理学部生海外派遣プログラム

第1回 Harvard University & MIT Part.3

5.感想

金澤 篤

まず、今回のプログラムに参加できて本当に良かった、と思えるような中身の濃い、貴重な10日間でした。現地の学生との交流、ディスカッションは生の声を聞く良い機会でしたし、研究室・研究所の訪問はその情熱と規模の大きさに圧倒され、数学教室の方々との交流では数学を勉強していく動機付けを新たにしました。毎日が新鮮で、何かしらに驚かされ、発見がありました。しかしそれは必ずしも感心する発見ではなく、半分は失望する発見であったことも書いておかなければなりません。ですが、それら総てをひっくるめて、日本を出発する前に期待していたよりもずっとずっとたくさんの収穫がありました。

今回、アメリカの大学に実際に滞在し、現地の人々との交流や初めての経験を通して、日本という国にいる自分を新たな視点から見ることが出来ました。自分の足りてない部分を自覚すると同時に、十分通用する部分も発見しました。そして、その今までやってきたことが間違っていなかった、という自信が大きな収穫のひとつだったと考えます。また、今回の滞在中に多くの魅力的な人との出会いがありました。その中でも、今回お会いした日本人留学生は皆ダイヤモンドのように光り輝いていたように僕には見えました。異国の地で懸命に頑張っている、その充実した姿がかっこよく、羨ましくもあったのです。自分が将来こうありたいと思えるような素敵な人たちでした。

数学に関しても少し書きたいと思います。僕の中では Harvard の数学教室のアカデミックな雰囲気が強く印象に残っています。各院生にはそれぞれ一部屋ずつ与えられ、またコモンルームには卓球台があって気分転換している人がちらほら。そうした静かで落ち着いた環境で研究できるのは贅沢だと感じました。そして、それと同時に個人の自主性が求められ、尊重されるのだということ再認識しました。学部レベルでは両校に比べて東大の方が授業も学生もしっかりしていると思います。毎回宿題を課したり、オフィスアワーを設けたり、面倒見はアメリカの方が良いようですが、結局(自戒の意味もこめて)数学は自発的に取り組むかどうかで、東大の学生の方が自主的に勉強しているように思えました。一方で、大学院生は非常に優秀な人たちが多く集まっているようでした。また女子学生の比率が高いこと、そして応用数学が日本に比べて重んじられていることが印象的でした。今回、個人的に数学科の学生、先生と話す機会があったのですが、数学という共通言語が実際に通じたこともとても嬉しかったです。

滞在中には何度も驚かされるような出来事がありましたが、中でも東京大学の知名度の低さには驚かされました。改めて日本は世界の中の小さな島国で、東大はその中の一大学でしかないことを認識させられました。こう書くとアメリカにかぶれてしまったように思われそうですが、世界中から優秀な人々を常に惹きつける Harvard と MIT の伝統、規模、経済力は凄いと認めざるを得ないです。一方で、日本の優れている点もたくさん発見しました。つまるところ、善悪ひっくるめての日本でありアメリカであって、この多様性が僕は面白いと感じました。

また、今回他の学科の人たちと共に過ごせたことは僕にとって貴重な体験でした。普段聞かないような他分野の話題は新鮮で非常に面白かったです。その意味で学際的な交流もこのプログラムを通して実現されていたと強く感じました。そして、今回このメンバーの一員になれたことは非常に幸運でした。最後に、このような機会を与えてくれた理学部と、このプログラムの実現に携わったすべての方々に感謝したいと思います。

門内 晶彦

今回 ESSVAP に参加したいと思ったのはアカデミックな観点、及び背景文化の観点から見たときハーバード大学とMIT、東京大学の共通点・相違点とは何かに興味を持ったからです。上記の大学は世界で最も進んでいる学術機関であり、そこにいる人達と触れあう事で良い意味での高いモチベーションと自己理解が得られることがこのプログラムの有意義な点でもありました。

まず Harvard 大学や MIT を問わず、アメリカの理学系では学部と大学院では異なる大学に行くことが推奨されています。これは major や minor の制度があるのと同じ発想で、出来るだけ色々な環境に身を置いて刺激を受けることに重きを置いているのだと思います。学部・大学院教育も充実しており、また学部生に実際の研究に触れる機会を与えるプログラムがあったり、複数の分野・大学に渡るような大規模な研究センターがあったりといったように教育・研究システムにおいて大きな枠組みでも色々な取り組みが行われています。

分野横断的なプログラムに関しては最近日本でも見られるようになってきていますが、大学院と大学を変える生徒は比較的少ないように思います。これは、アメリカにはトップレベルの大学が複数あるのに対して、日本では東京大学をはじめとしてごく限られた数しかないことに原因があると考えられます。一方で実際に訪れてみて MIT や Harvard 大学に対して東京大学は十分高いレベルを維持しているとも感じました。

幸いにして Harvard 大学と MIT の両方を見学できたので、アメリカと日本の違いに加えて、それぞれの大学における特色についても見ることが出来ました。ハーバード大学は有名な law school を含め文系の大きな faculty を持っているので、その意味では生徒の雰囲気を含めてMIT より東京大学に近い感じがあります。その一方で、東京大学では2年夏に進学振り分けが行われますが、MIT の学生とのディスカッションでは MITでも最初の1年は文系のコースを取らなければならないなど教養学部的な役割を果たし実際に major を決めるのは2年からという話でした。そういった点では制度上 MIT に似たところがあると思います。

日米の文化的な違いで最も大きく感じたのは、アメリカ人の open-minded な姿勢です。多くの場所から人種も宗教も異なる人々がやってきているためか、対人間関係においてもそうですが、目新しいことにも意欲的であると感じました。こういった姿勢も実際に研究などを行う面においてプラスの効果をもたらしていると思います。ただ、真面目で勤勉と言われる日本人の細やかな感覚もとても重要だと思うので、将来的にはお互いの良さを合わせる形で交流して行けたらいいのではと考えています。

個人的には、将来どのような道に進みたいのか考える上でも、海外はどうなっているのかを知るよい機会になりました。また日本とアメリカの大学の違いを知ることで、自分の現在位置も再認識することができました。何よりも、海外に対してより親近感を持つことが出来たのがよかったと思います。

今回プログラムに参加できたことで非常に楽しく、充実した経験ができました。最後になりますが、一緒に参加したメンバーの皆さんと引率して下さった五所さん、ハーバード大学・MIT・東京大学においてお世話になった全ての教職員の方々に感謝を申し上げて、終わりの言葉とさせて頂きます。ありがとうございました。

高吉 慎太郎

アメリカの大学の特徴の一つは多様性にあると思います。研究レベルや経済力はもちろんですが、それ以外にも世界中の人を惹きつけるものがアメリカにはあるのではないかと思います。一方日本の大学では、留学生の数が増えてきているとはいえ大学で学ぶ生徒の大半は日本人です。また留学生もほとんどがアジアの出身でさまざまなバックグラウンドを持った人々の集合体を称するところまでは行っていません。

次に気付いたことはフランクな人付き合いです。研究室では教授もポスドクも院生もみな一人の研究者として対等に付き合っています。日本だとやはり先生の前では畏まってしまいがちですが、アメリカでは院生は教授をファーストネームで呼び、冗談などを言い合ったりして上下関係を感じさせません。しかしもちろん学生は先生に対して敬意を持っていますし、先生のほうでも生徒のことを目にかけていて良好な関係といえます。一般的にアメリカのほうが教授とポスドクあるいは院生との話し合い・意見交換が活発になされているような印象を受けました。もちろん個人差はあると思いますが、日本では先生が生徒との時間をあまり多く取れないのは、先生方の事務仕事が多いのが一因かもしれません。

もう一つ気付いたことは、アメリカの学生は非常にメリハリの付いた生活を送っているということです。日本だと実験系の研究室ではほぼ毎日休みなしで実験しているところも多いと思いますが、アメリカでは忙しい研究室の人でも週1 日半くらいは必ず休みを取るようにしているとのことでした。集中してやるときはやる、休むときは完全に休むというリズムを作ることで、効率よく実験を進めていくということのようです。

いろいろとアメリカの良い点を挙げましたが、ディスカッションをした学生たちは僕たち日本の学生と何ら変わらない明るく勉強熱心な人たちでした。アメリカの大学が成果を挙げているのも、アメリカの教育制度が明らかに優れているからだとか、アメリカの学生が優秀だからといった理由ではなく、優秀な人材を世界中から集めるだけの魅力があるからだと思います。今後日本の大学が世界の大学と競争するための課題は、いかに世界中の研究者にとって魅力的な環境を整えることができるかという点にあるのではないでしょうか。

最後になりましたが、このようなプログラムを実施してくださった関係者全ての皆さんに感謝します。今回の渡米では自分の気付いていないところで、大きな価値観の変化が起きていると思います。今回のプログラムで得た経験を生かしてこれからの大学院生活を有意義に過ごすべく精進したいと思います。本当にありがとうございました。

藤井 友香

7日間を過ごして、アメリカの大学の制度やそれぞれの大学の特徴、キャンパスの雰囲気、生徒の様子などへの理解が劇的に深まりました。これまで文字の上あるいは伝聞としてあった「アメリカの大学」「世界各国の研究者」が、今はリアルな像として描けます。知識として知るということと経験を通して知ることとは大きく違います。自分自身の目で見て直接耳で聞けたことで、事実の羅列ではなく、Harvard 大学と MIT という2 つの大学とそのバックグラウンドを総合的に感じることができました。

ここでは、その中で見つけたたくさんの相違点・共通点の中からいくつか取り出して感想を書こうと思います。

まず、相違点について。

分かりやすい事実として、大学の制度や環境に多くの異なる部分がありました。その具体例は前のページで挙げられていると思いますが、特に印象的だったのは、大学院の院生の位置付けでした。研究室は院生に給料を払い院生はその分必死で研究成果を出す、という好循環が回っているようでした。どちらが良いと簡単に言えるものでもありませんでしたが、知ることで視界が開けて将来の選択肢が増えました。また、それらの様々な制度の違いや文化の違いに伴って生徒の意識も多少違っていて、自分たちの日頃の勉強のし方を見直す良い機会になりました。特に、失敗を恥じずに積極的に質問や意見交換をする姿勢や、学年の枠に捕らわれず良い意味でマイペースに勉強する姿勢(これらは日本でも見られないことではないが)、仕事として研究に向かう院生の姿勢など、参考にしたいと思いました。

また、アメリカと比べることで今まで慣れすぎて気付かなかった日本の特徴に気付くこともありました。それは例えば、アメリカでは教授と学生が対等に話すと聞いていて日本でも研究においては基本的にそうだろうと思っていたが日本には敬語という文化があるので普通に話していてもどうしても上下関係があらわれるからアメリカの感覚と少し違うのではないか、ということだったり、英語による説明は文法上要点が先に来るから日本語より構造的にまとまっている、ということだったりします。このような気付きを通して、ひとつの場所にとらわれず適度に環境を変えて研究することの重要性を感じました。何故なら、違う環境に入ることで、当たり前と思うものを見直したり物事の見方を変えたりするきっかけができるからです。柔軟な思考は新しいことを発見したり創ったりするときにかかせない筈です。

次に、共通する部分について。

学部の授業に出たり教授にお話を伺ったり現地の物理学を学ぶ学生たちと話したりする中で、どこにいてもどのような背景があっても、世界を解き明かそうとする思いや物理が好きな気持ちは国境を越えて共通していることを実感しました。研究に必要な態度や基礎学力も万国共通でした。改めて、理学は世界のものだと感じました。様々な人がそれぞれの場所で長所を生かしながら切磋琢磨しているのを見て、視野を広く持ちながらも、自分は自分で日ごろの地道な勉強を大事にしようと思いました。

このように、今回のプログラムでは、視野を大きく広げることができ、様々なことを考えさせられました。大変有意義でした。

謝辞

今回の渡航を認めて下さった先生方、プログラムを組んで下さった先生方、研究室を紹介して下さった先生方、温かく向かえて下さった MIT・Harvard 両大学の先生方、一緒に discussion をした学生の皆様、現地で貴重なお話を聞かせて下さった日本人留学生の皆様、一緒に行った仲間達、そして国際交流室の五所さんに、心からの感謝の意を表したいと思います。

荒井 慧悟

今回 ESSVAP に参加するにあたり、ぜひとも達成したかった目標がいくつかありました。それらは

  • Harvard University、MIT と東京大学における研究・教育環境の違いを知ること
  • 自分の興味を広げ、将来に向けた選択肢を多く学ぶこと
  • このプログラムで得られたものを理学部に還元すること

の3つです。

このうちの初めの2つは、滞在中に出会った様々な人々からの貴重なお話で十分に達成することができました。まずそれぞれの大学の研究・教育環境の違いに関してですが、印象に残ったことが2つあります。学習の確実さと、研究の柔軟性です。Harvard・MIT 両大学の学生と話してみると、彼らは確実に授業内容を消化していることがわかりました。東大では1つの科目につき授業は週1回(計90分)で、学生は1つの学期にいくつもの科目を幅広く履修します。各授業での課題は比較的少なく、学習は主に学生の自主性に任されます。

一方、Harvard と MIT では基本的に科目あたり週2回(計180分)の授業があり、学生は1学期に4つの科目を履修します。授業の進度はゆっくりですが、週2回あるため学習量が多く、学生は毎週出される大量の課題に追われていました。この点で彼らは自然と確実に学力をつけているように思われました。また、学部の学生は Research Experiences for Undergraduates (REU) や Undergraduate Research Opportunities Program (UROP) と呼ばれる制度を利用して自分の興味のあることを学部のうちから自主的に研究しています。互いの大学が地理的に近いため、大学院では共同で研究をすることも可能です。そして Harvard 大学では大学院の最初の一年間は、自分の興味を見極める期間として考えられており、研究分野を決めなくても良いそうです。このように自分の興味の対象が新しく生じたり、移ったりした場合に、それらに対応できる柔軟な制度が多いことも印象的でした。

続いて自分の興味と将来の選択肢を広げるという目標に関してですが、数々の個性的な施設を訪問することで達成できました。例えばMRSEC などいくつかの分野にまたがる研究を行っている施設では、他の分野を知ることの大切さと分野を融合させることの可能性をあらためて学びました。さらにそれらの施設では、先生方だけでなく多様な経歴を持った大学院生からも貴重なお話を伺うことができ、大学院進学や研究の始め方について選択肢が多いことを知りました。

このように、滞在中には様々な方とお話ができたことで初めの2つの目標を達成しました。しかし最後の目標は自分自身が今後達成していくべきものです。ESSVAP で学んだことをしっかりと消化して、どのように還元していくべきなのかを考えていきたいと思います。そして ESSVAP が今後よりよいプログラムとなっていくために、自分には何ができるのかを探っていきたいと思います。このプログラムでは、事前の準備段階から帰国後の報告に至るまで、常に刺激的で貴重な経験をさせていただきました。それらは、ESSVAP に関わる全ての方々のおかげです。Harvard・MIT でお会いしたみなさん、引率してくださった五所さん、一緒に参加した仲間に、心から感謝申し上げます。ありがとうございました。

川上 悦子

このプログラムに応募したきっかけは、以前に参加した「博士の生きる道」という博士号を取得した方々がその後の進路についてお話をして下さるという講演会がきっかけです。そこでアメリカと日本では博士の意味合いや教育制度が異なるということを知り、ぜひ実際にその違いについてアメリカの学生と話をしてみたいと思ったので、このプログラムに応募しました。実際にアメリカの大学へ行き、先生や院生の方々にいろいろなお話を伺うことで、少しずつですがその違いがわかったように思います。アメリカでは学部のうちは一つの授業についてたくさんの宿題が出て、院生になっても1,2年のうちは授業に出てコースワークをこなすことが重要視されるようです。その一方で、研究するということにも重点が置かれていて、学部生が研究に携われるような制度も大学によっては存在するようでした。もともとアメリカの大学は入学するより卒業する方が難しいというイメージがありましたが、実際に現地の学生から入試は平均的な難易度のテストで高得点を取ることが必要であり、入ってからはたくさんの宿題に追われていると聞き、そのイメージはあながち間違っていなかったのではないかと思いました。たくさんの宿題があるということは、それだけしっかり勉強できるので良いことではないかとの意見もある一方で、宿題に追われるために、自分一人で独自の勉強をするなどの自由な時間があまりないとの意見もありました。

実際にプログラムに参加してみて、先生方から様々な貴重なお話を伺えたこと、現地の学生の方々から様々な意見を伺うことができたことはとても良い経験でした。先生方は皆さんとても熱意を持ってお話して下さり、非常に感銘を受けました。

そして、はじめは予想していなかったもう一つの貴重な経験は、アメリカの大学で学んでいる日本人学生の方々のお話を伺うことが出来たことです。日本人として、アメリカの大学で実際に学んでみた印象はとても参考になるものばかりでした。今まで海外で学ぶということは自分にとって想像すらしたことのないはるか遠い世界のことでしたが、なぜアメリカの大学院や学部を受験したのか、院試の経験、入学後の学生生活など日本人ならではの苦労や体験などいろいろなお話を伺うことによって、少し身近になった気がします。留学生の皆さんが慣れないアメリカで大変な学生生活を送る原動力になっているのは、研究に対する強い思いであると思いました。来年から今までとは異なる専攻の大学院に進学することから様々な不安がありますが、一人でアメリカへ来て勉強している留学生の方々の大変さを思うと、自分もがんばらなくてはいけないなと思いました。

最後に、お忙しい中大変貴重なお話をして下さった両大学の先生、先生や院生の方を紹介して下さったスタッフの方々、学生の方々、日本人留学生の方々、そして引率して下さった五所恵実子さん、東大の先生方、スタッフの方々、参加メンバーをはじめとするこのプログラムに関わるすべての方々に感謝をささげて終わりたいと思います。本当にありがとうございました。

白水 美佳

  • MIT, Harvard の大学院生活はやはり tough ではあると思う。アメリカでは日本の大学院と違いほぼ全員学費が免除され、生活費+α程度の補助金をもらえる。それはそれぞれのボスから出してもらう。経済的には学生にとっては恵まれた環境であると思う。しかしそれゆえに、常に hard worker であること、成果をだすことを、直接的な責任として感じなければならないのも事実だと思った。端的に言えば、Ph.D. コースの5年生でも、いい仕事をしていなければ「首をきられる」人もいたという。また Ph.D. candidate となるためには、研究成果だけでなくまず学科試験や口頭試問をパスしなければならない。それがあることによって勉強しようというやる気になる、とポジティブに考えることもできるが、やはりある種のプレッシャーであることには間違いないと思う。これは日本とアメリカのシステムの違いなので、どちらを選ぶかは一長一短を自分で考えることだと思った。
  • 若いうちに海外で研究したいという思いがあったとして、それを実現させるのには、しかしいろいろな道があるということ。私は、もし留学するなら学部を日本で卒業後大学院からストレートに入ることだけしか考えていなかったが、話を聞いていて意外と多かったのは、日本でマスターを出てからアメリカのPhD コース一年に入った、という人だった。アメリカではマスターコースが別にあるわけではないので、一見修士二年分が重複して遠回りになっているように見えるけれども、自分なりの研究の仕方や技術がある程度身についた時点で来たほうが、スムーズにスタートできて結局得るものが大きい、と言う人もいた。企業の研究員としてくる、ポスドクとしてくる、などもまたある。その後の進路も、アメリカの企業に就職を考えている人、日本のアカデミアに行く人、外国のアカデミアに行く人と目指すところは様々であった。例えばポスドクで外国にいった日本人は日本で助手などになるケースが多いイメージがあったが、竹村さんは在米中に就職活動をしてアメリカ企業での就職を目指していた。どういう形の組み合わせも自分次第で慎重に選び努力すれば不可能ではないと思った。
  • Harvard, MIT の視察プログラム。それはこの2大有名大学の「すごい所」を肌で感じてきなさいという趣旨だったかもしれない。しかしそう思って渡米して、実際にもっとも強く感じたことは、逆に「東京大学のすごさ」だったかもしれない。少なくとも化学、中でも私が専門にしようとしている有機化学に関して言えば、東大は二校にひけをとらないと思えた。教授同士がお知り合いであったりすることはもちろん、どのラボの学生も、小林先生、柴崎先生、福山先生、中村先生など、よく知っていた。Harvardの有機セミナーで、時間帯が合えば聴講できるものがないかと探していたところ、4月9日には中村栄一先生の招待講演が予定されているのをみつけたりもした。MIT でも「先月頃東大の先生の講演があったとき、あまりの研究成果にみんな 'crazy !' とあとで騒いでいたよ」と学生がいっていたりもした。卒研も始めていない私はまだ、例えば論文を読んだりしても、それがどれくらい「すごい」研究成果なのか、実際のところいまいち実感がわかない。しかしそうした環境に自分が今いて、東大のもつリソースに実質もっとも accessible な立場であることは確かである。「自分の identity がしっかりしない前にふらふらしていてもしょうがない」と言われた岸先生の言葉を思い出す。この先どういう進路をとるにしても、自分に吸収できるものは最大限吸収していかなければいけない。そうでなければこの環境がもったいない。そう思うと、4月から始まる研究にも、意欲が以前にも増して大きくなったところである。
  • 海老原 章記

    まず、今回またとない機会をお与え下さった理学部の方々、現地で私たちの面倒を見て下さった方々、そして共にアメリカを訪問した仲間に感謝の意を表したい。非常に有意義な時間を過ごすことが出来たのは、ひとえに多くの人々の協力があってこそだと言えるだろう。滞在中に感じたことを、教育面、文化面に分けて以下に記す。

    1.アメリカの教育環境

    渡航中にハーバード大学の学生と話をする機会があったが、深い感銘を受けた。上手くはいえないのだが、彼らと自分たちとは考え方のスケールが違う気がした。アメリカの教育環境は予想通り日本よりはるかに自由であり、たとえ今まで生物を学んでいても、ある日突然物理に目覚めて専攻を変えてしまうようなことですら珍しいことではない。また、アメリカの大学には自分の生き方、考え方を変えてくれるような教授がいるという。日本ではどうだろうか。渡航前から日本の大学院教育の脆弱さを心配していたのだが、実際に現地でアメリカとの違いを痛感させられた。しかし、同時に今まで自分が知らなかった、日本で学ぶことの利点も見つけることができた。例えば、今回数箇所のラボを見学させていただいたが、確かに規模は大きいものの、所有する設備や実験器具には、日本とそれほど大きな差は見られなかった。聞いた話によれば、大学によっては日本より劣っている場所も多くあるという。また、日本人留学生数人に話を伺ったところ、日本で修士まで学び、研究のノウハウをある程度身につけてからアメリカに来たほうが、スムーズに研究生活が送れるだろうということであった。自分は遅くともポスドクまでにはアメリカに留学したいと考えており、その時期を模索している最中であるため、今回の渡航中の見聞は大いに参考になった。 余談だが、アメリカで生活する日本人の多くができればいずれ日本に帰りたいと考えており、その理由を尋ねると必ずといっていいほど「やっぱり日本は飯が美味いし」という答えが返ってくるのは面白いところだ。もちろんそれだけが理由ではないだろうが、日本の食文化の素晴らしさを違った形で知ることができた。

    滞在中の活動で最も期待を寄せていたのが individual visit である。自分はまだ研究室に所属していないため、自分の研究内容の話題を提供できないのが辛いものの、研究の最先端をゆくハーバード大学、MIT の教授に自分を紹介し、将来の展望や研究の動向についての貴重なアドバイスを頂くまたとない機会であるからだ。内容の詳細は割愛するが、各教授の研究を垣間見ることができたのはもちろん、日本の研究機関に抱いていた疑問を解決することができたし、人生設計についてのアドバイスまでも頂き、非常に実り多い訪問とすることができた。最後に、印象深かった Lewis C. Cantley 教授の言葉を記しておく。

    "It is unexpected things which always make breakthrough"

    2.アメリカの文化

    ボストンで生活していてまず身にしみたのは現地の人の心の暖かさだ。道に迷ったときは懇切丁寧に教えてくれた人が何人もいたし、たとえ道を知らなくても「そこの店で聞くといいよ」と言ってわざわざ店まで連れて行ってくれたりすることもあった。確かに日本でも道くらい聞けるのかもしれないが、用だけ済ませればそれっきりの日本人と違って、ボストンの人は「どっから来たんだい?」とか「ボストンは寒いだろ」などと、いろいろと話しかけてくれる。アメリカでは「他人」との間にある壁が薄いようだ。ハーバードメディカルスクールのカフェでは、見知らぬ黒人の学生と話をすることができた。「よう、お前この辺に泊まってんの? 日本から来たのか、名前は? アキノリっていうのか、よろしくな」たとえ特別な用事がなくとも、自然に握手を交わしコミュニケーションがとれてしまうのがアメリカ人のノリの良さだ。渡航を終えて帰ってくると、日本人はどこか生き急いでいて打算的な印象を受けた。アメリカでは至るところに国旗が掲揚してある。日本では国旗を掲げている家などは珍しくなったし、そもそも日の丸にあまりよくないイメージを抱いている人も多いようだ。アメリカはmelting pot と言われるほど様々な人種が混在しているため、国旗を掲げることで団結を図っているのだろうか。そんな意図があるにしろないにしろ、国を愛する心を共有できることを羨ましく思った。

    中山 博文

    僕がこのプログラムに応募した理由は、様々な分野で世界のトップレベルの研究が行われているアメリカの研究環境を自分で見てみたかったということと、MIT やハーバードの同世代の学生たちがどのような生活を送っているのかを知りたいと思ったからです。このプログラムでは研究所の見学や現地の学生との交流だけでなく、個人で動くことのできる時間が十分にあったことがとてもよかったと思います。そのおかげで授業を受けたり、自分の興味ある研究室を訪問することができました。

    ハーバードのキャンパスにはレンガ造りの歴史のある建物が立ち並んでいる一方で、MIT のキャンパスは近代的な建物が多くどちらも魅力的でした。また、どちらの大学も日本の大学とは異なり、塀で囲まれていることがなくどこからも自由に入ることができるというのも新鮮でした。

    現地で学生や大学院生と話をしたことで、アメリカの大学や大学院、研究環境について数多く知ることができました。

    大学に関して感じたこととしては、途中で専攻を変えることが可能である程度の人数の人がそうしているということがあります。また、卒業後の進路にしても就職したりビジネススクールに行ったりするなど、大学院に進学以外の道を選ぶ人が理系であっても多い気がしました。この他にも、アメリカの大学では学部生の早いうちから研究室で経験を積むことを重視していて、UROP (Undergraduate Research Opportunities Program) によってそれを支援しているということを知りました。この活動では大学から給料が支給され、多くの学生がこの制度を利用していていました。日本でも研究室で実験をさせてもらうことは可能ですが、大学全体としてそのような制度があるアメリカの大学でのほうがそのようなことがしやすいと思いました。大学院については教育制度が日本とはだいぶ違うと思いました。日本では修士2年で博士3年とわかれているのが、アメリカでは5年間のPh.D. コースというのが一般的なようです。また、日本では修士のはじめからある研究室に所属して研究を開始するのに対し、アメリカでは最初は特定の研究室に所属せず、授業をとりながらいくつかの研究室を経験し、そのあとで試験に通って初めて研究をスタートできるとのことでした。これについてはどちらも長所・短所がありどちらが良いと一概には言えないと思いました。大学院に関して最も驚いたのは多くの大学院生に対して授業料が免除になるだけでなく、年間2万ドルほどの生活費が支給されるということです。このような制度があるおかげで、大学院に進むことに対する経済的な不安はかなり軽減されるのだろうと思いました。

    研究室の設備や規模に関してはMIT やハーバードと東大でそこまで大きな違いは感じませんでした。それよりも個々の研究室間での違いの方が大きかったと思いました。ただ、研究室の数自体は東大より多く、研究室内のポスドクの割合も日本よりも少し高いような気がしました。このプログラムに参加できたことで、普通に大学生活を送っているだけではできない貴重な経験を数多くすることができました。この経験は自分の将来を考える上でも非常に参考になると思います。そしてこのプログラムが続き、これからも多くの学生が貴重な経験をできることを願っています。最後になりましたが、向こうで受け入れてくださったMIT やハーバードのみなさん、引率してくださった国際交流室の五所さん、このような機会を与えてくださった東京大学理学部に深く感謝します。ありがとうございました。

    池内 桃子

    学科の先輩から伺ってこの渡航制度の存在を知り、3年の頃から参加してみたいという思いを持っていた。4 年になって、外国のグループが書いた論文に興味を持ち実際に会って聞いてみたい・将来的にこういうところで研究してみたいと思う機会が増えた。しかし、外国に飛び出すだけの能力を自分が備えていないこと、また具体的に行きたい研究室が絞れていないというのが現状である。そんな私にとって、お試しで外国の研究現場を見ることができるこの渡航制度はうってつけだった。

    面接の時は、「なぜこの研究テーマに興味を持っているのか」「あなたのゴールは何なのか」と矢継ぎ早に質問された。英語は稚拙で不正確だったかもしれないが、研究者を志す者としてのプライドにかけて必死に答えた。その結果、どうにかこうして参加者に加えて頂けることになった。

    反省しなければならないのが、渡航前の準備が不十分になってしまったことである。individual visit の訪問依頼メールを出したのは渡航のわずか10日前だった。幸い、私はメールを出してから数時間以内に返事を頂けた。良い返事を頂けた要因としては、自分が相手の研究のどういう面に・どうして興味を持っているのかということを言及したことが挙げられるかもしれない。私は知らない相手に英語でメールを書くのが初めてで、作法や書き方が分からなかったので、昨年の参加者のものを参考にさせて貰った。これには非常に助かった。また、専門外の研究所を訪問する機会が多いので、そのための準備として企画してくれた高瀬研見学は、有効だったと思う。

    訪問中は、自分の英語力や理解力の問題もあって、あまり積極的に活動に参加できなかったことは残念だった。利根川進先生の「研究の駆動力は楽しむことだ」というお言葉や、Friend 先生が Ph.D. コースに入った学生は責任を持って卒業させると頼もしくおっしゃっていたのが印象的でした。素晴らしい企画をアレンジして下さった五所さんに、心よりお礼申し上げたい。そして、他の参加者の方々にも大変お世話になりました。