理学部生海外派遣プログラム

第3回 UC Berkeley & Stanford Part.2

学園*陶冶

UC Berkeley

図17 図16 図18

University of Cali-fornia, Berkeley は1868年に設置されたカリフォルニア州の州立大学、University of California(カリフォルニア大学)の本校である。

サンフランシスコのダウンタウンからBART(サンフランシスコにめぐらされた都市交通)に乗って30分、Downtown Berkeley駅の近くにその大学はある。もしも道に迷っても、群青色の生地に黄色で『Cal』と書かれたパーカーを身にまとった若者の後を追えば、目的地にたどり着くことができるだろう。

丘陵地帯に点在するBerkeleyの建築物は皆それぞれ個性的で、日が沈む頃合いになると一斉に夕陽に照らされて輝いている。キャンパス内で一際目につく塔状の建築物はSather Towerである。このタワーの屋上の展望台からはUCBのキャンパスのみならずバークレー、そしてカリフォルニアの街並を一望できる。大学内のミュージアム、ホール、図書館などはどれも荘重な佇まいで、且つ大学生活を充実させるための実用性も兼ね備えている。

この大学の特徴を端的にまとめれば、それは『団結と多様性の融合』と言えるだろう。 日本においては多くのシチュエーション下 で、『団結』という言葉はある集団に属する人間が、その集団内においてプライオリティーの高い人間、組織の以降や決定に盲目的に従うという意味が包括されている場合がしばし見受けられる。そうした意味でこの言葉を解釈するならば、UCBの雰囲気というのは、『団結』と言ったものからはほど遠い。多様な人種、宗教、背景をもった学生から構成されたこの大学のコミュニティーは、いにしえから多くの闘争と混乱の歴史を歩んできた。ヒッピーの発祥で知られるバークレーのリベラリティーはこの大学に深く根付いており、フリースピーチムーブメント、イラク戦争反対運動など多くのムーブメントがこの大学を震源として発生してきた。

一方、UCBには日本の大学とは比較にならないほどの『団結力』が備わっていることは特筆に値するであろう。前述の通り、UCBのキャンパス内では『Cal』のTシャツやパーカーを身にまとった学生を多く見かけるし、実際に学生一人一人に話を聞いても、自分がバークレーの学生であることに誇りを感じているのを強く感じた。

このように、一見対照的に捉えられやすい2つの側面が共存するのは、我々の大学に対する価値観からさしはかれば、異質な印象を与える。しかし、アメリカの歩んできた『人種の混合と国民の団結』という二律背反的な歴史を鑑みた場合、こうした組織のあり方というのはこの国では自然なあり方なのかもしれない。

(有松)

大野研

バークレー三日目の朝のLab VisitはLeConte HallにあるAdrian Lee教授の研究室を伺った。その研究室はミリ波/サブミリ波天文学の検出器製作をしているところで、現在そこに所属している大野先生のご協力でLab Visitが実現した。Adrian教授に直接お話を聞ける予定だったが、急遽早めにStanfordに出張に行かれたということなので、代わりに大野先生が説明して下さった。

研究内容は超伝導技術を?用して高感度のX線検出器を作るというもので、物理もしくは天文学科の学生以外には多少難しいものだったが、学生が積極的に質問をすると大野先生は関心なさっていた。パネルでの概要説明の後には、製作中の検出器感光部を直接見せて頂いて、それを搭載する検出器本体や、その冷却システムまで詳しく説明してくださった。

一見しても我々にはどこが特別なのか分からなかったが、この研究室で作っている検出器には日本にはない特殊な工夫や高い技術や使われているらしい。大野先生はそれらを日本に持ち帰るため短期滞在していて、この研究室にいることは大変勉強になると仰っていた。

また、研究室にはBerkeleyの院生の高橋有希さんもいらっしゃった。高橋さんは日本出身だが、高校からアメリカにいて、カルテクを出た後この研究室でCMB(宇宙背景放射)の検出器を作っているらしい。CMB検出器は南極や高山に置くので前の検出器の設置や点検で南極には4回行き、今作っているものはチリの山に置かれると仰っていた。

大野先生は我々に研究室を一通り説明して下さったあと、次に向かうGoneriの方と連絡を取って、我々をわざわざGoneriまで案内して頂いた。朝9時からのLab Visitだったが本当に丁寧に対応して下さった。ありがとうございました。

(写真はチリのアタカマ山脈におかれる予定のCMB検出器。隣で熱心に説明をして下さっているのが大野先生。)

(藤田)

Bower Lab

Astronomy Lab Campbell Hall 中にあるAstronomy LabにはProf. Geoffrey Bowerが案内をしてくれた。 まずは、Campbell Hall内にある学部生が使用する部屋に案内された。この部屋には、学部生が演習などで使用するPCや、過去の演習での観測成果などが貼ってある掲示板などがあった。

続いてHallの屋上に上がると、そこには所狭しと学部生の実習で用いる望遠鏡が —2 台の電波干渉計、21cm輝線を観測するための望遠鏡、そして可視光や近赤外での観測に用いる光学望遠鏡がおさめてあるドームなどがあった。電波干渉計は学生が天体の高度や方位角を計算し、太陽の視直径などを算出する演習に用いていると言う。また、21cm線観測の望遠鏡も銀河面に沿った中性水素の輝線の観測演習に用いて、観測データのDopplerシフトから銀河面での中性水素ガスの2次元分布を求めていた。

(有松)

Stanford

図19 図20 図22 図23 図21 図24 図25 図26

Stanford大学は私立の研究大学で、米国屈指の名門校である。当時のCalifornia州知事だったLeland Stanfordとその妻Jane Stanfordが15才という年齢で若くして亡くなったLeland Stanford Jr.の名を残すために、農場の土地を元にしてつくったのが起源である。キャンパスはPalo Alto市に隣接して位置し、そのサイズは8000エーカーをも越え、毎年6700人の学部生、8000人の大学院生を受け入れている。大学のシンボルはSan Francis-quito Creekにあるセコイアの木で、この木はPalo Alto(tall treeの意)市の名前の由来でもある。シリコンバレーの近くに大学があるため周辺の物価は高いが、今日のシリコンバレーの繁栄はStanfordの卒業生によるところが大きい。例えば、有名なYahoo!、Google、Hewlett-PackardなどもStanfordの卒業生が起業した会社である。

キャンパスを歩くとUC Berkeleyとの雰囲気がガラリと違うことに気づく。例えば、Berkeleyではアジア系の学生が多かったのに対し、Stanfordの学生のほとんどが白人である。また、キャンパスおよびその周辺は概して静かで、Berkeleyで見られた活気はあまり感じなかった。大学に近いショッピングセンターがあまりに閑散としていたので、採算がとれているのか心配したほどである。スポーツに関してはUC Berkeleyとライバルの関係にあるが、研究においては様々な面で協力がなされているそうだ。

施設や建造物にもStanford独自の特徴が見られた。Main Quadに代表される多くの建物がレンガでできており荘厳な雰囲気を醸し出しているいっぽう、比較的新しい建物(Clark Centerなど)にはガラス張りの建物が多かった。訪問した建物のうち後述するものを除けば、Hoover TowerとMemorial Churchが特に印象に残った。Hoover Towerは大学の創立50周年を記念して建てられた285フィートのタワーで、エレベーターで最上階にのぼると360度の絶景を楽しめる。最上階には48個のベルがあり、一番大きいベルには"For Peace Alone Do I Ring"と刻まれている。また、1階のロビーには第31代大統領のHerbert Hooverとその妻Lou Henry Hooverの生い立ちと経歴についての展示があった。ともにStanfordの卒業生であり、このタワーの名前の由来である。一方、Memorial Churchは西海岸で最初に建てられた全宗派の人が使える教会である。壁にはモザイク画法でキリストなどが描かれており、ステンドグラスも印象的だった。

(松井)

山本研

山本研究室では、「光子やスピンを利用した量子情報処理」、「量子多体系と量子シミュレーション」の2本の柱で実験を行っている。

初めに私たちは、量子情報の方の実験室を訪問した。さまざまな光学素子が机上に所狭しと並んでおり、手で触れたりしないように注意せねばならなかった。院生の方が器具について説明してくださったが、特に目新しいようには思えなかった。

続いて私たちは量子多体系の研究室へ移動した。そちらでは山本先生が『励起子ポーラリトンのボーズ・アインシュタイン凝縮』『ベレジンスキー-コスタリッツ-サウレス転移』などについて、実験結果を交えながら説明してくださった。何といっても、励起子ポラリトンのような準粒子を先生がまるで見ているかのような話しぶりだったのが印象的だった。

最後に私たちはアメリカの大学の大学院入試などについてお話を伺った。GREの国語(英語)は、外国人にとっては難しすぎるため、採点者側もはなから期待していない、ということが衝撃的だった。

(渡邊)

西野研

Nishino lab visit (2009/03/10)

研究室の紹介
睡眠と概日時計の関連を研究している。特に睡眠と概日時計の関連を研究している。特に、課題にされているのは(1)睡眠覚醒サイクルの制御とその生物リズムを分子的にかつ行動的に理解すること、(2)概日時計の障害を考慮した睡眠障害の薬をつくるにかつ行動的に理解すること、(2)概日時計の障害を考慮した睡眠障害の薬をつくること。
西野先生が居眠り病とそれに関連する因子hypocretin/orexinについて説明してくだ さった。研究室には、hypocretinを欠損したマウスを作成でき、このマウスには居眠り病のような症状が見られる。
研究室の見学
実験装置やマウス部屋などを見せてもらった。マウスの行動を観察するために、チップをマウスのお腹に埋め込んで、このチップを認識するセンサーを床の下に置くことにより、マウスの移動を記録することができる。実験に使用するマウスは自分で管理するが、マウスの維持などは東大と違って、動物センターみたいな所が全部やってくれる。研究室には人数少ないから、一人当たりの実験スペースは生物化学科の研究室より大きい。

(写真。右:マウスの行動リズムを記録する装置、左:マウスの脳波を測定するチャンバー)

(ヒエン)

James H. Clark Center

James H. Clark Centerは生物学•医学•工学•物理学などが協力して生命科学の問題に取り組もうという学際的発想の元に始まったBio-Xプログラムの中心地であり、Netscapeシリーズの開発などで有名なJames H. Clarkの寄付を元に2003年に完成した。医学系•理学系•工学系の院および病院に囲まれた立地は、さまざまなバックグラウンドをもつ研究者同士の交流を促進するのに適している。建物は全面ガラス張りであり、外から中の様子がまる見えである。また、ラボ間には壁がなく、他のラボとの交流が容易にできる設計となっている。机は可動式であり、好きなときに好きなようにラボ内を改装できるようになっていた。東大では考えられないような斬新な設計の建物であり、学際的事業を行うにあたって極めて有効なデザインだと感じたが、個人的には外からラボ内の様子がまる見えの状態で研究に集中できるのかという疑問も抱いた。

約1時間のCenterツアーでは、まずClark Centerの建設の歴史と意義についてのビデオを30分ほど視聴した後、大学院生の方にCenter内の一画を案内してもらった。そこではタンパク質の立体構造関連のシュミレーションが行われていた。また奥の部屋にはスーパーコンピューターがずらりと並んでいた。

ツアー終了後に中河西君とwetな実験系のラボが集まっている一画にも侵入してみたが、特に誰もこちらに注意すら払わなかったことからもClark Centerのopenな雰囲気が感じ取れた。逆に言えば盗難対策等が甘いということでもあるが、Stanford大学およびその近辺は治安がとてもいいので特に心配はないらしい。

(松井)

ロダン美術館

スタンフォード大学の中にあるCantor Arts Cen-terにてロダン作品を見た。ここは、パリのロダン美術館に次いで世界で2番目に多くのロダンのブロンズ作品を所蔵しているとのことだ。水曜に行ったので、説明員の人が作品の背景について説明してくれた。そこで、初めてあの有名な「考える人」という像がもともとは「地獄の門」という作品の一部としてつくられたと知った。Centerの中にも数々の展示があるが、「地獄の門」他何点かの作品は屋外に展示されている。今回は行けなかったが、Centerには庭の展示を見ながらゆっくりできるカフェがある。Cantor Arts Centerは質の高いコレクションが入場無料で見られるので、またスタンフォードを訪れることがあれば、ぜひ来たいと思った。

(佐々木)

California Academy of Sciences

Golden Gate Park内に存在するCalifornia Academy of Sciencesを訪問した。ここでは水族館、プラネタリウムおよび自然博物館を同時に楽しむことができる。 まずは水族館および自然博物館を見学した。熱帯魚やガラパゴス島の生物を見ることができた。

次に虫に関する映画を見た。蝶とカマキリの一生についてであった。他の虫を食べる場面など、描写がリアルすぎて少し気持ち悪かった。

最後にプラネタリウムを観賞した。デジタル式のプラネタリウムとしては世界最大のサイズを誇っているそうであり、宇宙への 旅を疑似体験できて感動的であった。

蛇などの爬虫類に触れたり、研究室での解剖の様子をガラス越しに見学できるなど、日本にはあまりないような展示があったのが印象に残った。

(松崎)

学外*散策

1.サンフランシスコの観光

図27 図30 図28

3月7日、8日の2日間にもともと組まれていた予定はCalifornia Academy of Scienceの訪問だけで、それ以外は自由時間であった。実質的には観光のために用意されていた時間で、メンバーはサンフランシスコを観光した。観光はESSVAPの主旨からはずれているので、ここでは観光で見て回った場所の紹介は最小限にとどめる。詳細は市販のガイドブックなどを参照されたい。

1.1 Lawrence Berkeley National Laboratory (LBL)

物理学科の4人で3月7日の午後に見学した。LBLはUC Berkeleyのキャンパスの東の丘の上にある研究所で、超ウラン元素や反陽子の発見など歴史的な業績を多数上げている研究所である。

まず、Freedman研のポスドクの市村さんにKamLAND実験について説明してもらった。この実験は神岡実験施設で東北大やUC Berkeleyを中心とするグループが行っているニュートリノに関する実験である。ニュートリノの混合角θ12の測定について説明してもらった。

そのあと、Advanced Light Source (ALS)を見学した。ALSは放射光施設で、円形の貯蔵リングの外側にX線を用いた研究を行っている実験室が多数配置されている。利用している分野は物性物理、化学、生物など多岐にわたる。案内してくれたポスドクの橋本さんは物性物理の研究者で、X線を用いて高温超伝導体のバンド構造や電子密度について実験をしている。

1.2 サンフランシスコの交通

サンフランシスコの交通はBART、路面電車、バス、ケーブルカーからなる。BARTは地下鉄で、5系統の路線からなる。サンフランシスコ国際空港とダウンタウン、近郊を結んでおり、UC BerkeleyへもBARTで行くことができる。最寄りはDowntown Berkeley駅である。Millbrae駅はサンフランシスコとサンノゼを結ぶCaltrainとの乗り換え駅で、Caltrainを使えばStanford大学の最寄り駅Palo Altoに行ける。

San Francisco市内ではBARTはダウンタウンの地下を走る。ダウンタウンからFisherman's Wharfなどの観光スポットに行くには路面電車、バス、ケーブルカーを使う。バスは市内を縦横無尽に走っている。ダウンタウン北の坂が急な所にケーブルカー、比較的平坦なところに路面電車が走っている。

1.3 サンフランシスコで観光した場所
California Academy of Science
別頄参照
Pier 39
桟橋の上にあるギフトショップ・レストラン街。
Fisherman’s Wharf
Pier 39を含む港町。水産物を売る店などが並ぶ。
Ghirardelli Square
サンフランシスコ名物のGhirardelli Chocolateの工場の跡地にあるレストラン・商店街。
Lombard Street
世界一曲がりくねった坂道といわれる坂道。
Coit Tower
テレグラフヒルの頂上に立つ塔。サンフランシスコ市街が一望できる。
Golden Gate Bridge
サンフランシスコとサンフランシスコ湾北岸を結ぶ橋。瀬戸大橋とは姉妹橋。
Union Square
銀座のような雰囲気のところにある長方形の公園。
Japantown
日本食レストランや日本のものが売っている店が並ぶところ。閑散としていた。

(川崎)

教育*現状

日米における教育制度の相違 今回のアメリカ訪問において教育制度の相違は我々東大生に強い刺激を与えた。アメリカの制度の一端を実際に体感し、またその制度のもとで育ってきた学生たちとの交流を通して、日本の教育制度の良し悪しに対してはっきりとした認識が持てるようになったと思う。この相違についてはいろいろな場面で耳にすることはあったが、実体験に勝るものはないというのはこのことでメンバー10人が各々のこれまでの経験と今回の経験を比較することができたためである。

アメリカの教育で一番大切なキーワードは「成績」である。アメリカにも受験戦争があるということでは決してない。むしろ大学へ入学するだけなら比較的楽にできるといわれているし、今回の交流でもそのことに触れている学生がいた。ここでいう「成績」とは彼らが大学において何をし、それに対してどのような評価が下されているかということである。日本ではある特定の大学へ入学することそれ自体が重要であるような風潮があるが、アメリカにおいて注目されていることは常に、今何をしていてこれから何ができるか、ということである。評価を下すという点では日本での評価と一線を画しており厳密な相対化が徹底して行われている。たとえば?人数のクラスにおいても成績はベル曲線を描くようにつけられる。成績評価を厳密に行うのはそれが就職採用において極めて重要な要素となっているからである。つまりアメリカでは優れた大学に進学することが目標ではなくその大学生活で素晴らしい成績を修め、大きな成長を遂げることを目標としているのである。そのため大学生が授業におわれる姿も珍しくない。それと比較して日本の大学では成績評価に厳密性はみられないように思う。東大では「優3割規定」が設けられているがこれは東大特有の進学振分けのためのものであるし、少人数のクラスには適用されていない。学生がもっぱら気にかけるのは合否であり、無事進学卒業できるかである。社会の注目するところも出身大学であり、成績は二の次になっているのが現状だろう。

次に教官が教育に注ぐ熱心さが違う。アメリカの大学ではいわゆる「終身雇用(tenure)制度」が完備されているが、その際の判定基準に研究成果、内外への影響力とならんで教育にたいする姿勢が含まれている。どういうことかというと一学期間の授業が終了すると学生による授業評価が実施され、その結果が直接あるいは間接に指導教官の昇進にかかってくるのである。そのため教官は学生からのフィードバックを真摯に受け止め良い授業をつくろうと心掛けているようである。東大においても学生による授業評価は実施されているが、その結果が教官側に反映されているかは疑問を感じるところである。そもそもその様な状況であるから学生側としても授業評価をする意義を見いだせず毎学期末の面倒な形式的行事としてしか受け止めていない。

また授業の形態も日本のそれとは大きく異なる。特徴はinteractiveであるということである。それゆえ授業への出席は絶対である。残念ながら私は実際の授業に出席する機会を持てなかったのだが、ディスカッションした学生が言うには多くの学生が授業中に自由に発言しているらしい。教官から学生への一方通行という日本で多くみられる授業風景からは想像できないことである。講義の規模低学年向けintroductionは数百人で、学年が上がるにつれ小規模になり専門科目は20人程度。さらに講義を補完するための?人数の討論や演習のための時間が設けられている。標準的な時間割は一つのコースにつき週あたり講義3時間、討論1時間である。討論の時間にはそのコースを担当するTAが学生の相手をし、質問に答えたり学習上のアドバイスを与えるそうである。TAは院生がつとめそれにたいして学費が免除されるといった制度が充実している。この時間は少人数であるからすべての学生に対して発言の機会が与えられ理解が不十分な点を徹底的に補う。多くのコースにこのような時間が設けられているわけだから学生は多くの課題に追われることになり、週末はあっという間につぶれてしまう。しかしこの制度のもとで学んできた学生はそれに誇りを持っているように感じた。確かにこれならば学習内容の定着はよいだろうし、学んだことに対して自分の意見を必然持つことになる。一方日本での状況はここで述べるまでもないが対極と言ってもいい。授業への出席は多くの場合求められず、また求められる場合でもそれは成績評価に用いられるだけで授業の進行に生かすためということではない。その反面学生には時間的余裕があるといえる。意欲ある学生は自主的に学び授業では得ることのできないような知識を個人的に得ることができる。これは日本の教育のよさのひとつであろう(「教育」と言えるかは若干怪しい気もするが)。

さてこのような教育制度の違いを反映してか、UC Berkeleyの学生たちは「愛校心」が大変強かったのが印象的である。話を聞いているとアメリカの大学では大学側が学生をぐいぐいと引っ張っていってくれているようである。授業の形態もドミトリーのシステムも学生間のつながりを強固にするように計画されている。よくいえば学生の自主性を重んじる日本の大学とは対極にあると言っていい。アメリカ国内に世界的に有名な大学がいくつもある層の厚さが愛校心を生んでいるともいえる。特にすぐ近くに位置するStanford Univ.に対するライバル心はすごいものである。しかし共同研究などは盛んにおこなわれていて、この競争と協力が健全な状態なのだろう。

以上UCBの学生4人とのディスカッション、キャンパスツアー、研究室訪問を通じて学んだアメリカの教育システム、それらから感じ取った雰囲気についてまとめてみた。断わっておきたいのが多少なりともバイアスがかかっているということである。例えば、私たち東大生との交流に積極的に参加してくれた4人はモチベーションの高い学生であるし、キャンパスツアーのガイドが誇りをもって大学を案内するのも当然である。10人の受け止め方もさまざまであろうが、程度の差はあれ皆刺激を受け今後に影響を与えるきっかけになったことは間違いない。

(康、中河西)

私たちは主張する

今回の訪問に通じて、私たちは東大のいいところやよくないところにより鮮明に弁別できるようになった。その経験を生かし、以下のように私たちが東京大学に提言したいことをまとめる。

  • 学習制度を完備させる。授業を改革し、学生たちが自由に意見を述べられるようにしたい。またTA制度をよくし、ただ採点するのではく、学生側としっかり連携するのが望ましい。たとえば、教授やTAにオフィスアワーを設け、誰でもその時間帯であれば質問できるようにする。
  • 「東大戻り」の枠を設ける。よりよい 教授陣を集うがため、東大出身 で外国でいい研究できている先生をひきつけるために、東大に就職させるために枠を作り、こういう人の便宜を図る。
  • 「横の壁」をぶち壊す。日本ではひとつの研究室がひとつの国のようなことがあり、ほかの研究室の交流が?ない。このような状況では研究にも学生にも好ましくない。したがって、交流を進めるように、報告会や交流会を開き、少なくとも東大内での自由な研究雰囲気を作りたい。

(康、中河西)