感想と意見

理学部学生選抜国際派遣プログラム 第7回 UCSB, Caltech and UCLA

片山 智博

もともと僕は漠然とではあるが、アメリカに留学したいと考えていて、その練習という意味でこのプログラムに参加したところが大きかった。しかし、このプログラムに実際に参加してそれ以上に多くのものを得ることができた。

まずは今までは漠然としたイメージまたはネットで調べたり、人に聞いたりして得た情報しかなかったアメリカの大学院について実際に肌で感じることで、より鮮明なイメージを持つことができた。実際にUCLA, UCSB, Caltechなどアメリカのトップの大学院を訪問し、教授方や学生と交流し、議論することでそこでの雰囲気、エネルギー、期待感、活気などを実際に感じることができたのは何事にも代えられない貴重な経験だった。自分はまだ研究テーマなどを持っていなかったため、教授や院生などとの話では聞く側に回ることが、多かったが、それでも多大な刺激になった。英語では敬語がないためか、自分より目上の教授方などとも率直に意見をぶつけ合うことができ、教授方も学生との議論を大切にしているようだった。そのため自分自身で研究テーマがあればさらに有意義な議論をすることができたと思うと悔しくてならない。ただ色々な世界中から来た優秀な研究者達と議論し、互いに刺激しあい、切磋琢磨することができる環境であるということを実感することができ、自分もその中に加わりたいという気持ちは強くなった。

UCLA、UCSBでの学際研究の熱心さも大変印象的だった。訪問したCNSIはそのような研究専用の建物であり、学際研究に多くの資金、人員がつぎ込まれていてその研究への大学、政府、出資者の関心の高さを見て取ることができた。また、研究の延長線上大学からのサポートをもとに会社を設立し、人々の中により浸透させていくことで社会貢献をしようとする試みなどもあり、科学者だけでなく、多くの人間を巻き込んで科学を創っていくという姿勢が表れていたように感じた。

また今回のプログラムで同じプログラムの参加者として、異分野の研究者を志す10人の優秀な仲間と出会え、つながりを作ることができたことは普段ほとんど同じ学部の人間としか交流する機会のない自分にとって大変大きな刺激になり、また今後の人生においてもかけがえのない財産になると思っている。国際交流だけでなく、このような異分野間の交流も大切にしていくべきで、学際研究の基礎となるものであると考える。

最後に、このような派遣プログラムを企画し、運営に関わっていただいていた国際交流室の方々、サポートしていただいた理学部、派遣先の大学の関係者の皆様に深く感謝したい。今後さらに日々精進し、研究成果を残し、東京大学、そして社会に貢献していく人材になることで与えていただいた機会を無駄にせず、それに代わるものとして返すことが出来ればと思う。

高木 隆司

以前から大学院でのアメリカ留学に興味があり、いずれは研究室訪問をしなければならないのだからいい機会だという、悪く言えば半ば事務的なモチベーションでESSVAPに応募しました。結論から言うと当初の目的は果たされたとは言えませんが、このプログラムに対する当初の期待をはるかに超えるものを得ることができたし、感じることができました。当初の目的が果たされなかった理由は、単に私の勉強不足が原因です。大学院入学を視野に入れた研究室訪問であれば、その分野のことをおおよそ理解した上で、自分が今研究し考えていることを教授にアピールすることが求められますが、それをできる能力が自分にはありませんでした。出来たことといえばあまり内容に踏み込まない一般的な質問をしたり、教授の研究内容を分からないなりに聞くといったことぐらいでした。それでも各教授には研究について丁寧に説明して頂いたので、最先端の研究がどのような状況にあるのかを少しではありますが感じることはできました。

しかし前述の通りこのプログラムで得たものは多くあり、その大きなものの一つは先ほどの話とも関連しますが、自分の研究を持つことに対するモチベーションです。プログラムに共に参加した仲間たちはしっかりと自分の研究ややりたいことを確立しており、言ってしまえば既に研究者に見えました。またCaltechで現地の学生と昼食を共にとる機会があったのですが、そこで彼ら彼女らが伸び伸びと研究活動に邁進していることが見て取れました。そのような姿に非常に刺激を受け、私も自分は今これをしているというものが欲しいと率直に思いました。それと同時にそのようなものがないとアメリカ留学が現実的ではないことを痛感しました。

とはいったものの、留学に対する更なるモチベーションもこのプログラムから得ました。色々な人の話を聞くにつれ、アメリカは非常にフレキシブルでオープンで、人の出入りも多く、研究者にとって恵まれた環境であることが分かってきました。特にCaltechのポスドクの吉田さん、博士課程の碁盤さんに聞いた話は非常に印象的でした。以前から留学が良い悪いの議論は度々目にしてきましたし、話を聞いたこともありますが、これほど説得力をもって留学を勧められたことはありませんでした。お話の詳細は個人訪問の欄や東川君、濱崎君の感想に書いてありますので興味のある方はご覧下さい。

一言でいって本当に良いプログラムであり、今後の自分の勉学や進路決定に大きな影響を及ぼすであろうものとなりました。最初から最後まで私たちのお世話をしていただき、また現地では圧倒的なコミュニケーション能力で私たちを引っ張ってくださった国際化推進室の五所さんには、感謝をしてもしきれません。本当にありがとうございました。また資金的に私たちを援助してくださった東京大学理学部、及び私たちのために貴重なお時間を割いていただいた国際化委員の皆様、カリフォルニア三校の関係者の皆様に心から感謝申し上げます。

濱崎 立資

「将来留学しようかと考えている」「世界に視野を広げる」。2つのありきたりな志望理由が、実際にESSVAPを経験して初めて現実味を持ち、同時にその意味の重さに呆然としている。自分の中での海外に対する壁が低くなった分、常に意識し続けなければならないと感じている。

海外は3度目だったが、今回は教授への個人訪問から休日の自由時間まで、能動的に生活する時間が長く、それだけアメリカの文化(交通、食、チップ、治安…)をよく知ることができたように思う。10日間という短い滞在のうちにもそれにかなり慣れて、アメリカでの生活というものを現実的にとらえられるようになった。一方で、自分の英語力がいかに不足しているかも分かった。相手の言っていることを100%理解するにはまだほど遠いし、意見を求められたときにぱっと英語が出てこない。なんとなくでも意思疎通はできる分、日本にいるのと同じように満足な生活をしていくのには、意識的な努力が必要であると感じた。

実際に訪問した3大学の雰囲気は、日本でいうところの「大学」とはかけ離れており、自分が狭い世界しか見ていなかったことに恥ずかしさを覚えるほどであった。実際に見たことで、留学を形式的でなく意識できるようになり、もっと言えば素朴に気に入ってしまった。しかもそれが単なる憧れでなく、準備をすれば可能だということがわかったのも、このプログラムの大きな収穫である。具体的には、特に院からの入学において、事務的な問題や金銭的な問題が思っていたほど障壁でないことを学んだ。

もっとも衝撃的だったのは、カルテクのポスドクである吉田さん、院生の碁盤さんのお話である。彼らは見ている世界が私とは違った。日本の中でかなり名が知れている研究室でも世界的には数あるレベルの高い研究室の一つに過ぎなかったり、逆に私の知らない日本の研究室でも若く良いところがあったりすることは、当たり前のことのようにも思えるが、やはり現役の研究者から聞くと否応にも意識せざるを得ない。自分がお世話になる研究者を見極めるには、その分野をよく勉強することはもちろん、能動的に情報を収集しなければならないのだと痛感した。

お二人には、留学に対する考えに関しても影響を受けた。日本でPh.D.をとるとアメリカでアカポスを得るのは、非常に狭き門である。一方アメリカに院で留学したとしても、もちろん大変であるし、うまくいかなかった時日本に戻ることが簡単ではなくなる。しかし、「いずれ勝負するつもりなら、早く勝負したほうがよい」「まだ早いと言って先延ばしにしていたら、結局留学しないと思う」という吉田さんの経験に基づいた言葉は、重くのしかかるものではあったけれど、自分の将来について可能性を広げてくれるものになる気がするし、そうさせなくてはならない。この一年は、留学をすることを視野に入れつつ、選択を狭めないような勉強をしたいと思っている。

ESSVAPは理学部のプログラムであり、「あらゆる分野」のサイエンスの背景を持つ生徒が団体で行動をする。特にUCLAで学際交流が強調されてから、皆の、自他の研究に対する興味と議論が活発になり、ESSVAPの真骨頂を見るような思いであった。自分がこのグループにどれほど貢献できたかはわからないが、少なくとも私自身は、ほかの優秀なESSVAPメンバーからあらゆる面で刺激を受けた。このつながりがこれからも続くことを切に願っている。

最後になりましたが、このESSVAPをともに体験した10人、プログラムを支えてくださった東大理学部の方々、UCSB、Caltech、UCLAの先生や研究室の方々、国際交流室の方々、特に訪問前後、訪問中を通じてあらゆる面でお世話になった五所さんに、この場を借りて深く感謝申し上げます。

東川 翔

カルフォルニアで過ごした10日間は非常に充実したものでした。4月から東大の大学院に進学する自分としては、大学院生の金銭・住宅事情、一般的な指導教官の指導方針(議論の頻度やテーマの決め方)、アメリカでアカデミックポストにつくための方法などキャリアプランについて知るというモチベーションで大学をまわりました。また、世界大学ランキングでも上位に入るような大学の強さの仕組みを知ることも目的の一つとしていました。

一番違いを感じたのは大学院生の金銭事情でした。向こうの大学院生の多くはTAやRAなど生活できる程度の給与をもらう機会が多くあり、日本の一般的な大学院生のように金を払って大学に行くというのは稀だそうです。奨学金は持っていると大学院試験の際に有利であるそうですが、必ずしも必要なく、UCSBの場合奨学金のない院生にTAやRAを紹介してくれるようです。このような仕組みは学部生から高い授業料を徴収し膨大な寄付金を集め、大学院での研究にお金を回せるアメリカの一流大学だからこそできるものだろうと思うのですが(よく言われるように学部生1人を入れると大学院生1人を雇える)、大学だけでなく社会の大学院生への期待を込めた厚遇を感じました。アメリカではPh.D.の肩書が社会的にも好意的に受け止められるらしく、日本のようにPh.D.はつぶしが効かないということはないそうです。昨今の暗い時代と合わせ自分の周りの研究者志望者にはキャリアプランへの不安を口にする人が多いのですが、アメリカの大学院生の将来への明るい見通しを目にして金銭事情と共にうらやましく感じました。

一方物理の研究の中身では日本とアメリカの違いはあまり感じませんでした。当然ですが科学はインターナショナルでアメリカでなければできない研究というのはないはずです。向こうの学生とのレベルの差を感じることもなく訪問した教授との議論で困る点もありませんでした。むしろ差を感じたのは研究をする前のテーマの設定と研究後の発表の環境でした。カルテクの院生に聞いたところカルテクには毎週世界中から著名な研究者が選りすぐりの最新の研究成果を発表しにくるらしく、そこから得られる新しいアイディアと世界中の研究者とのネットワークは東大とカルテクの大きな違いだと感じました。自分が発表する際も同じ成果でもアメリカの一流大学のセミナーで発表してから論文にするのと、日本国内で発表してから論文にするのではインパクトが違うのだろうと思います。印象に残ったのはカルテクの天文学科で教授をしているクルカーニ教授の「科学とは国際的な取り組みである。最近日本人学生がアメリカに少なく、彼らは世界の残りの部分から取り残されている。」という言葉です。グローバリゼーションが進み海外の研究者とメールで共同研究ができ、海外の雑誌をダウンロードして読むことができる時代にあり、50年前と違い東大が世界のトップレベルの大学の一つになり日本国内にいながらも世界の最先端の研究ができる環境にありながらも、科学研究を前に進めるのは人と人とのつながりなのだということを痛感しました。科学は人間の感情を排したところに美しさがあり発見した人間によって評価が歪められることはありません。それは評価の固まったものに対してであって最先端のホットな領域においては研究者間の交流が非常に重要であるという基本的なところをアメリカにわたってようやく知ることができました。同時に最近ニュースによく出る「内向きな日本の大学生」の問題について初めて危機感を感じることができました。

アメリカと日本の大学との比較という点でいえば、印象的だったのはカルテクの物理の院生の吉田さんとの会話でした。吉田さんは日本の大学を卒業後アメリカでPh.D.をとられたのですが、アメリカに行く時「どうせ将来アメリカの大学の学生と戦うのだから、PDの時に先延ばしにするよりも早いうちに自分がやっていけるかどうか確かめたい」と思ったそうです。アメリカの大学という選択肢をはじめからほとんど考えなかった自分は、チャレンジすることを無意識のうちに避けていたのだと危機感を感じました。吉田さんがアメリカに行く時ほかの友人は「ポスドクなど力を付けてからアメリカに行く」などと言っていたそうですが、そういった友人とその後アメリカで会うことはなく、アメリカに来てもすぐ帰ってしまうそうです。また、自分のイメージと反して学振PDは海外での扱いは低く、本当に教授が取りたいと思う学生は教授の研究費や大学のフェローシップを獲得すると言っていました。吉田さんとの話で、東大が世界の優秀な大学の一つでしかなく研究する上でアメリカにいないことは自分のキャリアにとってマイナスだということを強く印象づけられました。アメリカが研究の最高峰にあるのは事実であり、これから東大の大学院に進む自分としては修士を日本で過ごすことをマイナスとしてとらえなければならないと思いました。

今回の訪問で心残りだったのはアメリカの大学が重視する「多様性」というものを見極めることができなかったことです。MITやハーバードなどの大学は男女比、人種などが偏らないように学生をとっていることで有名です。多様性は大学生間の交流を通して新しい分野の開拓につながるとよく言われますが、新しい分野の開拓において人種や男女の多様性がどの程度重要なのかということは見極めることができませんでした。これは次回の海外渡航の宿題としたいと思います。

また、今回アメリカの大学事情に多少詳しくなることはできたのですがヨーロッパの大学に関しての情報を得ることはできませんでした。自分のキャリアでベストな選択をする上では、選択肢をアメリカに限る必要はありません。アメリカの大学とヨーロッパの大学の違い、長所・短所を知ることが必要だと感じました。また、グローバルな人材を育成するためには、ESSVAPもアメリカにこだわらず数年に一度はヨーロッパに行く方がいいのではないかと思いました。

最後にこのプログラムを通して、訪問を快く受け入れたくださった先生方、現地で楽しく物理の議論をした学生、ともに10日間過ごした仲間たち、そしてこのプログラムを企画し現地でも全力でメンバーをサポートしてくださった五所先生に深く感謝申し上げます。研究者でもない学生に大金を投じてアメリカに送ることには反対の意見もあるかもしれません。そのような中、「百聞」を聞いた学生に「一見」を与えるために多大な金銭援助をしてくださった理学部にも感謝申し上げます。

後藤 郁夏人

今回のESSVAPでの活動は、自らを顧みるとても貴重な経験を与えてくれました。この経験は大学を卒業し、これから本格的に研究生活を送っていく僕にとって自らの考えの甘さや狭さを反省し、今後の指針や考えを改めて考え直す機会となったと思います。

特にCaltechの大栗先生には自分のこれからの研究生活や方針に対して非常に具体的なアドバイスをご教授いただきました。物理という学問を一歩進めるために果たして自分が何をし得るのか、何をすべきなのか、これから勉強/研究していく中で常に頭において勉強していかなければと感じました。

UCLAでは企業と研究室が連携し、実社会にすぐに貢献できるような融合/応用分野の研究が盛んに行われていました。カルフォルニアの財政難もこの流れを生み出した一員であるといいます。

このような潮流が日本にも将来押し寄せていくだろうという印象を受けました。自分が今やっているような基礎分野はこれから残っていくことができるのだろうかという不安を抱きました。すぐに役にたたないような研究は、社会の多くに人にとって研究の意味とその成果を理解しにくいものであると思います。私の研究する素粒子物理のような分野が社会に対して、また人類に対してどのような意味を持ち、どのような役割を果たして行けるのかを真剣に考え、それを社会に対して説明していかなければならないと感じました。

アメリカの学際的な雰囲気は物理の中の異分野間という比較的狭い範囲においても感じ取ることができました。僕の参加したUCSBのGravity lunch meetingでは重力を研究している研究者が、学生の超弦理論に関する質問に答えている姿が印象にのこりました。超弦理論は通常、素粒子物理に属する分野で、重力を研究している人と素粒子を研究している人の交流は日本ではそこまで強くないと感じます。このような学際的な雰囲気がBlack hole Firewallなどの物理の原則を根本からとい直す研究を日々生み出しているのだと感じました。

今回のプログラムを通して海外で研究することの意義やメリットを今までよりも明確にすることができました。将来自分の研究生活を考える上で、日本であるか海外であるかにこだわらず、幅広い選択肢の中で自分に最もあった場所を考えていくべきことを認識しました。

最後になりましたが、このプログラムを企画してくださった五所さんをはじめ国際化推進室の方々、訪問先の研究室の先生方、一緒にプログラムに参加したメンバー、心から感謝をしています。これからもこのプログラムが継続していくことを願って、自らもこのプログラムの経験を今後の研究生活に生かしていきたいと思います。

樊 星

ESSVAP 7th の応募申請書において、"大学院を海外で学ぶことを考えおります"と書いた。結果として、海外留学の思いはこのプログラムを通して弱まった。このプログラムを通じてアメリカの強みを多く実感できたのは確かであるが、しかし同時に、日本の強みを実感できたのもまた確かである。

実際、私の大学院留学に対する思いは、むしろ"夢"のようなものであった。アメリカの教育レベルは非常に高く、研究環境は理想的なものだと思っていた。留学するにあたっては多くのアドバンテージがあり、日本にとどまるのは挑戦的でないと思っていた。実際、アメリカの教育や研究レベルは非常にたかく、当初の理想と全くかけ離れていないことがこのプログラムでよくわかった。Caltechの院生の方々は非常に賢く、かっこ良かったし、留学に関する英語力、学力、生活力等の大きなトラブルもこのプログラムでは感じなかった。しかし、アメリカで研究者や院生の方々と話していると、彼らは常に日本のことにも言及する。とりわけ私の興味である素粒子実験に関しては、どの教授も日本を非常によく褒めていた。多くのすばらしい研究者が日本にいらっしゃり、多くの実験が日本グループに率いられ、また多くの優秀な加速器、検出器が日本にはある、と。そのとき、私は自分の留学したいという思いはただのあこがれにすぎず、脆弱な基盤の上に成り立っていたものであり、子供が"野球選手になりたい"というのと何ら変わらないと気づかされた。

教授や院生の方々がしきりに強調されていたのは視野を広げることであった。何かを選択する時.自分の分野、研究室、将来の研究.、その選択肢を偏った始点からではなく、いろいろな角度から、すべての長所、短所を評価し、自分の将来を長い目でよく考えた上で判断しなければならない。この考え方は私にとって衝撃的でもあった。私は自分の将来について非常に狭い視野で考えており、本当の意味でのアメリカの強み、ポスドクとしてのチャンス、将来の研究の流行、そして日本、中国、ヨーロッパなど他の国の強みなどを全く知らなかった。私がすべきことは自分のすべての可能性について等しく重要視し、等しく熟考し、簡単に選択肢を切り捨てないことであった。

東京に戻ってからは、東京大学の教授方に研究室訪問の依頼を送った。私は自分の視野をなるべく広げるようつとめようと思う。これが私がこのプログラムを通じで学んだ最大のことだと思う。私の狭い視野に気づかせてくれたこのプログラムに感謝したい。7th ESSVAPを主催して頂いた理学部、一緒に参加した7期生.もし君たちがいなかったらこんな輝かしくはならなかっただろう.、そして我々を最大の配慮とともに支援してくださった五所恵実子先生に感謝申し上げたいと思います。

田畑 陽久

今回のプログラムで研究室を個別訪問(文字通りソロ訪問である)した際、全員にした質問がある。それは「よい科学者になるために、必要だと思うことはなんですか」という質問である。今回訪問した方々はみな立派な研究者ばかりであり、恐らく自他共に認める「よい科学者」であろうから、これは事実上「あなたが成功した秘訣はなんですか」と尋ねているにほぼ等しい(人は経験からしか語れない)。にも関わらず、全員からほぼ同じような回答を得てしまった。

まず、全員が挙げていたのが「よい質問ができること」だった。これは大変耳が痛い指摘で、実際実習の成果発表会などで毎回先生方に言われることが「君たちはもっと質問をしなさい」なのだ。しかし、よい質問をすることは大変難しい(質問するだけなら可能だ)。一般に言って「よい質問」とは、①まだ答えは分かっていないが、②しかし答えが分かったとしたら驚きが得られるような質問のことである。相手が「わかっていない」ことを知らしめ、困らせるような質問こそがその研究を次へと繋げる。当然、これは自分で研究を推し進めていく際にも必要な能力であり、確かにエッセンシャルなスキルであると言えるだろう。

また、表現こそ違えど、多くの先生が挙げていたのが「いろんなことに興味を持つこと」と「広い視野を持つこと」だ。大意としては「過度に専門化するのではなく、幅広く学び、柔軟なパースペクティブを持て」ということだと思う。特にSchopf先生の "Nature is not compartmentalized." という言葉が印象的だった。学問の枠組みは人間が恣意的に決めたものである。そこに拘泥するのではなく、常に様々な可能性を模索せよ、ということだろう。それ以外だと「自分にとって関心のある、何か大きな問題を持つこと」も複数の方が挙げていた。科学の議論は文字通り闘いであるのだから、気が弱いやつはだめだ、とおっしゃる先生もいた。これも耳の痛い指摘である。

実際の研究に携わったことがない以上、友人たちと将来を語り合うときもなんとなく修士に進学しようということだけ決めて、研究者になるの?という質問に対しては自信をもってyesとは答えられずにいた。しかし今回のプログラムで、実際に研究者とお話しする機会を得られたことにより、なんとなくの「あるべき姿」に埋もれていた、本当の「自分自身の気持ち」に気付くことができたことが何よりも収穫だった。上記のことに加えて研究者になるために極めて重要なこととして「研究を楽しいと思えること」というのもまた多くの先生があげていた。実際、今回個人で訪問した先生方の内にはすでに退官されている方もいたが、それでもなお精力的に研究をなさっており、そういった姿には大変心を打たれた。他にもRunnegar先生の「一度きりの人生なのだから、すきなことをとことんやってみるのがいい」という言葉を始めとし、Schopf先生の「好きなことをやってそれが仕事になるなんて、全く研究者はいい仕事だよ(それが上手くいけばだけどね)」という言葉など、結局のところ自分がどうしたいかなのだなと気付かせてくれた。将来のことは確かに心配だが、「なんにせよとりあえず飛び込んでみる・やってみる」というアメリカンマインドと、「きちんと成果を出せば、がんばった分はきっとみんな認めてくれる」というこれまたアメリカンな思考(どちらかというとこれは西海岸的と言ったほうが適切かも知れない)などなど、頭でっかちになっていた自分の将来設計に対し、大変刺激となった10日間だった(ただしアメリカンマインドを無条件に肯定するものではない)。

話は変わるが、このプログラムでは個別訪問する研究室のアポイントメントは自分自身でとらなくてはならない、というのも結果的にはある意味非常にいい経験になった。教授とメールのやりとりをするということ、一人で研究室を訪問すること、初対面の方と外国語でやりとりすること等々、緊張しっぱなしの10日間でもあった。おかげで随分と精神的に鍛えられた気がしている。とはいえ、今回お会いした方々はみな大変フレンドリーで親切に対応してくださり、なんやかんや最終的にはお願いしたアポイントメントは全てとることができた。ホームページと代表的な論文をかじっただけの自分の質問にもみな丁寧に対応してくださり、これからも連絡をとり続けよう、と言った下さった方もいた。これらのことは、自信にも繋がったし、大変励みにもなった。

最後に、これは恐らく他の人も書いていることだと思うが、今回の訪問では随所でinterdisciplinaryという言葉を耳にした。日本語に訳せば「学際的」ということで、アメリカでは近年interdisciplinaryな研究が盛んになっているという。学際的な研究を行うには、グループでの研究活動が必要になる。そういったときに必要になってくるのは、どうしても人間同士の有機的な繋がりであり、そのような状況下にあって今回のような実際に研究されている方と会って仲良くなれる(笑)というプログラムに参加できたことは非常に有意義であった。特にCaltechのKirschvink先生には現地ではもちろん、帰国後にあったELSIのシンポジウムにも招いて頂くなど大変よくしてもらっており、本プログラムに参加することなくしてはこのようなことはありえなかったと思う。このような素晴らしい機会を与えてくださった東京大学理学部、並びにUCSB, UCLA, Caltechの皆様、そして本プログラムに関するありとあらゆるサポートをして下さった国際化推進室の五所恵実子さんに感謝したい。どうもありがとうございました。なお、本プログラムのメンバーには感謝というより、今後ともよろしくというスタンスでありたいと思っている。世界中に散り散りになりつつも連絡を取り合う、そんな日が来ることを願って。精進したいと思います。

遠藤 健一

日本か海外か。ESSVAPに向けて準備していくにつれ、その問いについて考えざるを得なくなった。勿論大学進学の段階でもその選択肢はあったはずだし、進学後も大学院について考える必要があったはずなのだが、出不精な僕はあまり深く考えておらず、何となく日本の大学に行き、日本の大学院に行くものだと思っていた。ESSVAPに応募した動機も、向こうの文化や風土、考え方を知りたいという単純なものであった。

しかしESSVAPの選考を通過してから、向こうの大学について調べたり、大学院留学の説明会に出たり、留学予定のESSVAPの先輩の話を聞いたりと自然に意識が動き、海外という選択肢は俄に現実味を帯びた。そのためESSVAP自体もただ見識を広げるためだけではなく、自分の進路を決めるということも大きな目的となった。

結論から言えば、僕は日本を選ぶことにした。結果だけ見ると前と何も変わっていないが、このESSVAPを通して貴重な知識と体験を得られたし、それによって日本でやっていくことに対して自信を持てるようになったのは大きい。また、たまたま自分の興味のある分野や自分の感覚などの兼ね合いで日本を選ぶことになったが、少し状況が違えば海外を選ぶという結末もあり得ただろう。

今回UCSB, Caltech, UCLAと三つの大学を訪問したが、これら三つの大学はそれぞれかなり雰囲気が違っていた。例えば、UCSBはのんびりした雰囲気なのに対しCaltechはきびきびとしていて、UCLAは幅広いというように、一口に海外の大学、アメリカの大学として括るのは無理があるかもしれないと感じた。しかし三大学で共通して日本の大学と決定的に違う部分もあり、それは共同研究、学際研究の多さだった。色々な研究室で共同研究について聞いたところ、向こうでは自分の専門でまかないきれない部分については他の研究者と協力し、それぞれの専門分野を活かすという風土が当たり前のように根付いており、日本にはあまり無いものだと感じた。また、学際的な研究が推進されており、生物物理や物理化学といった分野横断的な研究が行いやすいことも感じた。僕のように化学、特に超分子錯体化学がやりたい場合については、あまり学際研究には魅力を感じなかったが、共同研究は面白いと思った。日本は各研究室内の縦のつながりは強いが、横のつながり、すなわち研究室間での協力といったものについてはまだ弱いらしい。この点は自分が将来研究者になったときには意識していかねばならない。

しかしそれ以外について、日本と海外の学問的な違いというのは見当たらなかった。彼ら自身も「科学は世界の共通言語」とのたまい、人種が違えば文化的な違いは大きいが、それが学問に与える影響には首をかしげた。実験設備も日本とさほど変わらない。もちろん生活の違いを体感するのは大事なことなので、特にやりたいテーマがあるのでなければ、3ヶ月.1年程度の短期留学でよいという話を受けた。共同研究や学際研究よりも、一つのテーマを自分で掘り下げたい自分の性格としては、その選択肢はとても理想的であるように思われた。

このESSVAP全体を通して、文字通り色々な可能性が広がり、また逆にその可能性を狭めて道を選ぶことができた。もちろんこれは決断ではなくまだ変わる可能性があるが、今のところ自分の納得できる結論である。このプログラムで得られた情報と、体験と、感覚は非常に貴重なものであった。最後に、我々の訪問を快諾してくださった各大学の先生方、案内して頂いてスタッフの方々、この素晴らしいプログラムを作って頂いたILOの方々、そして何より現地で引率して頂いた五所さんには、この場をお借りして深く感謝を申し上げたいと思います。ありがとうございました。皆様のご期待に応えられるよう、これからの研究を頑張っていきたいと思います。

大出 千恵

このプログラムを通して心に残ったことは、書き尽くせないほどあるけれども、そのうち「女性性」と「学際性」の2点に絞って総括を述べようと思う。

東大理学部は女子の人数に対して懸念を抱いているようで、様々なアンケートやプログラムを実施している。たとえ実感がなくとも、「女性性」は問うべき問題として扱われる、そのような文脈があるように感じていた。

そこでアメリカの学生に、「理系の女子学生が少ないことをどう思うか」「研究環境において性別はどのように影響するか」と問うたが、その答えの多くは、日本でも語られる事柄に留まっていた。寧ろ、メンバーである生物学科の内田さんが答えた、「理系が得意な女子、というだけで男性から蔑視を受ける環境が、日本には普通に存在している」のほうが、私には遥かに衝撃的だった。

一方UCSBのキャンパスツアーで学生寮を紹介されたときのささいな一言目、「ここには独身の生徒はいません」は、ここでは学生結婚は特別珍しいものでもなんでもないのだ、という事実で裏打ちされているように聞こえ、日本との違いに驚かされた。しかし、CaltechとUCLAで学生結婚について聞くと、いずれもかなり珍しい、という返事が返ってきた。

差異は何も、日本とアメリカの間に限らないし、必ずしも直接的な問いの答えに現れない。すべきことは「女性の人数が.」や「アメリカに比べ男女同権が.」といった抽象的な言説を捏ねくり回すことではなくて、目の前に生じてくる問題一つ一つに、具体的に対応することなのではないか、と感じさせられた。

「学際性」、という単語は日本でもしばしば聞かれるが、その具体的に意味するところが掴みにくい、という印象を長年持っていた。

アメリカで訪問した多くの研究室で、共同研究はとても自然なことのように意識されていた。学際学問を支えるものは、制度や建物の形にも表れる。Weiss Groupで知った研究室所属の仕組みや、CNSIという施設の存在は正にその典型であり、大学のシステム自体が持つ影響力の強さについて考えさせられた。

また、アメリカにおける「越境」の意識は、科学の内部に留まらないように思われる。日本ではSTAP細胞問題で科学に関する報道のあり方が批判の対象にはなったが、アメリカにおけるscience communicatorのような仕事は、まだあまりメジャーでないだろう。

共通の前提知識がない異分野間での交流では、表現内容だけでなく方法が重要になってくる。関心のない人間の一瞥を縫い止めることにおいて、アメリカ人は上手いなと思わされることがしばしばあった。例えば、UCSBのカウンセリングルームで、マッサージチェア20分使い放題と言うのを聞いて、気軽に訪れたいと思った。このような広告を通じて、学生はよりこの施設に親しめて、実際必要なときにも躊躇なく訪れられるのではないだろうか。

知ることと伝えること、というコミュニケーションの基本に、アメリカという多民族国家の強みがあるのかもしれない。国際化が進む近年、日本は自らの(見たところの)文化的言語的同質性に頼るわけにはいかなくなるだろう、と思わされた。

視野を広げたい、と書いて応募したプログラムの最後ようやく、その意味するところに理解を示せたような気がしている。わたしたちの目を「海外」と、日本の中の「外界」に、鋭く開くこと。自分ひとりで手を広げることではなく、ひとりでできないことを、他者と協同すること、そのための他者を探すこと。他者と繋がるための土台を築くこと。具体的な努力としての語学であれ文化的背景の理解であれ、続けることが必要だと感じている。

アメリカの研究環境を知る、空気を感じる、に留まらない、多くのものを得られた、このプログラムに参加できて嬉しかった、と心から感じている。

私たちを支えてくださった理学部と国際化推進室のみなさま、特に直接引率してくださった五所さん、訪問先で出会い、案内してくださった全てのかたがた、共に旅したメンバー、お世話になった全ての人に、この場を借りて感謝を述べたいと思います。どうもありがとうございました。

内田 唯

プログラムへの参加理由は3点あった。研究室での学生の在り方・女性研究者の生活・学際交流のシステムのそれぞれについてアメリカの方式を見ようと思っていた。率直に言うと前の2点については感銘を受けるほどの吸収の機会はなかった。現地の学生と接したのは昼食でのせいぜい1時間強、また研究室への個人訪問では教授と面談という形であったため深く観察をする時間はなかった。

3点目の学際交流こそが本プログラムで大半の時間が割かれたメインパートだ。他学科の研究機関にグループツアーで訪問すること・他の人の個人訪問に同行させてもらうこと・そして参加者同士で互いの分野について話すこと。参加前は想定していなかったが、プログラム期間中の生活時間のほとんどは「他分野との接触」であった。今まで同じ理学部内と言えど他学科は実体として把握できない存在にすぎなかったと、それゆえ特に興味を持ちうる対象ではなかったと本音を言ってしまおう。しかし異なる興味とバックグラウンドを持つヘテロな集団は恐ろしく興味を刺激し、学部所属からの1年を内にこもり無駄に過ごしていたと痛感するほどであった。

私が個人的に得られたものは、アメリカの教授方・学生達から受けた刺激や留学への興味、英語力欠如の自覚など多くあるが、周囲に還元できうるポイントとなるとやはり学際交流を広めることだろう。全くの他分野と交流することがどれ程エキサイティングか、知らなければ同分野との交流に目が行ってしまうのは当然のことだと思う。そこで学際交流に、いやもっと気取らず言えば他分野の人との交流・繋がりの形成に、開眼した私たちが東大内での波及に努めていくべきなのだろう。日常に忙殺されプログラムで得られた興奮を忘れてしまう前に、動きたいと考えている。

最後に人生を変えるような貴重な体験をさせてくださった東大理学部・アメリカの3大学の方々・五所さん・ESSVAPメンバーへの心よりのお礼を申し上げる。

今田 雄太郎

私は将来、バイオインフォマティクスにおいて、生物のデータから一目見ただけでは分からないような情報を数理統計や情報科学を駆使して抽出し、生物学的に重要な事実を発見する研究を行いたいと考えていました。UCLAのProf. Eleazar Eskinは、Mismatch Tree Algorithmを用いて複数遺伝子制御配列の発見を可能にしたり、Support Vector Machineにおいて、Spectrum KernelやMismatch Kernelを用いることでタンパク質の線形時間分類を可能にするなど、非常に興味深い研究をされており、ぜひお話をお伺いしたいと考えていたので、それが応募した大きな動機でした。

残念ながら当日は先生がご不在のためお会いできませんでしたが、研究室の大学院生から話を伺うことができ、それもまたアメリカの大学院を知るよい経験になりました。

しかしながら、実際にアメリカ西海岸の大学を訪問して経験できたことは、specificな研究内容以上のことでした。 UCSBでは学際研究が盛んで分野の垣根の低さを実感し、UCLAでは産学連携の研究を肌に感じ、Caltechでは基礎研究の重要性を再認識したものの、いずれの大学においても、研究者が新しい考えに敏感で、新たな領域を積極的に開拓しようとする姿勢が感じられました。

各大学で出会った大学生・大学院生からも沢山の刺激を受けました。 とりわけCaltechで出会った学生には、学部生の早い段階から研究の最先端に関わっているモチベーションや能力の高い学生もおり、将来こうした方々と研究の現場で相対し、あるいは共同研究などを行うことを考えると、非常に身が引き締まる思いで、自分も更に努力を積み重ねなければならないと動機づけられました。

ESSVAPでは、アメリカ西海岸の3大学の研究者の具体的研究に関する質問や議論ができたことはもちろん、それ以外にも研究の気風や、学生の意識の高さなど、様々なことを経験でき、それは同時に自分自身や、日本での研究を問い直すことになりました。また、普段あまり交流する機会のない他学科のESSVAPメンバーにも刺激を受け、互いに将来について考えることができたことも、自分にとって大きな糧となりました。 この経験は大変貴重なものですので、自分の周りの学生間でもこの経験を共有し、将来に役立てたいと思います。 次年度のESSVAPも必ずや実り多いものになると確信していますので、貴重なこのプログラムを今後も長く続けていただきたいと考えています。