2005/12/27

STM分子探針を用いて相補的核酸塩基をみる

- 電子トンネル効果による相補的核酸塩基の単分子レベルピンポイント検出 -

発表者

  • 梅澤 喜夫(化学専攻 教授)
  • 大城 敬人(化学専攻 博士課程学生)

概要

従来のSTM探針を核酸塩基で化学修飾して作成した“核酸塩基探針”を用いて,試料中の相補的核酸塩基のみを単分子レベルでピンポイント的に可視化検出することに成功した。これは,核酸塩基探針と,試料中の相補的核酸塩基との間で電子波動関数の重なりが生じ、分子間電子トンネル効果が発現することによる。

解説

図1

図1:4種類の核酸塩基探針による相補的核酸塩基分子の選択的可視化。相補的塩基間の電子波動関数の重なりを介して探針試料間を流れるトンネル電流が増大する。この現象を利用すると,アデニン(A),シトシン(C),グアニン(G),チミン(T)探針を用いて,それぞれの相補的核酸塩基をピンポイントできる。

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図2

図2:3種類の配列のペプチド核酸(PNA)をシトシン探針で測定したSTM像(15×15 nm2)。18塩基PNAの配列は (a) TTT TTT TTG TTT TTT TTT, (b)TTT TTT TGG TTT TTT TTT, (c) TTT TTT TTT TTT TTT TTT。それぞれのPNA鎖にそった断面図を(d)で示している。配列中で相補的核酸塩基であるグアニンのみがピンポイントされる。

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原子分解能を持つ走査型トンネル顕微鏡(STM)は,原子の種類や官能基の識別能に乏しかったが,1998年に東大の梅澤らのグループによって,化学種選択的なSTM像を得ることが可能な“分子探針”が初めて報告された。

分子探針とは,通常のSTM金探針を,試料分子と電子波動関数の重なりが生ずる分子で化学修飾して作成したSTM探針のことである。この分子探針は,試料との間の電子波動関数の重なりに基づくSTM像のコントラストの変化が起こることから,特定官能基・化学種の違いを単一分子・官能基レベルで選択的に可視化検出することができる。

本研究では,こうした分子探針の持つ一分子可視化検出能を用い,4種類の核酸塩基種を単一分子レベルでピンポイント可視化する方法の開発を行った(図1)。

4種類の核酸塩基を化学修飾した分子探針(以降,核酸塩基探針と称する)を作成し,この探針で試料となる核酸塩基を測定した結果,核酸塩基チオールSAMおよびペプチド核酸鎖の配列中に存在する相補的核酸塩基を可視化検出することに成功した(図2)。これは,探針と試料の相補的核酸塩基対間の電子波動関数の重なりで分子間電子トンネル効果が生じたためである。

この研究でもちいた分子探針は,特定の官能基や化学種との間で,水素結合・配位結合・電荷移動相互作用に基づくトンネル電流の増加現象がおこることを利用して,様々な官能基の位置・配向性などを決定することができる。この分析手法は,“分子間トンネル顕微鏡”と呼びうるものである。

本成果はアメリカ科学アカデミー紀要に掲載される。

論文情報

T. Ohshiro and Y. Umezawa, "Complementary base-pair facilitated electron tunneling for electrically pinpointing complementary nucleobases", Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 103, 10-14 (2006).