2009/7/7

アタカマ1m望遠鏡、銀河中心部の水素が出す赤外線をとらえる

発表者

  • 吉井 讓(東京大学大学院理学系研究科附属天文学教育研究センター センター長)
  • 本原 顕太郎(東京大学大学院理学系研究科附属天文学教育研究センター 助教)
  • 宮田 隆志(東京大学大学院理学系研究科附属天文学教育研究センター 准教授)
  • 三谷 夏子(東京大学大学院理学系研究科附属天文学教育研究センター 技術職員)

概要

図1 図2

チリ・アタカマ砂漠、標高5,640mの地点に建設されたminiTAO1m望遠鏡。

図1(上):望遠鏡施設の概観。右にあるドームの中に望遠鏡が入っている。 拡大画像

図2(下):1m望遠鏡と近赤外線カメラ。黒い部分が望遠鏡本体で、赤い円環の下、銀色の部分が赤外線カメラ。 拡大画像

図3 図4

miniTAO1m望遠鏡で撮影された天の川銀河中心。写真中央右寄りに写っているのが天の川銀河の中心であり、銀河中心星団と呼ばれる星の大集団が見られる。その中央には超巨大ブラックホールがあるとされている。

図3(上):疑似カラー合成の天の川銀河中心方向。赤がPaα(波長1.89ミクロン)および波長2.07ミクロンの光、緑が波長1.87ミクロン、青が波長1.91ミクロンの光に対応。淡く光ったところは赤くみえるが、これはPaα輝線でだけ輝いているため。 拡大画像

図4(下):同じ絵に天の川銀河中心と天の川銀河に沿った方向を書きいれた物。 拡大画像

世界最高地点に建設されたアタカマ1m望遠鏡によって銀河中心部の水素が出す赤外線を地上からは世界ではじめて観測することに成功した。これによって新しい観測の窓を開くことができた。

発表内容

東京大学を中心としたTAO研究グループ(代表:吉井讓 東京大学教授)は チリ共和国アタカマにあるチャナントール山に口径1mの赤外線望遠鏡(miniTAO望遠鏡)を建設しました。チャナントール山は標高が5,640mあり、世界の望遠鏡の中でも最も高い地点に設置された赤外線望遠鏡です。高い標高のおかげで地球大気、とくに水蒸気の影響が格段に弱まり、今まで大気吸収によって見えなかった赤外線波長も観測可能になります。またこの望遠鏡は口径6.5mの大型赤外線望遠鏡計画(TAO計画)の先行計画という意味合いも持っています。

1m望遠鏡は2009年3月に可視光線による初観測に成功したのち、調整整備を続けていましたが、今回初めて赤外線カメラを搭載し、科学的観測をスタートさせました。このカメラは波長1-2.5ミクロンの赤外線に高い感度を持っており、特に波長1.875ミクロンにある水素からのPaα(パッシェンアルファ)輝線の撮影に最適化されたカメラです。Paα輝線は強度が非常に強く、また銀河内に漂う星間塵(せいかんじん)による散乱吸収の影響を受けないため、遠くまで見通す事ができます。このようにPaα輝線は宇宙を知るために非常に有用な手段なのですが、同じ波長に地球大気の吸収があるため、地上からは全く見えませんでした。しかし世界最高標高の望遠鏡であるminiTAO望遠鏡はこの波長をも観測することができます。

近赤外線カメラによるPaα輝線の観測は2009年6月9日に行われ、銀河中心部のPaα輝線画像の取得に成功しました。これは地上からの Paα輝線の地上観測としては世界で初めての例です。得られた画像は非常に興味深いものでした。広がったPaα輝線の空間分布は 基本的には電波などで見える構造によく対応しており、ここでは水素ガスが電離した状態にあることを 明瞭に示しています。しかし一部の構造は電波で見えているにもかかわらず Paα輝線では見られません。このことは銀河中心で見られる構造に、いくつかの種類があることを示しています。このような比較は銀河中心で起きている現象を正しく理解する上で欠くことができないものです。

今後我々のグループではPaα輝線による天の川領域の広域観測を進める計画です。星間塵の影響を受けにくいPaα輝線を用いることで、これまで隠されて見えなかった領域にある水素ガスまで見通すことができるようになります。この観測によって電離した水素ガスの分布を明らかにし、中心領域を含めた天の川銀河の本当の姿が明らかにできるものと期待されます。また、他の銀河でも同様の観測を行うことで、いろいろな銀河の中心領域で起きている現象を明らかにしていきたいと思います。

詳しくはTAOプロジェクトのウェブページをご覧ください。 » TAOプロジェクト