2006/9/11

星の一生の最期に新たな形態が存在

− 中性子星の誕生が引き起こすガンマ線バーストと超新星の発見 −

発表者

  • 野本憲一(東京大学大学院理学系研究科天文学専攻 教授)
  • 冨永望 (東京大学大学院理学系研究科天文学専攻 日本学術振興会特別研究員(DC1))
  • 田中雅臣(東京大学大学院理学系研究科天文学専攻 修士課程2年)
  • 前田啓一(東京大学総合文化研究科 日本学術振興会特別研究員(PD))

概要

図1

図1:ガンマ線バーストが現れる前と現れた後の空。

左図で丸で囲まれているのはバーストの起きた母銀河。

右図で矢印で示された場所がバーストの位置。(ヨーロッパ南天文台提供)

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図2

図2:超新星 SN 2006aj の明るさの時間変化(青色の丸)と計算された時間変化(赤い線)。極超新星SN 1998bw(緑色)と普通の超新星SN 1994I(ピンク色)と比較してある。

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図3

図3:親星の質量と星の最期の形態。左上のパターンはこれまで考えられていなかった。

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図4

図4:ガンマ線バーストの発生機構の模式図。ガンマ線バーストはブラックホールを形成するような超新星爆発から引き起こされると考えられてきたが、中性子星の形成からもそのような大爆発(少なくともX線フラッシュの一部)が起こると考えられる。

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大学院理学系研究科(天文学専攻)の野本憲一教授、同研究室大学院生の冨永望氏(日本学術振興会特別研究員DC1)、田中雅臣氏(修士課程2年)、大学院総合文化研究科の前田啓一氏(理学系研究科修了、現日本学術振興会特別研究員 PD)を中心とするグループは、星の一生の最期に、これまで知られていなかった新たな形態が存在することを明らかにする研究結果を英国科学誌 Nature に発表しました。

2006年2月18日に発生したガンマ線バーストは、ガンマ線バーストの中でもエネルギーが小さいX線フラッシュと呼ばれるものでした。グループはこれに付随した超新星を世界に先駆けて詳細に観測し(図1)、理論モデルを構築した結果、この超新星を起こした星が中性子星を中心に残すような軽い星(太陽の20倍)であることを導きだしました。これまで一般的にガンマ線バーストに付随するような超新星はどれも質量の重い(太陽の30倍以上)星で、中心にはブラックホールが残されると考えられていました。また、太陽の30倍よりも軽い星は中性子星を残し、通常の超新星にしかならないと考えられていました。今回の結果は中性子星を残すような軽い星も、ガンマ線バーストのような大爆発でその一生を終える場合があることを示した初めての例であり、重い星の一生の最期に新たな形態が存在することを発見したことになります。

このような爆発は通常のガンマ線バーストよりも約100倍頻繁に起こることも明らかになり、この高い頻度は、今回のようなタイプの爆発が宇宙における重元素の生成など、宇宙全体の進化に与える影響も大きいことを示唆しています。

解説

ガンマ線バースト(注1)とは、宇宙から大量のガンマ線が突然降り注ぐ現象です。ガンマ線バーストの起源は30年来の謎でしたが、BeppoSAX衛星やHETE-2衛星などを用いて世界中でさかんに研究され、それらの衛星による迅速な位置決定と地上望遠鏡の追観測により、太陽が今の明るさで一生(約100億年)かけて放出するエネルギーをわずか数秒の間に開放する宇宙空間で最も激しい爆発現象であることが分かりました。さらに、最近の観測的・理論的研究により、星の最期である超新星爆発(注2)がガンマ線バーストの正体であることが明確になってきました。超新星が付随したガンマ線バーストはこれまでに3例観測されていますが、いずれの爆発も、太陽の40倍程度の巨大質量の星が一生の最期に重力崩壊して起こす巨大爆発であることが分かっていました。ガンマ線バーストはその時に形成されるブラックホールをエンジンとして起こる、というのが従来の理解でした。

ガンマ線バーストの観測例が飛躍的に増加するに伴い、ガンマ線バーストと同様の現象ですが、放射されるエネルギーのピークがX線にあるX線フラッシュ(注3)が発見されました。2006年2月18日に約4億光年の彼方で発生したガンマ線バースト(GRB060218)がSwift衛星により発見され、このX線フラッシュであることが判明しました。世界中で追観測が行なわれ、超新星(SN 2006aj)が付随していることも明らかになりました。野本教授を中心とするグループは、ヨーロッパ南天文台の所有するVery Large Telescopeを使って、この超新星の詳細な観測を行い、この超新星の可視光観測データをもとに、この爆発を起こした親星の理論モデルを構築しました。

観測の結果、この超新星は、通常の超新星よりは大きな規模の爆発である極超新星(注4)の特徴をもっていますが、これまでの極超新星とは重要な違いがあることが分かりました。すなわち、(1)この超新星の光度曲線は、これまでガンマ線バーストに付随した超新星(極超新星)の光度曲線よりも早く変化する(図2)、(2)また、そのスペクトルには、これまでに観測された極超新星に普遍的に見られた酸素の強い吸収線がほとんど存在せず、従って酸素の含有量が非常に小さい、ということです。これらはどちらも爆発した星の質量が比較的小さいことを示唆しています。研究グループは理論計算により、この特徴を満たすような超新星爆発の親星と爆発の特徴を導き出しました。 その結果、この超新星(SN 2006aj)の親星はこれまでガンマ線バーストを引き起こすと考えられていた星(太陽の約40倍)よりも半分程度の軽い星(太陽の約20倍)でなければならず、そのような軽い質量の星は重力崩壊の際にブラックホールではなく、中心に中性子星を形成することが明らかになりました。また、今回のような弱いガンマ線バースト、X線フラッシュをおこす爆発は、これまで報告されていたガンマ線バーストの頻度の100倍程度と推定できる、ということも明らかになりました。

これまで大質量星の進化の最期のパターンとして、(1)太陽の30倍程度より軽い星は中性子星を形成して、通常の超新星となり、(2)それより重い星はブラックホールを形成し、その多くは爆発せず、一部はガンマ線バーストを起こして極超新星となる、と考えられてきましたが、今回の発見によって、(1)の中性子星を形成する場合に「ガンマ線バーストを起こして激しく爆発する超新星になる」という新たなパターンが存在することが明らかになりました(図3)。これは超新星の爆発機構やガンマ線バーストの発生機構の解明(図4)や宇宙の元素の起源の解明にも重要なヒントを与えたことになります。

この成果は8月31日付けの英国科学誌 Nature に掲載されました。より詳細な解説はこちらをご覧ください。

用語解説

ガンマ線バースト:
ガンマ線バースト:高いエネルギーの電磁波であるガンマ線が約0.01秒から数100秒間にわたって観測される現象。継続時間が2秒以上のものはロングガンマ線バースト、2秒以下のものはショートガンマ線バーストと呼ばれています。今回のバーストはロングガンマ線バーストに分類されるものであったため、ここでは単にガンマ線バーストと呼んだときロングガンマ線バーストを指すものとします。
超新星爆発:
太陽よりも質量が8倍以上重い星は、その進化の最期に重力崩壊を起こし、超新星として観測されます。ガンマ線バーストとは異なり、超新星は電磁波の中でも可視光でほとんどのエネルギーを放射し、数日間で太陽の10億倍程度まで明るくなります。
X線フラッシュ:
X線フラッシュはガンマ線バーストとは異なり、ガンマ線よりもエネルギーの低い電磁波であるX線を主に放射する現象です。
極超新星:
ガンマ線バーストに付随した超新星は、通常の超新星よりも10倍程度運動エネルギーが大きく、これを極超新星と呼びます。

論文情報