2009/12/3

アタカマ望遠鏡、波長38ミクロンの赤外線を地上から世界初観測

世界最高地点の望遠鏡が開く宇宙を見る新しい眼

発表者

  • 吉井 讓(東京大学大学院理学系研究科附属天文学教育研究センター センター長・教授)
  • 宮田 隆志(東京大学大学院理学系研究科附属天文学教育研究センター 准教授)
  • 三谷 夏子(東京大学大学院理学系研究科附属天文学教育研究センター 技術職員)

発表概要

世界最高地点に建設されたアタカマ1m望遠鏡は、波長38ミクロンの光を地上から捉える事に成功した。これは地上でとらえられた赤外線の中で最も長い波長である。新しい赤外線が観測可能になったことで、これまで不明であった宇宙の冷たい領域を詳しく調べることが可能となる。

図1

図1:チリ・アタカマ砂漠、標高5,640mの地点にある口径1mの赤外線望遠鏡(miniTAO望遠鏡)。右の白いドーム内に望遠鏡と装置が設置されている。

図2

図2:望遠鏡に取り付けられた赤外線カメラMAX38。望遠鏡下部、円盤状の板より下の部分がカメラである。

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図3

図3:波長38ミクロンの中間赤外線で見た我々の住む天の川銀河の中心部分。銀河系の中心部は図の一番明るい部分に相当しており、そこから北向き(図の上方向)に延びるフィラメント状の構造が見える。また中心から東向き(図の左方向)にも延びた構造が写っている。これらは低温(摂氏マイナス170度以下)の塵の雲であり、銀河の中心にあるブラックホールに向かって落ち込む流れではないかと考えられる。また右下にはこのブラックホールを中心に回っている円環状の構造の一部も見えている。

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図4

図4:今回の観測領域の模式図。観測領域は可視光で見ると天の川の黒い帯の中にある。拡大の可視画像で見えている点はすべて銀河の中心より手前の星であり、中間赤外線画像には映っていない。(天の川銀河中心可視画像提供:NASA)

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発表内容

東京大学を中心とした東京大学アタカマ天文台(TAO)研究グループ(代表:吉井讓 東京大学教授)は チリ共和国アタカマにあるチャナントール山に口径1mの赤外線望遠鏡(miniTAO望遠鏡)の建設・運用を行っています。チャナントール山は標高が5,640mあり、世界の望遠鏡の中でも最も高い地点に設置された赤外線望遠鏡です。高い標高のおかげで地球大気、とくに水蒸気の影響が格段に弱まり、今まで大気吸収によって見えなかった赤外線波長も観測可能になります。またこの望遠鏡は口径6.5mの大型赤外線望遠鏡計画(TAO計画)の先行計画という意味合いも持っています。

1m望遠鏡は2009年3月の可視光線による初観測のあと調整整備を続け、2009年6月には近赤外線カメラによる科学観測をスタートさせました。そして今回、より波長が長い中間赤外線を観測できるカメラMAX38を搭載し、初観測に成功しました。このカメラは波長8ミクロンから38ミクロンの赤外線に高い感度を持っており、特に波長30から38ミクロンの中間赤外線の観測に最適化されたカメラです。波長30から38ミクロンの中間赤外線は人間の目で見える光の100倍近く波長が長く、摂氏マイナス200度という低温状態の物質からも発せられます。このような光を精密に観測すれば、星の周囲などの温度が低い領域に物質がどのように分布するか、を知ることができます。温度が低い場所もよく見える中間赤外線は星や惑星の進化を知る上で非常に重要な光なのですが、通常は地球大気の水蒸気に邪魔され、観測することはできませんでした。われわれは世界最高標高の望遠鏡であるminiTAO望遠鏡を用いることで38ミクロンという中間赤外線を地上からとらえることに世界ではじめて成功しました。

中間赤外線カメラによる観測は2009年11月8日に行われました。次ページの図はその時に取得された銀河中心部の38ミクロン画像です。銀河の中心部分(図の一番明るいところ)から北向きに延びる雲がくっきりと写っています。これは銀河中心部分にある低温(摂氏マイナス170度以下と推定)の塵の雲であり、銀河中心部分に落ち込む流れではないかと考えられます。雲の大きさは5光年以上にも及びます。このような構造はほかの赤外線では見られないものであり、38ミクロンの光でのみ捉えられるものです。

波長38ミクロンの中間赤外線の地上観測が可能になったことで、形成途中の星や惑星系などを詳細に観測することができるようになります。また、低温の塵に覆われた死に行く星や銀河なども観測が可能になります。われわれのグループでは、中間赤外線観測という新しい手段を用いて宇宙を観測することで、これまで見えなかった冷たい宇宙を詳しく調べていきたいと考えています。