃棄物の地層処分に検討すべき化学環境の形成に重要な役割を果たしていることが示された。花崗岩は日本に限らず全世界の陸域の地底に広く分布するため、本研究で明らかとなった極貧栄養状態における微生物活動は、地底に最大の微生物生態系が存在するとした仮説を支持すると共に、微生物活動により元素の地下水中での移動が抑制されていることを示唆する。今後、深度500メートルまでの地下施設を用いて、花崗岩深部に生息する微生物種を特定し、極貧栄養状態に適応して進化した微生物の全ゲノムを解読して明らかにする予定である。深層地下水中における元素の移動に関して微生物活動の影響も加味して明らかにし、高レベル放射性廃棄物地層処分の安全評価の信頼性向上を目指す。

発表雑誌

雑誌名
「PLOS One」
論文タイトル
Biogeochemical Signals from Deep Microbial Life in Terrestrial Crust
著者
Yohey Suzuki, Uta Konno, Akari Fukuda, Daisuke D. Komatsu, Akinari Hirota, Katsuaki Watanabe, Yoko Togo, Noritoshi Morikawa, Hiroki Hagiwara, Daisuke Aosai, Teruki Iwatsuki, Urumu Tsunogai, Seiya Nagao, Kazumasa Ito, Takashi Mizuno

用語解説

注1 硫酸呼吸
酸素の替わりに、ミョウバンの成分である硫酸を用いて呼吸すること。硫酸呼吸は硫化水素が生じるため、多くの元素の地下水中での挙動に大きく作用する。
注2 微生物
肉眼で見えない単細胞の生物の総称で、細胞内に核を持つ真核生物と異なり、より原始的な細胞を持つ原核生物が今回の研究対象である。
注3 代謝活動
生命が必要な物質を細胞内に取り込み、細胞を構成する生体物質の合成や、化学反応によりエネルギーを生産すること。原核生物は有機物以外にも水素やメタンなど多様な物質をエネルギー源とし、酸素以外の硫酸や二酸化炭素などで呼吸してエネルギーを生産する。
注4 岐阜県瑞浪超深地層研究所
高レベル放射性廃棄物の地層処分で必要な岩盤や地下水を調査する技術や解析する手法の確立、深い地下で用いられる工学技術の基盤の整備を目指している。そのため、主に花崗岩を対象として、岩盤の強さ、地下水の流れ、水質などを調べたり、実際に地下に立坑及び水平坑道を設置して研究を行っている。
注5 堆積岩
既存の岩石が風化・侵食されてできた礫・砂・泥などの粒子が、水底または地表に堆積し、圧力により固結した岩石。陸の多くを覆い、地層をなすのが普通である。
注6 結晶質岩
マグマが冷えて固まってできた岩石(火成岩)および既存の岩石が熱と圧力によって変化してできた岩石(変成岩)を指す。花崗岩は結晶質岩の一種。
注7 花崗岩
マグマが地下深部で冷えか固まって形成した深成岩で、御影石(みかげいし)で知られる。花崗岩は陸地を構成する岩石の中では非常に一般的で、世界各地で見つかる。
注8 硫黄同位体
原子には陽子の数は同じでも中性子の数が異なるため、質量数が異なる同位体が存在する。硫黄原子には主に質量数が32と34の同位体があり、質量数34より質量数32の硫黄を含む硫酸の方が微生物により消費され安い。その結果、地下水中の硫酸の質量数32と34の比(δ34S値)が、34の硫黄に富む正の方向へシフトする。