タンパク質に人工アミノ酸を組み込む融合酵素の開発に初めて成功
発表者
- 横山 茂之(東京大学大学院理学系研究科生物化学専攻 教授/理化学研究所生命分子システム基盤研究領域 領域長)
- 坂本 健作(理化学研究所生命分子システム基盤研究領 拡張遺伝暗号システム研究チーム チームリーダー)
- 大木 健二(東京大学大学院理学系研究科生物化学専攻 修士課程修了/理化学研究所研修生(2008年3月まで))
概要
独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)と国立大学法人東京大学(小宮山宏総長)は、人工アミノ酸をタンパク質に正確に組み込む働きをする新規融合酵素の開発に成功しました。これは、理研生命分子システム基盤研究領域の横山茂之領域長(東京大学大学院理学系研究科生物化学専攻 教授)、同研究領域 拡張遺伝暗号システム研究チームの坂本健作チームリーダー、および大木健二研修生(東京大学大学院修士課程)らの成果です。
タンパク質は、生き物の体を作るだけでなく、酵素として代謝を制御し、DNAやRNAから遺伝情報を引き出すなど多彩な機能を発揮しています。このようなタンパク質の機能をさまざまな用途に役立てるため、タンパク質を自由にデザインし、新しいタンパク質を作り出すための研究が進んでいます。特に、自然界に存在しない人工アミノ酸を組み込んだタンパク質は、人為的に多様な機能を持たせることができるため、その技術開発が注目されています。研究チームはこれまでに、人工アミノ酸「ヨード・チロシン」を組み込んだタンパク質の合成に成功しています。しかし、タンパク質合成の際に、天然アミノ酸と人工アミノ酸を正確に識別できる酵素の開発には至っていませんでした。
タンパク質合成にかかわる酵素は、生命現象の根幹に関わる遺伝情報の発現に関与しているため、改変することがきわめて難しい酵素です。また、多くの場合、1つのまとまった構造をとっているタンパク質は、その部分を取り換えたり、ほかのタンパク質の一部を取り入れたりすると、タンパク質の立体構造が壊れてしまうことが知られています。今回、研究チームは、異なる生物種の酵素から「校正」機能部位を取り出して、人工アミノ酸を認識する酵素と融合することで、ヨード・チロシンを選択的に組み込むことが可能な新規酵素の開発を実現しました。タンパク質の結晶構造の知見を利用し、2種類のタンパク質由来の機能部位が協調して働く酵素を創り出したのは、世界で初めてのことです。
このような融合酵素を活用すると、通常のタンパク質に人工アミノ酸を容易に組み込むことが可能になります。真核生物のタンパク質合成系に加えることで、人工アミノ酸を組み込んださまざまな新種タンパク質を大量に作り出すことができ、これら新種タンパク質は、効果の高い医薬品や、性質が飛躍的に向上した工業用酵素やバイオ素材として役立つことが期待されています。
本研究成果は、わが国で推進している「ターゲットタンパク研究プログラム」の一環として行われたもので、米国の科学雑誌『Proceedings of the National Academy of Sciences』8月18日の週にオンライン掲載されます。
詳細については理化学研究所のホームページをご覧ください。