2007/10/5

日本海側の冬の雷雲が40秒間放射した10 MeVガンマ線を初観測

- 冬の雷雲は天然の粒子加速器である証拠をつかむ -

発表者

  • 牧島 一夫(東京大学大学院理学系研究科物理学専攻 教授/理化学研究所中央研究所 主任研究員)
  • 土屋 晴文 (理化学研究所中央研究所牧島宇宙放射線研究室 協力研究員)
  • 榎戸 輝揚(物理学専攻 大学院生/日本学術振興会特別研究員)

概要

新潟県柏崎刈羽原子力発電所の構内で雷活動に伴って自然放射線が増える現象を調査した結果、2007年1月7日の早朝に雷が発生する1分以上前より、上空の雷雲から10 MeV(メガ電子ボルト)(注1)のエネルギーをもったガンマ線(注2)が40秒間にわたり放射される様子を観察することに成功しました。これは、理研中央研究所(芽幸二所長)牧島宇宙放射線研究室の土屋晴文協力研究員、牧島一夫主任研究員(東京大学教授)らと東大大学院理学系研究科物理学専攻の榎戸輝揚大学院生・日本学術振興会特別研究員を中心とするグループによる成果です。

降雨の際に、環境放射線が長時間にわたって増えることはよく知られています。さらに近年、日本海側で冬季雷の頻発する時期に、沿岸の原子力発電所構内に設置している放射線監視装置が、降雨の影響とは違う要因で放射線が短時間、増加する兆候を観測していました。しかし、その詳細は定かではありませんでした。研究グループは、従来の装置に比べ放射線への感度が高く、飛来する放射線の種類や方向、エネルギーがわかる新型の装置を開発し、この装置に周囲の光・音・電場(注3)も同時に測定できる機能を加え、2006年12月22日より観測を始めました。その結果、この冬一番という強い低気圧が発達した2007年1月7日の午前6時43分ごろ、40秒間にわたる放射線量の増加を観測し、それが落雷の70秒ほど前より雷雲から放射されたガンマ線によるものと突き止めました。このガンマ線は、雷雲中のマイナスの電気を帯びた電子が、雷雲の下部にあるプラスの電気の層に引き寄せられ、ほぼ光の速さにまで加速し、制動放射(注4)というメカニズムで発生すると結論づけました。

今回のように雷雲から放射されたガンマ線を観測したのは、世界でも稀です。この結果は、雷などによる放射線の増加現象の解明に貢献するだけでなく、いまだ謎が多い雷の発生メカニズムの解明や宇宙での粒子加速の仕組みの理解にも役立つと期待されます。

本研究成果は、アメリカの科学雑誌『Physical Review Letters』(10月19日号)のオンライン版(10月18日付け:日本時間10月19日)に掲載されます。

発表内容

図1

図1:装置の説明と今回の現象の概念図

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図2

図2:放射線検出装置の構成

(a) 板型BGO無機シンチレータを井戸型に組み上げ、接着している様子

(b) 組み上がった井戸型BGO無機シンチレータ・シールド部分に、光を効率よく集めるためのライトガイドを介して、電気信号に変換し増幅する光電子増倍管を取り付けた

(c) BGO 無機シンチレータ内の光を反射させる白いシートで覆い、緩衝用ゴムを巻く

(d) 完成した2台の井戸型BGOシンチレーション検出器。太陽光や蛍光灯などの光が入るのを防ぐため、暗幕(黒シート)で覆われている

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図3

図3:2007年1月7日の1日の間に得られた放射線の変動

横軸:日本時間

縦軸:放射線検出器で得られたカウント(放射線量に対応)

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図4

図4:2007年1月7日の午前6時40分から6時50分の間の放射線の時間変動と、光および電場測定器で得られた周囲の光と電場の時間変化の様子

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1.背景

地球には、宇宙線という、おもに陽子からなる電気を帯びた高エネルギー粒子が、宇宙から常時、大量に降り注いでいます。しかし、この宇宙線がどこで、どのようなメカニズムで作られているのかについては、その発見から100年近く経た現在でもまだ完全には理解されていません。研究グループは、宇宙線がどのようにして、地上の加速器ではいまだ成し得ないほどの高いエネルギーに加速されているのか、という加速メカニズムの問題に焦点を当て、ここ10年ほどX線天文衛星や地上の宇宙線観測装置を用い、研究を続けています。こうした中で、近年、衛星や地上の観測装置により、宇宙からではなく地球の雷由来と思われる高エネルギー放射線が観測されるようになりました。このことから、身近な雷が、粒子を高エネルギーに加速できる自然の加速器かもしれないと気づき、2006年より今回の研究に着手しました。

研究グループが観測データとしてとくに注目したのが、原子力発電所の構内に設置している、放射線監視モニタのデータです。これらのモニタは、原子炉からの放射線漏れを常に厳しく監視していますが、日本海側の原子力発電所のモニタでは、冬季(11月~1月)に頻発する雷(寒雷、「雪起し」とも呼ばれる)や雷雲の発生にほぼ同期して、大気中の放射線が短い間、普段よりも増えることがたびたび報告されていました。たとえば、独立行政法人日本原子力研究開発機構の鳥居健男主任研究員らのグループは、福井県の高速増殖原型炉“もんじゅ”の放射線監視モニタのデータを調べ、雷を伴う嵐の際に、3 MeV程度の高エネルギー放射線が1分ほど増加していることを、米国の科学雑誌「Journal of Geophysical Research」や日本の地球惑星科学連合学会で発表しています。ただし、こうした放射線監視モニタのデータでは、放射線の種類やその到来方向、放射線のエネルギーなどの詳細を知ることができず、雷由来と思われる放射線の正体は、はっきりしていませんでした。

雷の発生メカニズムは、よくわかっていません。一般的には、雷雲内部や雷雲と地表の間に、大量の静電気が発生して、非常に高い電圧がかかるために、空気という電流をほとんど通さない絶縁体が破壊され、雷雲と地面がいわば電気回路のショート(短路)状態になった時に雷が生じるとされています。そのため雷や雷雲の中では必然的に大きな電流が発生し、マイナスの電気を帯びた電子が動いています。電子が外部から力を受け、加速あるいは減速されると、電子のエネルギーに応じてX線やガンマ線が発生します。生じたX線やガンマ線は、親である電子よりもずっと大気中を透過しやすいので、研究グループは、鳥居主任研究員らの報告した放射線の正体が、こうしたX線やガンマ線であろうと考えるようになりました。

2.研究手法

研究グループは、この説を確かめるため、新たに観測装置を開発し、新潟県の柏崎刈羽原子力発電所構内の建物屋上に、発電所の協力を得て設置し、2006年12月22日から観測を開始しました。柏崎刈羽原子力発電所を選択した理由は、雷の放射線データを蓄積していた福井県の“もんじゅ”と同様に日本海側にあり、冬の雷活動の際に自然放射線が短時間、増える現象がここでも観測され、さらに構内の放射線監視モニタと研究グループの装置との同時観測が可能、という好条件が整うメリットがあるためです。

研究グループの装置は、独立で相補的な2台の検出器で構成しました。一方は東大が中心となり、もう一方は理研が中心となって開発しました。東大側の検出器は指向性があり、低いエネルギー(40 keV)から中間エネルギー(3 MeV)までを観測するのに対し、理研側の検出器は、指向性はないものの低いエネルギー(40 keV)から非常に高いエネルギー(80 MeV)までを観測することができます(図1)。2台の検出器は、基本的な機能を共有し、それぞれ、独自の機能も搭載しました。

観測では、落雷の影響で発生する強い電気的ノイズを、本物の放射線の増加と見誤るおそれがあります。そこで、それぞれに電気的ノイズを減らす工夫をすることはもちろん、2台で同時に観測することで、ノイズ由来の擬似的な現象を本物と誤認することを極力、防ぎました。また、仮に1台が何らかの理由で本物の放射線の増加を取り逃がしたとしても、もう1台でそれをカバーできる利点もあるため、2台の検出器を設置しました。

いずれの検出器も、X線やガンマ線の観測で一般的に使っている、無機シンチレータ(注5)と光電子増倍管(注6)を組み合わせたシンチレーション検出器です。それぞれの検出器は、2台のシンチレーション検出器を備えています(図1)。さらに、日本のX線天文衛星「すざく」に搭載された硬X線検出器の概念をもとに、放射線の来た方向と種類を判別できるようにしました(図1、図2)。

本研究では、ただ単に放射線の計測だけでなく、雷や雷雲の通過により周囲の光・音・電場がどのように変化するかも、同時に知る必要があるため、東大の大学院生らが半導体素子などで独自に製作した光・音の観測装置や商用の電場測定器も組み込みました(図1)。

装置は、冬季の間ずっと、無人で大きな問題もなく稼動しました。データはハードディスクに記録し、冬季の間は1、2ヶ月に一度、実際に現地に赴き回収していました。

3.研究成果

2007年1月7日未明から、この冬一番の低気圧が発達し、全国的に荒れ模様の天気でした。日本海側でも雷を伴う激しい嵐が発生していました。そんな中、関東近辺でスプライト(注7)やエルブス(注8)という雷雲からの発光現象を撮影しているアマチュア観測家らが、新潟県沖を含む広い範囲の日本海上空でこれらの発光現象を観測し、話題にしていました。これは、その地域の上空に雷雲が発生していた証拠であり、研究グループの観測には最適な日となることを告げていました。

研究グループがこの日に得たデータ(図3)で、放射線量のカウント数が大きく増減し、大きなうねりをもって変化しているのは、降雨によって放射能を持ったラドン娘核種(注9)が地面に下りている状況を反映しています。このような長い時間変化とは明らかに異なる突発的な増加を、6時43分ごろに観測しました(図3、矢印で示した箇所)。これが、研究グループが発見した雷雲からのガンマ線(注10)によるものです。

X線・ガンマ線検出器では40秒ほど続く顕著な増加があるのに対して(図4(a)、(b))、ガンマ線・粒子分別器では、目に見える増加がありません(図4(c))。これは、検出した放射線がガンマ線であり、電子ではないことを表します。また図4(a)の観測データは、横や下から来るガンマ線をシールドし、上方から飛来するガンマ線のみを集めた観測値です(図1参照)。これにより、ガンマ線が上方から来たことがわかります。

理研の高エネルギー検出器では、この40秒間におよそ60発程度のガンマ線光子を観測し、その中に10 MeVに達するものもありました。さらに、光や電場観測装置のデータ(図4(d)、(e))から、雷が実際に光ったのは、ガンマ線の検出から約70秒後で、その後4回、雷が発生しています。しかし、いずれの雷でも、それらに同期して発生しているような放射線の増加はいっさい見られませんでした。このため、観測したガンマ線は、雷そのものではなく、雷雲と関連したものと言えます。

このように今回の観測では、雷雲からのガンマ線の情報をはじめて詳細に得ただけでなく、ガンマ線と周囲の光や電場との詳細な関係もはじめて同時に得ることができました。その結果、観測したガンマ線は、雷雲中の電子が雷雲の下部にあるプラスの電気のほうへ引き寄せられ、ほぼ光の速さにまで加速された結果、制動放射というメカニズムで作られたと判断しました(図1参照)。

雷雲中では、電子だけではなく、同じく電気を帯びたイオンも力を受け、加速されているはずです。ところが、電子に比べるとイオンはずっと重く加速されにくいので、イオンが制動放射でガンマ線を出すことはありません。軽い電子であれば、観測できるほど十分な量のガンマ線を制動放射で作ります。さらにガンマ線は、電子に比べ、大気中を5倍から10倍以上、ずっと長く進むので、遠方で発生しても地上で観測している装置まで到達できます。今回の観測で、雷雲で加速された電子そのものが検出されず、それが放射したガンマ線を検出できたことは、物理学の見地からも妥当なことといえます。

4.今後の期待

研究グループは、雷雲で10 MeVにおよぶガンマ線が落雷に先立ち、40秒近く生成されたことをはじめて明らかにしました。一方で、放射線の増加は高エネルギー電子などの粒子が雷雲から飛来したからだと主張するグループもあります。したがって、今後も観測データを増やし、雷雲から電子が飛来するような現象があるのか、あるとすればガンマ線が飛来する現象と何が違うのかを調査していかなければなりません。

また、本研究のデータは、雷が起こるきっかけが何であるかを考える上で1つのヒントになります。最近、雷の発生メカニズム理論の1つに、電気を帯びた宇宙線が、雷雲を通り抜けることで雷が始まるのではと予測するものがあります。宇宙線は大気中に常に降り注いでおり、もしこの予測が本当だとすると、今回のような雷に先立つガンマ線の発生が、雷雲の中では頻繁に起こっている可能性があります。

今回のように、ほぼ光の速さで走る電子が制動放射で発生するガンマ線は、サーチライトのように一方向を向いている可能性が高く、たまたまその方向が研究グループの装置を向かって照らしたために検出できたのかもしれません。今後、複数の検出器を広い範囲に配置することで、こうした可能性を明らかにしていきたいと考えています。

興味深いことに、近年、雷は金星や木星という太陽系のほかの惑星でも発生しているとの報告がされています。ただし、それらの雷で、研究グループが観測したようなガンマ線が発生しているのかどうかは定かではありません。そこで、研究グループの装置をさらに高感度にしたものを衛星に搭載することで、こうした他の惑星での雷から、ガンマ線を探査することが期待できます。

研究グループは、以前より太陽を含む遠方天体での粒子加速のメカニズムを知りたいと思い、衛星や地上の観測装置を用いて研究をしてきました。そして、視点を変えて遠くの宇宙を望むのではなく、地球内に目を向けることで、今回の結果を得ました。これにより、私たちの身近にある冬の雷雲が、研究グループが以前より研究対象としていた宇宙の天体と並んで、電子を高いエネルギーにまで加速する天然の粒子加速器であることが判明しました。また、ほかの惑星でもその可能性があります。したがって、地球や太陽系の他の惑星での雷活動時における高エネルギーX線やガンマ線の観測が、宇宙の粒子加速器の謎を解明する貴重なヒントになると考えています。

用語解説

MeV(メガ電子ボルト):
eV(electron voltの略。電子ボルトという)とはエネルギーを表す単位で、MeV(メガ電子ボルト)は1,000,000eVを表す。1eVは、電子を1V(ボルト)の電位差の中に置いたときに電子が得る運動エネルギーで、1.6×10-19J(ジュール)に対応する。光を粒子(光子)の集まりと見ると、赤い光は1光子あたり約1.6eV、青い光は約3.0eVのエネルギーをもつ。
ガンマ線:
X線よりも高いエネルギーをもつ電磁波。一般にエネルギーが数百keV(キロ電子ボルト)程度までをX線、MeV以上になるとガンマ線と呼ぶことが多いが、明確な区分はない。X線1光子あたりのエネルギーは、大まかに可視光の数千倍から数万倍で、ガンマ線では十万倍以上のエネルギーをもつ。
電場:
電場は、電気を帯びた粒子が存在することで発生する基本的な場で、電界ともいう。電場は基本的にはプラスの電気を帯びた粒子からマイナスの電気を帯びた粒子へ向かう方向に発生する。電場の中に置かれた電気を帯びた粒子は、自身の電気の大きさに比例した大きさの力を受ける。また同じ符号の電気を帯びた粒子同士は反発し、異なる符号のもの同士は引きつけあうのも、電場の作用である。
制動放射:
高いエネルギーに加速された電子が、物質中の原子核に近づくとその進行方向が原子核のもつ強い電場により曲げられる。電磁気学から、そのような時には電磁波が発生することが知られ、これを制動放射と呼ぶ。元の電子の運動エネルギーが高いほど、高いエネルギーの電磁波が放射される。ただし放射される電磁波の光子1個がもつエネルギーは、最大で元の電子がもつ運動エネルギーと同じであり、通常はそれよりも低い。医療用のX線写真(レントゲン写真)や空港の手荷物検査で使用されるX線も、このメカニズムを利用した発生装置で作られている。
無機シンチレータ:
内部にX線やガンマ線が入射すると、それらを光電効果などにより吸収・散乱し、その結果、微弱な光を発生させる透明な結晶体。入射したX線やガンマ線のエネルギーに、ほぼ比例した強さの光パルスが発生する。X線やガンマ線の観測では一般的に使われている。私たちが使用している無機シンチレータは、NaI(ヨウ化ナトリウム)、BGO(Be4Ge3O12 ;ビスマスジャーマネイト)、CsI(ヨウ化セシウム)である。
光電子増倍管:
無機シンチレータなどで発生した微弱な光を検出し、電気信号に変換する一種の真空管。有名なものは神岡鉱山でニュートリノ観測実験をしているスーパーカミオカンデで使われている直径50cmのものがある。本研究では浜松フォトニクス社製の直径5cmの円筒形のものを使用。
スプライト:
20年ほど前に発見された雷雲の上空で突然発光する現象。飛行機のパイロットらによるいくつかの目撃証言はあったものの、それが上空に向かう雷放電のようなものと科学的にわかってきたのはここ10年ほどの間。高度数十kmのところに発生点があり、高度が高くなる方向に向けて伸びている。横方向にも数十km程度広がることもある。大気中の窒素分子からの発光が原因で、主に赤色をしている。
エルブス:
雷雲上空で起こる巨大なドーナツ状をした発光現象。スプライトよりも高い高度で発生しており、横方向には100 km 以上に広がることが知られている。
ラドン娘核種:
放射性のラドンは、地殻に含まれるラジウムが元となってできるもので、地表から常に発生しており大気中を浮遊している。ラドンは生成後、4日弱ほどで元の半分が崩壊し、さまざまな放射性物質に変わり、それらをラドン娘核種という。雨が降ると、雨雲や上空の大気にあるラドンやその娘核種が雨に付着して地表に降りて来る。娘核種の中に20分から30分程度でX線やガンマ線を出して崩壊し半減するものがある。このX線やガンマ線のため、降雨の際には地上の観測装置で環境放射線が増える。
雷雲からのガンマ線:
今回の観測は、宇宙観測に使われるような高感度の検出器を用いたおかげで、より微弱なX線やガンマ線まで検出可能になった。図3で検出された増加は一見すると顕著で、大量な放射線が到来したように見えるが、実際には人体への影響はまったく無視できる。例えば、1回の胸部X線で浴びる放射線量は0.05mSV(ミリシーベルト)程度あるが、私たちが観測した40秒間のガンマ線の放射線量はおよそ1×10-9mSVである。これは1回の胸部X線で浴びる放射線量の2億分の1である。