2007/10/25

150GHz(ギガヘルツ)を超えるミリ波吸収磁性材料の開発に成功

発表者

  • 大越 慎一(東京大学大学院理学系研究科化学専攻 教授)

概要

東京大学の大越慎一教授(東京大学大学院理学系研究科化学専攻)ら研究グループは、30GHzから150GHz帯域におよぶ高い周波数のミリ波を吸収する磁性材料の開発に成功したと発表した。これまでの磁性体では80GHz程度が限界であり、この新材料は電磁波吸収材料として画期的な発明である。

この研究は、大越慎一教授(東京大学大学院理学系研究科化学専攻)とDOWAエレクトロニクス株式会社(杉山文利社長)との共同研究で行われた。

発表内容

図1

図1:ε-GaxFe2-xO3のミリ波吸収特性。a) 自由空間法によるミリ波吸収測定の概略図。b) 自由空間法によって測定されたx=0.61(黒), 0.54(赤紫), 0.47(藍), 0.40(緑), 0.35(紫), 0.29(橙), 0.22(赤)の室温における50-110GHzでのミリ波吸収特性。c) (左) 27-40GHzにおけるx=0.67のミリ波吸収特性。 (右) 自作装置によって測定された105-142GHz におけるx=0.22 (赤),0.15 (濃紫),0.10(青)のミリ波吸収特性。x=0.10のスペクトルにおけるピークはローレンツ関数により補外してもとめた(青の点線)。青色の帯は大気の窓(35, 94, 140GHz)を表している。

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図2

図2:ε-GaxFe2-xO3におけるミリ波吸収周波数(fr)と保磁力(Hc)の関係。ミリ波吸収周波数と保磁力は、fr=αHc(αは係数)によって関係づけられる。この関係式より、Hc→20kOe(即ちx→0)においてfrは193±8GHzに達することが示唆される。

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画像情報をはじめとする大容量データ情報を伝送するための次世代方式として、現在、ミリ波(注1)(30~300GHz)を用いた高速無線通信法が大変注目を集めている。特に、室内LANなどのローカルエリアネットワークなどにはミリ波による無線高速通信が期待されている。ここ数年、米国大手電機メーカーなどによりミリ波発生用の安価な相補型金属酸化膜半導体(CMOS)の開発も発表されており、100GHz領域のミリ波の使用が本格化してきている。また、76GHzのミリ波は車間レーダー用途として大手自動車メーカーにより現在研究が行われている。一方、現在、80GHz以上のミリ波を周波数選択的に吸収する材料はほとんどなく、この帯域での電磁波干渉の危険性が危惧されている。

今回、大越教授らは、イプシロン型‐酸化鉄(注2)という特殊なナノ磁性体の鉄イオンの一部をガリウムイオンで置換した、イプシロン型‐ガリウム酸化鉄 (ε -GaxFe2-xO3;0.10 < x < 0.67)ナノ微粒子(粒径が30ナノメートル程度)を化学的に合成し、ガリウム置換量に応じて30GHzから150GHzまでの高い周波数領域でミリ波を有効かつ周波数選択的に吸収することを見出した。また、理論計算によりこの系列の材料では、ガリウム置換量により吸収可能な最大周波数は200GHzまでに達することが示された。このミリ波吸収は、イプシロン型‐ガリウム酸化鉄磁性体がもつ高い保磁力により高い周波数に自然共鳴が現れたことに起因する。

イプシロン型‐ガリウム酸化鉄は、金属酸化物であるため長期間に渡って安定である。電磁波干渉抑制材料として、オフィスや医療室の壁への塗布のほか、車、電車、飛行機の胴体への塗布、また、その選択的な共鳴周波数を用いてミリ波発信機を安定化させるサーキュレーターやアイソレターなどの新規ミリ波用電子デバイスへの応用も期待される。

用語解説

ミリ波:
周波数が30~300GHzの電磁波。ミリ波の中でも、特に、35、94、140GHzのミリ波は、「大気の窓」と呼ばれ、大気中で高い透過性を有しており、レーダー用の電磁波としても知られている。
イプシロン型‐酸化鉄:
(ε-Fe2O3):通常知られているFe2O3は結晶構造が、γ型か α型であるが、大越教授らは、ナノ微粒子合成法を駆使してε-型の単相を合成し、絶縁性磁性体として室温で20kOe(キロエルンステド)という金属酸化物で最大の保磁力を示すことを2004年に初めて報告した。

論文情報

この研究成果は、ドイツ化学雑誌アンゲバンテケミー国際誌(Angewandte Chemie International Edition)のInside Cover(裏表紙)として2007年10月17日に同誌のオンライン版に掲載された。

タイトル:
A Millimeter Wave Absorber Based on Gallium Substituted ε-Iron Oxide Nanomagnets(イプシロン型‐ガリウム酸化鉄からなるミリ波吸吸体)
著者:
Shin-ichi Ohkoshi*, Shiro Kuroki, Shunsuke Sakurai, Kazuyuki Matsumoto, Kimitaka Sato, and Shinya Sasaki