2008/9/24

水中でインジウム金属が触媒機能を発現

- 環境調和・省資源を指向した新技術 -

発表者

  • 小林 修(東京大学大学院理学系研究科化学専攻 教授/科学技術振興機構 ERATO小林高機能性反応場プロジェクト 研究総括)

概要

JST基礎研究事業の一環として、東京大学大学院理学系研究科の小林修教授らは、インジウム金属が水中において炭素-炭素結合生成反応の触媒として機能することを発見しました。

水のみを溶媒として用いる炭素-炭素結合生成反応は、環境にやさしい反応手法として近年活発に研究開発が行われています。これらの反応では水中で分解することなく安定に機能する触媒の存在が重要であり、本研究グループではこのような水の中で機能するルイス酸触媒(注1)をすでに数多く見いだしてきました。その結果、さまざまな水中でのルイス酸触媒反応の開発することができ、また触媒的不斉合成(注2)のような精密な反応制御を必要とする有機合成も水中で行うことができるようになりました。しかし、これまで用いてきた水中での触媒はいずれも金属塩で、単体の金属をそのまま使用するのは困難でした。

インジウムは半導体の成分や液晶ディスプレイの電極などに用いられるレアメタル(注3)で、単体であるインジウム金属=In(0)=は無毒なうえ水の中においても安定ですが、炭素-炭素結合生成反応においては量論量(注4)反応にのみ用いられ、触媒量(注5)で用いられた例はありませんでした。インジウムは世界的に生産量が限られており、省資源やコスト面から有機合成においては触媒量での使用が望ましいと言えます。

本研究グループは今回、種々のインジウム触媒について検討を行った結果、単体のインジウム金属が水中において触媒量で機能し、重要な炭素-炭素結合生成反応であるケトンのアリル化反応を効率的に進行させることと、使用したインジウム金属が反応後の回収・再使用が可能であることを明らかにしました。また、インジウム金属触媒が触媒的不斉合成にも展開できる可能性があることも分かりました。この成果により、環境にやさしい水中での有機合成において金属単体の触媒としての活用という新たな領域が開かれ、今後、省資源を指向したレアメタルの触媒技術の確立につながると考えられます。

本研究成果は、米国化学会誌「Journal of the American Chemical Society」のオンライン速報版で近日中に公開されます。

詳細についてJSTのホームページをご覧ください。

用語解説

ルイス酸触媒
反応分子の構造に含まれる酸素や窒素などの原子から電子を受け取ることにより触媒作用を示す触媒。 
触媒的不斉合成
少ない量の不斉触媒を用いて生成物の一方の鏡像体を多く得る合成手法。不斉とは、鏡に映した像が元の像と重なり合わない性質(右手と左手の関係)。 
レアメタル
希少な金属。電子材料や機能性材料に用いられることが多いが、近年の需要の増加で価格の高騰が起きているものが多い。 
量論量
原料の分子と同数の分子の触媒を必要とする場合、その必要量を(化学)量論量という。 
触媒量
触媒分子数が原料に比べて少量ですむ場合、その量を触媒量という。