2007/5/7

ゆっくり地震のスケール法則

- 新たな地震の支配法則の発見 -

発表者

  • 井出 哲(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻 講師)

概要

四国西部、南海地震の震源領域のすぐ隣で近年発見された奇妙な現象(低周波微動やスロースリップ等)は、幅広い時間スケールで単純な法則にしたがうことを発見した。これらはこれまで認識されてこなかった新しいタイプの地震であり、プレート沈み込みプロセスの解明やそこでの大地震の発生予測に重大な意味をもつ。

発表内容

図1

図1:四国西部のゆっくり地震の分布と南海地震の震源領域の位置関係。3種類のゆっくり地震は沈み込むフィリピン海プレートが深さ30-35kmに達したあたりで起きている。

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図2

図2:ゆっくり地震と通常の地震のスケール法則の違い。通常の地震はマグニチュードが1大きくなると3倍長くなる。ゆっくり地震はマグニチュードが1大きくなると30倍長くなる。通常の地震はマグニチュード7でも20秒程度しかかからないが、マグニチュード7のゆっくり地震は1年近くかかる。

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図3

図3:世界のあちこちで観測されている類似の現象。このすべてが四国西部で観察された現象と同じ物理プロセスを共有するとは限らない。

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西日本の下には南東からフィリピン海プレートが沈み込み、1944年東南海地震や1946年南海地震のようなマグニチュード8級のプレート境界巨大地震が過去に何回も発生し、震災や津波被害を引き起こしている。これらの地震の震源とみなされる領域のすぐとなりで2000年頃から奇妙な現象の報告が相次いでいる(図1)。それらは(1)深部低周波地震(注1)、(2)深部低周波微動(注2)、(3)超低周波地震(注3)、(4)スロースリップ(注4)などとよばれ、それぞれ異なる特徴を持つ異なる現象と考えられてきた。

東京大学とスタンフォード大学の合同研究グループ(井出哲講師、G.C.ベローザ教授、大学院生D.R.シェリーほか)は特に四国西部のこれらの現象に着目し、独立行政法人防災科学技術研究所の高感度地震観測網(Hi-Net)などの地震データの解析研究を行ってきた。これまでの一連の研究で低周波地震と低周波微動がどちらも同じプレート境界のすべり運動であることがはっきりした(関連文献1-3)。さらに超低周波地震やスロースリップといわれる他の現象と比較すると、すべては同じ時期、同じ場所で発生した、同じ方向のすべり運動であるといえる。異なるのはその規模だけであり、そこで今回発表の研究では現象の規模を比較して次のようなことを明らかにした。

空間的な規模を表す量として地震モーメント(断層の面積とすべり量の積に定数をかけたもの)、時間的な規模として継続時間を比較してみると、両者はほぼ比例する(図2)。この関係は時間スケールで0.1秒から数カ月程度(約8桁)でなりたっているらしい。地震波のスペクトルなどとともに検討するとこれまで異なると考えられてきた(1)から(4)の現象は時間スケールの一番短い深部低周波地震を単位として成長していくプレート間のすべり運動「ゆっくり地震」を異なる時間スケールで観察したものと解釈できる。また図2に示したように、地震モーメントと継続時間の3乗が比例する通常の地震のスケール法則とゆっくり地震のスケール法則は大きく異なる。

今回見つかった「ゆっくり地震のスケール法則」は面白いことに、四国西部の現象だけでなく世界中で発見されている様々な現象にも適用できそうである(図3)。その中には、西日本同様の微動やスロースリップが発見されている環太平洋の沈み込み帯(アラスカ、カナダ米国境界、メキシコ、チリ、ニュージーランド)だけでなく、カリフォルニアの巨大横ずれ断層サンアンドレアス断層でのクリープ的な変動、ハワイ火山の下のスロースリップ、イタリアの古い断層のクリープや南アフリカ金鉱山での小さなスロースリップさえ含まれる。これらの現象がすべて同様の物理現象である必然性はないが、今回発見したスケール法則が地震のような地下で起きるすべり運動の本質に関わるものである可能性は高い。

現象を説明する物理モデルとして、すべり領域の相似的成長モデルや応力の拡散に支配された拡散地震モデルなどが考えられるが、まだ決定的ではない。この物理的なメカニズムの解明は今後の重大な課題であり、プレートの沈み込みがどのように起き、どのように巨大地震を引き起こすのかを理解する上で重要なカギを握る。その結果によってはすっかり確立した「地震=破壊と摩擦を伴う高速すべり」という概念を修正する必要があるだろう。

用語解説

深部低周波地震:
深さ約30 kmで発生する振幅の割に特徴的な振動周波数が低い地震。2000年から気象庁が特に区別して震源を検出、位置決定している。南海トラフ沿いや内陸の活発な地震活動領域深部にも見られる。四国西部では関連文献1により震源位置分布がプレート境界に沿っていることが明らかになり、関連文献2により通常の地震同様のすべり運動であることが明らかになっている。
深部低周波微動:
微弱な振動が長時間(数十秒から数日)継続する現象。2000年頃、西日本(長野県南部から四国まで)の南海トラフ沿いで小原一成博士(独立行政法人防災科学技術研究所)により発見された。一般に正確な震源決定は困難で成因にも諸説あったが、関連文献3により(1)深部低周波地震と同一の現象が群発的に起きているものと認識された。
超低周波地震:
20秒から50秒の成分に富む微弱な地震。2006年(2)深部低周波微動の活動領域付近で伊藤嘉宏博士(注と小原一成博士(独立行政法人防災科学技術研究所)によって発見された。プレート運動同様の低角逆断層のすべり運動。(注:現所属は東北大学)
スロースリップ:
1990年代より世界各地で地殻変動観測により観測されている地震波をほとんど放出しないゆっくりしたすべり運動。数日程度のものから1年以上継続するものもある。

発表雑誌

Ide,S.,D.R.Shelly, G.C.Beroza, and T.Uchide, A scaling law for slow earthquakes, Nature,447 (no.7140),2007.

関連文献

  • Shelly,D.R.,G.C.Beroza,S.Ide,and S.Nakamula,Low-frequency earthquakes in Shikoku, Japan and their relationship to episodic tremor and slip,Nature,442, 188-191,2006.
  • Ide,S.,D.R.Shelly,and G.C. Beroza,The mechanism of deep low frequency earthquakes:Further evidence that deep non-volcanic tremor is generated by shear slip on the plate interface,Geophysical Research Letters,doi:10.1029/2006GL028890,2007.
  • Shelly,D.R.,G.C.Beroza,and S.Ide,Non-volcanic tremor and low-frequency earthquake swarms,Nature,446, 305-307,2007.