2014/2/5 (配信日1/31)

地球内部の3次元構造を高解像度で推定できる手法の開発及び応用

— 見えてきた中米下の最下部マントルの構造 —

発表者

  • 河合研志 (東京工業大学地球惑星科学専攻 特任助教
    兼 東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻 客員研究員)
  • ロバート・ゲラー (東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻 教授)

発表のポイント

  • 世界最高解像度で中米下の最下部マントル(注1)の3次元地震波速度構造を推定。
  • ビッグデータ的推定手法(波形インバージョン手法)を独自に開発。
  • 最下部マントルの詳細構造推定により地球の進化の理解につながると期待。

発表概要

地球は地表から深さ方向に地殻・マントル(注1)・外核・内核(注2)にわかれている。 外核と接するマントル最下部はD"(ディーダブルプライム、厚さ数百キロの層である)領域と呼ばれる。 液体鉄合金からなる外核に近づくにつれて、D"領域内で温度や化学組成が急変する。 この領域を介した物質やエネルギーのやり取りは地球の進化を考える上で重要な手かがりとなるが、その詳細な構造はいまだ明らかになっていない。 D"領域の詳細な3次元構造推定を可能にする新しい地震波解析手法が、東京工業大学の河合研志特任助教および東京大学理学系研究科のロバート・ゲラー教授らによって開発された。 さらに、その解析手法を北米の高密度地震観測網で収録された膨大な地震波データに適用し、中米下のD"領域の詳細な3次元構造を推定することに成功した。 その構造には、過去に沈み込んだファラロンプレート(注3)の痕跡を見ることができる。 すなわち、マントル対流がファラロンプレートを地球表層からマントル最下部まで運んだのである。 今後、この手法を他の地域のデータにも適用することにより、D"領域全体の理解が進み、地球の進化の理解に貢献すると期待される。

発表内容

図1

図1:震源(南米下の赤星)及び観測点(北米にある青い三角)の分布。赤領域は地震波がサンプルするD"領域の水平方向範囲を示す。

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近年、US-ArrayやHi-netといったアレイ観測網(注4)の設置に伴い、良質で膨大な地震波形データが急速に蓄積され、地球内部の微細な3次元構造を推定する研究への期待が高まっていた。 しかし、膨大なアレイデータを従来手法によって解析することは困難なため、新しい解析手法の開発が必要となっていた。 一方で最下部マントル(注1)であるD"領域はマントル対流の熱境界層であり、液体鉄合金から構成される外核と接する化学境界層でもある。 そのため、D"領域の詳細な構造は地球進化を考える上で重要な手かがりとなる。 従来の解析手法を使った研究によってD"領域には水平方向に数千キロスケールの大規模な地震波速度不均質構造の存在が示唆されていた。 しかし、その大規模な不均質構造の起源については、水平方向の温度不均質、または化学不均質、もしくはその両者の要因によるものとさまざまな説が唱えられていたが、いずれも仮説の域を出ていない。 さらに、近年D"領域の主要構成鉱物であるマグネシウムペロブスカイトがD"領域内の温度圧力条件によってポストペロブスカイト相に相転移することが発見され、大規模不均質構造の起源の理解にはD"領域内の詳細構造が必須となっていた。 また、従来の解析手法を使った研究の深さ方向の解像度は、最下部マントルでは、300-500kmにすぎなかった。 そのため、大規模な不均質構造の起源を考える上での情報が不足しており、D"領域内の詳細構造を得るための新しい解析手法の開発が必要であった。

本研究では、著者たちの研究グループ(以下、研究グループと略す)は、これまで独自に開発してきた解析手法を大幅に拡充し、ビッグデータ解析に適した地球内部の微細構造推定のための新しい解析手法として「局所的な構造推定のための波形インバージョン手法」(注5)を開発し、地球深部の3次元微細構造をより正確に推定することを可能とした。 新解析手法を用いることで、理論波形と観測波形を客観的に比較することができ、その結果、一本一本の観測波形では識別できないほどのわずかな波形の特徴から詳細構造の推定ができるようになった。

本研究では、研究グループは、南米の複数の深発地震が励起した地震波を北米のUS-Arrayと呼ばれる最新のアレイ観測網で収録したデータセットに(図1)、上述の新解析手法を適用した。 その結果、世界最高解像度(水平 5°; 鉛直 50km)で中米下のD"領域内のS波(横波)速度構造を推定し、最下部400kmのマントルにわたってほぼ同じ水平位置にある水平方向250km×250kmのシート状の高速度領域が低速度領域に囲まれているという速度構造を明らかにした(図2、図3)。 また、その高速度領域と低速度領域の速度の違いは、深くなればなるほど大きくなることがわかった。

一般的に、高速度領域は温度の(平均より)低い領域であり、一方低速度領域は温度の高い領域であると考えられている。 そのため、シート状の高速度領域は温度の低い過去に沈み込んだプレートと解釈することができる。過去のプレート運動に関する研究および従来の地震波解析手法を使った研究に基づいて論ずると、上述した高速度域は沈み込んだファラロンプレートの痕跡であると解釈される。 本研究により、ファラロンプレートが核・マントル境界に到達していたことが明らかになり、マントル対流の様式を理解することにつながる。

ビッグデータの解析手法である波形インバージョン手法を用いることにより、このように地球内部の詳細な構造を推定できるようになった。 一方、この新しい解析手法は膨大なデータを自動的に処理する「ブラックボックス」的な手法であるために、得られたモデルの信憑性や精度を精査する必要がある。 そこで、本研究では解析の堅牢性および得られたモデルの信憑性に関するさまざまな検証を行い、手法の有効性及び信憑性を確かめた。

最下部マントルの不均質の起源については上述のようにさまざまな説がある。D"領域は地温勾配とソリダス(注6)が交差する場所であるため、組成分化を起こすマグマが定常的に 発生する可能性が高い。 そのため、温度のみならず化学組成の不均質が予想される。 また、地球に生命を誕生させた母とも言うべき原始大陸の痕跡が、現在は最下部マントルに存在するという説もある。 今後、本研究で開発された新解析手法を用いることによって、D"領域の詳細な構造推定が期待される。地球の進化および生命の起源、それらに関する仮説を検証できる時代がやってきたといえよう。

発表雑誌

雑誌名
Geophysical Journal International
論文タイトル
Methods for inversion of body-wave waveforms for localized three-dimensional seismic structure and an application to D" structure beneath Central America
著者
Kenji Kawai, Kensuke Konishi, Robert J. Geller, Nobuaki Fuji
doi
10.1093/gji/ggt520
アブストラクトURL
http://gji.oxfordjournals.org/content/early/2014/01/31/gji.ggt520.abstract

図2:中米下の最下部50 kmマントルのS波速度水平不均質構造(標準的モデルPREMに対して)。

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図3:中米下の最下部400 kmマントルのS波速度構造(標準的モデルPREMに対して)モデルの断面図。水平スケール250×250 kmの高速度領域が低速度領域に囲まれている。沈み込んだファラロンプレートの痕跡がマントル対流の熱境界層の温かい物質を巻き上げている。

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用語解説

注1 マントル
地殻の下から深さ約2900kmまでの岩石からなる固体の層。マントルは、その主要構成鉱物が相転移する深さ約660kmにおいて、上部マントルと下部マントルに区分される。さらに、核・マントル境界上の厚さ約300-400kmの最下部マントルはD"領域と呼ばれる。マントルは対流しており、マントルの最上部と最下部は対流の境界層で鉛直方向に急激な温度変化があると考えられている。D"領域は対流セル下部の熱境界層にあたり、そこでは核・マントル境界へ向けて急激に温度が上昇する。近年の研究により、下部マントルの主要鉱物マグネシウムペロブスカイトが、D"領域の温度圧力下でその高圧相のポストペロブスカイトに相転移することが発見された。そのため、現在では下部マントルは主にペロブスカイトおよびフェロペリクレース、D"領域はポストペロブスカイトおよびフェロペリクレースによって構成されると考えられている。
注2 コア(核)
マントルの下にあるおもに鉄およびニッケル(鉄合金)から構成されると考えられている層。核・マントル境界の深さ2900km以深の層は、液体の外核である。また、深さ5150km以深の層は固体の内核である。外核内の液体鉄合金の対流が地球磁場を生成する。
注3 ファラロンプレート
5千万年前に、太平洋プレートと北米プレートの間に位置していた海洋プレート。ファラロンプレートは海溝に沈み込み、現在は地表からほとんど姿を消してしまっている。
注4 アレイ観測網 
近年、広帯域地震計が特定の地域において稠密に設置されている(アメリカのUS-Arrayや日本のHi-netなど)。そのような地震計群をアレイ観測網と呼び、詳細な地球内部構造推定に大いに役立つデータを収録する。
注5 波形インバージョン手法
これまでの内部構造推定研究の多くは、まず観測データから波の到達時刻などの二次データを測定し、次にその二次データを分析して内部構造を推定するものであった。一方、「波形インバージョン手法」は、理論波形を計算して、それと観測波形とを直接比較し、その残差を最小化することによって(但し、モデルが暴れないために拘束条件を付ける)、内部構造モデルを系統的に改善する手法である。研究グループはこれを実行するための理論を導き、その上で関連するソフトウェアを開発してきた。
注6 ソリダス
多成分系の固溶体の融点。温度の上昇により融解が開始する温度。
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