2012/6/21

木曽シュミット望遠鏡超広視野CCDカメラKWFCでの超新星発見

発表者

  • 諸隈 智貴(東京大学大学院理学系研究科天文学専攻 助教)
  • 酒向 重行(東京大学大学院理学系研究科天文学専攻 助教)
  • 三戸 洋之(東京大学大学院理学系研究科天文学専攻 特任研究員)

発表のポイント

  • どのような成果を出したのか
    木曽観測所の新しい超広視野CCDカメラKWFC (Kiso Wide Field Camera)を用いた超新星探査プロジェクトKISS (Kiso Supernova Survey)の初期成果として、星の最期の大爆発である超新星を発見しました。
  • 新規性
    KISSは、世界で初めて可視光で超新星の爆発の瞬間をとらえることを目的とした観測プロジェクトであり、2012年4月にその観測を開始しました。
  • 社会的意義/将来の展望
    2012年秋の本格開始以後、3年間のプロジェクト期間で、約100個の新しい超新星の発見が予想され、そのうち数個は、その爆発の瞬間をとらえることができる見通しです。

発表概要

非常に重い星や、連星の一部は、その一生の最期に超新星爆発と呼ばれる大爆発を起こします。宇宙に存在する元素の多くは、超新星爆発の際に生成されたと考えられており、宇宙全体の進化を担ってきた重要な現象であるため、近年、世界中の多くの研究機関で、超新星爆発をターゲットとした観測が行われています。

しかし、これまで可視光で爆発の「瞬間」を捉えた観測例はなく、爆発の詳細なメカニズムや、爆発直前の星の姿は未解明のままです。

東京大学大学院理学系研究科附属天文学教育研究センター木曽観測所を中心とする研究グループは、同観測所が新しく開発した超広視野CCDカメラKiso Wide Field Camera(KWFC)を用いた大規模な超新星探査プロジェクトKIso Supernova Survey(KISS)を2012年4月より開始しました。KISSプロジェクトの目的は、空の広い領域を一晩に複数回、頻繁に監視するという、他の超新星探査とは違う手法で、 極めて稀な現象である超新星爆発の瞬間をとらえることです。既に超新星爆発の発見に成功し、国際天文学連合(IAU)によりSN 2012cmと命名されました。今後予定している3年間の観測により、合計100個以上の超新星を発見し、その中の数個の超新星に対しては、その爆発の瞬間をとらえることができる見通しです。KISSプロジェクトは、天文学に興味のある一般の方々との協力体制を組み、共同で研究を進めるという世界的にも珍しい試みを始めようとしている点も特徴です。

本発表では、KISSプロジェクトを開始したことをお知らせするとともに、最新の成果と期待される展開についてご報告いたします。

発表内容

図1

図1:木曽シュミット望遠鏡にとりつけられた超広視野CCDカメラKWFC。左側にカメラ本体、右側にフィルター交換機構がうつっている。

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図2

図2:SN 2012cmの発見。左から順に2012年4月28日の画像、2012年5月13日の画像、これらを引き算した画像となっている。新しく明るく輝く天体が2012年5月13日の画像にはうつっており、引き算の画像にも残っていることがわかる。

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超新星とは

太陽の8倍以上の重さの星や、二つの星がお互いのまわりを回っている星(連星)の一部は、その一生の最期に超新星爆発と呼ばれる大爆発を起こすことが知られています。宇宙に存在する水素とヘリウム以外の元素の多くは、超新星爆発の際に生成されたと考えられており、宇宙全体の進化を担ってきた重要な現象です。

超新星研究の意義

超新星爆発は、そこに星が存在していたことを示す直接の証拠です。私たちの住む天の川銀河やお隣のアンドロメダ銀河のような一部の銀河を除くと、個々の星は暗いため、一つ一つ調べることは難しく、太陽10億個分もの明るさで輝く超新星爆発の観測が重要になります。しかし、これまで可視光で爆発の瞬間を捉えた観測例はなく、爆発の詳細なメカニズムや、爆発直前の星の姿は未解明のままです。爆発の瞬間の超新星の光は、多くの情報を我々に与えてくれます。例えば、通常は測定することが難しい、爆発前の星の大きさをより正確に求めることができるようになり、星の一生のより正確な理解が可能となります。また、2011年のノーベル物理学賞の受賞理由となった、宇宙の加速膨張の発見に使われた種類の超新星(Ia型; いちえーがた)の爆発の瞬間の光は、いまだ不明な爆発前の連星の正体を知る手がかりになります。

超新星探査KISSプロジェクト

東京大学大学院理学系研究科附属天文学教育研究センター木曽観測所(以下、東京大学木曽観測所)を中心とする研究グループでは、この超広視野CCDカメラKWFCを用いた大規模な超新星探査プロジェクトKISSを2012年4月より開始しました。KISSプロジェクトの目的は、空の広い領域を一晩に複数回、頻繁に監視することで、 極めて稀な現象である超新星爆発の、その爆発の瞬間をとらえることです。

そこで、研究グループは、他の超新星探査とは手法を変え、一晩の間に1時間おきに空の同じ領域を監視する手法をとることにしました。超新星爆発は、普通の銀河では約100年に1度の頻度でしか起こらない稀な現象であるため、効率良く発見するためには、一度に大量の銀河を観測する必要があります。東京大学木曽観測所の開発したKiso Wide Field Camera (KWFC、図1)は、2度角四方の領域(満月16個分)を一度に観測することができる超広視野カメラであり、珍しい現象をとらえるのに最適なカメラです。

KISSプロジェクトの初期成果と今後の展望

KISSプロジェクトでは、2012年5月13日に、最初の超新星をかに座の方向に発見しました(図1)。KWFC、および広島大学かなた望遠鏡での追加観測により、この天体は約4億光年先の超新星であることが判明し、国際天文学連合(IAU)へ報告し、2012年5月27日にSN 2012cm(図2)と命名されました。2012年秋の探査本格開始後、予定している3年間の観測により、合計100個 以上の超新星を発見し、その中の数個の超新星に対しては、その爆発の瞬間をとらえることができる見通しです。また、木曽観測所におけるもう一つの大規模観測プロジェクトである天の川銀河面変光星探査でも、順調に未知の変光星が発見されつつあります。

また、KISSプロジェクトでは、天文学に興味のある一般の方々との協力体制を組み、共同で研究を進めるという世界的にも珍しい試みを始めようとしています。超新星発見までの過程において、我々は、画像同士の引き算を行い、引き算画像上にうつっている天体、すなわち明るさの変化している天体を超新星候補とします。しかし、この引き算画像には、本物の超新星以外に、宇宙線や引き算のミス等の偽物が、本物の超新星よりも多く存在します。これらを人間の目でチェックし、本物だけを選び出す作業を、アマチュアチームによって行い、その結果を受けて、早急な追加観測を行うことを予定しています。

発表雑誌

雑誌名
International Astronomical Union Circulars
論文タイトル
「Supernova 2012cm」
著者
諸隈 智貴 (東京大学), 冨永 望, 森 健彰 (甲南大学), 田中 雅臣, 浮田 信治 (国立天文台), 酒向 重行, 松永 典之, 土居 守, 小林 尚人, 宮田 隆志, 家中 信幸, 中田 好一, 青木 勉, 征矢野 隆夫, 樽澤 賢一, 三戸 洋之 (東京大学), Michael W. Richmond (ロチェスター工科大学), 伊藤 亮介, 川端 弘治, 高木 勝俊, 上野 一誠, 秋田谷 洋 (広島大学)
アブストラクトURL
http://www.cbat.eps.harvard.edu/iau/cbet/003100/CBET003126.txt

用語解説

超新星爆発
太陽の8倍以上の重さの星や、二つの星がお互いのまわりを回っている星(連星)の一部がその一生の最期に起こす爆発現象。太陽10億個分もの明るさで数十日間輝く。
KWFC
木曽観測所の持つ105cmシュミット望遠鏡に取り付けられる超広視野CCDカメラ。Kiso Wide Field Cameraの略。2度角四方の領域(満月を縦横4個ずつ並べた広さ) を一度に観測することができる。
SN 2012cm
国際天文学連合(IAU)へ登録された超新星は、順番にSN 2012A、SN 2012B、…、SN 2012Z、SN 2012aa、…、SN 2012az、SN 2012ba、…と名前が付けられる。