配信日2013/6/18

プラズマ乱流により急速に発達する磁気リコネクション(磁力線のつなぎかえ現象)の発見

発表者

  • 東森一晃(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻 博士課程学生)
  • 横井喜充(東京大学生産技術研究所 助教)
  • 星野真弘(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻 教授)

発表のポイント

  • プラズマ乱流によって爆発的に発展する高速磁気リコネクション過程を発見した。
  • 新たに開発した乱流シミュレーションモデルを世界で初めて磁気リコネクション系に適用し、乱流がどのように磁気リコネクションを促進するか明らかにした。
  • 今後はリコネクション研究だけに留まらず、様々な宇宙プラズマ中での乱流研究が更に展開される。

発表概要

宇宙では、磁力線のつなぎかえ(磁気リコネクション、magnetic reconnection、(注1))という現象が普遍的に発生し、磁気リコネクションによって、磁場エネルギーが熱エネルギーや運動エネルギーに変換されることが知られています。そしてリコネクションが起きている領域では、乱流状態が発生していることも観測されていました。更に最近の理論的研究では、外場として強制的(人工的)に乱流を注入することで、高速磁気リコネクションが起きることが示されていましたが、リコネクション成長と乱流発生の実証には至っていませんでした。

今回東京大学理学系研究科 東森一晃 博士課程学生、星野真弘 教授、同生産技術研究所 横井喜充 助教らの研究グループは、乱れ場の効果(乱流)を考えることで、磁気リコネクションが非常に効率よく起きることを発見しました。今回の成果は、乱流モデルを組み入れた拡張した電磁流体力学(MHD, magneto-hydro-dynamic) 方程式を、数値シミュレーションを用いて調べることにより、自発的に発達する乱流中で高速リコネクションが実現することを見出した点です。前述のように、磁気リコネクションは、宇宙ジェット、降着円盤、太陽フレア、地球惑星磁気圏など、宇宙では普遍的に発生する現象です。乱流も同様に自然界ではどこにでも観られる現象です。今回のような「拡張乱流MHD方程式」を用いれば、比較的容易にプラズマ乱流を自己無撞着に(互いに矛盾なく)取り扱えることが示されたため、今後はリコネクション研究だけに留まらず、様々な宇宙プラズマ中での乱流研究が更に展開されると期待されます。

発表内容

自然界に乱流は普遍的に存在し、乱流が動力学を大きく支配していることが知られています。しかし乱流の力学では、大きなスケールの構造から小さなスケールの揺らぎまでが相互作用する系を取り扱うことが必要です。つまり大きなスケールの構造は、一般に壊れて小さなスケールへと変化しますが、その小さなスケール同士の相互作用が大きなスケールにフィードバックすることもあります。このように乱流はスケールの異なる構造や波動の非線形性に支配されるため解析的取り扱いも複雑であり、未解決の問題が山積しています。磁気プラズマにおいても同様で、その重要性にもかかわらず我々の理解は限られています。今回、東京大学理学系研究科 東森一晃 博士課程学生、星野真弘 教授、同生産技術研究所 横井喜充 助教らの研究グループは、宇宙で普遍的に起きている磁気リコネクションに対して、リコネクションが自発的に作る小さなスケールの揺らぎ(乱流)がリコネクションの系全体にどのようにフィードバックされるかをシミュレーションで調べることにより、乱流によってエネルギー変換効率が著しく向上することを発見しました。リコネクションにより乱流場が発達することは、科学衛星ジオテールなどによる地球磁気圏尾部での磁場観測でも明らかになっていましたが、それがリコネクションのエネルギー変換効率を高めるのかどうかは未解決でした。今回は乱流モデルを組み入れた拡張した電磁流体力学の数値シミュレーションを行うことで乱流効果を調べました。

 具体的には、リコネクションの乱流効果として、オームの法則における「運動電場」の扱いが大切であるため、乱流間の相関から生まれる「磁気拡散」と「クロスヘリシティ(注2)」を主要項として取り入れた乱流モデルを採用しました。そして乱流場と平均場の電磁流体方程式を連立させて数値計算で時間発展を調べました。そして数値計算の結果、乱流強度が弱いと「遅いリコネクション」(スイート・パーカーのリコネクション(注3))になり、乱流強度が大きいとリコネクションの発達前に電流層の拡散が起きるが、その中間の平均場速度と同程度の揺らぎを持つ乱流場の場合は「速いリコネクション」(ペチェック的なリコネクション(注4))に発展することを見出しました。

今回の新しいアイデア

プラズマ中でのオームの法則には、速度場と磁場の外積による「運動電場」の項がありますが、速度および磁場の乱れ場間での相関を記述する乱流方程式を導入し、平均場と乱流場を自己無撞着に記述する拡張した電磁流体方程式に対して数値シミュレーションを行いました。数値シミュレーションで拡張した電磁流体方程式を解いたのは今回が初めてです。特に、シミュレーション結果から、乱流効果によるジュール加熱(注5)の「磁場散逸」と速度場と磁場の内積による「クロスヘリシティ」と呼ばれる項による巨視的構造変化が、高速リコネクションに重要な役割を果たすことを明らかにしました。

今後の展望

宇宙惑星プラズマにおいて磁気リコネクションは、磁力線のトポロジーを大きく変えると同時に磁場のエネルギーを解放するため、1960年頃から太陽系プラズマ中での活動現象(太陽フレアや地球オーロラサブストームなど)や宇宙での高エネルギー天体現象で注目されてきました。しかし短時間でのエネルギー変換には、現在標準理論となっているペチェック・リコネクションでは不十分なところがあり、高速リコネクションの研究が多くされてきています。今回は乱れ場と平均場の二つのスケールの物理量に縮約した乱流モデルで高速エネルギー変換が可能であることを示しました。今回の研究はリコネクションの基本要素だけを組み入れた一番単純な2次元系でのモデル計算ですが、より複雑な3次元系の性質や乱流モデルの妥当性については今後の課題となります。乱流リコネクションとしては、例えば、「京」のようなスーパーコンピューターを用いた大規模計算により、乱流モデルを使わないで小さなスケールまで空間分解して直接電磁流体方程式を解くこともチャレンジングな課題です。また3次元系では、磁場ダイナモでも重要なα効果(注6)が表れるので、更にダイナミックに構造発展する乱流リコネクションが解き明かされていくものと考えられます。今回のようなアイデアを用いれば、比較的容易にプラズマ乱流を自己無撞着に取り扱いうることが示されたため、今後はリコネクション研究だけに留まらず、降着円盤での角運動量輸送や磁場ダイナモなどの乱流が密接に関連する宇宙プラズマの現象に対しても研究が広がると期待されます。

発表雑誌

雑誌名
Physical Review Letters (online 6/17, publish 6/21 )
論文タイトル
Explosive Turbulent Magnetic Reconnection
著者
K.Higashimori, N. Yokoi, and M. Hoshino
DOI番号
10.1103/PhysRevLett.110.255001
アブストラクトURL
http://link.aps.org/doi/10.1103/PhysRevLett.110.255001

用語解説

注1
磁場極性が異なる領域での磁力線の繋ぎ替え過程を磁気リコネクションと呼ぶ。磁力線の繋ぎ替えに伴い作られる磁気張力によって、アルフベン速度(磁場の強さに比例し、密度の平方根に反比例)まで加速された高温なプラズマ・ジェットが作られる。
注2
クロスヘリシティとは、磁場と速度の相関を表す電磁流体の物理量であり、アルフベン波動を特徴付ける。
注3
スイート博士とパーカー博士によって提案されたリコネクション理論。リコネクション領域でのエネルギー変換効率が良くないため「遅いリコネクション」とも呼ばれている。パーカーは2003年京都賞を受賞。
注4
ペチェック博士によって提唱されたリコネクション理論で、衝撃波を伴ったリコネクションを考えることでスイート・パーカーリコネクションの問題点であったエネルギー変換効率が改善されている。
注5
ジュール加熱とは、日常的な電気製品と同じで、有限の電気抵抗に電流が流れることによる加熱。
注6
磁場ダイナモとは、惑星や天体の回転などにより生じた電磁流体の運動が磁場を生成・維持するメカニズム。またα効果は、ダイナモ理論において、トロイダル磁場からポロイダル磁場を生成するメカニズムで、回転系でのコリオリ力などで乱流場がらせん状態になり、磁力線がねじられることが重要な働きをしていると考えられている。