地球と金星は異なるタイプの惑星か?
—地球型惑星の2つの進化類型を解明
発表者
- 濱野景子(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻 特任研究員)
- 阿部豊(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻 准教授)
- 玄田英典(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻 特任助教(当時);
- 現:東京工業大学地球生命研究所 研究員)
発表のポイント
-
どのような成果を出したのか
地球型惑星が、早く冷却固化して海を形成するものと、長い間溶けたままでその間に水を失い干からびるものとの2タイプに、軌道によって分かれることを世界で初めて示した。 -
新規性(何が新しいのか)
今まで惑星の冷却速度は惑星質量で決まると考えられてきた。本研究では、形成直後の惑星の冷却と大気との形成・進化を整合的に検討し、初期進化(注1)が軌道によって非常に大きく異なることを明らかにした。 -
社会的意義/将来の展望
地球と金星がもともと全く異なるタイプの惑星である可能性を指摘し、さらに惑星の多様性の起源について全く新しい視点を提案した。また、この宇宙には形成後ずっとマグマに覆われた惑星が普遍的に存在する可能性が示唆される。
発表概要
地球や金星などの地球型惑星の初期進化(注1)は、ほぼ全てが溶融したマグマの海(マグマ・オーシャン)の冷却固化が主要過程であると考えられている。固化の時間は惑星質量で決まり、現在は全く異なる姿であるが質量は同程度である地球と金星も、初期進化は似ていたと理解されてきた。
東京大学大学院理学系研究科 地球惑星科学専攻の濱野特任研究員と阿部准教授、玄田特任助教(現:東京工業大学地球生命研究所 研究員)は、マグマ・オーシャンの固化、内部からの脱ガスと惑星外への散逸による大気量変化、さらにそれに伴う大気構造の進化とを組み合わせた結合モデルを用いて、固体惑星の冷却と大気の量や構造の変遷とを整合的に検討した。その結果、地球型惑星の初期進化が軌道によって大きく異なり、ある軌道を境に、短い時間で固化して海を形成する惑星(タイプI)と、固化に非常に長い時間を要しその間に水を失う惑星(タイプII)との2つに分かれることを世界で初めて示した。
本研究成果は、地球はタイプIに属するが、太陽に近い金星は地球とは異なるタイプIIの惑星である可能性があり、地球と金星の違いは軌道の差によって、初期進化過程で生じたという新しいシナリオを提示した。これは惑星の多様性の起源への新しい視点であり学術的に大きな意義を有している。また、タイプIIの惑星では形成時の水量に応じてマグマ・オーシャンの継続時間が長くなる。これは系外惑星系には形成後ずっとマグマに覆われた惑星が普遍的に存在する可能性を示唆している。
発表内容

初期に様々な水量をもった惑星が固化するまでの時間と最終的に残る水の量を惑星の軌道半径に対して描いた図。軌道が 0.75AU 付近を境に様相が大きく異なる(図中の MEO は現在の地球の海洋質量)。
地球型惑星の多様性の起源の解明は惑星科学の主要目的の一つである。例えば地球と金星は「双子の星」とよばれるように大きさや密度がとてもよく似ているが、地球は海に覆われ、一方で金星には水そのものがほとんど存在しない。現在の太陽系の惑星は形成後45億年を経た姿であるが、近年急速に発達しつつある太陽系外惑星の観測技術によって、将来的には様々な年齢・進化段階にある惑星の特徴が観測的に明らかになることが期待される。それに先駆けた大気・表層環境の予測や観測から惑星進化理論へ与えられる制約について議論するには、より統一的な枠組みで惑星進化のメカニズムを解明し、その進化過程を決定する条件を明らかにする必要がある。これはこの宇宙にどれだけ地球のような生命をはぐくむ惑星が存在するか、という問題とも関連する。
現在の惑星形成論によると、地球や金星を含む地球型惑星は原始惑星どうしの巨大衝突を経て形成され、初期は惑星全体が溶けマグマで覆われていた(マグマ・オーシャン)と考えられている。この形成直後の溶けた状態から固まるまでの過程は、その後の固体惑星進化の出発点を与え、それにかかる時間は初期海洋の形成時期を決める。また固化と同時に、惑星内部からの脱ガスと中心星からの極紫外線をエネルギー源とした宇宙空間への大気の散逸が同時に起こり、この両者の兼ね合いで惑星大気の量や組成が変化する。特に固化した段階で惑星がどれだけ水を保持しうるかは、初期海洋の量に直結し、プレートテクトニクスの有無や生命の誕生などその後の惑星進化の初期条件となる。
これまでは固体惑星の熱進化と初期大気の進化とは個別に議論され、惑星が固化するのにかかる時間は単純に惑星の質量で決まると理解されていた。これによると、同程度の質量である地球と金星は、初期進化の時点では似ていたことになる。しかし実際には、惑星の固化と初期大気の進化は、大気による温室効果や脱ガスによる物質交換を通して、相互に密接に影響し合った極めて複合的な問題であり、両者は整合的に検討されなければならない。
本研究では惑星が固化するまでの初期進化の段階で、惑星(マグマ・オーシャン)の冷却、気体の内部からの脱ガスと宇宙空間への散逸による初期大気量の変化、それに伴う大気構造の変遷の全てを組み合わせた、大気—マグマ・オーシャン結合モデルを構築し、固体惑星と大気の共進化を支配するメカニズムを理論的に検討した。
その結果、従来の常識とは異なり、形成直後の惑星のサイズ・組成が全く同じであっても、軌道によって固化を律速するメカニズムが異なり、ある軌道を境に全く異なる特徴をもつ2タイプの地球型惑星が存在することがわかった。1つ目のタイプは中心星から十分遠くに形成した惑星で、固化時間は水蒸気大気に固有の射出限界(注2)と呼ばれる放射フラックスの値によって特徴付けられる。このタイプの惑星は数百万年以内に固化し初期海洋を形成する(タイプI)。もう1つは、より中心星に近い軌道に形成した惑星で、その固化時間は惑星が初期に持っていた水を失う速さで支配される。形成の段階で獲得した水の量に応じて固化するまでの時間が長くなり、その間に初期にもっていた水のほとんどを惑星外へ失ってしまう(タイプII)。これら2つのタイプの惑星は、惑星が中心星から受け取る正味放射と射出限界値とが等しくなる軌道によって分けられ、太陽系の条件ではこの境界となる軌道半径は0.6-0.8AU(天文単位)付近に位置する。
地球は太陽から1AUの距離にあり、タイプIの惑星に分類される。一方、金星の軌道は地球よりも太陽に近く(0.72AU)、 ちょうどこの境界付近に位置するため、どちらのタイプか簡単には決められない。しかし、固化した時点で水をほとんど持たないというタイプIIの惑星の特徴は、現在の金星をよく説明している。このことから、双子の星ともいわれる地球と金星が、実は初期進化パスが決定的に異なる別のタイプの惑星であったという可能性が新たに示された。金星の水の行方に関して、海が蒸発し水が失われたという従来のシナリオでは、金星内部の水が残されることや水素に対して重い元素である酸素が大気中に蓄積するという問題が未解決であった。もし金星がタイプIIの惑星であった場合には、固化の過程で惑星内部の水まで失われる。また、水蒸気の分解によって生じた酸素も地表に豊富に存在するマグマの酸化に消費され、これらの問題を解決できる。本研究により、従来、地球型惑星としてひとくくりにされてきた中に、進化が全く異なる2つのタイプが見いだされたことで、惑星の多様性の起源について全く新たな視点が提案された。またタイプIIの惑星では、惑星が形成する間に獲得する水の量でマグマ・オーシャンの継続時間が大きく変わる。これは系外の惑星系には溶けた惑星がありふれている可能性を示唆し、その数を様々な年齢の惑星系で測定することで、惑星の水の起源について制約が与えられることが期待される。
本研究は、新学術領域研究(23103001)、グローバルCOEプログラム「地球から地球たちへ」からの助成を受け行われた。
発表雑誌
- 雑誌名
- Nature
- 論文タイトル
- Emergence of two types of terrestrial planet on solidification of magma ocean
- 著者
- 濱野景子,阿部豊,玄田英典
- DOI番号
- 10.1038/nature12163