2014/3/20

『化粧』をする星

— 周辺ガスの降り積もりによる恒星表面の鉄の濃度の増加

発表者

  • 服部 公平(東京大学大学院理学系研究科附属天文学教育研究センター
    博士課程3年・日本学術振興会特別研究員)
  • 吉井 譲(東京大学大学院理学系研究科附属天文学教育研究センター 教授)

発表のポイント

  • 一部の恒星は、星の表面に存在する鉄の濃度が誕生時に比べて増加している可能性があることがわかりました。
  • 「恒星表面の鉄の濃度が、恒星誕生後の周辺環境の影響を受けて変化する可能性」を示唆する世界初の成果で、 従来の通説を覆すものです。
  • 一部の恒星の年齢は、従来の方法では正しく推定できないことが判明し、天の川銀河の歴史描像や、宇宙で最初に誕生した星に関する学説に影響を及ぼす可能性があります。

発表概要

宇宙の始まりであるビッグバン以降、宇宙における鉄の量は単調に増え続けています。恒星は宇宙空間のガスから形成されるため、宇宙初期に生まれた恒星は誕生時の鉄の濃度が低く、最近生まれた恒星は誕生時の鉄の濃度が高い傾向があります。これまで、恒星表面の鉄の濃度は誕生時の「先天的」な値から変化しないものと考えられており、恒星の年齢を測る指標として長らく利用されてきました。一方、この通説に反し、鉄の量が少ない恒星の表面に鉄の多いガスが衝突・付着することで恒星表面の鉄の濃度が増加するという仮説も提唱されていました。しかし、この仮説を観測的に検証することは困難であり、これまでなされていませんでした。

今回、東京大学大学院理学系研究科とアメリカ国立光学天文台を中心とする国際研究チームは、天の川銀河に含まれる主系列星(注1)約1万天体の軌道運動と表面の鉄の濃度を解析し、上述の仮説を検証しました。その結果、天の川銀河のハロー(図1)に属する主系列星の中には、仮説から予想される通り、表面の鉄の濃度が増加しているものが存在する可能性が高いことが判明しました。

今回の結果は通説に基づいて恒星の年齢を推定する従来の手法の欠陥を示唆し、天の川銀河の従来の歴史描像に修正を迫るとともに、宇宙で最初に誕生した星に関する学説に影響を与える可能性があります。

発表内容

図1

図1:天の川銀河の概念図

多数の恒星が集まってできている系を「銀河」といいますが、私たちの住んでいる「銀河」を特に「天の川銀河」と呼びます。「天の川銀河」の場合、太陽のような恒星が2000億個程度含まれています。このうち、太陽(図中:オレンジ色の丸)を含めた大部分の恒星はピザのような円盤状の空間分布をしており、ディスクと呼ばれています(図中:青い部分)。 このディスクを球状に取り囲むように分布している、年老いた恒星の集合をハローとよびます。 ハローに属する恒星(図中:赤丸)は、天の川銀河に含まれる全ての恒星の1%程度です。

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(1)過去半世紀の慣習:年齢の指標としての恒星表面の鉄の濃度

宇宙の始まりであるビッグバンの直後の時点では、水素とヘリウム以外の元素は宇宙にはごく微量しか存在せず、代表的な重元素である鉄は全く存在しませんでした。一方、現在私たちの身の回りには鉄が大量に存在します。これは、宇宙空間のガスから恒星が生まれ、一部の大質量星が超新星爆発を起こして宇宙空間に鉄をまき散らす、といったサイクルを繰り返しながら、宇宙に含まれる鉄の量が時間とともに増加してきた歴史を反映しています。

従来、「恒星表面の鉄の濃度は、その恒星の誕生時のまま不変である」と考えられてきました。この通説に基づけば、恒星表面の鉄の濃度を測定することで、その恒星が生まれた当時の宇宙空間の鉄の濃度が分かり、その恒星の年齢が推定できます。これまで、この通説は50年以上にわたって信じられてきており、私たちの住む天の川銀河の歴史も、恒星表面の鉄の濃度を手がかりに調べられてきました。

(2)「金属降着仮説」: 恒星表面の鉄の濃度は変化する

一方、上記の通説に反する仮説も提唱されていました。1980年、(当時大学院生であった)現・東京大学大学院理学系研究科の吉井譲教授は、「金属降着仮説」とよばれる以下のような仮説を理論的に提案しました。

鉄の少ない年老いた恒星の表面に鉄の多いガスが衝突・付着すると(これを「金属降着現象」とよびます)、ちょうど恒星が「化粧」をするかのように、恒星表面の鉄の濃度が増します。こうした恒星は、鉄の濃度から判断すると、実際よりも若い星に見えてしまいます(図2)。

この仮説が正しければ、恒星表面の鉄の濃度を用いて恒星の年齢を推定する従来の手法は信頼性を失いかねません。しかし、恒星の表面しか観測できない人類にとって、金属降着仮説を観測的に検証することは困難であり、この仮説の検証は 30年以上棚上げされてきました。

(3)2種類の主系列星を使って「若返り」を検出

太陽と同程度の質量を持つG型・K型(注2)の主系列星は、どちらも寿命が長く、過去の天の川銀河のあらゆる時点で形成されてきました。この2種類の主系列星は、内部構造が異なるため、金属降着現象に対する影響が異なります。具体的には、K型主系列星は金属降着現象を経験しても表面の鉄の濃度に影響がでにくいため、鉄の濃度から推定される「見た目の年齢」が比較的信頼できます。一方、G型主系列星が金属降着現象を経験すると、表面の鉄の濃度が大きく増加し、見た目が実際よりも若く見えます。

仮に、あるG型主系列星に対して、 金属降着現象が無視できず、 表面の鉄の濃度が大きく増加していたとすると、そのG型主系列星は、全く同様の歴史を経験してきたK型主系列星に比べて表面の鉄の濃度が高いことが予想されます。

東京大学大学院理学系研究科とアメリカ国立光学天文台を中心とする 国際研究チームの一員である服部公平氏(東京大学大学院理学系研究科博士課程3年・日本学術振興会特別研究員)は、スローン・デジタル・スカイ・サーベイ(注3)のデータを利用し、軌道の似た(すなわち、同様の歴史を経験してきた)G型・K型主系列星の表面の鉄の濃度を統計的に比較しました。その結果、天の川銀河のハローに分布するG型主系列星の中には、表面の鉄の濃度が本来の値より50%増加しているものが存在することがわかりました(図3)。この結果は、金属降着仮説の予想と一致しており、国際研究チームは金属降着現象が実際に生じていた可能性がある、と結論づけました。

今回の結果は、金属降着に伴う「若返り」現象の存在を観測的に検証した世界初の成果です。今後、研究対象を主系列星以外の恒星にも広げることで、「若返り」現象をより多面的に理解することができるようになると期待されます。

(4)天の川銀河の歴史描像への影響

G型主系列星は、太陽近傍で観測可能な恒星の中で、最も個数が多い恒星です。これまで、多数のG型主系列星の表面の鉄の濃度が測定され、天の川銀河の歴史が調べられてきました。しかし、こうした過去の研究はG型主系列星の表面の鉄の濃度が不変であるという通説の仮定に基づいています。今回の研究により、この仮定が必ずしも妥当ではないことが明らかとなり、天の川銀河の歴史描像に今後修正が必要となる可能性があります。

(5)「宇宙の一番星」の「変装」

ビッグバン直後の宇宙には鉄が存在しないため、宇宙で最初に生まれた「第一世代星」は、誕生時に鉄を全く含みません。したがって、もし天の川銀河の中に、表面に鉄を一切含まない恒星が発見されれば、それは第一世代星だと判断できます。しかし、現在のところそのような第一世代星は未発見です。この観測事実を説明する最も有力な学説は、「第一世代星はすべて短寿命であり、現在まで生き残れなかった」という説です。一方、今回の研究により、「長寿命の第一世代星も存在するが、その多くは金属降着現象の影響を受け、第一世代星でないかのような見た目に『変装』している」という可能性も検討される必要がでてきました。今回の成果は、謎の多い第一世代星の形成過程を解明する上で貴重な土台を提供するものです。

発表雑誌

雑誌名
「The Astrophysical Journal」(オンライン版:2014年3月18日(米国東部時間)掲載)
論文タイトル
Possible Evidence for Metal Accretion onto the Surfaces of Metal-Poor Main-Sequence Stars
著者
服部公平; 吉井譲; Timothy C. Beers; Daniela Carollo; Young Sun Lee
DOI番号
10.1088/0004-637X/784/2/153
アブストラクトURL
http://iopscience.iop.org/0004-637X/784/2/153/

図2:金属降着現象の概念図

鉄の少ない年老いた恒星の表面に鉄の多いガスが衝突・付着すると、ちょうど恒星が「化粧」をするかのように、恒星表面の鉄の濃度が増します。こうした恒星は、表面の鉄の濃度から判断すると、実際よりも若い星に見えてしまいます。

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図3:2種類の恒星を用いて「若返り」を検出

G型・K型主系列星が天の川銀河を周回する速度(公転速度)と表面の鉄の濃度との間の相関関係。金属降着現象が無視できれば、G型(赤)とK型(青)の相関関係は一致します。観測された「ズレ」(黒矢印)が金属降着現象の影響の強さ、すなわちG型主系列星の見かけ上の「若返り」の度合いを示しています。

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用語解説

注1 主系列星
恒星の中心部で水素をヘリウムに変換し、その際に発生する熱をエネルギー源として輝いている恒星を指します。恒星は、一生のほとんどの時期を主系列星として過ごします。現在の太陽も主系列星に分類されます。
注2 G型・K型
表面温度に基づいた恒星の分類型を指します。G型の恒星は絶対温度6000度程度(絶対温度0度は、セ氏-273度に対応)、K型の恒星は絶対温度4500度程度です。太陽はG型の主系列星です。
注3 スローン・デジタル・スカイ・サーベイ(Sloan Digital Sky Survey)
アメリカ合衆国ニューメキシコ州のアパッチポイント天文台に設置された口径2.5メートルの望遠鏡を用いた、銀河や恒星の大規模探査プロジェクトです。スローン財団からの資金援助を受け、1998年から運用を開始しています。