理学部生海外派遣プログラム
4. Individual Visit
金澤 篤
Algebraic Geometry(3/8 9:00-11:30)
お会いする予定のCoskun 先生の代数幾何の講義を聴講しました。Noether 的整スキームのWeil 因子についてのお話。「このくらい知っているよね」と言って、先生が笑いながら学生をからかったりしていて明るい授業でした。簡単な例を挙げたり、図を描いたりして分かりやすい説明でした。
Izzet Coskun 先生 (3/8 11:40- 12:00)
僕が現在興味を持っていること、勉強していることを伝えたところ、ある条件下での3次元非特異Fano 多様体の分類問題を挙げられた。残念ながら問題と手法はよく理解できなかったが黒板を背に熱っぽく語っている姿が印象的でした。また、大学院生の方も交えて大学院の話も聞かせていただいた。修士までは指導教官はよく院生の面倒を見る傾向があるようです。将来また会いましょうと声を掛けていただいた。
Topics in Algebra (3/9 11:00-12:30)
この回はいわゆるLie 群の表現の話でした。専門外の人への配慮か、やさしめの導入から始まり急速に深い話になっていきました。最後は複素幾何に関係とつながりがあるということを話していた。質問がどんどん出ていて、良い意味で騒がしいセミナーでした。最後にセミナーに参加していた学生と、学生生活や興味の対象など色々生の話が出来たのが有意義でした。
吉田輝義さん (3/10 16:00-17:00)
Harvard 数学科Junior Fellow の吉田さんにお話を伺いました。アメリカの大学院についてご自身の経験を踏まえて色々教えていただき、自分の将来を考える上で非常に有益でした。また、東大での学部生の頃のお話などは今の自分を省みる良い機会になりました。実際、日本での学部・修士でのセミナーが後に非常に役に立ったと強調されていました。ご自身 Boston で充実した時間を過ごされているようで、将来僕もこのような環境で数学を続けてみたいと強く思いました。
Geometry of Manifolds (3/13 2:30-4:00)
障害理論、接続の話でした。予備知識が足りていなく、ほとんど内容が分かりませんでしたが、複素ベクトル束の特性類に話がつながっていくようでした。また、証明の大部分が宿題に回されていました。学生の質問からどんどん話題が広がっていき、Auroux 先生の数学的教養の広さを感じました。
門内 晶彦
学部授業: “Electrodynamics” Matias Zaldarriaga 教授 (3/8 11:30-13:00)
- この日のトピックは双極子モーメントと誘電体についてであった。授業のレベルは「電磁気学II」と同じ程度であると思われるが、内容に関しては少し異なる。統計力学的手法を用いて電気双極子をもった気体の誘電率を計算したのが興味深かった。
- 誘電体がある場合の”鏡像法”的解釈について来週までに考えるよう指示されていたが、宿題ではなかった。
- 部屋には十数人ほどの生徒がいた。途中入室する生徒はいたが、退出する生徒はいなかった。
- 授業中に質問はなく、授業終了後に何人かの生徒が教授に質問していた。授業終了後にお話を伺うことができた:
- Zaldarriaga 教授は理論天文物理学者で、博士論文に取りかかっているときに宇宙背景マイクロ波放射の揺らぎを計算する標準のアルゴリズムを構築した。
- 研究者になるために何が重要かと訊ねたところ、「とにかく続けること(keep doing)」だとおっしゃっていた。いろいろためになる話を聞かせて頂いた。
Wolfgang Ketterle 研究室 (3/9 10:00-11:30)
- Ketterle 教授はボーズ・アインシュタイン凝縮(BEC)を初めて観測し、2001 年にノーベル物理学賞を受賞した。院生のCaleb Christensen さんにラボのツアーをして頂いた。
- 研究室では4 つほどのグループが研究していた。Christensen さんは様々な条件下でのBEC を研究しており(BEC III: Science Chamber)、最近の研究ではBEC の物質波が干渉する様子をCCD カメラで捉えた。又全ての制御はコンピュータによって行われていた。
- BEC を実際につくる方法について詳しく説明して頂いた(Doppler 遷移に対応したZeeman 遷移を与えるコイルが巻かれた管を通って気体のNa23 が主室へ入る、1 つのレーザーを6 つのビームに分け前後左右上下から挟んでレーザー冷却を行う、蒸発冷却によってBEC に近づける)
- 波長の異なるレーザーの役割に関して質問した(Na 用の黄、Li 用の赤の他に、dye laser 源として緑を、BEC の移動に赤外線のレーザーを使用)
- 今までに行った実験はquantum reflection, superfluid 等で、今後は極低温NaLi 分子の実現などを目指しているとのお話だった。
学部授業: “Introduction to Western Music” Teresa Neff 教授 (3/9 13:00-14:00)
- MIT には音楽学科が存在し、専門の講義がある。Minor として授業をとる生徒も多い。クラスには20 人程の生徒がいて、先生の問いかけに答える形を中心として積極的に参加していた。
- 授業は一般的な概略で、東京大学教養学部の「音楽論」に近い。この日はバッハのCantata BW140 についてと、交響曲の各楽章における一般的な曲想について扱っていた。
- 来週の内容に関して予め担当を割り当てていた。物理の授業とはその性質上異なる部分も多いが、教員と生徒がコミュニケーションをとって日本のゼミのような雰囲気であった。
- 教授がコンサートを紹介し、それを聴講することで授業のポイントになるそうである。
学部授業: “String Theory for Undergraduates” Barton Zwiebach 教授 (3/13 11:00-12:30)
- 30人程の生徒がいた。2 年生の学生も多いようである。授業中、授業後共に多くの質問がなされていた。他の学部授業と比較しても全体的に活発な印象を受けた。
- 当日の内容は、一般の場合に周期境界条件を課すことによる閉じた弦の運動の説明、宇宙ひもの重力・張力による周りへの影響と空間の歪み、及びラグランジアンの対称性による電荷保存であった。直感的な説明がなされ、解析力学は最初から説明していた。
- 宿題はほぼ毎週のペースで出される。授業のときに配布していた。- インフレーション理論のAlan Guth 教授がrecitation instructor として授業を聞かれていた。
Barton Zwiebach 研究室 (3/13 12:30-13:30)
- Zwiebach 教授は弦理論物理学者で、現在は開いた弦の場の解析解についての研究を行っている。
- 学習の進度に合わせた教科書の選択や、海外に留学する際についてのアドバイスを頂いた。
- 弦理論一般について質問した(弦理論の10 次元時空のうち空間6 次元がコンパクト化しなければならない理由があるか、LHC ではどのような発見が期待される/されないのか等々)
- 弦理論の研究を目指したきっかけ等についてもお話を伺った。
高吉 慎太郎
Michael Tinkham Lab.(Harvard, 3/8)
Tinkham 先生はもう引退なさっていて、自分の研究室や学生はもう持っていないとのことでしたが、私が訪問すると自らHarvard の物理関係の建物を案内してくださいました。今は生物物理の研究をしている先生のアドバイザー的役割を果たしていて、その研究室や普段ミーティングに使っている部屋などを見せていただきました。また最近は量子ドットやグラフェンに興味を持っているらしく、それに関するお話も少し伺いました。
John Doyle Lab. (Harvard, 3/8)
アポイントメントは取っていなかったのですが、Tinkham 先生が紹介して下さり、研究室のミーティングに参加させていただきました。日本のミーティングよりもくだけた感じで、各々自由なスタイルで発表を聞き、思い思いに発言をしていました。
Wolfgang Ketterle Lab. (MIT, 3/9)
院生のChristensen さんが案内してくださいました。Ketterle Lab.は4つのグループに分かれて研究を進めています。(4つとも近い分野の研究ですが。)そのうち第3グループを中心に見学させてもらいました。ダイレーザーや光学系を見て、BEC を作る過程(レーザー冷却)について丁寧に説明してくださいました。また磁場などの外部環境は全てコンピューターで制御されており、いったんBEC を作ってしまえば後は機械が全てやってくれるとのことです。非常に効率の良い実験を行っていることに感心しました。次は冷却したLiとNa を反応させるという手法で分子のレーザー冷却を目指すとおっしゃっていました。
Thomas Greytak Lab. (MIT, 3/13)
院生の方3人が応対して下さいました。研究している内容はKetterle Lab.と近いのですが、こちらはレーザー冷却ではなくヘリウムを使って冷却していました。到達温度が高いぶん高磁場のマグネットを用意しているそうです。残念ながらちょうど冷凍機にトラブルが発生したところだったようで、実験装置は止まっていて実験の様子を見ることはできませんでした。代わりに院生の方3人にお話を伺うことができました。MITでの生活、大学院への入り方、どのように研究するかなど幅広い質問に答えてくださいました。
Charles Marcus Lab. (Harvard, 3/13)
院生の方が応対して下さいました。まずグラフェンの研究をしている方にお話を伺い、トランスポートを測定している装置を見せてもらいました。今グラフェンはホットな分野なので、なるべく早く実験しないと誰か他の人がやってしまうかもしれないので、頑張っているとのことでした。次に量子ビットを使った研究の話を聞きました。もちろん量子情報への応用が期待されているわけですが、困難も多いとのことでした。最後にノイズの研究の話を聞きました。非平衡統計力学が実際に使われている様子はとても興味深かったです。この研究室は大規模で、お互い直接的には関係のない実験をしているようです。それでも院生同士の交流は深いようで、一見関係ない分野に問題解決の糸口があるのかもしれません。
藤井 友香
Dr. Pepi Fabbiano & Dr. Martin Elvis 3/8 10:00-@Harvard Smithsonian Center for Astrophysics
ハーバード大学のキャンパスから15 分程北東へ歩いた場所に、Harvard Smithonian Center for Astrophysics という施設がある(しばしば単に“Observatory”と呼ばれる)。ここにはThe Smithsonian Astrophysical Observatory というスミソニアン財団の宇宙系研究室とハーバード大学の宇宙系研究室が集まっており、たくさんの宇宙論研究者・天文学者が研究している。ハーバード大学のDepartment of Astronomyもここにある。
まず、Fabbiano 博士とElvis 博士に、お話を伺った。お二人は1999 年に打ち上げられたアメリカのX 線天文衛星“Chandra”を用いて研究されている。
- Chandra 衛星のしくみ、特徴について
- ご自身の研究内容について
- Chandra 衛星が従来の衛星に比較していかに鮮明な像を描いたか(スライドをたくさん見せていただいた)
- 次のX 線天文衛星の展望とその困難について
続いて、Department of Astronomy の教授からPh.D コースについて説明していただいた。
最後に施設内の由緒ある古い望遠鏡を見せていただいた。望遠鏡を動かすのに滑車を使ってあったり支えの向きを地軸に合わせてあったりと、電気やコンピュータの無い時代の研究者たちの努力と宇宙への情熱を感じモチベーションが上がった。
Prof. Masahiro Morii 3/9 10:00-@Harvard University
Morii 教授は、日本の大学を出て現在ハーバードにて素粒子実験の分野で研究されている方である。研究内容の紹介から入り、先生が感じたアメリカと日本の違いなどについて二時間以上の時間をかけて教えていただいた。
アメリカと日本の大学/大学院の違い
- 教育方針について
- 院生の扱いと院生の意識ついて
- 入試のシステムの違いについて(アメリカでは推薦状が重要)
- Ph.D コース1 年目の勉強について(アメリカでは研究室を絞っていなくてもよい。3 回のqualificationtest がある)
- アメリカでの就職の際の修士あるいは博士の待遇について(修士と学士に大きな差はない。博士課程に進むことがあまりハンデにならない) 等
その他
- 各国の研究所の個性について
- 日本の学生が海外へ出ることへの励まし 等
特に印象に残ったのは、アメリカの教授陣は自分たちの研究への投資の一部としてPh.D コースの学生を育てるつもりでいるという点だ。アメリカではPh.D コースの学生から給料が出て学費や生活費をまかなえるようになっている(その分RA、TA 等をしなければならないこともある)。また、講義などで基礎的なところから熱心に教育する。その分学生は「仕事」として自分の研究に責任を持っている人が多い。
Seminar“Closing in on Ultra-high Energy Cosmogenic Neutrinos with the Radio Detection Technique” 3/9 13:00- @Harvard University, LPPC, 18 Hammond St, 1st Fl Conf Rm, Cambridge, MA 02138
大学のキャンパスの端にある、一軒家のような外観の研究所の一室で行われた。参加者は院生数人と教授たち+αの十数人で、クッキーをつまみながらのアットホームなセミナーだった。プレゼンターはUCLA でポスドクをしている女の方だった。研究をしている人は、自分の研究について様々な場所で発表し研究成果を人に認めてもらう必要があると聞いていたが、その様子を目の前で見ることができた。
プレゼン中、ある教授の方が積極的に質問していたのが印象的だった。プレゼンターの方は質問に一つ一つキビキビと答えていた。
Prof. Joshua Winn 3/13 10:00- @MIT
系外惑星の研究をされている方である。オフィスに温かく迎えて下さった。MKI(MIT の宇宙系の研究室の)の研究者が集まっているフロアで、きれいな内装であった。30 分程以下のような話をした。
- Rossiter-McLaughlin 効果を用いた恒星の赤道と惑星の軌道のズレの測定について
- 系外惑星という比較的新しい分野の魅力について
- もともとのモチベーションと今後の研究方針について
- 世界の系外惑星の研究室について
Class ――“String theory for Undergraduate students” 3/13 11:00- @MIT
- 学部生向けの講義であったが、学生に話しかけてみると院生も交じって受けていることが分かった。
- 教室には長机がなく、代わりに(収納可能な机付)の椅子が並んでいる。これが一般的な教室のスタイルのよう。また椅子の列の傾斜がきつく、教授と生徒がお互いによく見えるつくりになっていた。
- 教授の方が、まるで教壇が舞台であるかのようにはっきりとした分かりやすい口調で大きな声で説明していたのが印象的であった。String theory についてはまだ勉強していなかったせいで詳しい内容は理解できなかったが、数式はおえる程度の難易度だった。スピードはゆっくりとしていた。
- 授業中の教授の問いかけに対して生徒は積極的に反応していた。授業中に質問する人が多かった。小さな疑問でもその場で出していた。勿論授業後も質問は多かった。
- 各授業にassistant がついているらしいが、この授業ではAlan Guth 教授だった。彼もまた授業中に質問(意見)を出されていた。
Prof. Vladan Vuletic ’s Laboratory & 丹治はるかさん 3/13 14:00- @MIT
冷却原子を用いた量子情報系の実験研究室である。教授の方にはお会いしなかったが、東大を出て留学された丹治はるかさんと同僚の院生の方に研究室を紹介してもらった。
- 実験装置と一個のフォトンを出す技術の紹介
- その他の研究内容について
- 大学院生の部屋も見せていただいた
また、丹治さんには、院生の研究生活や日米の違い、アメリカの大学院入試などについて教えていただいたり、ご自身の経験をもとに精神面での貴重なアドバイスをいただいたりした。
荒井 慧悟
Prof. Gary J. Feldman (3/8 10:00-)
- ニュートリノ振動についての実験的研究をされているFeldman 先生を訪問した。
- 先生のラボの今後の研究予定を伺った。Fermilab で準備が進められているMINOS 実験に参加されている。この実験はニュートリノ振動の振動パラメータをより正確に決定することが目的だそうだ。
- さらにμニュートリノと電子ニュートリノの振動を詳しく調べるためにMinnesota で計画されているNoν A 検出器の構築も進められている。
- NoνA 検出器について詳しい話を教えていただいた。
- ラボの人数構成や所属している大学院生の国籍について質問した。
- ラボに入るために必要な条件は何か質問した。
- カミオカンデで進められている実験とMINOS 実験の比較を行った。
Prof. Masahiro Morii (3/9 10:00-)
- 素粒子についての実験的研究をされているMorii 先生を訪問した。
- 先生はSLAC において電子・陽電子の衝突実験に参加され、主にBABAR 検出器に携わっている。BABAR はCP対象性の破れについて調べることを目的として、電子・陽電子衝突で作られた中性のB 中間子をたくさん検出するために構築されたそうだ。
- 現在はさらにCERN のLHC でATLAS 実験に向けた準備を進められている。
- 物理の話を含め、アメリカの学生生活や大学院入試の仕組みなど、幅広い内容にわたっていろいろなことを親切に教えていただいた。
- Harvard 大学では、大学院入学後の一年程度は専攻分野を決めなくてもよく、様々な先生について研究室を見て回り、時間をかけて自分の興味を見極めるそうだ。
Seminar (3/9 13:00-)
- Morii 先生に引率していただき、南極で行われているニュートリノ実験についてのセミナーを聞きに行った。
- 先生2 人を含む、10 名以上が参加していた。
- 大量に存在する南極表層の氷(H2O)を検出器として利用して、ニュートリノの反応を上空から観測するという実験についての発表だった。
- アットホームな雰囲気で始まったが、発表中から質問がいくつか出され、発表後は質問がたくさん飛び交っていた。意見交換が活発だった。
Dr. Alexei V. Trofimov (3/9 15:00-)
- MIT General Hospital(MGH)のCancer Center でOncology の研究をされているDr. Alexei V. Trofimovの事務所を訪問した。
- 先生のグループはサイクロトロンから作られる陽子ビームを用いたガンの放射線治療を行っており、先生は陽子ビーム強度の最適化について研究されている。
- 始めに、陽子ビームが体内でエネルギーを落とす様子や、X 線よりも陽子ビームが適切である理由など、ガン治療の仕組みについて基本的なことからスライドを用いて丁寧に教えていただいた。
- 続いて、陽子ビームを作っているサイクロトロンの概要についていくつか質問した。サイクロトロンを含む各種機器は治療のために運転中だったので見ることはできなかったが、代わりに写真をたくさん見せていただいた。
- 体の各部分の中でも、眼については治療が比較的簡単で、1 回の照射は数分程度で終わるそうだ。
学部授業:String Theory for Undergraduates(3/13 11:00-12:30)
- 学部生向けのString Theory の入門的講義。
- 2001 年に学部2 年生から開講の要望があり、2002 年から本格スタートした授業。
- 学部3 年生を中心に、2 年生から大学院生まで受けており、学生の評判も良かった。
- 教科書はこの授業をもとに先生が執筆したもので、入門から中級までの内容をカバーしているそうだ。“A First Course in String Theory (Cambridge)”
- 教科書は500 ページを超えるのに対し、授業では先生がとてもゆっくりと丁寧に解説していた。
- 今回の講義では、前半は「開いたひも」に周期的境界条件を設定したり、ひもの質量とプランク質量の比を導いたりしていた。どれも自分にとっては初めての内容で、個人的には難しく感じた。後半は、次の展開への準備のために電磁気学や解析力学についての簡単な復習を行っていた。
- 先生が熱心で準備を十分にしており、さらに学生もしっかりノートを取っていた点は東大と同じだった。
- 違う点としては、こちらは先生とのコミュニケーションが多く、授業中も授業後も質問が活発だった。
- 授業のアシスタントとしてAlan H. Guth 先生がついていて驚いた。
Prof. Barton Zwiebach (3/13 12:30-)
- 午前中に参加したString Theory for Undergraduates の授業を行っているZwiebach 先生にラボでお話を伺った。
- ラボに行く途中で新しい建物やお昼ご飯の販売所など、MIT のいろいろな場所を案内してもらった。
- 先生は開いたひもを記述する近似的方程式の解析解を研究されているそうだ。解析解は先生が求められた。内容はとても難しかったが、楽しそうに説明してもらった。
- String Theory の簡単な教科書をいくつか紹介してもらった。
- 先生の研究内容やMIT の理論系分野の大学院入試について質問した。
大学院生 丹治はるかさん(3/13 13:30-)
- 丹治はるかさんのラボを見学した。
- 丹治さんはHarvard 大学に在籍しながらMIT のラボで研究をされており、2 つの大学が近いことの利点をたくさん教えていただいた。
- 大学院入試の詳細や、研究生活などについて質問した。
- 同じ研究室の他の院生にも実験内容についてとても丁寧に説明していただいた。
- みなさん楽しそうに研究している様子が印象的で、自分も将来このように楽しく研究をしてみたいと思った。
川上 悦子
Harvard-Smithsonian Center for Astrophysics(CfA) 3/8
藤井さんと一緒にX線天文学のFabbiano 先生、Dr. Elvis 先生にお話を伺った。お二人からは主に1999 年に打ち上げられたNASAのX線天文衛星であるチャンドラ衛星について、スライドを使って基本的なお話を伺った。(お二人の研究内容、チャンドラにいたるまでの衛星の歴史といかに進してきたか、など)
その後博士の方が施設の中を案内して下さり、天文台内部にある望遠鏡を見せてもらう。この望遠鏡は150年以上前に設置されたGreat Refractor といわれる15 インチ望遠鏡で、歴史的にとても価値のあるものとのこと。その後、天文学の教授の方に大学院のシステムについて詳しくお話を伺った。
授業 history of the earth 3/9
Daniel P. Schrag 先生担当の地球科学全般にわたる分野をカバーするような授業。特にテクトニクスと気候システム、そして生物進化システムの相互作用に重点をおいたものである。傍聴した回は二酸化炭素濃度の変動と地球システムとの関係についてであった。スライドや地図を使用した授業で、生徒にさかんに質問をしながら進めていた。
学生の数は20 人弱といったところで、ハーバード自然科学博物館の隣の教室で行われていた。主な学生は1,2年生がメインで他専攻の3,4年生も出席しているそうである。
Harvard-Smithsonian Center for Astrophysics 3/9
理論宇宙物理学の教授であるRamesh Narayan 先生にお話を伺った。研究分野について詳しく伺うことができなかったが、博士号を取ったのちにポスドクとしてアメリカへ来る学生についてなど、主に大学院生の進路について親切にお話して下さった。
その後、大学院生のLoren K. Hoffman さんにお話を伺った。外国の院生が自分の大学に所属したまま1年単位でハーバードに来て共同研究をするシステム、現在の研究や大学近くの住宅事情などについてお話して下さった。
Earth and Planetary Science 3/9
大学院生のDiana C. Valencia さんにお会いしてお話を伺った。惑星の内部構造に関するValencia さんの論文を演習で読んでいた為、論文について少し伺ったのち、地球惑星科学のビルを案内して頂いた。地質、地球化学、惑星科学などの様々なオフィスがあり、大気海洋に関するオフィスはEngineering and AppliedSciences のビルに多く入っていた。大気海洋関連の研究室は両専攻にまたがっている印象を受けた。
Valencia さんが地球惑星科学のM1 で吉富萌子さんという日本人の方がいること教えて下さり、日曜日(11日)にお会いした。ハーバード大学を選んだ理由、大学院受験など様々なお話を伺った。高校生の頃から大気海洋に興味があり国際的な研究者を志望する学生向けの大会に参加したお話や、ハーバードでの忙しい毎日について伺うことで、研究への強い思いがとても伝わってきた。
MIT Physics department 3/13
理論宇宙物理学の教授であるEdmund Bertschinger 先生にお話を伺った。宇宙論、ビッグバン後の宇宙の構造形成やダークマターなど、ご自身の研究内容についてポスターを使ってとても丁寧にわかり易くお話して下さった。ダークマター、ダークエネルギーそれぞれについて正体がわかるまでどのくらいかかるのかについてご意見を伺ったところ、ダークマターは数年以内にわかる可能性があり、ダークエネルギーは未知の部分が多く、まだまだ時間がかかるだろうとおっしゃっていた。そして宇宙物理の研究者を目指すきっかけについてもお聞きしたところ、幼い時分から宇宙物理の研究者になるのが夢でありそれを叶えることが出来た、と情熱的におっしゃったのが印象的でとても感銘を受けた。
また、atomic physics の院生のAviv Keshet さん、そしてAdrian Liu さん、Tamer Elkholy さんらAstrophysics の院生の方々に指導教官を選ぶまでなど大学院のシステムや院生の生活についてお話を伺った。
Center for Theoretical Physics 3/13
荒井君、門内君と一緒に素粒子理論の教授であるBarton Zwiebach 先生にお話を伺った。
教授のオフィスに向かう途中に、現在建設中の新しい物理学科のオフィスや学内を案内して下さった。新しいオフィスでは他分野の先生方のオフィスと近くなり、いろいろと議論できることが楽しみであるとおっしゃっていた。その後、先生のオフィスで研究分野であるひも理論、ご自身で書かれた教科書、大学院入試の制度などについて詳しくお話して下さった。
大学院生の丹治はるかさん(MIT)3/13
日本から留学なさっている丹治さんにはこの日以前にもお話を伺った。進路選択、研究への思いや海外の大学院を受験する苦労などとても詳しくお話して下さった。一人でアメリカに来て大変な毎日を送られていることがわかり、研究に対する思いについてとても考えさせられた。
13 日は丹治さんの所属なさっているatomic physics の実験系のラボを見学させていただいた。丹治さんはハーバード大学に所属していてMIT で実験をなさっているそうである。
実験室には様々な光学系の機器が設置されていた。実際の研究内容について、光子を一つだけ取り出すにはどうしたら良いか、将来的な量子情報への応用など他の院生の方とポスターを使ってお話して下さった。また、実際の学生生活、アメリカでの生活、大学院入試などについて詳しくお話を伺い、実際にアメリカに来てわかった日本の大学院との違いなどについても伺った。アメリカでは1、2年生は授業に出ることがメインになり、その後徐々に研究を行うそうだ。
白水 美佳
ESSVAP に参加して、もちろん施設の見学もそれぞれの大学の雰囲気を感じ取ることができて興味深かったが(実際MIT とHarvard では建物の様子からして校風の違いが感じられた)、色々な立場の色々な人に会って話をできたことが、一番の収穫だったと思っている。私は東京大学卒業後に日本で修士取得を目指すか、博士取得を目指すか、あるいは海外でPhD にチャレンジするか、その後の就職はどうするかなど、進路について迷うところが大きかったので、大いにその参考になるような意見が聞けた、あるいは感じられたからである。私は学部生として三年次に米国イリノイ大学に留学していたが、その中で化学科の院生とこのようにきちんと話し合う機会はあまりなかったし、システムも学校ごとに違うので、やはり今回来なければ分からなかったことも多かった。Individual Visit は、個人個人で教授らにアポイントメントを頼まねばならず、アレンジがうまくできなかったり直前まで返事が来なかったりとかなり苦労した点は事実であるが、その意味で結局のところ最も得るものが大きかったのもIndividual Visit だったかもしれない。
Individual Visit(1) Mar 8
10am-11:30am
まずはじめにDanheiser 教授(MIT)のラボを訪問した。Danheiser 教授はTester 教授(MIT, chemical engineering)と超臨界状態のCO2 や水を溶媒とした有機反応についての共同研究を行っている。私が卒業研究で配属される予定の東大の小林研では、視点は違うが水中で働くルイス酸など、水溶媒での環境にやさしい化学(Green Chemistry)の研究をしている。このテーマに興味があったため、Tester 教授は不在だったがDanheiser 教授に2研究室の院生を一人ずつ紹介していただき、両方の研究紹介とラボツアーをしていただくことができた。共同研究といっても試薬を合成したり反応後のサンプルを分析したりするところをDanheiser 研が行い、超臨界CO2 などを扱いそのシステムを組んだりする部分をTester 研が行っていて、見事にお互いの強いところを出し合って進めていた。建物同士がつながっていてラボ自体が物理的に近く、アメリカで共同研究が盛んなのはまずこういうところから生まれるのかもしれない。(MIT の建物は実際ビル同士が延々とつながっていて、ほとんど外に出ることなくキャンパスの端から端までいけるくらいである。)
11:30am-13pm
Danheiser 研・Tester 研の見学の後、有機系の他のラボものぞかせてほしいということを案内してくれていた院生に伝えると、知り合いを紹介してもらってわたるような形で他も一通り見て回ることができた。設備はどの部屋もほぼ同じで、新しくたったばかりらしいMIT 化学科の建物は非常に整っていたが、ある機器や器具自体は東大でも見慣れたスタンダードなものだった。(有機合成で特別な器具がいるということも普通ないだろうとは思っていたが。)研究内容紹介はごく簡単にそれぞれの人の手がけているプロジェクトについて口頭で聞いたりしただけだが、ラボによってやはり少しずつ雰囲気が違うのは面白かった(Movassaghi 教授のラボでは音楽が大音量でかかっていたり等)。
それの最後にFu 教授のラボを訪れると、日本人の大学院生(中井さん)と日本人の九大出身のポスドクの方(斉藤さん)がいるということで紹介をうけた。日本から来た経緯や日米の比較など、もう少し詳しく話してみたいと思ったので、また改めて13 日のIndividual Visit 時に時間をいただくことになった。
Individual Visit(2) Mar 9
8:30am-9:30am
授業の聴講もしてみたいと思い、MIT で少し有機化学の授業にでてみた。担当教官はたまたまDanheiser 教授で、聴講の許可を前日にもらえておいたのである。大学院生向けの講義ということで、内容は正直難しくてそこまで理解できなかったが、丁寧な授業プリントとcase study のたくさんでてくる授業形態に、日本の大学院向け講義がセミナー形式の特論などが多いのとの違いを感じた。MIT とHarvard は協定により単位互換を認めているため、数人のHarvard 生がきていた。また、学部生でも取っている人が数人いて、レベルの高さを感じた。MIT でもHarvard でも、研究はやる気があって受け入れ先が整えば一年生でも二年生でも始めることができるのだと言う。その制度は彼らの大きなadvantage になっていると思った。
10am-12am
Harvard に移動し、Liu 教授(Harvard)にお会いした。DNA をテンプレートにした有機合成などを主なテーマにしており、非常にユニークなラボである。Liu 先生は非常に若く、フレンドリーに接してくれたのが印象的であった。自己紹介等の後、教授から今行われている研究の概要を説明していただくことができた。それから院生の方をここでも紹介していただき、彼女のリサーチ(基質の組み合わせや触媒の有無による反応性のマッピングなど)についてPC 上のpower point でプレゼンテーションをしていただいた。写真などが多く非常に分かりやすいスライドだったので、質問を随所でしながら聞いているうちにあっという間に時間がたってしまった。ラボは生物系(細胞培養など)の部屋と化学系の部屋があり、実際ラボメンバーも、生物系のバックグラウンドを持つ人と化学系の人が半々くらいらしい。
12am-14:30pm
Jacobsen 教授(Harvard)になかなかコンタクトを取れなかったので、三菱ファーマから研究員としてきている稲越さんという方にメールを送り、彼のゲストとして訪問させていただいた。昼食を一緒にとりながらどんな経緯でHarvard にくることにしたのかなどを伺い、その後ラボの見学とJacobsen 研の研究内容を簡単にpowerpoint で紹介していただいた。稲越さんの知り合いということでEvans 教授(Harvard)にいるポスドクの日本人女性の方(三刀さん)も紹介していただき、短い時間だったがそちらの研究室も見た。部屋はどこも変わらないが、Jacobsen グループでは少々スケールの大きい装置が回っていたのが印象的だった。
* オフィシャルなVisit の時間ではなかったが、12 日の夕食で、Harvard 化学科PhD コース Ritter 研の古谷さんとWhitesides 研の橋本さんに会ってお話を伺った。
Individual Visit(3) Mar 13
9:30am-10:30am
個人的に「エネルギー」「環境」というテーマに関心があったので、MIT chemical engineering のTrout 教授のgas hydrates についての研究を興味深く思い話を聞きに言った。Gas hydrates とはCO2 や有機ガスがケージ状の水に取り囲まれたもので、これの熱力学的反応profile を調べている。コントロールしてガスを取り出したり中に入れたりすることができれば、今このケージの中に取り込まれている有機ガス(例えばメタンなど)は有用なエネルギー資源になるかもしれないということだった。教授に会うことはできなかったが、丁寧な説明を院生の方にしていただいた。ただ思ったよりもこれはかなり萌芽的な研究で、現実にエネルギーとして考えられるようになるためにはまだまだ基礎的な知見の積み重ねが必要なようである。Trout教授のラボは他にもprotein aggregation などの研究もしており、抗体と抗原の異なる条件下での結合の強さなどを調べていた。そちらのグループは例えば細胞培養の機械など生物系の研究室で見るような設備があり、幅広い研究を1グループで手がけていると感じた。
10:40am-12am
Individual Visit(1)時にお会いしたMIT のFu 研の中井さんと斉藤さんとは改めて、またSwager 研ポスドクの滝田さんは斉藤さんの紹介で初めて会い、少し進路についてなど相談した。
12:30pm-14pm
Harvard に移動し、Harvard 名誉教授の岸教授のところのポスドクの占部さんと、その紹介でもう一人のポスドクの竹村さん(岸研)、またShair 研の菊地さんと昼食をとりながら話した。それぞれ目指している進路が別々で、なるほどと思った(後述)
14pm-15:30pm
岸教授にお会いした。昼食時に占部さんらに話すと、学部生の私がメールで送った会ってくれという頼みに岸教授がすぐに応じてくれたことも、しかもその返事がじかにメールで岸教授自身からいただけたことも、びっくりされた。名誉教授ということもあり、確かにお会いするのも難しいだろう中、非常にうれしくは思っていたが、実際に話してみると、本当に今まで感じたことのないような「学者らしさ」が伝わってきて、改めて恐縮する思いがした。岸教授には「大学や大学院とはものの考え方を学ぶところだ」「自分の哲学をちゃんと持って、更にそれでもって自分を律しているような先生につくことだ」「こういう仕事(アカデミック)には一種達観の境地が必要になり、ものすごい精神力が必要となる」「人は自分のことを天然物有機化学者だというけれど、自分はそうだと思ったことは一度もない。幅広い雑学の中から新しい領域というのは開けてくる」「自分のアイデンティティが確立しないまま(外国に行ったり)ふらふらしている人はどうしても極限に立たされたときには弱い」等々、具体的というよりはむしろ気持ちの持ちようや哲学的なアドバイスを話22の中で多くいただいた。それは非常に私にとってはmotivational なものであった。
15:30pm-16pm
占部さんの案内で、ラボはJacobsen 研とほとんど変わらないからということで、地下にある化学科の共用施設を見学させてもらった。共用NMR 室、共用MS 室など、分析機器が何台も並ぶ部屋があった。また歴史を感じさせる図書館が印象的だった。学術雑誌などはほぼそろっていた。ただ東大と違ってあまり勉強などするようなスペースがあるわけではなく、本や雑誌の貸し出しのみをメインに機能しているようだ。一見したところ広さは東大の化学図書館とそこまで変わらないくらいだったように思う。中二階には歴代の学生の学位論文集があり、この中にどれだけその後大成した化学者の書いたものがあるのだろうかと思った。以上が私のIndividual Visit であった。全体として、むこうの配慮により、日本人を紹介されることが多かったように思う。教授よりもポスドクや院生の方の話を聞くことの方がトータルの時間としては長かったが、立場が近い分進路を考える意味ではより参考になった。特にB.S.を日本でとった後院以上から留学した人に関しては東大(薬学部など)出身の方が多かったこともある。
海老原 章記
Individual visit の時間には、幾つかの研究室を訪問し、その合間に3つのレクチャーに出席することができた。学部や大学院の授業を見る機会が全くなかったのは残念だが、それを差し引いても非常に実りある経験であった。自分の訪問先の概要を以下に示す。また、そのうちの幾つかについては、代表としてその内容を要約した。
ハーバードやMIT の教授陣のスケジュールは多忙を極めるものであるのにも関わらず、訪問依頼のメールに親切な返事をして下さった方々には心から感謝の意を表したい。
1.Lectures
I. Multiple levels of NMDA receptor signaling in hippocampal neurons (3/7 12:15-13:30)
II. Schizophrenia genetics-letting the genome speak for itself (3/9 8:00-9:00)
III. How does calcium ion trigger neurotransmitter release? Studies at a large model synapse (3/13 12:15-13:30)
このレクチャーは一般公開されており、非常に多くの学生や研究者が出席していた。講師の話すスピードが速かったため聞き取るのに苦労したが、大まかに内容をつかむことはできた。以下にその要約を記す。神経細胞は神経伝達物質の放出によって、情報を前シナプスから後シナプスへと伝える。神経伝達物質の放出は局所的なカルシウムイオンの流入によって、シナプス小胞が前シナプスにおいて細胞壁と融合することで引き起こされる。このレクチャーでは、カルシウムイオンの共同性と、PKC, munc-13 タンパク質のシグナル伝達パスウェイに焦点を絞った。
まず、前シナプスにおけるカルシウムイオン濃度と、シナプス小胞の融合頻度は比例関係にあることが指摘され、更に、カルシウムイオンは4~5次の高い共同性を示すため、少量のカルシウムイオン濃度変化が非常に大きな神経伝達物質の放出を引き起こすことが説明された。講師の見解では、このメカニズムにより、シナプス間の情報伝達におけるS/N 比が最適化されるということであった。次に、ホルボールエステルが関与するシグナル伝達経路が紹介された。ホルボールエステルはカルシウムの共同性を下げるため、シナプス小胞のカルシウム感受性が増加する。ホルボールエステルはPKC やmunc-13タンパク質を活性化させることが知られているため、これらのタンパク質を含むシグナル伝達パスウェイがシナプス小胞の融合に関与していることが示唆された。
2.Laboratories
I. Michael B. Yaffe Lab (3/8 13:00-14:00)
Yaffe 教授は非常に忙しい方で、一日に何百通と届くメールを全て把握することが難しく、自分のメールの内容も適切に伝わっていなかった。一度は訪問を断られたのだが、事情を細かく説明すると理解していただけたため、話を伺うことにした。
まず、研究内容の中で最も興味があった、統計モデルについての最新の見解について伺った。教授の説明がひと通り終わった後、統計モデルの応用先、モデルを利用する上での危険性、研究を進める上で自分が見につけるべきスキルの3つについて質問した。自分が考えた統計モデルの応用について、教授はその可能性を認めつつも、様々な問題点があることを忘れないように注意をされた。また、懸念していた、モデルを利用する際の危険性については大いに同意していただき、そのことを常に念頭においておけば良き研究者になることができるとのことであった。最後に、学際化が進む生物学を研究するに当たって必要となる専門知識についてアドバイスをいただいた。
II. Erin O’Shea Lab (3/9 10:00-12:00)
III. Galit Lahav Lab (3/9 14:00- 15:00)
Lahav 教授は快くメールに返信して下さったが、自分が提示した時間帯と教授の都合が合わなかったため、研究室の学生と会わせていただくことになった。大学院生のSara Thiebaud さんは、親切にもラボの研究内容だけでなく、ハーバード大学のPhD コースについても説明してくれた。
ハーバード大学のPhD コースはとてもフレキシブルで、他学科の授業を聴きに行けることに加え、ラボローテーションの際にはハーバード大学のラボだけでなく、MIT のラボに行くことも可能だということだった。また、PhD コースの学生への財政支援はTA の職を遂行すれば受けることができ、職を得られない学生はいないと聞いて安心した。さらに、ラボには物理、数学、生物など様々なバックグラウンドの持ち主がいるため、教授が彼らを教えるのとは逆に、彼らが教授を助けることもできるという話を聞くことができた。
現在ラボで注目しているのは、ヒトが患うがんの50%以上で欠損または変異しているタンパク質、p53で、研究している理由としては、がんの治療に役立つ可能性があることはもちろん、p53タンパクの活性がきれいな振動をするからだと聞いた。また、Sara さんが実際行っている研究についても聞くことができた。彼女はp53の振動が止まる(これはDNA の修復が十分なされたことを意味している)時期に興味を持ち、実験を行っているという。
IV. Pamela A. Silver Lab (3/13)
ラボでSilver 教授には会えたものの、急用が入ったとのことで訪問は断られてしまった。教授は断りのメールを送ったと言っていたが、未だにメールは届いていない。
V. Lewis C. Cantley Lab (3/13 14:30-16:00)
中山 博文
Seminar (Multiple Levels of Nmda Receptor Signaling in Hippocampal Neurons) @ Harvard Medical School
- アルツハイマー病の患者の脳に見られるβアミロイドとNMDAR の関係について言及している点が新鮮だった。
大学院講義(Foundation of Computational Biology) @ MIT
- 人数は40 人程度、内容はenergy function を用いたmolecular modeling。レベルは学部の授業と同じくらいだった。
- パワーポイントが授業の時点ですでにアップされているというのが良いと思った。
- 適度に学生に質問をするなど、先生の授業の進め方がうまいような気がした。また、後ろの方に座っている学生でも積極的に発言していた。
Individual Visit 1(Erin O'Shea @ Harvard)
- 教授には進行中のプロジェクトMAPK pathway (phosphate homeostasis, osmotic response)&circadian rhythm の説明を聞いたあと、いくつか質問した。
- ある遺伝子を多くのtranscription factor が制御するlogic を明らかにしたいらしい。Phosphate homeostasis において多くの刺激による入力が1つのMAPK に統合され、その後また枝分かれして多くの遺伝子を制御しているという話が興味深かった。
- 院生の人たちにはそれぞれの研究を説明してもらった後、研究や生活について質問した。
- 大学院生やポスドクのバックグラウンドを聞いたところ物理、化学、情報というように生物以外のバックグラウンドを持っている人が多かった。
Individual Visit 2 (Galit Lahav @ Harvard Medical School)
- 教授がいないので院生のSara さんが応対してくれた。大学院のシステムやlab で進行中の研究について話を聞いた。
- p53 の研究をしているlab で,p53 にCFP をつけて刺激に対してp53 の量(振動)がどう変化するかを調べていた。
- Sara さんは今度Erin O’Shea のlab に行くと言っていた。Harvard とMedical School の両方にlab rotationでいけるのは選択肢が広くてよいと思った。
Individual Visit 3 (Kevin Struhl @ Harvard Medical School)
- Medical School の大学院のことと研究について聞いた。
- Lab rotation では通常3 つのlab を10week ずつというのが標準的だが、2 つにしたり、4 つにしたりも可能でかなりflexible であるらしい。
- 今自分がやっている実験とそれに関するアイディアをはなし、コメントをもらった。
- DNA の塩基配列のみからヌクレオソームの分布を予測することが可能かどうかも質問した。部分的には可能だが、まだ実験データが不十分という答えだった。
Seminar (How does Ca2+ trigger neurotransmitter release?)
- カルシウムの濃度変化からPLC, PKC などが関係するpathway を通してneurotransmitter が放出される機構についての話だった。
Individual Visit 4 (Lewis Cantley @ Harvard Medical School)
- Lab を見学したあとに話を聞いた。質量分析計が4~5 台,電子顕微鏡など設備が充実していた。大学院生が6 人だが、ポスドクの数が多く全体で35 人ぐらいらしい。
- Cell growth regulation について研究している。PI3-kinase を発見したlab らしく、それらが関係するシグナル伝達経路について研究していた。ドメインを手がかりにして研究しているようだった。
- 企業との共同研究について質問した。企業の研究に対するアドバイスをしたり、企業の開発した薬剤を実験で使って効果をしらべたりしている。大学側にとっての最大のメリットは企業でどのような研究を行っているのかがわかるということらしい。
池内 桃子
Jen Sheen lab. (3/8 11:00-12:30)
この研究室では、シロイヌナズナで糖が細胞内シグナル伝達物質としてのはたらきをもっていることを研究している。まず彼女のlab を見学させて貰った。大きい実験室が3 つと、その他の機械が置いてある部屋があり、設備の充実ぶりに驚いたのだが、このlab がほんの1 年前この場所に移ってきたということを聞き、更にびっくりした。次に、私の卒研内容を紹介すると、それに関連する研究のディスカッションをしてくれた。私の興味の中心は彼女の研究分野とはかなり違うと思っていたのだが、彼女はこの分野についても詳しく知っていて、彼女独自の説得力のある説も伺うことが出来た。トップレベルの研究者なら当然なのかもしれないが、これも予想外だった。
その後は、彼女の研究内容について、かなり細かい話を説明して頂き、私は途中で疑問に思ったことや、以前から聞きたかったことを尋ねた。そんな感じで1 時間半、みっちりお話を伺うことができた。京都の中でも哲学の道が好きという彼女は、競争の激しい分野で先進的な仕事を次々にしている研究者ということから想像される、脂ぎった感じとか、きつい・冷たいところは微塵も感じさせない、素敵な女性だった。こういう魅力的な研究者になりたいものだなあ、と思った。
Jacque Dumais lab (3/9 9:00-9:30)
力学的な測定と生物の顕微鏡観察を軸にして研究を行っており、主に動き(可逆的な運動、不可逆的な成長)について様々な興味深い知見を発表している。
まず私の卒研の内容を紹介し、その内容についてディスカッションしてもらった。形態形成には彼も興味を持っていて、実際に葉序に関しては研究を行っているが葉の形態形成をやってはいないということで、非常に興味を持ってもらえた。形態形成において、力学過程が重要かどうかはyes and no だそうだ。次に、シダの胞子嚢が弾けて胞子を飛ばす過程を力学的に調べるという、現在進行中の研究を紹介してもらった。
研究室の設備を見せて頂いたあと、先端成長の話をポスドクの方に説明して頂いた。彼は、力学的性質が既知の風船の応答と、力学的性質が未知の細胞で応答を比較することによって、細胞の力学的性質を調べる研究をしているということだった。
Michele Holbrook lab. (3/9 10:00-10:30)
この研究室では、主に水分に着目した植物の生理生態学の研究を行っている。
葉の形作りの発生学的なことに興味を持っていることを伝えた。彼女の研究によれば、樹木(カシの仲間)の高い位置と低い位置につける葉ではきれ込みの深さに違いがあり、これは水分の供給と深い関係があるという。このような機能的な側面をきちんと考える姿勢が必要であるというアドバイスを受けた。この後で、研究室を見学させて頂いた。
Elena Kramer lab. (3/9 13:00-14:00)
オダマキをはじめ、キンポウゲ科植物で花器官のアイデンティティ決定のABC モデルについての研究を行っている研究室であった。
彼女が研究内容についてすさまじい速さで説明して下さり、私はなんとか合間に質問するという感じだった。彼女が扱っているキンポウゲ科の植物は、花器官のwhorl の数や器官アイデンティティが分類群によって大きく異なるということで、シロイヌナズナとキンギョソウで確立されたABC モデルがどう変化して多様な形態を生み出しているのか考える上で興味深い対象であると言える。AP3 のメンバーのうち、AP3-3 が花弁特異的に発現しているのが彼女のお気に入りらしい。花弁を持つものと持たないものが混在しているため、花弁は進化の過程で独立に何度も獲得されたと言われてきたが、基本的に同じ3 つの遺伝子のうち、同じものがいつも選ばれるのは確率的に考えにくいので、それが祖先形質でその発現が失われることによって花弁がなくなるという説が強く支持されると考えているとのことだった。
OEB (organismic and evolutionary biology)の講義(3/13 10:00-11:30)
導入的な講義ということで、専攻外の学生も受講していた。具体的には、エンジニアリングを専攻していたがorganismal な生物学がやりたいと思うようになったが、MIT には分子生物学の研究室しかないのでHarvard まで講義を受けに来たというMIT の大学院生や、Harvard の物理学専攻の学部生などが参加していた。学生は20 名程度、毎週宿題が出ているようだった。講義内容の生活史に関連して松の実(fruits というの26は間違いで、実際はseed との説明)を食べながらどこの部分が胚でどこが胚珠(種子)なのかというようなことを説明してくれた。実物を手・口にすることで、実感を持って理解できたし深く印象に残った。
HUH セミナー(3/13 12:00-13:00)
Harvard 大の植物標本室の研究の進行状況を報告するセミナーで、昼休みの時間に2 人が発表していた。一人目はサラセニアという食虫植物が虫の消化のために共生しているバクテリアとの関係が毎世代更新しているものなのか、継代されているものなのかということを調べているということだった。導入では、サラセニアの消化葉が窒素不足で形成され、十分な窒素があると形成されないという興味深い現象を紹介していた。二人目は、アブラナ科の毛の形の進化を研究しているということだった。セミナー前の雑談やセミナー後の質疑応答など、交流が盛んで和気藹々とした雰囲気が感じられた。