ロックフェラー大学

理学部学生選抜国際派遣プログラム 第6回 Yale and Princeton

マンハッタンにあるロックフェラー大学(The Rockefeller University)は、生物・医学系の研究機関としては世界屈指である。もともとはロックフェラー研究所として発足し、その後ロックフェラー大学となった。ノーベル賞受賞者多数で、現在でもキャンパス内で何人ものノーベル賞受賞者が研究に励んでいる。歴史的に見ても、生物学的に重要な発見の多くがロックフェラー大学でなされていて、例えば以下のようなものが挙げられる。

  1. オズワルド・エイブリ―はタンパク質でなくDNAこそが遺伝情報を伝える物質であることを証明した。
  2. カール・ラントシュタイナーは血液型(ロックフェラー大学ではRh因子)を発見した。
  3. ロデリック・マキノンはチャネルタンパク質が特定の物質のみを通過させるメカニズムを解明した。

野口英世もここで研究に従事していたことは有名である。キャンパス内には英世の胸像がある。しかし我々(鹿野、小長谷)が訪れた際にはファウンダーズ・ホールが改修中で胸像は移動されていたため、見ることは出来なかった。

ロックフェラー大学は大学院大学であり学部生は在籍していない。ゆえにこの大学はより研究機関としての様相を呈していることが納得できるだろう。

キャンパスもイェール、プリンストンと比べてしまうと非常にコンパクトであると言わざるを得ない。大都市ニューヨークの一画にひっそりと佇んでいる。しかしながら、キャンパス内は緑豊かで、真っ白な岩で舗装された通路とのコントラストが印象的である。MoMAから一時的に移動してきた彫刻作品の数々もキャンパス内に展示されていて、さながら研究者たちの憩いの場となっている。さらにキャンパス内には教授や学生が利用するバーもあり、従来抱いていたロックフェラー大学の厳粛なイメージとはまた違った一面が見られた。

ロックフェラー大学の主な研究棟は3つほどある。他にはドームのような形をした講義棟、学生の宿舎、研究者の関係者が利用できる宿泊施設などがある。決して大きくはないキャンパス内であるが高密度で建物が建っており、研究から私生活まで、ほとんどをこのキャンパスで過ごすことが出来る。

Dr. Gunter Blobel's Lab

ブローベル博士に直接メールしたところ、その日はご都合が悪くお会いできないとのことで、アシスタントの吉田さんが対応してくださった。

ブローベル博士と言えば、もともとはシグナルペプチドの発見でノーベル生理学・医学賞を受賞されたことで有名である。タンパク質はアミノ酸が連なったポリペプチドで構成されており、それがさらに特定の立体構造をもつ。細胞の中には様々に区画分けされており(ミトコンドリア、葉緑体など)、合成されたタンパク質がどの区画へ輸送されるべきか、タンパク質自体が情報を持っていなくてはならない。自らの行き先が書かれたいわばタグとしての存在が、シグナルペプチドである。シグナルペプチドはタンパク質を構成しているポリペプチドの内のごく一部分(~15アミノ酸残基)である。

現在、ブローベル研究室では結晶構造解析を行っている。対象は核膜孔複合体である。核膜孔複合体は核膜上にあり、核膜上にある核孔に1つずつ存在し、物質の輸送を制御している。立体構造はバスケットゴールのような形をしている。細胞分裂の際にこの複合体がどの様な挙動を示しているのかというのがブローベル研究室の研究対象の一つである。我々は普段、細胞分裂の際に核膜は一時的に「消失」すると習っている。しかし核膜を構成している物質自体は細胞内に存在している訳で、これらは実際どのような挙動を示しているのだろうか?このような普段気が付かないような疑問にこそ、大発見が眠っているものなのだろうと実感した。

研究室での生活について質問してみた。特にミーティングのようなものはどれくらいの頻度であるのかが気になった。ノーベル賞受賞者の研究室であれば、さぞかし話し合いは多いのだろう(少なくとも週1回は必ず)と漠然と考えていたからである。しかし意外にも、研究内容や手法は各自に任されているようで、研究の成果がある程度出たところで、ブローベル博士との2人でのディスカッションがあるとのことである。ブローベル博士は非常に多くのアイデアを持っていて、いつも非常に驚かされると吉田さんはおっしゃっていた。

Dr. Titia de Lange's lab (telomere)

日本人の研究者の方のご厚意で飛び入りではあるが、研究室を案内して頂いた。この研究室ではテロメアの研究がなされている。テロメアを調べるための独特な実験手法があり、それの説明を聞くのが非常に興味深かった。

テロメアはDNAの配列の一部で、両端に存在する。細胞分裂を繰り返していくとテロメアは次第に短くなる。テロメアの長さを調べることで細胞の老化など、様々なことがわかる。DNA中のテロメアの長さを知るために、非制限的にDNAを切断する方法がある。テロメアとセントロメアなどの繰り返し配列は非制限的に切断されないという特徴がある。処理したサンプルを電気泳動すれば、テロメアのバンドが検出され、検出位置からテロメアの長さがわかる。標識には放射性物質を用いる。

実験内容以外にも、日本とアメリカの制度の違いを思い知らされるエピソードがある。ごく普通の実験スペースであるにも関わらず、放射性物質が机上に置かれているのだ。放射線から人体を守るための透明な保護板もあり、どうやらそこで放射性物質をもちいた実験を行っているらしい。これには非常に驚いた。なぜなら日本では放射性物質の取り扱いはRI室という特殊な部屋の中でのみ許可されているからである。実は放射性物質の取り扱いは日本よりも厳しくない。アメリカでは、いくつか追加のルールはあるが、それ以外はほぼ通常の物質と同様に取り扱うことが出来き、放射性物質を扱うための特別な部屋はない。ただし、使用の際に保護板が必要であり、管理が甘くならないように各自できちんとした管理が欠かせない。

(鹿野 悠)