2010/3/25

葉の縁のギザギザ「鋸歯」ができる仕組みを解明

発表者

  • 河村 英子(東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻 元特任研究員)
  • 堀口 吾朗(立教大学理学部生命理学科 准教授)
  • 塚谷 裕一(東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻 教授)

研究概要

植物の葉の個性の一つに、縁にあるギザギザ、つまり鋸歯(きょし)の数と大きさがあります。どんなふうにしてこの鋸歯ができるのか、その間隔や大きさはどうやって決まっているのかは、不明のままでしたが、今回、モデル植物のシロイヌナズナを使った研究から、その基本的な仕組みが初めて明らかになりました。興味深いことに、それは分裂組織から枝に沿って葉が規則正しく作られる仕組みと、よく似た仕組みでした。この成果は、国際誌、The Plant Journal誌(オンライン版2月1日)に掲載されました。

研究の成果

葉の形はさまざまです。中でも縁のギザギザ、鋸歯の深さや大きさは、近縁種の間でもはっきりと異なることが多く、種を見分けるときのポイントの一つとしてもよく使われます。しかしどんなふうにして、鋸歯というものができるのでしょう?

鋸歯は葉の縁に特定の間隔を置いて作られるのが普通です。そのことから、以前より、葉が先端から基部に向かって順に作られる際、何か周期性のようなものがあって、それに沿って刻みが作られるのではないかという想像がなされていましたが、具体的な仕組みは全く理解されていませんでした。

一方、モデル植物のシロイヌナズナでは、CUC という遺伝子群が壊れて機能を失うと、葉の鋸歯がなくなって、なめらかな縁になることが見いだされています。CUC は双葉を作る際にも大事な遺伝子で、双葉の場合は、その2枚の境目に働きかけて、双葉をそれぞれきれいに1枚ずつに切り分ける働きがあります。その連想から、鋸歯はCUC によって、葉の縁に刻みが入り、谷間ができた結果なのだろう、と想像されていました。

今回塚谷教授らのグループは、シロイヌナズナの葉の縁の部分の発生のようすを、細胞レベルで、また各種の遺伝子の発現を参照して詳細に観察すると共に、CUC が異常になった変異体など鋸歯に異常を示す材料と比較することで、まず、従来の理解が間違っていることを見いだしました。なんと、CUC という遺伝子群が壊れて葉の縁がなめらかになるのは、鋸歯と鋸歯の間の谷間がなくなったからではなく、むしろ鋸歯が突出しなかった、つまり山が盛り上がらなかったからだったのです(図)。

また今回、鋸歯と鋸歯の間隔は、細胞数で見ると極めて均一であることも分かりました。シロイヌナズナの完成した葉で、一番縁の部分の細胞の数を数えてみると、どの鋸歯の間でも全く同じでした。またオーキシンの蓄積をモニターする遺伝子の発現を指標として調べた結果、その鋸歯のできる位置は、葉の原基の縁を流れるオーキシン(注1)が集まった場所に相当することも分かりました。鋸歯ごとの細胞の並び方も、葉でオーキシンを流すしくみの異常で変わってしまうことも分かりました。

今回分かった点をまとめてみると、鋸歯のでき方は、以下のようなものであると考えられます。つまり、葉の縁を先端から基部に向かってオーキシンが流れます。そうすると、ところどころでオーキシンが溜まる場所が自然と生じます。そのオーキシンが集まった場所が、将来の鋸歯の先端に当たる部分となり、その両脇をCUC 遺伝子がいわば固めることで、鋸歯の位置が確定します。そしてオーキシンとCUC 遺伝子の協調の結果、その部分の成長が促され、山のように細胞が盛り上がり、鋸歯となる、というわけです。この、オーキシンが場所を決め、そしてその場所が成長して盛り上がるというやりかたは、茎の先端の分裂組織で、茎に沿って葉が順にできる仕組みとよく似ています。おそらく基本的に同じ仕組みを使って、植物は茎の先端に葉を作り、そして個々の葉にギザギザを入れているのでしょう。

発表雑誌

The Plant Journal 2月1日オンライン版に掲載されました。印刷物掲載月日未定
論文タイトル
Mechanisms of leaf tooth formation in Arabidopsis
著者
Eiko Kawamura, Gorou Horiguchi and Hirokazu Tsukaya

用語解説

注1 オーキシン
植物ホルモンのひとつ。植物の細胞は、リレーのようにこれを隣同士で受け渡ししており、その結果として、植物の全身を通じてオーキシンの流れが生じている。植物はこのオーキシンの流れとその局部的な蓄積とを感知して、体作りの座標に使っているらしい。