2012/4/24

東大理学部、グリーン・サステイナブル・ケミストリー社会連携講座を開設

— 持続的社会の構築を目指すGSC研究教育拠点の設立 —

発表者

  • 小澤岳昌(東京大学大学院理学系研究科化学専攻 教授/グリーン・サステイナブル・ケミストリー社会連携講座運営委員会委員長)

発表概要

東京大学大学院理学系研究科・理学部(所在地:東京都文京区、研究科長:相原博昭、以下「理学系研究科」)は、企業7社(昭和電工株式会社、東京理化器械株式会社、日光ケミカルズ株式会社、日産化学工業株式会社、日本電子株式会社、富士フイルム株式会社、三井化学株式会社(五十音順))の協力の下、実用化を指向した環境にやさしい化学プロセス技術の開発を行うとともに、グリーン・サステイナブル・ケミストリー(略称GSC)に関心を持つ国際的な人材の育成を目的として、グリーン・サステイナブル・ケミストリー社会連携講座を平成24年4月に設置致しました。GSCは、環境に配慮した持続的な社会を築くことを目的とする、現代社会において地球規模で極めて重要な概念です。本社会連携講座を、持続的社会構築を指向した産学連携による研究開発及び研究教育の拠点としていきたいと考えています。

発表内容

近年、地球規模の環境・エネルギー問題がますます深刻化する中、GSC分野の研究が先進国を中心に世界的な広がりを見せています。とくに環境にやさしい(=グリーンな)化学合成プロセスは、持続的社会の実現のために活発に研究開発が行われています。しかしながら、このようなグリーンな化学合成の実用化(企業化)のためには、革新的な触媒の開発、リサイクルシステムの確立、グリーンな原料や製品の開発、コストの問題など解決すべき課題は多く、実用化は容易ではないのが現状です。このため、基礎化学から化学産業までを広く巻き込んだ研究体制において、国内外のGSC活動の情報も迅速に取り込みつつ、GSCに関する体系的な研究開発を行うとともに、環境問題の解決に向けた産学連携による強力なアプローチを行うことが求められています。さらに、地球規模での持続的社会の実現に向けて、GSCの発展に意欲を持つ国際的な人材の育成が必要不可欠です。本社会連携講座はこのような社会的要求に応えるべく、研究と教育の両面からのアプローチにより国内外のGSCを大きく推進する目的で平成24年4月に設置されました。

本社会連携講座における研究開発課題の中心は、産学連携による革新的かつ実用的なグリーン化学合成プロセスの開発です。最先端のGSC技術を組み合わせ、反応原料の選択から反応後の分離操作やリサイクルも含めた総合的にグリーンなプロセス開発を行っていきます。世界に目を向けると、未だ多くの国や地域が工業排水を適切に処理することなくそのまま河川等に放出している現状があり、我が国はGSCの最先端技術をもって世界をリードする役割を担っていくことが重要であると考えられます。一方、先進国では欧米を始めとして我が国も含め環境対応を目的とした化学物質規制の動きが急速に進んでおり、世界標準をより意識したGSC研究を行う必要があります。開発するプロセスについては、化学製品のライフサイクルを考慮に入れ総合的に評価することが重要です。理学系研究科ではグリーン化学合成のための豊富な研究成果を有しており、各企業との連携で発展させることにより実用化を目指します。研究成果の一つであるグリーンな触媒技術はGSCにおける重要な技術の一つですが、グリーン化学合成の実用化のためには触媒活性や耐久性等において革新的なものが求められています。このようなGSC研究は、有機化学のみならず、無機化学、分析化学等や他の学術分野をも含む重層的な学際領域に位置する分野であり、広い学術分野への相乗的な効果が期待されます。本社会連携講座では個別の研究では見通すことの困難な新しい原理・技術を抽出することで、GSCの発展に大きく貢献することを目指しています。

以上のように、本社会連携講座は、世界的に大きな広がりをみせているGSCの分野において、我が国がリーダー的役割を担うことに大きく貢献することを目指します。これを達成するために、理学系研究科及び関係各企業は、産学それぞれの強みを生かした連携活動を通じて、大学・企業研究者の専門的な技術や知識を活用していきます。