2011/9/28
東南海地震(1944年)の津波断層を特定する物的証拠の発見
~地球深部探査船「ちきゅう」による南海トラフ地震発生帯掘削計画の成果~
発表者
- 独立行政法人海洋研究開発機構
- 国立大学法人東京大学 大学院理学系研究科
- 国立大学法人高知大学
概要
独立行政法人海洋研究開発機構(理事長 加藤康宏)と国立大学法人東京大学(総長 濱田純一)大学院理学系研究科(研究科長 山形俊男)と国立大学法人高知大学(学長 相良祐輔)は、統合国際深海掘削計画(IODP)(注1)第316次航海・南海トラフ地震発生帯掘削計画(注2)ステージ1において採取した巨大分岐断層を含むコアについて、X線CT(注3)による三次元組織分析により強い地震動により生成したマッドブレッチャと呼ばれる構造を発見し、放射年代測定法を用いてその年代測定を行うことにより、この巨大分岐断層が明確な記録の残る1944年の東南海地震により活動したことを明らかにしました。
本成果は、過去の巨大地震について、深海底のどの断層がいつ動いたのかを物証から検証することを実現したものです。 これにより巨大地震の時に巨大分岐断層が動くことも想定して地震規模の推定ができるため、より正確な被害規模の推定が可能になることが期待されます。
今回の成果は、アメリカ地質学会誌GEOLOGYの10月号に掲載されます。
- タイトル:
- Episodic seafloor mud brecciation due to great subduction zone earthquakes
- 著者名:
- 坂口有人1、木村学2、Michael Strasser3、Elizabeth J. Screaton4、Daniel Curewitz5、村山雅史6
- 海洋研究開発機構
- 東京大学 大学院理学系研究科
- University of Bremen
- University of Florida
- Syracuse University
- 高知大学
詳細について 海洋研究開発機構のホームページをご覧ください。
用語解説
- 注1 統合国際深海掘削計画(IODP)
- 日本・米国が主導国となり、平成15年(2003年)10月から始動した多国間国際協力プロジェクト。現在、欧州、中国、韓国、豪州、インド、NZの 24ヶ国が参加。日本が建造・運航する地球深部探査船「ちきゅう」と、米国が運航する掘削船を主力掘削船とし、欧州が提供する特定任務掘削船を加えた複数 の掘削船を用いて深海底を掘削することにより、地球環境変動、地球内部構造、地殻内生命圏等の解明を目的とした研究を行う。↑
- 注2 南海トラフ地震発生帯掘削計画
- 本計画は、全体として以下の4段階(ステージ)に分けて掘削する計画で、紀伊半島沖熊野灘において南海トラフに直交する複数地点を掘削する計画。ステージ1は、平成20年2月5日に終了した。↑
- ステージ1
- 巨大分岐断層やプレート境界断層の浅部(1400m以浅)のライザーレス掘削を実施し、地層の分布や変形構造、応力状態など、地震時に動いたと考えられる断層の特徴を把握する。
- ステージ2
- 巨大地震発生帯の直上を掘削し(ライザーおよびライザーレス掘削)、地質構造や状態を解明する。掘削した孔内には観測システムを設置し、地震準備過程のモニタリングを行う。また、プレートとともに地震発生帯に沈み込む前の海底堆積物を掘削しコア試料を採取することで、組成、構造、物理的状態等を調査する。
- ステージ3
- 巨大地震を繰り返し起こしている地震発生帯に到達するライザー掘削を実施し、地震発生物質試料を直接採取して、物質科学的に地震発生メカニズムを解明する。
- ステージ4
- 長期間にわたり掘削孔内で地球物理観測を行うシステムを巨大地震発生帯掘削孔に設置する。将来は、地震・津波観測監視システム(DONET)と連携し、地震発生の現場からリアルタイムでデータを取得する。
- 注3 X線CT(エックス線コンピュータトモグラフィー)
- 医療用として広く使用されているものと同じ装置で、X線を走査し試料の三次元内部構造を可視化する非破壊分析装置。ここ10年くらいの間に地球科学分野での 優れた有用性が認められるようになった。掘削科学の分野で本格的に導入されたのは「ちきゅう」が初めて。↑