植物の水の通り道をつくる物質「ザイロジェン」の発見
発表者
- 福田 裕穂(生物科学専攻 教授)
- 杉山 宗隆(附属植物園 助教授)
- 本瀬 宏康(学術研究支援員 博士)
概要
植物体の水の通り道である道管を、連続して一方向に形成する物質を世界で初めて発見しました。「ザイロジェン」と名づけられたこの物質は、糖がついたタンパク質で、その遺伝子も解析されました。
この報告は6月24日付けの Nature 誌に掲載されました。
解説

植物の道管は植物の水や塩類の通り道で、根から吸収された水や塩類はこの道を通って体全体に運ばれます。この道が細くなったり、とぎれたりするとたちまちに植物は枯れてしまいます。それではこの道はどうして、とぎれることなく連続してつくられるのでしょうか。
道管はたくさんの細胞が一方向につながってできます。私たちは、隣り合った細胞を次々と道管の細胞に変え、道管の道を延ばしていくような細胞間の情報を伝える物質があるのだと考えました。
その物質を同定するため、これまでに、ヒャクニチソウ(注1)培養細胞のバイオアッセイ系をつくり、シグナル分子を探索、その存在を確認しました。
今回の研究では、そのシグナル分子がユニークな構造をした糖タンパク質であることを証明し、この糖タンパク質を、道管を誘導する能力に因み、「ザイロジェン」(Xylogen)と名付けました。ザイロジェンは、道管細胞の片側だけで発現し、道管が伸びていく方向の細胞へと情報を伝達します(図)。
本研究では、ザイロジェンは、双子葉植物だけでなく単子葉植物の道管分化をも促進し、被子植物共通の道管形成因子であることもわかりました。また、遺伝子も解析し、予想したように、これらの遺伝子を破壊しますと、道管がとぎれとぎれになることも明らかになりました。
このように、今回の発見により、道管がつながって出来るのは、隣り合った細胞間でザイロジェンが情報伝達することにより起こることがわかりました。
将来的には、この遺伝子を利用することで、水の通り道の自由な設計が可能になることが期待されます。
ところで、現在、エネルギー資源の枯渇、森林の減少、バイオマス資源の減少、それに伴う二酸化炭素吸収量の減少が問題になっています。この問題解決のために、樹木のバイオマス生産能力の向上が求められています。実は、樹木の幹の大部分は道管・仮道管からできており、植物の作り出すバイオマスの大部分は道管・仮道管だといっても過言ではありません。したがって、今回の私たちの研究は、道管細胞を誘導できる新規分子の発見という点で、樹木のバイオマス生産能の向上に役に立つものとなると期待されます。
参考情報
- ヒャクニチソウ:
- 実験生物ものがたり「ヒャクニチソウ」(理学部ニュース)↑
論文情報
Hiroyasu Motose1, Munetaka Sugiyama2, & Hiroo Fukuda3 “A proteoglycan mediates inductive interaction during plant vascular development”, Nature Vol. 429 No. 6994 (June 24, 2004), pp.873--878.
- 1学術研究支援員 本瀬宏康博士
- 2東京大学理学系研究科植物園 杉山宗隆助教授
- 3東京大学理学系研究科生物科学専攻 福田裕穂教授