2011/8/25

天の川の中心にあるセファイド変光星を世界で初めて発見

— 銀河の中心で数千万年ごとに起こる星のベビーブームを示唆 —

発表者

  • 松永 典之(東京大学大学院理学系研究科 特任研究員)
  • 小林 尚人(東京大学大学院理学系研究科 准教授)
  • 永山 貴宏(名古屋大学大学院理学研究科 特任助教)
  • 長田 哲也(京都大学大学院理学研究科 教授)
  • 田村 元秀(国立天文台 光赤外研究部 准教授)
  • 西山 正吾(国立天文台 光赤外研究部 研究員)

発表概要

天の川の中心(以下、銀河系中心と呼びます)は、大質量ブラックホールや大量のガス、非常に密集した星の大集団などが混在していて、天文学でもっとも重要な場所の一つです。 私たちは、「セファイド変光星」という天体がその中心領域に存在することを世界で初めて見つけることに成功しました。これは、銀河系中心に対して赤外線、電波、X線などで様々な観測が1960年代以降行われ続けたにもかかわらず見つかっていなかったものです。 さらに、セファイド変光星の周期性から年齢がわかるという特徴を利用し、銀河系中心でいつ星が作られたかという歴史を調べました。その結果、7千万年前から3千万年前にはあまり星が作られず、今から2500万年前あたりで活発に星が作られたことがわかりました。 銀河系中心で数千万年ごとに星のベビーブームが起きていることを示唆する結果です。 今回の発見は、銀河の中心で起こる星形成の歴史に新たな視点で迫るものであると同時に、なぜ星の作られるペースが変化するのか、星を作る原料となるガスがどのように銀河系中心に供給されるか、など多くの謎を投げかけるものです。

なお、この成果は英国科学雑誌Natureに掲載されます(8月24日にオンライン掲載)。 本研究には、東京大学、京都大学、自然科学研究機構国立天文台、名古屋大学、およびイタリア・ローマ大学と南アフリカ・ケープタウン大学の研究者が参加しました。

発表内容

図1

参考図1:銀河系中心領域の近赤外線画像と発見したセファイド変光星

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図2

参考図2:発見したセファイドの周期とこれまでに銀河系で見つかっていたセファイドの周期分布

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背景

銀河ではどのように多くの星が作られるのでしょうか。 大量のガスが集まる場所で星が作られますが、いつどのようにしてガスを集め、どのような星がどれだけ作られたのかを探ることが銀河の進化を探るための重要なカギとなります。 特に、銀河の中心領域のように特殊な環境でどのように星が作られてきたのかについては多くの研究が行われていますが、未解明の課題が数多く残っています。 私たちの太陽系を含む銀河系の中心は、いて座の方向にあり、特に1960年代以降には様々な方法で観測が行われてきました。 しかし、一般に星の年齢を推定することは容易ではなく、どのように星が作られてきたかという詳細な歴史はわかっていませんでした。

そこで私たちはセファイド変光星(注1)という周期的に明るさの変わる星に着目しました。 その周期と星の年齢との間には関係があり、周期を知ることでそれぞれの星が何万年前に生まれたのか推定することができます。 銀河系中心にセファイド変光星を見つけられれば、その場所においていつどのように星が作られてきたか調べることが可能です。 しかし、大量の星間塵(注2)にさえぎられている銀河系中心を見ることは容易ではなく、これまでセファイド変光星は見つかっていませんでした。

研究結果

そこで、私たちは8年間(2001〜2008 年)にわたって銀河系中心の方向を繰り返し観測しました。 観測には、名古屋大学と国立天文台が南アフリカに建設したIRSF望遠鏡とSIRIUS近赤外線カメラ(注3)を使用しました。 近赤外線での観測によって、星間塵に隠された星も見つけられます。 観測データを解析した結果、画像に写っている10万個近くの星の中に3個のセファイド変光星を検出しました(参考図1)。 星の明るさから見積もった距離(約2万5千光年)も銀河系中心までの値と一致しており、世界で初めて銀河系中心に存在するセファイド変光星を発見することができました。

しかも、今回我々の見つけたセファイド変光星の周期は、いずれも20日に近い値でした(参考図2)。 このように同じ周期の変光星ばかりが集中して見つかることは、まったく予想していませんでした。 上に述べたセファイド変光星の周期と年齢の関係を考えるとこれらの星の年齢は約2500万歳で、2500万年前にその場所で星が作られたことがわかります。 一方、それより短周期のセファイド変光星が見つからなかったことは、3000~7000万年前に生まれた星の少ないことを示しています。 銀河系中心に対して、このように数千万年前の星形成の歴史を詳しく調べることができたのは初めてのことです。

成果の意義

今回の研究結果は、数千万年のタイムスケールで星の形成がさかんになったり不活発になったりすることを示唆しています。 繰り返し訪れる「星のベビーブーム」といえるでしょう。このような星形成の変化はどうして起こるのでしょうか。 星の材料となるガスは、銀河のディスク領域(注4)の外側から銀河の中心部へ運ばれるはずです。 しかし、きれいな円盤状に回転するディスクからは、ガスが中心へ落ちることがほとんどありません。 一方、棒状構造のように単純な円盤から外れた構造によって、ガスが中心部へ運ばれやすくなると考えられます。 このようなガスの運動に関する研究の結果、数千万年に一度の割合で偶発的にガスが運ばれるメカニズムの存在が示唆されています。 そのタイムスケールは、今回私たちが明らかにした星形成の変化のタイムスケールと同じ程度で両者が密接に関連していることを示唆しています。 今回発見された天体をさらに調べることで、銀河の中心部での星形成を促すメカニズムについて、より詳しく調べられると期待されます。

原著論文・発表雑誌

Matsunaga, N., Kawadu, T., Nishiyama, S., Nagayama, T., Kobayashi, N., Tamura, M., Bono, G., Feast, M. W. & Nagata, T.

“Three classical Cepheid variable stars in the Nuclear Bulge of the Milky Way”, Nature (DOI: 10.1038/nature10359). 

2011年8月24日(水)(日本時間25日午前2時)付でオンライン版に公開。

タイトルの和訳「天の川銀河の中心部に見つかった3つの古典的セファイド変光星」

用語解説

注1 セファイド変光星
おおよそ2~50日の周期で明るくなったり暗くなったりを繰り返す星で、それぞれのセファイド変光星によって周期が異なっています。周期と星の固有の明るさには関係(周期光度関係)があり、これによってセファイド変光星までの距離を求めることができます。この関係は宇宙における距離の測定を行うための基本的な道具となり、1929年にエドウィン・ハッブルが宇宙の膨張を発見した時にも利用されたものです。今回の私たちの研究では、さらに周期が星の年齢とも関係をもつということを用いました。周期の長いセファイド変光星ほど若いということがわかっています。
注2 星間塵
宇宙空間に存在する塵(固体微粒子、あるいはダスト)によって、遠方の星・銀河からの光がさえぎられ、暗くなってしまいます。特に銀河系中心の方向はその影響が大きく、人間の目に見える波長の光(可視光)では本来の光のうち、約1京分の1 (10,000,000,000,000,000分の1) しか地球に届きません。赤外線ではその影響がずっと小さく、約 2 μm の波長では銀河系中心で放出された光のうち10分の1程度が地球に届きます。
注3 IRSF望遠鏡とSIRIUS近赤外線カメラ
名古屋大学の佐藤修二教授らのグループと国立天文台が、南アフリカ天文台に共同で建設・設置した観測装置です。IRSF望遠鏡は直径1.4メートルの主鏡をもつ望遠鏡で、2000年に建設されました。SIRIUS近赤外線カメラは、近赤外線で3つの異なる波長(1.25 μm、1.63 μm、2.14 μm)を同時に観測できるという特徴をもったカメラで、2000年11月にIRSF望遠鏡に取り付けられて以来、近赤外線で様々な観測を続けています。
注4 銀河のディスク領域
天の川を形作る部分にたくさんの星が集まっているように、円盤状に星やガスが分布している部分をディスク領域と呼びます。ディスクでは星やガスが同じ方向へ回転しています。天の川銀河の場合その円盤の半径は4万光年ほどで、太陽は中心から2万5千光年離れたディスクの中にあります。