カーボンナノチューブに金属ナノ粒子を閉じこめる「ボトルシップ合成法」の開発に成功
発表者
- 中村 栄一(化学専攻 教授)
- 磯部 寛之(化学専攻 助教授)
- 末永 和知(産業技術総合研究所 ナノカーボン研究センター 研究チーム長)
概要

30個の金属原子を捕えたナノチューブ.黒いバーは3ナノメートル
- カーボンナノチューブ(注1)の仲間であるカーボンナノホーン(注2)のチューブの壁または中に一個から数十個の金属原子を集積させることのできる「ボトルシップ合成法」を開発.
- 本手法によってナノチューブの狙った位置に金属原子を集積させることができるようになった.
- 本手法は燃料電池の電極材料の開発や,ナノエレクロニクスの実用化への道を拓くだろう.基礎科学の立場からみると,これまでの困難だったナノチューブの欠陥部分を探す初めての簡便な微細構造検定法として利用できる.
解説
東京大学大学院の中村栄一教授,日本電気(株)(NEC)・科学技術振興機構(JST)の飯島澄男教授の共同研究チームは,一つの金属原子から数十個の原子からなる金属ナノ粒子をカーボンナノチューブの仲間であるカーボンナノホーンの中に集積することに成功した.
まず,カーボンナノホーンのチューブの壁に直径数オングストローム程度の小さな孔をあけると,この小さな穴に金属原子[具体的にはガドリニウム(Gd)]を一つ一つ付着させ,電子顕微鏡によってその原子を観察すること,またその数を数えることに成功した.またナノチューブにあける孔のサイズを1ナノメートル以上にまで大きくすると,今度はその穴から30個程度の金属原子を次々に導入して,「ボトルシップ(ship-in-bottle)」をつくるように内部に1ー2nmサイズの粒子(金属集合体)を合成できた.この方法によると,ナノチューブの壁に穴を空けるとその場所に金属原子を導入して,「金属とカーボンナノチューブを組み合わせた複合材料」の設計および効率的な合成が可能となる.
金属を内部構造の中に含んだ炭素材料は,フラーレンなどでも「金属内包フラーレン」として知られており,高機能炭素材料として注目されていたが,これまでに大量に供給する手法がなく応用例が限られていた.本研究により,カーボンナノチューブやカーボンナノホーンから簡単かつ大量に金属内包炭素材料をつくりだせることとなった.
カーボンナノホーンやナノチューブは金属複合材料化して燃料電池材料としての実用的応用が目前に迫っているだけでなく導電材料などとして期待されている.導電性材料としては,その導電性を制御するために金属との複合化が注目されていた.しかし,これまでにチューブ上の望みの位置に金属をつける方法がなく,思った通りの分子構造をもつ複合材料をつくることはできなかった.「ボトルシップ合成法」により,カーボンナノチューブの壁にあけた孔に選択的に金属イオンを集積させることが可能となり,炭素と金属を組み合わせた複合材料の実用化に向けて大きく前進した.
本研究のボーナスは,これまで同定することができなかったカーボンナノチューブの壁に空いた孔を簡単に検出できるようになったことである.ナノチューブの分子デバイスへの応用を考える際,一本一本のチューブの純度の検定が重要であるが,これまでその手法がなかった.今回の方法によって,金属によるマークづけを行うことで,電子顕微鏡観察によって簡単に,カーボンナノチューブに空いた穴や構造欠陥を簡単に発見することができるようになった.
この研究成果は,東京大学大学院理学系研究科の中村栄一教授,磯部寛之助教授(JSTさきがけ研究者兼任)の研究グループと,名城大学理工学部の飯島澄男教授の統括する末永和知博士のグループ(産業技術総合研究所AIST,ナノカーボン研究センター)と湯田坂雅子博士のグループ(JST-SORST, NEC)との共同研究によって得られたもので,米国科学アカデミー紀要(PNAS, Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America)のオンライン版で公開される.
参考プレス発表
用語解説
- カーボンナノチューブ:
- 飯島澄男教授が1991年に発見した,ダイヤモンド,非晶質,グラファイト,フラーレンに次ぐ5番目の炭素材料.グラファイトシートが直径数ナノ(10億分の1)メートルに丸まった極細チューブ状構造を有している.カーボンナノチューブはその丸まり方,太さ,端の状態などによって,電気的,機械的,化学的特性などに多様性を示し,次世代産業に不可欠なナノテクノロジー材料として,現在,世界中で最も注目されている材料である.↑
- カーボンナノホーン:
- 飯島澄男教授らのグループが1998年に発見したカーボンナノチューブの一種で,角(ホーン)状の不規則な形状を持つグラファイトからできている.その微細構造を利用した小型燃料電池の電極材料としての開発がNECを中心に進められている.↑