2007/1/31

二酸化炭素の分子振動をものさしにして岩石の深さ起源を知る

発表者

  • 鍵 裕之(東京大学大学院理学系研究科附属地殻化学実験施設 助教授)
  • 川上 曜子(東京大学大学院理学系研究科化学専攻 元大学院生)
  • 山本 順司(京都大学大学院理学研究科地球熱学研究施設 助手)

概要

二酸化炭素(CO2)の分子振動がその密度に依存する性質を利用して、岩石の中に含まれる二酸化炭素を主成分とする微小な流体包有物から、その岩石の深さ起源を求める方法を確立した。

解説

図1

図1:隠岐島後の位置を示す地図

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図2

図2:マントル捕獲岩の写真。横幅約4cm。構成鉱物を見やすくするため岩石表面を鏡面研磨してある。

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図3

図3:マントル構成鉱物に包有されている様々な流体。写真の横幅はおよそ200ミクロン。球状の流体は液体二酸化炭素

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図4

図4:地球内部の断面図。地球深部を起源とするマグマが地殻やマントル上部の岩石のかけらを運び上げてくる。

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地球深部からもたらされた鉱物にCO2の流体包有物が取り込まれて地表に上昇すると、包有物とそれを包みこむ周囲の鉱物とは圧縮率や熱膨張係数が異なるため、流体包有物には数百気圧以上の圧力が残されている。我々はCO2の分子振動の周波数が圧力すなわち密度とともに変化する性質に着目し、包有物にレーザー光を集光して分子の振動数を計測し、CO2流体の残留圧力を求めた。

今回我々が研究対象としたのは、島根県隠岐島後(図1)で採集されたアルカリ玄武岩に含まれる捕獲岩(注1)である(図2)。採集された岩石を数十ミクロンほどの薄さまで研磨すると、液体CO2が数ミクロン径の包有物を観察することができる(図3)。顕微ラマン分光法(注2)によってCO2の残留圧力を様々な岩石種ごとに系統的に調べたところ、地球の最も表層に相当する地殻起源の岩石に含まれるCO2の密度は、より深いマントル起源の岩石に含まれるものよりも低い、と言う予想通りの結果がまず得られた(図4)。しかし、グラニュライトと呼ばれる地殻下部起源の岩石のCO2の密度からその深さを求めると27-30kmの範囲であったのに対し、マントル上部起源とされるスピネルレルゾライトに含まれるCO2からその深さを求めると25-29kmとなり、地殻の岩石とマントルの岩石とで深さにオーバーラップがあることがわかった。このオーバーラップが隠岐島後の地殻-マントル境界に相当し、深さ27-29kmにあることが今回の研究で明らかになった。地殻とマントルの境界はモホ面と呼ばれ、コアーマントル境界とともに地球内部の最も顕著な物質境界である。今回得られた値(27-29km)は、アルカリ玄武岩が噴出した数百万年前の時代のモホ面の深さを現している。隠岐島後付近の現在のモホ面は、地震学的な観測によって27kmとわかっている。この両者の一致は何を意味するのであろうか? 日本海はおよそ1500万年前頃から激しいマグマ活動とともに形成されたと考えられている。しかし、モホ面深度が数百万年前から現在に至るまでほとんど変化しなかったという事実は、日本海が短時日のうちに形成されたことを物語っている。本研究は岩石を丹念に観察することによって、大掛かりな掘削技術に頼らずとも地球深部の構造がわかるという珍しい例である。

本研究は当研究室出身で、現在は京都大学大学院理学研究科地球熱学研究施設に勤務する山本順司博士らとの共同研究である。

用語解説

捕獲岩:
地殻下部やマントルを構成する岩石が地球深部から上昇するマグマに運び上げられたもの
顕微ラマン分光法:
1ミクロンほどの微小な領域にレーザーを入射し、散乱される光の波長成分を解析することで分子の振動を解析する手法

論文情報

Junji Yamamoto, Hiroyuki Kagi, Yoko Kawakami, Naoto Hirano, Masaki Nakamura
“Paleo-Moho depth determined from the pressure of CO2 fluid inclusions: Raman spectroscopic barometry ofmantle- and crust-derived rocks”
Earth and Planetary Science Letters, 253, 369-377.