世界初、フラーレンによる動物への遺伝子導入に成功
発表者
- 野入 英世(東京大学医学部附属病院血液浄化療法部 准教授)
- 中村 栄一(東京大学大学院理学系研究科化学専攻 教授)
発表概要

図:水溶性フラーレンTPFEによる生体への遺伝子導入
水溶性フラーレンTPFEでは、図中央に示す4つの正電荷を有するアミノ基が通常型フラーレン(C60)に付随しており、そのため負電荷のDNAと図中央左のように結合する。これは100nm程度のナノ粒子を形成し細胞膜を通過し、細胞内では再びTPFEとDNAに戻る。ここでは、GFP遺伝子導入に成功し、細胞内にGFPが生じるため、図下右では一連のマウス気管支細胞にGFPが緑色に発現していることが分かる。青色は核を示す。
フラーレン(注1)の医療応用を射程圏内に捉えた研究成果を、東京大学医学部附属病院 血液浄化療法部 准教授 野入英世と東京大学大学院理学系研究科 化学専攻 教授 中村栄一らの共同研究チームが発表します。フラーレンを用いた生体への遺伝子導入(注2)の報告は世界初です。
このチームは、通常のフラーレン(C60)に4つのアミノ基をもたせた水溶性フラーレン(注3)(TPFE)を合成し、糖尿病治療効果のあるインスリン遺伝子をもつDNAと結合させて動物の体内に導入した後に、その遺伝子が発現することで血中インスリン濃度が上がり、血糖が下がることを世界で初めて示しました。これまでの遺伝子導入法では、ウィルスや脂質類似物質が用いられてきましたが、安定性や安全性を初めとした種々の問題点が克服できず、実用段階には到達していません。TPFEは低毒性で、尚かつ安価に大量合成できることから、本研究の発展による新たな遺伝子導入法の展開が期待されます。
なお、本研究は、JST 戦略的創造研究推進事業 ERATO型研究「中村活性炭素クラスタープロジェクト」(研究総括:中村栄一)の一環として行われました。
詳細について東京大学医学部附属病院のホームページをご覧ください。
用語解説
- 注1 フラーレン
- 1985年にハロルド・クロトー、 リチャード・スモーリー、 ロバート・カールによって発見された炭素同素体の一つで、炭素原子がサッカーボール状につながった分子。1970年に大澤映二博士(当時京都大学)により初めて提唱された。世界に先駆け日本で工業生産が開始されており次世代材料の基盤物質として期待されている。 ↑
- 注2 遺伝子導入
- 目的遺伝子を持たない生物へ、他の生物で増幅した目的遺伝子を投与することで、その体内で目的遺伝子を発現させる手法である。これは自然界では簡単には起こらないので、化学的手法や電気生理学的手法により導入を試みる。これらの手法を総じて遺伝子導入法と呼んでいる。 ↑
- 注3 水溶性フラーレン
- 通常のフラーレン(C60)は、水に溶ける性質はないが、研究チームの中村グループは、1993年に有機官能基を持たせることで水溶性を示す水溶性フラーレンを世界で初めて合成した。 ↑