超新星は丸くない
発表者
- 前田 啓一(東京大学数物連携宇宙研究機構 特任助教)
- 田中 雅臣(東京大学大学院理学系研究科天文学専攻 日本学術振興会特別研究員(DC1))
- 野本 憲一(東京大学大学院理学系研究科天文学専攻 教授、東京大学数物連携宇宙研究機構 主任研究員)
概要
東京大学数物連携宇宙研究機構(IPMU)の前田啓一特任助教、広島大学宇宙科学センターの川端弘治助教、東京大学大学院理学系研究科(天文学専攻)の田中雅臣大学院生・日本学術振興会特別研究員と、野本憲一教授(IMPU主任研究員)らを中心とする研究グループは、すばる望遠鏡を用いた観測による研究結果を米国科学学術誌Scienceに発表しました。
星はその一生の最期に超新星爆発を起こすことが知られていますが、その爆発のしくみは謎につつまれています。研究グループはすばる望遠鏡を用いて、多数の超新星爆発のスペクトル撮影を行いました。その数はこれまでの観測量を圧倒的に上回るものです。グループは観測されたスペクトルと理論予測を照らし合わせることで、「超新星は丸くない」という結果を得ました。この結果は、 現代天文学における大きな謎である超新星爆発のしくみに迫る初の観測的結果であり、今後の超新星研究と、そして密接に関係したガンマ線バーストの研究に大きな影響を与えることが期待されます。
この成果は2008年1月31日付の米国科学誌 Science (オンライン版)に掲載されました。
発表内容

図1:“絞った”爆発の様子。絞った方向では鉄などの重い元素が合成されるため、酸素(爆発する前の星の中心にあったもの)を豊富に含んだ物質は赤道方向にドーナツ状に放出されます。観測者が右側にいる場合、図中で中心より右側に放出される酸素は観測者に向かっているため、放たれる光の波長が短く(青く)なり、左側に放出される酸素は観測者から遠ざかっているため、放たれる光の波長が長く(赤く)なります。

図2:酸素の輝線の理論予測と実際の観測例。理論モデルから、超新星が丸い場合とそうでない場合では、観測される酸素輝線のスペクトルに違いが現れると予測されます。丸い爆発では、星でつくられた酸素は内側から球殻上に放出され、どの方向から見ても「ひと山」の酸素輝線が検出されます。これに対し、絞った爆発では、酸素を豊富に含んだ物質は赤道方向にドーナツ状に放出されます(図1)。この場合、酸素の放つ光を観測すると、絞った方向から見た場合は「ひと山」の輝線として観測されます(左上のパネル)が、横から見た場合は「ふた山」の輝線が検出されます(左下のパネル)。これは、ドーナツ状に広がる物質の観測者に向かってくる側と遠ざかる側から放出された光がそれぞれ短波長、長波長にドップラー効果で色が変わるためです。すばる望遠鏡によるスペクトル撮影により、絞った方向・横から見た場合の理論予測に見事に対応する輝線が実際に発見されました。

図3:すばる望遠鏡によって撮像した後期(爆発後約200日以上経った段階)での超新星の画像。うずまき銀河は個々の超新星が属している母銀河で、その中の黄線が交わる位置に、超新星が点状に写っています。これにSN 2002apを加えた計15個の超新星に対して分光観測を行いました。
太陽の約10倍以上の質量を持つ大質量星(重量星)は、その生涯の最後に超新星爆発という大爆発を起こすことが知られていますが、その爆発の仕組みはまだわかっておらず、現代天文学での重要な未解決問題のひとつとされています。大質量星はその生涯の最後に中心に向かってつぶれ(重力崩壊し)、中性子星あるいはブラックホールを作ります。しかし、重力崩壊を起こした星がいかに爆発を起こすかがわかっていないのです。この問題について、数値計算を用いた理論研究からいくつかの可能性が提案されています。理論研究によると、爆発が花火のように丸くなく、星の回転や磁場の存在、あるいは爆発からくる波の最前線が揺れ動く運動などの影響で、左右を向いた大砲のような絞った爆発が起こることが予想されています。
超新星として光っているのは、爆発によって飛び散った高温ガスの残骸です。超新星は銀河系外の数千万光年という遠方で起こるため、その形を直接見ることはできません。前田啓一特任助教らは爆発が丸くない場合に、超新星のスペクトル(色ごとの光の強さ)がどのようになるか、理論計算で調べました。その結果、爆発後200日以上経過した後で超新星のスペクトルを観測すると、丸い爆発と絞った爆発を区別することができると予言しました(図1、2)。
研究チームは、すばる望遠鏡を用いて、爆発から200日以上経った15個の超新星のスペクトルを得ました。爆発から時間がたつと、超新星はとても暗くなり、すばる望遠鏡でも観測には長い時間がかかります。似たような観測は以前にはわずかの天体しか例がありませんでした。飛躍的なデータ数の増加です(図3)。
爆発が丸くない場合でも、天体を見る向きによっては丸い場合と区別がつかない(図1、2の説明)ため、観測天体の数が少ないと、爆発の形について議論することは困難でした。今回の観測の結果、18個の超新星(うち15個はすばるで観測したもの)のうち、はっきりと絞った形を示した超新星が5個、その兆候の見られる超新星が4個ありました。絞った形で爆発した場合も見る向きによっては丸く見えることを考えると、この結果は「すべての超新星が絞った形の爆発をしている」ことを示しており、超新星が一般に絞った爆発であることの世界初の観測的な証明となります。
今回の研究成果により、近年提案されている丸くない爆発という理論が実際の超新星爆発の仕組みの有力な候補であることが観測的に確認されました。一方、平均的な超新星は、通常よりも激しい爆発である極超新星とそれに伴うガンマ線バーストよりも丸くない程度が小さい(球対称に近い)ということまで確認できました。これは、極超新星と通常の超新星とでは爆発の仕組みが違うことを示唆します。今後は、各理論と観測結果をより詳細につき合わせていって、爆発の仕組みをより良く理解することが目標になります。
論文情報
- 論文タイトル:
- Asphericity in Supernova Explosions from Late-Time Spectroscopy
- 著者:
- Keiichi Maeda, Koji Kawabata, Paolo A. Mazzali, Masaomi Tanaka, Stefano Valenti, Ken’ichi Nomoto, Takashi Hattori et al. (全18名)
- Science Express(オンライン版)2008年1月31日号