2013/12/18

三陸山田町で発見した新種ナンブワツナギソウ

~ 岩手県からの新種海藻75年ぶりの発見 ~

発表者

  • 鈴木雅大(東京大学 大学院理学系研究科 生物科学専攻 特任研究員)
  • 野崎久義(東京大学 大学院理学系研究科 生物科学専攻 准教授)

発表のポイント

  • 日本に固有と考えられる海藻の新種を、岩手県の三陸沿岸から75年ぶりに発見した。
  • 新種の海藻「ナンブワツナギソウ」は、海藻の形態、生殖器官の形とDNA配列の調査により明らかになった。
  • 三陸沿岸に生育する海藻には、独特の種組成があり、本海域の海藻の今後の調査の必要性が明らかとなった。

発表概要

日本列島は世界的にみて、海藻の種の多様性の高い地域として知られ、若布(ワカメ)、昆布(コンブ)、海苔(ノリ)、天草(テングサ)といった身近な食材はもちろん、1500種以上もの海藻が生育している。しかし、岩手県を含む三陸沿岸は日本の中でも独特の海流の影響にあり、多種多様な海藻が生育する地域にもかかわらず、北海道や関東地方などと比べると、種の多様性の把握は十分とは言えない状況であった。

今回、東京大学 大学院理学系研究科 生物科学専攻の鈴木雅大特任研究員と野崎久義准教授の研究グループは、日本各地から採集した海藻のサンプルについて、詳細な形態観察とDNA配列データに基づいて種を分類し、岩手県山田町にて新種の海藻「ナンブワツナギソウ」を発見した。

日本固有の種を発見したことで、日本列島沿岸の多様性保全に不可欠な種の正確な把握に貢献した。また、岩手県から75年ぶりに新種を発見したことは、三陸沿岸の海藻の種組成が現在認識されているよりも独特かつ多様であるという認識を支持するものである。今後の正確な種の多様性と実態解明につながると予想される。

発表内容

図1

図1:日本列島周辺を流れる海流(西村三郎1981を基に作図、左)と岩手県下閉伊郡山田町の地図(右)。山田町は親潮、黒潮からの暖水渦、津軽海峡を抜けてくる対馬海流(津軽暖流)の3本の海流の影響を受けている。ナンブワツナギソウは山田湾の湾奥に位置する浦の浜に群生する他、山田湾の各所に生育している。

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図2

図2:山田町の海藻。 (A). コシオグサ(学名 Cladophora dalmatica)。三陸沿岸で初報告。(B). ススカケベニ(学名 Halarachnion latissimum)。三陸沿岸で初報告。(C). ヒメコノハノリ(学名 Phycodrys radicosa)。岩手県で初報告。(D). 日本新産種ヘイゴコロ(学名 Leptofauchea rhodymenioides)。2010年に鈴木博士らが発見。(E). 日本海特産種スギモク(学名 Coccophora langsdorfii)。1996年に故吉﨑博士が発見、三陸沿岸で初報告。

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1. 日本の海藻の種多様性

日本列島は世界的にみて、海藻の種多様性の高い地域であり、1500種以上が生育している。しかし、種多様性の把握が完全に成されているわけではなく、未知の海藻が数多く残されていると考えられ、近年では、本来は固有種でありながら、汎存種(注1)として報告されている例が多く知られるようになってきている。現在、日本沿岸域は温暖化の影響による海水温の上昇と、それに伴う海藻の種組成の急速な変化が危惧されている。多くの海藻が危機的な状況に置かれる中、もしも絶滅という最悪の事態になれば、固有種の多くが種を正しく認識されないまま絶滅する、あるいは絶滅の危機に瀕していることすら認識されないまま消失していく可能性が高い。種の多様性における損失、負の影響は計り知れず、海藻の正確な種分類が緊急に必要とされている。

2. なぜ山田町か

岩手県を含む三陸沿岸は、リアス式の複雑な海岸線に加え、親潮、黒潮からの暖水渦(注2)、津軽海峡を抜けて流れ下ってくる対馬海流(津軽暖流)の3本の海流の影響を受けており(図1)、多種多様な海藻が豊富に生育している。中でも岩手県下閉伊郡山田町は、穏やかな山田湾と荒い岩礁帯からなる船越半島があり、変化に富んだ海岸には亜寒帯性と温帯性の海藻がみられ、スギモク(注3)をはじめとした数種の日本海特産種(注4)も生育している。岩手県沿岸はこのような独特の種組成を持ちながら、分類学的な研究が少なく、新種においては1938年に2種類が記載されたのみであった。これまでに東京大学 大学院理学系研究科 生物科学専攻の鈴木雅大博士と故吉﨑 誠博士(東邦大学名誉教授)は、三陸沿岸の海藻に注目し、13年間に亘って山田町の海藻を調査し、178種の生育を確認している。178種のうち、31種は岩手県で初めての報告となる海藻であり、2010年にはヘイゴコロ(注5)を日本新産種として報告している(図2)。

3. 汎存種ワツナギソウと新種ナンブワツナギソウ

ワツナギソウ(学名 Champia parvula)は、海藻の典型的な汎存種の一つで、極域を除く世界各地に分布し、海藻の中で最も分布域の広い種類の一つである。日本でも北海道から沖縄まで幅広く分布している。ワツナギソウ類は枝が円柱形か扁平かなどの特徴で分類され、日本に生育する円柱形のワツナギソウ類はワツナギソウ1種のみであった。今回研究グループは、日本各地で円柱形のワツナギソウ類を採集し、形態観察とDNA配列データの決定を実施したところ、山田町で採集した"ワツナギソウ"が、汎存種ワツナギソウとは別種であることが判明した。研究グループは、ワツナギソウの形態を、体構造や生殖器官も含めて徹底的に比較し、山田町産の"ワツナギソウ"と、汎存種ワツナギソウの嚢果(注6)の形にはっきりとした違いがあることを明らかにした(図3)。さらに、DNA配列のデータによって、山田町産の"ワツナギソウ"が汎存種ワツナギソウとは系統的に離れていること、現在知られているどのワツナギソウ類のDNA配列のデータとも一致しないことを確かめた(図4)。この"ワツナギソウ"は、山田町及び周辺の三陸沿岸の固有種と考えられることから、南部藩(注7)にちなみ「ナンブワツナギソウ(学名 Champia lubrica)」と命名した。

4. 山田町及び三陸沿岸の海藻の種多様性

2010年の日本新産種ヘイゴコロの発見に続き、新種ナンブワツナギソウの発見は、山田町を含む三陸沿岸の海藻の種組成の正しい認識に大きく寄与するもので、この地域の海藻の種組成が、これまで認識されていたものよりも独特かつ多様であるという認識を支持するものである。この地域には、ヘイゴコロやナンブワツナギソウ以外にも未だに見つかっていない多くの種が残されている可能性があり、三陸沿岸の種の多様性の保全のため、更なる分類学的研究と正しい種組成の解明が急務である。加えて、山田町が所有していた海藻標本(注8)は、三陸沿岸の海藻の種多様性を知る上で貴重な財産であったが、その大部分は、東日本大震災による津波で被災し、失われている。本研究は、鈴木博士が故吉﨑博士と共に採集し、個人で所蔵していた標本に基づいているが、これまでに山田町で確認した海藻全種を網羅するには足りておらず、今後の継続的な調査と海藻標本の補填が必要である。

本研究は、文部科学省の科学研究費補助金(新学術領域研究「動植物アロ認証」、課題番号24112707、代表者 野崎久義)の支援を受けて行われた。

発表雑誌

雑誌名
「Phycologia(国際藻類学会誌)」52巻6号(2013年)p. 609-617.
論文タイトル
Morphological and molecular evidence support the recognition of Champia lubrica sp. nov. (Champiaceae, Rhodophyta) from Japan
著者
  • 鈴木雅大(東京大学 大学院理学系研究科 生物科学専攻 特任研究員)
  • 橋本哲男(筑波大学 大学院生命環境科学研究科 構造生物科学専攻 教授)
  • 北山太樹(国立科学博物館 植物研究部 菌類・藻類研究グループ 研究主幹)
  • 野崎久義(東京大学 大学院理学系研究科 生物科学専攻 准教授)
DOI番号
10.2216/13-128.1
アブストラクトURL
http://www.phycologia.org/doi/abs/10.2216/13-128.1

図3:ナンブワツナギソウとワツナギソウの形態。両者の外形は良く似ているが、嚢果の形にはっきりとした違いがみられる。(A). ナンブワツナギソウの生態写真(撮影地:岩手県山田町)。(B). ナンブワツナギソウの嚢果。円錐形で先端部が尖っている。(C). ワツナギソウの生態写真(撮影地:千葉県銚子)。(D). ワツナギソウの嚢果。球形で先端部は尖っていない。また、基部がややくびれている。

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図4:ナンブワツナギソウとワツナギソウ及び世界各地の円柱形または扁平なワツナギソウ類のDNA配列のデータに基づく系統樹。ナンブワツナギソウは、ワツナギソウとは系統的に異なる他、ナンブワツナギソウと一致するDNA配列のデータはない。

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用語解説

注1 汎存種
世界各地に広く分布している種。近年、汎存種と考えられていた海藻が実際は地域固有種であり、複数の種を混同していたという例が多く知られるようになり、汎世界的に分布する種は少数であるという認識が広まりつつある。
注2 黒潮の暖水渦
黒潮から切り離されて北上する暖かい海水。
注3 スギモク(学名 Coccophora langsdorfii
日本海を代表する海藻で、日本海から津軽海峡にかけて分布している。1996年に故吉﨑 誠博士(東邦大学名誉教授)が山田町での生育を確認した。
参考URLスギモクの新産地
注4 日本海特産種
スギモク、フシスジモク、アキヨレモク、カタノリなど、日本海に分布の中心を持つ海藻である。山田町には、これらの日本海特産種の生育が9種確認されており、日本海を北上する対馬海流が津軽海峡を越え、津軽暖流となって山田町まで影響を及ぼしていることを示す重要な証拠となっている。
注5 ヘイゴコロ(学名 Leptofauchea rhodymenioides
鈴木博士と故吉﨑博士の研究グループが2010年に山田町から報告した日本新産の海藻。日本では三陸沿岸でのみ生育が確認されている。
Suzuki, M., Hashimoto, T., Nakayama, T. & Yoshizaki, M. 2010. Morphology and molecular relationships of Leptofauchea rhodymenioides (Rhodymeniales, Rhodophyta), a new record for Japan. Phycological Research 58: 116-131.
参考URLみちのくのハート
注6 嚢果
紅藻類の雌の体上に作られる生殖器官で、中に果胞子と呼ばれる胞子が詰まっている。
注7 南部藩
かつて岩手県から青森県にかけて存在した藩で、山田町は南部藩に含まれていた。
注8 山田町所有の海藻標本
山田町には、山田町立鯨と海の科学館が所有していた海藻標本約500点の他、故吉﨑 誠博士(東邦大学名誉教授)が山田町に寄贈した海藻標本約8万点が収蔵されていたが、これらの標本全てが東日本大震災による津波で被災した。
以下は、これらの標本に関する参考文献。
  • 鈴木雅大 2010. 海藻展示—山田町立鯨と海の科学館の場合.藻類58: 183.
  • 吉﨑誠 2011. 藻類標本8万点の損失事例報告. 学術の動向 2011年12月号 p. 40-41.
  • 吉﨑誠 2012. 標本は誰のものか―流れた貴重な標本、どう再生する?聞け被災海藻標本の声. 岩槻邦男・堂本暁子監修 「災害と生物多様性 災害から学ぶ、私たちの社会と未来」p. 74-81. 生物多様性JAPAN.