2011/7/19

世界で初めて強相関電子を2次元空間に閉じ込めることに成功

— 新たな高温超伝導物質の実現や、電子素子作りに道を拓く —

発表者

  • 組頭 広志(東京大学大学院工学系研究科 応用化学専攻 准教授)
     (現:高エネルギー加速器研究機構 物質構造科学研究所 教授)
  • 尾嶋 正治(東京大学大学院工学系研究科 応用化学専攻 教授)
  • 吉松 公平(東京大学大学院工学系研究科 日本学術振興会特別研究員)
  • 堀場 弘司(東京大学大学院工学系研究科 応用化学専攻 助教)
  • 吉田 鉄平(東京大学大学院理学系研究科 物理学専攻 助教)
  • 藤森 淳(東京大学大学院理学系研究科 物理学専攻 教授)

概要

高温超伝導などの源である電子同士が互いに強く影響し合う性質をもった「強相関電子(注1)」を2次元空間(層)に人工的に閉じ込める「量子井戸構造(注2)」を作製することに世界で初めて成功しました。 レーザーを使った結晶成長の技術を駆使し、伝導性をもつ酸化物を原子層レベルで精密に制御しながら作製しました。 放射光(注3)による高精度な分光法で電子の振る舞いを詳細に調べ、強相関電子が2次元空間に閉じ込められていることを確認しました。

高温超伝導体を作製するには強相関電子は欠かせない存在です。 今回の成果によって、強相関電子の振る舞いを人工的にコントロールすることが可能となり、これまでの臨界温度を遥かにしのぐ高温超伝導体の作製はもちろん、人類の夢であった室温超伝導体の実現につながると期待されています。 またシリコン系半導体にとって代わる新しいタイプの電子素子の開発にも見通しが立ちました。

詳細について工学系研究科のホームページをご覧ください。

用語解説

注1 強相関電子
通常の半導体や金属では、電子はほぼ自由に振る舞う。しかし、電子の密度が十分に高い場合、電子同士がお互いに強く作用し合い、結果として電子が集団としてかろうじて動くような状態が出現する。このような状態にある電子を強相関電子と呼ぶ。銅酸化物をベースとした高温超伝導体は強相関電子をもつ典型的な物質である。
注2 量子井戸構造
井戸のような形状をしたエネルギーバリアーにより、極めて薄い伝導層(2次元空間)の内部に電子を閉じ込める構造を量子井戸構造という。層に垂直な方向への電子の運動が制限されて飛び飛びの値を持つようになる。半導体デバイスではこの特長を生かすことで、電子を効率よく利用することができ、高性能の半導体レーザーやトランジスターが実現されている。
注3 放射光
光速近くまで加速された電子が、磁場によってその進行方向を曲げられたときに接線方向に放出される強い光を放射光という。赤外線からX線までのさまざまな波長をもつ光を取り出せる優れた光源として、科学技術の広い分野で用いられている。