理学部生海外派遣プログラム

第2回 Cambridge & Oxford Part.1

Introduction

世に「オックスブリッジ」と呼ばれる二都市は、それ自身大学である。町中を歩く人々はたいてい何らかの形で大学にかかわっている。ケンブリッジ大学とオックスフォード大学はその長い歴史のみならず、あらゆる分野にわたっての高い研究成果でも有名である。そこで今回のElite Science Student Visit Abroad Program (ESSVAP) ではその雰囲気をつかみ、学生と交流を行うべく「オックスブリッジ」を訪れた。

9人のESSVAP2008参加者のうち、4人が生物化学科、1人が地球惑星環境学科、4人が物理学科の出身である。このように各の知識背景が様々であったおかげで、ESSVAP2008では幅広い分野の学科・研究室を訪う事ができ、さらに各人も希望した研究者との直接の面談をする機会を多数得られた。

また、ケンブリッジとオックスフォードそれぞれで現地の学生と話す機会を得られた。いずれの大学でも学期の終わりであったが(1学期が8週間しかない)、ケンブリッジでは学部生・大学院生を含む日本人留学生と夕食を、オックスフォードではジーザスカレッジの大学院生と昼食を共にした。

このように、国際交流室の五所恵実子先生、両大学のオフィスの方々が非常な努力でグループおよび個別訪問等の日程を組んでいただたいたおかげで、ESSVAP2008は成功裏のうちに終了した。

この報告書では、ESSVAP2008の各参加者がプログラム中での活動内容及び経験を報告する。報告書は主に4つのセクションからなっており、それぞれ大学の概要、ケンブリッジ大学訪問、オックスフォード大学訪問、感想等である。

イギリスの大学について

大学の理念・運営方針

専門は深く、見聞は広く。早期から履修科目数を限定した専門教育が行われる。ダブルメジャーもない。一方、多彩な経歴の人と交流する大学環境が整っている。食事時には様々な人が食堂に集まる。

1.利点(オックスフォード大学で国際交流室の先生から伺った。)

ケンブリッジ大学の教育は以下の4点が支えている。

Academic freedom
研究者の自由な発想による研究が、大きな成果を生む。多様な研究テーマを歓迎し、短期的な成果還元を求めない。
Supervision
各生徒に応じたきめ細かな指導で、授業内容の定着、発展を図る。授業と平行して、1~3名の少人数に対し個別指導を行う。
Postgraduate funds
学業に集中出来るよう、経済的負担を減らす奨学金が充実している。
eating
食事を通して、異なる経歴、専門の人との交流を促進し、知識や意見の交換による自然な学習を促す。専攻の異なる学生がカレッジ内の同じ食堂で食事を共にする。Gurdon institute では、各研究室に食事可能なスペースが原則なく、多くの人が研究所内のカフェを利用する。このように食堂へ異なる専攻、研究室の人を集め、食事の通した交流の機会を作る。

(山田)

学生生活について - カレッジというシステム -

いずれの学部・専攻に所属しているにせよ、ケンブリッジ・オックスフォード大学の全ての学部生および大学院生はいずれかのカレッジに所属する必要がある。生徒は各学部の建物で教育を受けるが、特に学部生については社交を学ぶ場所としてカレッジが提供されている。そのため、どのカレッジにもどの学部の生徒もいるというような状況が生まれる。

カレッジは睡眠をとり、スポーツをし、人によっては祈りの場であり、図書館で勉強をする場所でもある。毎朝生徒たちは朝食をカレッジとってから、おのおのの学部の建物に向かう。授業が終わるとやはりカレッジに戻ってきてスポーツなり勉強なりする事になる。学部生はかならずカレッジのダイニングホールで夕食をとる事になっている。このようなライフサイクルを行うためにどのカレッジにも三つの設備、チャペル、図書館、ダイニングホール(ハリーポッターシリーズの映画に出てくるような部屋)を備えている。今回のプログラムでカレッジを紹介してくれたガイドさんによれば、「ダイニングホールで肉体を、図書館で知識を、チャペルで精神を」がモットーだとの事だった。

ケンブリッジとオックスフォードにはそれぞれ31と39のカレッジがあり、これらは大きさ・奨学金や提供できる住居などについて差がある。生徒たちは入学申請の際にいずれのカレッジに入学したいかも同時に希望する必要がある。オックスフォード大学のジーザスカレッジで会った大学院生たちの話では、カレッジを選ぶ決め手の一つは住居だという事であった。大学院生はたいてい1年目しかカレッジ内に宿泊する事ができないというのが理由である。

このように、カレッジというのは基本的に社交の場であり、カレッジと学部という強力かつ伝統的なタッグは、ケンブリッジ・オックスフォードが世界的な人物を輩出してきた方法なのである。

(田川)

留学について

オクスフォード大学とケンブリッジ大学は学問、研究をする上で最高の大学であると思う。しかし、これらの大学で勉強するには出願を出さなければいけない。ここでは入学の出願において大事な事柄を紹介したい。

まず、イギリスの高等教育制度は日本のそれと異なり、イギリスの学生は大学生として3年間、修士として1年間、博士として3年間勉強する。そのため、日本で4年間大学生として勉強して卒業してイギリスに行く場合に、修士課程と博士課程のどちらかに応募するかが問題となる。選択の基準としては、自分の能力が大学の提示した基準を満たしているかどうかである。この問題に対して解決策を提示している大学もある。例えば、ケンブリッジ大学では海外から来た学生に対して博士課程を始める前に修士課程か博士課程準備期間として1年間勉強することを薦めている。

第3に、学生は学部の他にカレッジに所属しなければならない。カレッジは住居を提供したり、学生の交流を企画したりなど、大学院課程を生活の面で手助けをしてくれる。どのカレッジに入るかは出願の際に選ぶことができ、学部が採用を決定した後に希望したカレッジが採用を検討する。もし、選んだ全てのカレッジが受け入れを拒否しても、大学が受け入れ可能なカレッジを探してくれる。

第4に、出願では多くの書類を提出しなければならない。例えば、大学卒業書や英語能力の証明などは絶対に必要である。中には先生の推薦書、研究に対しての考えについて書いた文章、出版された論文を要求する学部もある。提出しなければならない書類は大学によっても学部によっても様々なので、大学のホームページや大学のスタッフに連絡をとって確認する必要がある。

最後に、大学側はイギリスで勉強するのに十分なお金を用意していることを強く望んでいる。十分な金額を準備していることを大学側に提示しない限りは入学を許してもらえない。1年間でかかる費用は大学に支払う授業料がおよそ300万円、生活費がおよそ200万円である。奨学金を出してくれる財団や基金があるが、競争が非常に激しい。さらに、学生が大学外でアルバイトすることを禁じていて、大学内での TA などの仕事でも費用は賄いきれない。結局のところ、オクスフォード大学の大学院案内書に「オクスフォードでの大学院課程は将来への重要な投資である。」というように、多くの費用を博士課程に費やさなければならないのである。

(ジ)

Botanic garden

図1

The Botanic Gardenは1846年、Charles Darwin の師であり手本であった John Henslow によって造られた。この庭園ではチューリップやゼラニウム、ラベンダーの貴重なコレクションを含めた8千種の草花を見ることが出来る。庭園を形作る Henslow の木々は、Main Walk に聳え立つ雄大な常緑樹林、そして Woodland Garden の何かを包み込むような不思議な雰囲気を作り上げている。Main Walk の傍らにはこの庭園独特の傑作、Systematic Garden が広がっている。1845年にデザインされて以来、この Garden の150の花壇には100科1600種もの草本植物が陳列されている。Lake・Woodland Garden への美しい見晴らしを楽しめる Rock Garden では世界各地から集めた岩場植物を見ることが出来る。20世紀の間に作られた Garden には、この1世紀の間に起こった園芸的・科学的発展が反映されている。例えば、DryGarden は乾燥した Cambridge の気候の中で水をやらずとも生きていけるような美しい Garden を造るための実験的庭園であり、Genetics Garden では現代遺伝学の基礎を作った William Bateson と彼の同僚たちによってなされた研究成果が展示されている。Rose Garden ではバラの祖先、Chronological Bed ではイギリスへの植物導入の歴史を俯瞰している。この庭園は、街中にありながら美しい景観の庭園と温室に囲まれた40エーカーのオアシスと言えるだろう。

ケンブリッジ大学で、日本人留学生6名との夕食を企画して頂いた。その後パブにも行き、研究や学生生活、受験、奨学金、就職等の話を伺った。留学生の所属が多様だったため、学部生と院生、文系と理系、カレッジ間の違いによって異なる経験談を聞けた。

ケンブリッジ大学には貴族の子供が通う?
文系の学部には大臣の息子等、いわゆるセレブ(の子供)がいるようである。ただ彼らは自身の家柄を自慢したり派手に着飾ったりせず、すぐ気づかないらしい。プライドが高いとも感じないそうだ。
カレッジってどこがいいの?
カレッジの選択は学部生にとって重要だが、院生にとって余り重要ではないそうだ。というのは、カレッジの寮で生活する学部生に対し、院生はカレッジが提携するアパートで生活し、院生のカレッジへの依存度が少ないからだ。歴史のあるカレッジではより伝統的な儀式に参加できる。一方で、人気のあるカレッジでは絶対に留年できない。その他カレッジ選択の指標となるのは、施設や部活動、学部の建物までの距離、寮の食事等である。
大学の単位取得は命がけ?
期末試験という試練
ほとんどの単位は、年度末に行われる1度の試験で決まる。もし単位不足なら、カレッジに拾われない限り即退学。留年はないらしい。試験は大教室で厳かに執り行われる。正装した試験官が木槌を鳴らし、試験が始まる。異なる学部の学生が同じ教室で受けた時、隣りの医学生が余りの緊張で気絶したらしい。試験前には“気を確かに!”とメーリスが流れ、試験後は開放感で叫び声があがる。
supervisionの課題
一つの授業に対し、学科とカレッジの supervisor が付く。supervision で出される課題の量が凄まじく、法学部の学生はレポートを書くために1週間30冊以上読むらしい。ある少人数の supervision では、課題図書の何章何節についての意見を述べよと聞かれ、もう一人が即答したらしい。
睡眠
日々の課題をこなすため、睡眠時間がほとんどないと言っていた。人によってはいつも2~3時間らしい。
奨学金は日本で取る!
イギリスで留学生用の奨学金は少なく、また学費、生活費ともに高いため、出来るだけ日本で取るようにと助言があった。
歯が痛い! でも治療は日本に帰ってから?
イギリスでは医療を無料で受けられる。ただ日本より質が低いところもあるようだ。お会いした留学生は、日本帰国時の定期検診と日本での歯科治療を勧めていた。
大学図書館、蔵書は多いけど使い勝手は?
理系は余り図書館を利用しないが、文系は多用するようだ。世界最大級の蔵書を誇る大学図書館は、文献調査で多いに役立つ。だが、魅力は蔵書数だけではない。大学図書館は使い勝手がいいのだ。例えば書庫の閲覧方法である。日本最大の蔵書を誇る国会図書館は、利用者が直接手に取って文献を見られない。しかしケンブリッジ大学図書館ではそれが可能で、目的の情報を早く得ることができる。