2009/1/26

西太平洋下のマントル最深部まで沈み込んだ玄武岩質地殻

- 地震波形インバージョンからの証拠 -

発表者

  • 河合 研志(東京工業大学大学院理工学研究科 流動機構研究員;東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻 客員共同研究員)
  • ロバート・ゲラー(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻 教授)

概要

私たちの立っている地殻の下には、地球の全体積の8割を超える、岩石で構成されているマントル、そしてさらにその下には金属で構成されるコアがある。マントルは長い年月をかけて対流しており、その最下部数百km厚さの領域(D″層領域、「ディー・ダブル・プライム」領域)は地球の物理的・化学的進化を考える上で重要である。これまで地震波を用いて地震波速度の地域的分布を推定することによって、地球内部の状態(温度や組成の分布)についての情報を得てきた。従来の研究によって、西太平洋下でのマントル最下部における大規模なS波の伝播が遅くなる領域(以後、低速度領域と呼ぶ)の存在が示唆されたが、その成因については議論の的であった。

本研究では、私たちのグループによって独自に開発を行った「波形インバージョン」と呼ばれる最新のデータ解析手法を用いて、西太平洋下の低速度領域の構造推定を行った。その結果、他の地域でのD″領域構造と異なる、S波速度の「S字型」深さ依存性のモデルが得られた。これは、西太平洋のD″領域での玄武岩質地殻の存在を示唆しており、地球浅部から対流によって最下部まで運ばれることも示唆する。

発表内容

図1

図1:今回の解析に用いた震源(赤い星印)と観測点(青い三角印)。震源群と観測点群を結ぶ曲線は、地震波の伝播する経路(波線)を示しており、途中の赤い部分(西太平洋下)で地震波がD"領域を通過している。本解析では、主に防災科学技術研究所のF-netのデータを利用した。

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図2

図2:標準的地球モデル(PREM)と本研究で得られた最下部マントルの平均速度モデル(PREM')および最終モデル(MODEL)を示す。得られた最終モデルの深さ依存性は「S字型」をしており、深さ2700 km付近の顕著な低速度域は、鉱物物理学の見地から玄武岩組成(SiO2のCaCl2型からα- PbO2型へ、ペロブスカイト相からポストペロブスカイト相へ)の相転移によるものであると解釈できる。一方、深さ2800 km付近の顕著な速度増はマントルの平均組成(玄武岩組成以外の部分のマントル組成)のペロブスカイト相からポストペロブスカイト相への相転移によるものであると解釈できる。

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岩石で構成されるマントルは長い年月をかけて対流している。対流によって、プレートの生成や沈み込みが起き、生成時にマントル組成から作られる玄武岩質地殻は地球深部へと沈み込む。マントルは構成鉱物相の違いから上部と下部にわかれており、その境界が対流の様式にどの程度影響を与えるかは議論が絶えない。同位体分析に基づく地球化学的な見地から上部と下部に分かれた対流、一方で流体力学に基づく地球物理学的な見地からマントル全体の対流、さらにその中間ともいえる間欠的な対流が提案されている。そのため、沈み込んだ玄武岩質地殻の行方はマントルの対流様式および地球の進化を知る上での重要な手がかりとなる。これら玄武岩質地殻や対流様式について、今回私たちは地震波の解析から新事実を得た。

D″領域はマントル対流の境界層で、そのため、そこでは温度の不均質や組成の分化の可能性が示唆されている。従来の地震波の解析によって、太平洋とアフリカの下のD″領域には大規模なS波の低速度領域の存在が示唆されていた。しかし、その成因について、温度によるものなのか、組成によるものなのか、それともその両者によるものであるかは、従来の地震波解析では空間分解能(特に垂直方向に対して)が不十分で、未解決であった。そこで、本研究で私たちは、独自に開発を行った最新の地震波形解析手法の「波形インバージョン」を用いて(図1参照)、西太平洋下のD″領域内部の詳細な地震波速度構造の推定をおこない、それに成功した。その結果、S波速度の「S字型」の深さ依存性速度構造モデル(図2参照)が得られた。このモデルの深さ2700 km付近の顕著な低速度域は、鉱物物理学の見地から玄武岩組成(SiO2のCaCl2型からα- PbO2型へ、ペロブスカイト相からポストペロブスカイト相へ)の相転移によるものであると解釈できる。一方、深さ2800 km付近の顕著な速度増はマントルの平均組成(玄武岩組成以外の部分のマントル組成)のペロブスカイト相からポストペロブスカイト相への相転移によるものであると解釈できる。このことは、玄武岩質地殻がD″領域まで沈み込んでいることを示すとともに、それを運ぶマントル全体の対流の存在を示唆する。

発表雑誌

雑誌:
Elsevier社のEarth and Planetary Science Letters(2009年1月20日WEBで公表された)
引用情報:
Konishi, K., K. Kawai,, R. J. Geller, and N. Fuji (2009), MORB in the lowermost mantle beneath the western Pacific: Evidence from waveform inversion, Earth and Planetary Science Letters, in press.