屋久杉を使って1100年前の太陽活動の復元に成功
発表者
- 宮原 ひろ子(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻 日本学術振興会特別研究員(PD))
- 横山 祐典(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻 講師)
- 増田 公明(名古屋大学太陽地球環境研究所 准教授)
概要
東京大学大学院理学系研究科の宮原ひろ子日本学術振興会特別研究員と横山祐典講師は、名古屋大学太陽地球環境研究所のグループとともに、屋久杉の分析により今から約1100年前の太陽活動の変動を復元することに成功しました。その結果、気候が暖かかった中世においては太陽の活動が非常に活発であったことが判明しました。一方で、現代における太陽活動度はある程度活発なレベルに分類されるが約1100年前の中世初期ほどではないこともわかりました。このことは、現代の急激な温暖化が、活発な太陽活動のみでは説明できないほど深刻に進行していることを示唆しており、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第4次評価報告にあるように、現在の温暖化は人為起源の温暖化ガスによるところが大きいことを支持する結果となっています。
発表内容

図4:屋久杉年輪に含まれる炭素14量の分析により復元された9~10世紀の太陽活動周期。現代よりも約2年短い約9年の変動周期が発見された。このことから、当時太陽活動が非常に活発化していたことが示唆される。

図5:過去1300年間における気候変動のパターン。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第4次評価報告よりの図を加筆修正。現代では、太陽活動が非常に活発であった中世以上に温暖化が進行している。
太陽の活動度は十数年から数千年におよぶ様々な時間スケールでダイナミックに変化していることが知られています(図1)。その変化は気候変動にも影響している可能性があり、例えば15世紀~19世紀頃に起こった小氷期はちょうど太陽活動が非常に低下していた時期と同期しています。また、中世の温暖期や現代においては太陽活動が比較的活発であることも多くの研究者によって指摘されており、現在の温暖化には人為起源の温暖化ガスだけではなく太陽活動の活発化が影響しているのではないかとする説も報告されていました。しかしながら、これまで太陽活動の長期的な変化を定量的に評価することは非常に難しく、太陽活動の歴史における現在の太陽活動度の位置づけについてはまったく合意が得られず、現在の温暖化にどれだけ具体的に影響しているのかも明らかになっていませんでした。
太陽活動周期が標準的には約11年なのはよく知られていますが、活動度がより高いと、この周期が短くなることに、わたしたち研究チームは着目しました。太陽活動度の変化に応じて濃度が変化する樹木年輪中の炭素同位体(炭素14(注1))の分析により太陽周期の伸縮を調べ、太陽活動の歴史を調べてきました(図2)。樹木としては屋久杉を使いました(図3)。その結果、約1100年前の中世の温暖期と呼ばれる時期においては、標準約11年の周期が約9年に短縮していたことが明らかになりました(図4)。このことは、活動度が約11年の現在よりも中世のほうが太陽活動が活発であったことを意味しています。
いっぽう、樹木年輪の成長率の変化を指標とする手法によって復元されている中世の気候は、15世紀~19世紀頃の小氷期に比べると非常に温暖です。わたしたちが発見した、中世温暖期(注2)の活発な太陽活動はこの温暖な気候との相関を示唆しています。実は現在の太陽活動も比較的活発で、もしかしたら温暖化になんらかの影響があるかもしれません。しかし実際は、中世温暖期と現代の太陽活動とを比べると、現代の気候はその影響で説明できる以上に温暖化しているようです。人為起源の温暖化ガスの影響によって、気温が自然のサイクルでは説明できないほどに上昇していることを示しています(図5)。この結果は、昨年発表されたIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第4次評価報告の内容を支持するものとなっています。
研究チームはさらに、炭素14によって復元された小氷期と温暖期における太陽の状態の変化と気温変動を比較し、太陽が気候を左右するメカニズムを探りました。その結果、地球の気温変動が、日射量の変動よりも太陽の磁場の状態変動に大きく依存していることを発見しました(図2)。太陽の磁場は、雲の形成に作用する可能性がある宇宙からの高エネルギー粒子(宇宙線(注3))を遮蔽する力を持っていることが知られています。本来の気候が持つサイクルを理解する上では、太陽磁場の振る舞いを理解することが非常に重要であるということが示唆されました。
用語解説
- 炭素14
- 宇宙線と大気原子核との相互作用によって生成される炭素の同位元素(質量数14)。放射性の核種でありその半減期は約5730年。↑
- 中世温暖期
- 310世紀から13世紀頃にかけて気候が温暖であった時期。北半球の平均気温が小氷期の頃と比べて約1℃高かったとされる。↑
- 宇宙線
- 宇宙を飛びかう高エネルギーの粒子。その多くは陽子である。太陽活動度が活発なほど、宇宙線は太陽圏内(注4)に侵入しにくくなり、地上での観測量が減少する。↑
- 太陽圏
- 太陽から噴き出している磁場とプラズマ(太陽風)の広がり。太陽地球間の距離の約90倍の範囲に広がっている。↑
発表雑誌
- 雑誌名:
- Earth and Planetary Science Letters(2008年7月中旬出版予定)
- 著者:
- Hiroko Miyahara, Yusuke Yokoyama and Kimiaki Masuda
- タイトル:
- Possible link between multi-decadal climate cycles and periodic reversals of solar magnetic field polarity