2013/4/4

ブラックホールに落ち込む最後の1/100秒の解明へ

— ガスが最後に放つ高エネルギーX線を初めて捉えた! —

発表者

  • 独立行政法人 理化学研究所
  • 国立大学法人 京都大学
  • 学校法人 日本大学
  • 国立大学法人 東京大学

概要

理化学研究所(野依良治理事長)、京都大学、日本大学、東京大学は、代表的なブラックホール天体である「はくちょう座X-1」をX線観測衛星「すざく」で観測し、ブラックホールに高温ガスが落ち込む最後の100分の1秒に、10億度以上にまで急激に加熱され、高エネルギーX線を出すことを突き止めました。これにより、ブラックホールの直接的な証明に一歩近づくことができました。これは、理研仁科加速器研究センター(延與秀人センター長)玉川高エネルギー宇宙物理研究室の山田真也 基礎科学特別研究員らを中心とした共同研究グループの成果です。

ブラックホールは恒星とペアになって、お互いの周りをくっつかずにぐるぐる回り続けることがあり、それをブラックホール連星と呼びます。ブラックホール連星の周囲には恒星からのガスが取り巻いており、それらはやがてブラックホールに吸い込まれていきます。そのときガスは高温になり、X線で明るく輝くと考えられています。宇宙に本当にブラックホールがあるのかどうかは、長年の謎でしたが、20世紀後半のX線天文学の発展により、少しずつ存在の手がかりが得られてきました。そのひとつに周囲からのガスがブラックホールに吸い込まれる時に、X線の強度が激しく変化することがあげられます。ブラックホール近傍のガスは高温で主にX線で明るく光るため、その明るさや色(波長)、それらの時間変化を調べることで、ブラックホールの極近傍のガスの流れを"観る"ことができます。今ではブラックホールの存在を疑う人はほとんどいませんが、厳密な存在証明があるわけではありません。そのため、X線で"観る"ことにより、より確かな観測証拠を得ることが期待されていました。

共同研究グループは、X線観測衛星「すざく」を用いて最も代表的なブラックホール連星「はくちょう座X-1」を観測しました。ブラックホール天体からのX線強度は激しく変動しており、その強度変動曲線はいくつものピーク(ショット)をもつことが知られています。このピーク時に、まさにガスが塊となってブラックホールに落ちこむと考えられているのです。山田研究員らは、感度に優れた硬X線検出器を用い、ショットをいくつも重ね合わせてX線光子をたくさん集めるという独自の手法(「重ね合わせショット解析」)を適用することにより、初めてブラックホールにガスが落ち込む時のガスの温度変化を測定することに成功しました。その結果、ブラックホールにガスが落ち込む最後の100分の1秒という瞬間に、ガスが10億度以上まで急激に加熱されることを発見しました。中性子星など表面がある天体の場合、数千万度の天体表面からの強い放射が落ち込むガスを効率よく冷やすため、ガス温度が急激に10億度にまで加熱されることはありません。急激に10億度に加熱されたということは、中心に表面の無い天体、すなわちブラックホールがあることを意味します。今後、共同研究グループは、次期X線観測衛星「ASTRO-H」と世界初の偏光衛星「GEMS」の開発・研究に取り組み、ブラックホールの徹底解明を目指しています。本成果は、米国の科学雑誌『The Astrophysical Journal Letters』オンライン版(4月8日付け:日本時間4月9日)に掲載されます。

詳細について 独立行政法人理化学研究所 のホームページをご覧ください。