葉の大きさは細胞間のコミュニケーションにより制御される
発表者
- 塚谷 裕一(東京大学大学院理学系研究科 生物科学専攻 教授)
- 堀口 吾朗(立教大学理学部生命理学科 准教授)
- 川出 健介(東京大学大学院理学系研究科 生物科学専攻 博士課程3年)
概要
種(しゅ)が同じ生物の間では、器官の大きさは非常に均一です。 これは、各々の種に特徴的な発生のプログラムが、器官に含まれる細胞の数と大きさを厳密に制御しているからだと考えられています。 また近年、植物の器官サイズがどのようにして決まるかの理解は、バイオマス増産という観点からも、その重要性が広く認識されています。 しかし、個々の細胞を組織化してできている器官が、いつも均一な大きさに発達するメカニズムは、未だによく分かっていません。 東京大学大学院理学系研究科の塚谷裕一教授、同研究科博士課程3年川出健介および立教大学の堀口吾朗准教授らの研究グループは、葉に含まれる細胞の数と大きさが細胞間のコミュニケーションを通じて統合されていることを、今回明らかにしました。 これは葉の大きさが、個々の細胞を越えた多細胞レベルで制御されていることを実証した初めての成果であり、国際誌Development誌に掲載され、掲載号中の注目すべき論文として紹介される予定です。
研究の成果
植物の葉は、各々の植物種に特徴的な大きさに発達するのが一般的です。 これは、同じ種であれば、葉に含まれる細胞の数と大きさがほぼ一定だからです。 そこで、葉のサイズがどう決まるのかを知るためには、細胞の増殖と肥大が発達の過程においてどのようにコントロールされているのかを理解する必要があります。
そのヒントとして、葉の発達の際に細胞増殖があるレベル以下に落ちると、細胞が異常に大きくなるという現象(補償作用)が知られています。 発達中の葉では、増殖している細胞と、増殖を終えて肥大している細胞とが別々の場所で見られます。 したがって補償作用という現象から、細胞の増殖と肥大とは、何らかの形で統合的にコントロールされているのではないかと推察されてきました。 しかしながら、そのような仕組みはこれまで全く知られていませんでした。
今回、塚谷教授らのグループは、実験材料にモデル植物であるシロイヌナズナを用いて、まず細胞増殖に欠陥があり補償作用を示す変異型の細胞と、正常な細胞とが混在するキメラ葉(図1)を人工的につくり出し、細胞のサイズを調べました。 その結果、キメラ葉では、野生型の細胞であっても変異型の細胞と同様に補償作用を起こしてサイズが大きくなっていました。 これは、変異型の細胞から細胞肥大を促進させるような細胞間シグナルが放出されていることを示しています。 さらに詳細に調べたところ、この細胞間シグナルには、中肋(注1)を境とした葉身の半分の中でのみ機能するユニークな性質も見つかりました。 これらの発見は、器官のサイズがどのようにして決まるかの理解へむけて、従来の細胞増殖や細胞肥大といった個々の細胞プロセスに関する知見を、より高次の多細胞レベルで統合する新たな局面へと今後の研究を導くものです。 また応用的には、この細胞間シグナリングの特性を利用することで、バイオマスの増大などへの寄与が期待されます。
発表雑誌
- 国際誌 Development誌 12月15日号掲載予定(doi:10.1242/dev.057117 )
- (オンライン版で11月10日に掲載済み)
- http://dev.biologists.org/content/early/by/section
- 論文タイトル
- Non-cell-autonomously coordinated organ-size regulation in leaf development
- 「葉の大きさは細胞間シグナリングを介して協調的に制御される」
- 著者
- Kensuke Kawade, Gorou Horiguchi, Hirokazu Tsukaya
研究グループ
本研究は、塚谷裕一(東京大学大学院理学系研究科 教授/基礎生物学研究所 客員教授)、川出健介(東京大学大学院理学系研究科 博士課程)、堀口吾朗(立教大学 准教授)の共同研究として実施されました。
用語解説
- 注1: 中肋
- 葉の中央を走る太い葉脈と、それを取り囲む細胞からなる構造 ↑