2004/7/13

生物時計の時刻合わせのメカニズムを解明

発表者

  • 深田 吉孝(生物化学専攻 教授)
  • 岡野 俊行(生物化学専攻 講師)

概要

睡眠障害解決の糸口となる、新たな分子生物学的メカニズムが発見された。

東京大学大学院理学系研究科の深田吉孝教授、岡野俊行講師らが、フランス国立科学研究センターのコルシ教授・土居雅夫研究員らと共同で、約24時間の生体リズムをコントロールする概日時計(注1)の発振を調節するメカニズムを解明した。

概日時計は、昼の時間帯の光シグナルを感じて時刻の調節を行う生体のメカニズムであるが、この時刻調節の分子生物学的な仕組みはこれまで明らかでなかった。

同グループは、このメカニズムの解明のため、生物時計をもつ鳥類の松果体(注2)という器官に着目。「時計の針」にあたる機能を担うのはピリオド(Period)タンパク質であることがわかっていたが、この働きをおさえる「E4BP4」というタンパク質(転写抑制因子)の量が、松果体の中で、24時間周期で変動していることを見つけた。このE4BP4タンパクの量は、時計の時刻が調節される際に増えることから、E4BP4は時刻合わせの鍵分子であると考えられるという。

また、E4BP4のタンパク質量の制御には、カゼインキナーゼというタンパク質リン酸化酵素が働いていることも同グループが突き止めた。これまでに、カゼインキナーゼはピリオドタンパク質の核内量を調節することが知られていたが、カゼインキナーゼが「時計発振」だけでなく「時刻合わせ」にも関与していることが明らかになった。

今回の研究から、E4BP4は、睡眠時間帯が前進したり後退したりしてしまう「時計疾患」の原因である可能性も示唆され、岡野講師は「E4BP4の機能がさらに明らかになれば、将来的にこれらの疾患の治療法の開発につながるだろう」とコメントしている。

用語解説

概日(がいじつ)時計:
約24時間周期でサイクルする生物時計。睡眠や体温などのリズムをコントロールしている。
松果体:
メラトニンという時計ホルモンを合成する脳の一部。ヒトなどほ乳類では光に感じないが、鳥類以下の下等動物では概日時計機能と光に感じる性質を併せもつ。

論文情報

Masao Doi1, Toshiyuki Okano2, Irene Yujnovsky, Paolo Sassone-Corsi, Yoshitaka Fukada3, "Negative Control of Circadian Clock Regulator E4BP4 by Casein Kinase Iε-Mediated Phosphorylation", Current Biology, Vol. 14,pp.975--980, June 8, 2004

  • 1東京大学理学系研究科生物化学専攻 土居雅夫博士
  • 2東京大学理学系研究科生物化学専攻 岡野俊行講師
  • 3東京大学理学系研究科生物化学専攻 深田吉孝教授