2006/11/30

台湾チェルンプ断層掘削で明らかにされた大地震のすべり帯のエネルギー散逸(注1)

発表者

  • 田中秀実(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻 講師)

概要

大地震の際の破壊エネルギーは、これまで定量不可能であった。今回、掘削によって地下深部の断層面を回収し、破壊粒子表面積を定量することで、初めて破壊エネルギーの推定に成功した。

解説

図1

上図:上掘削孔から回収された集集地震のすべり帯
下図:すべり帯の詳細な組織

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図2

破壊粒子の粒径分布の定量:上から下に向かって光学顕微鏡(OM)、走査型電子顕微鏡(SEM)、および透過型電子顕微鏡(TEM)による破壊粒子の産状。

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地殻に蓄積された力 (応力) が断層滑りによって開放される時、地震は発生する。大地震の際の応力開放によるエネルギーのうち、その一部は断層滑りに伴う破壊によって消費されることが、地震波形の逆解析により推定されていた。破壊エネルギーは、大地震のエネルギー散逸量を見積もる上で鍵となる量であったが、長い地震研究の歴史の中でも、これまで定量することができなかった。本研究では、大地震直後の断層 (チェルンプ断層 1999 年 Mw 7.7 台湾) の深部を掘削、断層の滑り帯を含む掘削コアを回収、滑り帯を同定、および滑り帯に含まれる断層ガウジ(注2)内の粒子を計測することによって、大地震の破壊エネルギーを初めて直接定量した。本研究によって、大地震のエネルギー散逸構造が物質科学によって定量化できる可能性が示された。地震発生のダイナミクスは、従来は主として地球物理学(地震学)によって研究されてきたものであるが、本研究によって新たな展開を迎える事になると考えられる。

用語解説

大地震のエネルギー散逸:
地震によって放出されるエネルギー。
断層ガウジ:
地震の際の断層帯のすべりに伴って岩石の破片がほとんど見られないほど細かく粉砕された岩石。

論文情報

Kuo-Fong Ma, Hidemi Tanaka, Sheng-Rong Song, Chien-Ying Wang, Jih-Hao Hung, Yi-Ben Tsai, Jim Mori, Yen-Fang Song, Eh-Chao Yeh, Wonn Soh, Hiroki Sone, Li-Wei Kuo and Hung-Yu Wu, "Slip zone and energetics of a large earthquake from the Taiwan Chelungpu-fault Drilling Project", Nature 444, 473-476 (23 November 2006)