2011/6/14

環境調和型の水素化反応プロセスを実用化へ

— ポリシラン固定化触媒を用いたフローシステムによる薬粧品原料生産 —

発表者

  • 小林 修(東京大学大学院理学系研究科化学専攻 教授)
  • 日光ケミカルズ株式会社

発表概要

国立大学法人東京大学と日光ケミカルズ株式会社は、環境にやさしい水素化反応プロセスの共同開発を行い、同社において現在の化粧品・医薬品原料の製造プロセスを新プロセスに置き換えることに決定した。 新プロセスで用いる水素化反応用触媒は、東京大学において独自に開発された触媒であり、高活性で劣化せず連続使用が可能である利点を有している。 この触媒は高分子であるポリシランにパラジウムナノ粒子を固定化したもので、これをカラムに充填することによりフローシステムでの連続反応が可能になる。 反応器のスケールアップも達成しており、一部の製品については来年度中に生産を開始する予定となっている。 この新プロセスを導入することにより、生産コストを2割削減することができ、廃棄物・消費エネルギーも減らすことができる。 本プロセスはポリシラン固定化金属触媒の世界初の実用化例であり、今後は様々なプロセスへの応用が期待される。 本成果はNEDO「グリーン・サステイナブルケミカルプロセス基盤技術開発プロジェクト」の委託研究によるものである。

発表内容

図1

図1:触媒のポリシランへの担持方法

酢酸パラジウム(Pd(OAc)2)をパラジウム源として用い、担体にパラジウムを取り込ませて相分離させ(コアセルベーション)、生成したマイクロカプセル(MC)化パラジウムに対し架橋反応を行い、高分子カルセランド(PI)型ポリシラン(PSi)パラジウム触媒を調製した。

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図2

図2:パラジウムのナノクラスター(電子顕微鏡写真)

担体上にパラジウムのナノサイズのクラスター(黒い粒子)が分散して固定化されている。パラジウムの量を変えることで、反応熱や単位時間当たりの生産量の制御が可能になる。

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図3

図3:フローシステムの反応装置写真

写真中央が内径100 mm、長さ1 mのフローリアクター。内部に触媒(左上写真)が充填されている。リアクターの左側は生成物回収タンク、右側はコントローラー類及び送液ポンプ。

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国立大学法人東京大学(以下、東京大学)と日光ケミカルズ株式会社(以下、日光ケミカルズ)は、東京大学において独自に開発されたポリシラン(注1)にパラジウム触媒を固定化させた触媒による水素化反応プロセス実用化のための共同研究を行ってきた。 その結果、同社における現在の水素化プロセスを新プロセスに置き換えることが決定した。

この新しい製造プロセスは、ポリシランに固定化したパラジウム触媒が高活性かつ劣化が起きにくいことにより、フローシステム(注2)による連続反応において持続的に使用可能である点が特徴で、現法(バッチ式反応)では毎回の反応ごとに劣化のため交換しているパラジウム炭素触媒に比べて大きな利点を有している。 東京大学において開発したポリシランへの金属固定化技術が本プロセスへ適用されることにより、実用化のレベルまでプロジェクトが進展した。

日光ケミカルズでは、化粧品・医薬品の原料を水素ガスによる触媒的水素化反応にて製造しているが、現行法では、上記の通り用いているパラジウム触媒が毎回劣化してしまうために、その再生に多大な廃棄物処理・コスト・エネルギーがかかることが問題だった。 そこで現在の水素化反応を、本プロジェクトで開発した触媒の劣化のない新プロセスに移行することにより、製品に様々な付加価値ができ、販売量が増加することが期待される。

本プロジェクトの鍵となる技術は、開発触媒を充填したフローリアクターである。 開発触媒は、東京大学で開発されたポリシラン担持金属触媒である。 この触媒の特長は、高活性かつ劣化が起きにくい(金属の反応液への漏れ出しが0.1%未満)点にあり、従来のパラジウム炭素触媒によるプロセスを大きく改善できる可能性を秘めている。 このポリシラン担持遷移金属触媒を充填したフローリアクターでは、廃棄物削減・省エネ・コスト削減や、高い安全性・装置の省スペース化等が期待できる。 今回のプロセスでは、触媒を交換すること無く240時間以上の連続使用が可能であることを確認している。

ポリシランはケイ素が鎖状に連続的に結合した高分子であり、炭素鎖から成る通常の高分子とは異なる構造および電子的性質を有している。 このポリシランにパラジウム触媒を混合することで、ポリシラン固定化パラジウム触媒が調製される(図1)。 電子顕微鏡による観察から、パラジウムのナノクラスターが生成していることが明らかになっている (図2)。

現在使用しているフローリアクターの写真を示す(図3)。 リアクター内には触媒が充填されており、リアクター上部から基質溶液及び水素ガスが導入され、水素化された生成物である薬粧品原料はリアクター下部からタンクに移動する。 内径100mmのリアクターでの水素化試験を行った結果、十分な収率(>95%)および製品の基準を満たす純度の生成物を得ることができた。 触媒の大量調製におけるコスト削減にも成功し、触媒メーカーでの生産も開始され、1バッチ15kgで合計100kgの触媒を製造している。 一方で他種類の薬粧品原料への適用も検討し、順当な成果が得られている。実用化の際の生産プラントにおいては、内径200mm長さ1000 mmのフローリアクターを導入することを予定している。

以上のように、本プロジェクトではフローシステムによる水素化反応の新プロセスにおいて、実用化を見込める成果が得られた。 製品において基準を満たす収率・純度を達成できており、十分な触媒性能が得られている。 今後は、生産用プラントサイズである200Φ×1000mmでの水素化試験、生産用リアクターのナンバーリングアップなどを行い、実用化する予定である。 他種類の薬粧品原料への適用も順調に進んでおり、薬粧品原料以外も含めた水素化製品に適用できる可能性が高いと考えている。

本方法は、触媒が劣化することなく長時間の連続使用が可能であることから、触媒の廃棄が不要となり、環境にやさしい革新的なプロセスであるといえる。 今後は他製品についても順次実用化を検討する予定である。 本成果は水素化プロセスの大きな革新と位置づけられ、国内外の医薬品や化成品の合成手法のグリーン化、省エネ化につながることが期待される。

本成果はNEDO「グリーン・サステイナブルケミカルプロセス基盤技術開発プロジェクト」の委託研究によるものである。

発表雑誌

なし

用語解説

注1 ポリシラン
ケイ素原子が鎖状に結合した高分子。炭素鎖から成る通常の高分子とは異なる、特有の構造および電子的性質を有している。主鎖に沿って電子が非局在化しているのが主な特徴であり、材料としても期待される。
注2 フローシステム
原料を反応器に連続的に供給し、生成物を連続的に得る反応システム。反応器に充填した触媒が劣化しなければ長時間の連続使用が可能。バッチ式反応システムと比べて反応条件制御が容易であるほか、装置を小型化できることから高い安全性・省エネ・省スペース等の利点もある。