理学部生海外派遣プログラム

第1回 Harvard University & MIT Part.1

1.はじめに

Elite Science Student Visit Abroad Program (ESSVAP) は、選出された理学部の学生数名が海外の大学を訪れ、研究施設見学・教授との面談・向こうの大学生とのディスカッションなどを通じて、その国の研究水準を知りこれからの研究に役立て、向こうの大学制度について理解を深め、交流活動による人的関係を拡大することで、日本の大学へフィードバックすることを目的とするプログラムです。昨年まで Short VisitProgram という名前で6回の活動を行い、本年度からは名称を変更してよりいっそう国際交流を進めていくことになりました。今年はその記念すべき第1回目です。本年度選出された10名は以下の通りです。

名前 学科 学年
金澤 篤 数学科 3
門内 晶彦 物理学科 3
高吉 慎太郎 物理学科 4
藤井 友香 物理学科 3
荒井 慧悟 物理学科 3
川上 悦子 地球惑星物理学科 4
白水 美佳 化学科 3
海老原 章記 生物化学科 3
中山 博文 生物化学科 3
池内 桃子 生物学科 4

多くの人のご協力によって、今年度も無事プログラムを終えることができました。このプログラムに関わった全ての人に心よりお礼申し上げます。

2.スケジュール

Date Day Activities
3.6 Tue 16:56 Boston Airport 着
3.7 Wed 10:45 Campus tour (MIT)
14:00-17:00 Plasma Science and Fusion Center 見学 (Mr. Paul Rivenberg)
17:30 Discussion and Dinner with MIT students hosted by MIT-Japan Office (Ms. Patricia Gercik, Director)
3.8 Thu AM Individual Visit (1)
14:00-15:30 Visiting Prof. Cynthia Friend (Theodore William Richards Professor of Chemistry and Professor of Materials)
Tour of Chemistry Lab
16:30-19:30 Discussion and Dinner with students from Harvard Japan Society
3.9 Fri AM-15:30 Individual Visit (2)
16:30-18:00 Visiting Prof. Susumu Tonegawa
Laboratory Tour & Picower Institute 見学
3.10 Sat AM Free Time
14:00 Campus tour (Harvard)
3.11 Sun Free Day Sightseeing in Boston
3.12 Mon 9:00-11:00 Visiting MRSEC (Prof. David Weitz)
12:00-13:00 Lunch with JYR group and NSEC students
13:00-13:30 CNS overview by Prof. Eric Martin
13:30-14:00 NSEC overview by Prof. Robert Graham
14:00-15:00 CNS facilities tour
15:00-17:00 Lab tours with small groups of students
3.13 Thu AM-15:30 Individual Visit (3)
9:30 Meeting and Dinner with MIT student group (biodiesel@mit)
3.14 Wed 9:05 Depart for Narita Airport
3.15 Thu 16:20 Arrive at Narita Airport

3.施設見学・ディスカッション

MIT キャンパスツアー (3/7)

図1 図2

MIT は、1861 年に創立された、言わずと知れた理系名門校で、特に工科部門では世界最高峰といわれる。Undergrads・graduate students 合わせて約1 万人の生徒が学んでいる。チャールズ川沿いに154 エーカー(約62 万平方メートル)という広大な敷地が東西にのびている。

この日私達は、有名な Killian Court 正面にあるドーム型のMaclaurine Bldg.によく似た7 番Rogers Bldg.の中に集合した。そして、経済学部4 年生の方のガイドのもと私達+数人で出発した。1時間程かけて RogersBldg. の付近を観てまわった。全体としてキャンパスはとても広々としていて、良い意味で土地を贅沢に使ってあるように感じた。時々野生のリスにも遭遇する。また、日本の多くの大学の様に囲いが無いからか、開けた印象を受けた。

出発地点となった7番 Rogers Bldg. は、ヨーロッパの歴史的な建造物のような趣があり、これが大学の校舎!? と思うほど芸術的な白い校舎だった。正面のギリシアの神殿のような太く高い柱の間を通って中へ入ると、天井の高い玄関ホールがあり、上にはステンドグラスが施されていた。そのような趣のある建物もいくつかある一方で、斬新なデザインの近代/現代的な建物も多数目についた。小さい窓が壁面いっぱいについている学生寮や、「ハウルの動く城」ばりのユニークな Stata Center 、PicowerCenter(後述)などである。

MIT では、すべての建物に整然と番号がふられている。「覚えにくい」と言っていた生徒さんもいたが、隣接する建物には一続きの数字が振られているのである意味把握しやすいかも知れない。外観は一つ一つ独立した建物でも、隣接する建物は中で繋がっていることが多かった。冬の寒さが厳しいボストン、なるべく外に出ないで別の建物へ移動できるようになっているらしい。

構内には二箇所に体育施設があり、プールやトレーニングマシンなどの設備が揃っている。MIT には必修でSwimming Test があるので、生徒達はこれらのジムで練習するという。

この他にも、ガイドの方にはそれぞれの施設について分かりやすく説明していただいた。また、ツアーの後、今勉強していることや将来像などの個人的な質問にも受けて下さった。

蛇足になるが、キャンパス内では、学校で売られている洋服(「MIT」などと書いてある)を着ている生徒を多数見かけた。日本では、大学名を書いた服を日常着にしている人はほとんど見ないので新鮮だった。

Plasma Science and Fusion Center (3/7)

図3 図4

Plasma Science and Fusion Center (PSFC) は、1976 年に Francis Bitter Magnet Laboratory と Research Lab for Electronics が統合されてスタートした。物質の第4の相といわれるプラズマの科学的な理解、さらにはその応用を目指して様々な研究と教育が行われている。研究は Alcator Project, Physics Research, High-Energy-Density Physics, Waves & Beams, Fusion Technology & Engineering, Plasma Technology の6つの部門に分けられ、相互に協力して進められている。研究は主に核融合発電を目的とした AlcatorC-Mod tokamak などに焦点があるものの、廃棄物の管理や汚染物質を減らす技術開発、プラズマから水素を作るプラズマトロンの研究などにも力を入れている。現在は学部生22人、院生50人を含む270人が所属しており、様々な分野から集まった研究者たちが共同で実験を進めている。

出発前の2月21日、このプログラムに先立って東大柏の高瀬先生の研究室を訪れた。先生は PSFC との調整に加えて、私たちが PSFC に向けた準備のために Tokamak を見学したいという要望を快く引き受けて下さった。1時間程かけて実験棟内を案内していただき、球状トカマクの原理や各種検出器についてとても詳しく教えていただいた。この事前見学では実際に実験装置を前にしてプラズマについて学ぶことができ、PSFC のものと比較する上で大変参考になった。

3月7日14:00に私たちは PSFC を訪れ、施設を見学させていただいた。始めに PSFC の概要について Jeff Freidberg さんに、現在行われている実験について Earl Marmar さんと Darren Garnier さんにそれぞれ90分ほどで紹介してもらった。施設の規模や構成人員、各実験の数値的特徴などをスライドで詳しく説明してもらったため、その後の見学にスムーズに移行できた。続いて実験施設を見学した。まず Alcator C-Mod から始まった。これはトカマクのプラズマ実験で、世界最高の磁場を用いて、より高温・高密度の環境を実現している。磁場はトカマク中でトーラス型の部分にプラズマを閉じ込めるために必要であり、プラズマの形状・位置を制御することも実験の課題になっている。最終的には太陽のエネルギー源である核融合エネルギーを、効率的に取り出すことを目標としている。次に Levitated Dipole experiment (LDX) に移動した。これは中心のトーラス部分を超伝導状態にして浮上させるというもので、より高いエネルギー効率が得られると期待されている。超伝導リングを浮上させることで、木星のように理想的な対象性を持った磁場を作ることが目的だが、0.5トンもある重い金属を、どのように浮上させ、安定させるかが課題となっている。最後に Versatile Toroidal Facility (VTF) を見せてもらった。これは主に学生によって建設された装置で、プラズマと相互作用する磁力線を分断、結合させる実験を行っている。再結合に対するプラズマの反応を正確に測定するという結果を出している。見学の途中には、電力を蓄えておくコンデンサー室やこれらの実験を全て統轄するコンピュータルームも通った。

PSFC 訪問の最後には10分程度と短い時間ではあったが、東大の学部卒業後に MIT に留学した辻さんのお話を伺うことができた。大学院留学までの経緯や、院試のことなどを教えてもらった。

MIT の学生との Discussion (3/7)

図5

MIT Japan program とは、生徒や教授の方々に工業的・科学的側面から日本への理解を深めてもらったり、日本の企業へのインターンシップを援助したりするプログラムである。MIT には、全部で8つの国際プログラムがあり、日本のほかには中国やフランスなどがある。

今回、このプログラムの呼びかけで集まった MIT の生徒十数人と discussion をした。MIT Japan program の方が用意して下さったインド料理を各自皿に取り、それをいただきながらという形式張らない discussion となった。集まってきた MIT の生徒さんは皆日本語クラスを取っている生徒さんで、中にはかなり上手に日本語を話す人も居た。多くは工学系を専攻していた。

初めに全員自己紹介した後、MIT の学生の代表の方が MIT のカリキュラムや大学受験のシステムなどについて日本語でプレゼンして下さった。その後、数人毎のグループに分かれて話し合った。私達は自分たちが用意してきた資料を配布した。最後に各グループの代表者がグループ内で話し合ったことを発表して、discussion は終了した。

それぞれグループ内で様々な話に飛びつつ徐々に理解を深めていった。ここではグループ代表者が発表した話題を挙げる。

カリキュラムについて
  • 1年が前期後期と2つの学期に分かれているのは共通。
  • 1つの学期に取るコースは MIT の方が少ない。
  • その代わり、MIT ではほぼ毎回宿題が出る。これはアメリカの大学では当たり前のこと。1コマの授業あたり週3~5時間かけて宿題をする。東大では毎回の宿題はなく、レポートがあるのみ。これは、日本の大学では当たり前。宿題をすることによって授業内容が定着する。宿題はタフであり、かなり時間を取られる
  • MIT では、1~4年生まで、理系の学生でも人文系の授業を取らなければない。東大では、1~2年生の間に、文系分野も含めた幅広い分野を履修することが求められている。
  • MIT では、Swimming テストが必修である。
  • 日本の理学系の学部教育では、学部4年生の1年間は研究室に入り研究をするのが一般的。アメリカでは、そのようなしくみはない。その代わり、UROP という、学部生が研究室に入り一緒に研究する制度がある。
  • アメリカでは専攻の変更をしやすい。
大学の制度について
  • 学部生の学費は、東大が年間およそ50万円なのに対してMIT は年間およそ500万円。
  • 日本の大学受験は(国立の場合)センター試験+大学毎の二次試験からなるが、アメリカの大学受験では、SAT という共通試験と内申書・推薦状などを提出する。SAT は平均的な問題なのに対して東大の二次試験は非常に難しい。

    • 標準的な問題だと客観的な差が測りづらいのではないか。
    • 推薦状や内申書によって、試験日当日ではなく日ごろの態度が評価されるのがよい。
    • 二次試験が難しすぎると、勉学にかけてきた費用によって差が生まれてしまうのではないか。
  • 日本では、小学校や中学校に入学する際にも受験戦争がある。
  • アメリカの大学では世界各国からの留学生が多い。
  • 日本では修士課程2年+博士課程3年が基本だが、アメリカでは5年一貫の Ph.D. コースが基本。5年というのは標準で、6年以上かかる人もいるし早く終える人もいる。
  • 大学と大学院でアメリカでは、通っていた大学と違う大学院に進むことが推奨されている。日本では、違った院へ進む人もいるが、同じ院に行く場合の方が多い。特に東大の生徒についてはそうである。

    • アメリカでは環境を変えることで視野を広げようとしている。
    • 日本において大学⇒大学院での移動が少ない原因の一つは、いわゆるトップ大学というものが少なく、自分の興味ある分野で良い研究室がある大学が限られているからではないか。
学生生活について
  • 学部1年生はほとんど全員寮に入る。
  • MIT では、アルバイトをしていない学生も多い。東大生は、学生の80%がアルバイトをしている。
  • Pastime の過ごし方について。アメリカでは、Party などで盛り上がることが多い。日本では、飲み会、カラオケ、ボーリング等。

Cynthia M. Friend 先生 (Harvard Univ.) のラボ訪問 (3/8)

図6 図7

東大理学系研究科長の岩澤先生のご紹介で、物質科学と化学の教授である Friend 先生に全員でお話を伺う。先生は表面科学に関する研究をなさっており、Department of Chemistry & Chemical Biology と Division of Engineering and Applied Sciences 両方に所属なさっている。

まず始めにアメリカでの大学教育の特徴についてとても丁寧に解説して下さった。研究することに重点が置かれていること、科学と工学の学際的な知識の重要性が増していること、様々な教育プログラムが利用可能であること、語学を学ぶプログラムが用意されていることなどがあげられていた。研究することということを重要視していると強調されていた。学部学生でも早い段階で、様々な形で実際の研究に携われる機会が用意されているそうだ。まだ基本的な知識が備わっていないのではないかとのメンバーからの質問に対しては、研究をしながら基礎的な事柄を学んでいくとのことであった。そして、大学院での学習の目的は主に、就職の幅が広がること、研究によって自分で考える能力や創造性が養われることであるとのことであった。大学院では研究することが要求され、共同研究によって異なった手法と考え方を学ぶことや、幅広い能力を養うことが重要であるとおっしゃっていた。

その後、先生に皆でいろいろな質問をした。日本では修士2年、博士3年と別れていて修士が終わった段階で就職する人も多いが、アメリカでは Ph.D. コースが5年で設置されている。Ph.D. コースを途中で辞める割合を伺ったところ、先生の知っている限りでは10%以下であるそうだ。また、Ph.D. 取得後の進路について伺った。ポスドクなどのアカデミックな道を目指す人の他には、小さい会社を自分たちでおこす人もいるとのこと。いろいろな種類の仕事を自分たちで出来ることもメリットのよう。その他では金融関係の会社に就職する人も多いそうだ。

また、研究する上でなにが重要であるかについては、研究者同士の交流を挙げられていた。特にインフォーマルな交流が大切であるとのこと。実際に会って、話すことで様々なアイディアや共同研究に繋がることが多いそうだ。このような "human reaction" が重要であるとおっしゃっていた。

次に先生ご自身の研究についてお話を伺った。先生は界面化学 (Surface chemistry) に関する研究を行われている。トピックとして、電子部品への応用、光化学、環境化学、固体触媒などを挙げられていて、化学だけではなく物理、工学など様々な学問分野と非常に関わりが深く、応用が幅広いことがわかった。そのような研究の学際的な性質から、先生は Materials Research Scienceand Engineering Center (MRSEC), Nanoscale Science and Engineering Center (NSEC) にも関わっていらっしゃるとのこと。

その後、先生のラボを見学させて頂く。走査型トンネル顕微鏡装置 (STM) や赤外分光分析装置 (IR)、X線光電子分光分析装置 (XPS) などのたくさんの装置があり、様々な実験がとても活発に行われていることがわかった。

Discussion with students from Harvard University

3月8日の夕方からHarvard 大学の学生とのディスカッションを行いました。当日はさまざまな専攻の学生が参加してくれました。会食をしながら自由会話をし、お互い打ち解けるところから始まり、東大と Harvard 大学の基本的な情報を交換した後、話題は様々な方面に広がりました。議題の中心は大学入試、学生生活、教育制度、卒業後の進路等の相違点、問題点です。以下、主に Harvard 大学について中心にまとめます。

大学入試
  • 共通試験の学力試験と同じくらい高校時代の活動が評価される。個別の学力試験は存在しない。日本は基本的に学力のみ。
  • 私立なので独自の選抜をすることが出来る。専攻は入学後に決める。
  • 大半の大学生は高校卒業と同時に親元を離れることが多い。
大学(院)と学生生活
  • 有名な大学が東海岸、西海岸に集中しているのはアメリカ中部の気候が不安定なことと未開発な地域が多いことに起因するらしい。日本は東大の一極集中型。
  • 学部生は現在約6,600人(男性3,400 女性 3,200)、大学院生13,000 人。
  • 学生の男女比の割合はほぼ同じ。理工系に進む女子学生の割合が少ないのも日本と同じ。以前からアメリカではマイノリティを増やす努力をしているが、最近は女性のスタッフを増やすことにも努力をしている。
  • 日本の大学とは規模が違い、Harvard 大学はひとつの町を形成している。それだけによけいな誘惑がなく勉強に集中できる環境である。
  • 学費は最近値上げされ、年間31,456ドルでその他寮費など諸経費を含めると平均45,000ドルにも上るとのこと。これは他の私立大学の平均と比べても非常に高い。
  • アメリカには返還義務のない奨学金がたくさん存在していて、ほとんどの学生が奨学金を受け取っている。逆に奨学金をもらえないと大学、特に私立大学に行くのは難しい。日本では返還型の奨学金が大半。
  • 全部で41もの学部学科がある。ダブル専攻も認められているが一つの専攻の勉強で精一杯の学生が多い。特に文科系の学生には reading assignment というのがあって大量の本を毎週読み、さらにそれについてまとめることを行う。
  • 優秀な学生もいるが、そうでない人の方が圧倒的に多いと照れながら言っていた。また、裕福な家の息子・娘が多い。東大とどこか似たところがあるようだ。
  • ほとんどの学生が Houseと呼ばれる寮に寄宿する全寮制。Harvard 大学の House は全部で12個ある。東大生の大半は関東出身。
  • 寮には食事がついているので外食は少なく、自炊もしない。
  • 大学院は基本的にPh.D. の5年コースであり、修士論文を書かないで単位だけで修士号を出してしまうことも多い。
  • 日本でも取り上げられたサマーズ前学長の問題発言はハーバードの学生の間でも大きな騒ぎとなった。
  • さらに大きく成長を続けるHarvard 大学はキャンパスの拡張をめぐって付近の住民と問題を起こしている。
  • 教授陣の中でもテニュアを持つ教授の割合が他の大学に比べて低い。日本は基本的に助手も終身雇用。
  • アメリカでは教育が重視されている。教育が出来ない人材が採用されることは非常にまれ。大学院生も授業をする。というのも、博士号は“大学の教員免許”という位置づけにあるからだそうだ。
卒業後の進路
  • 文系の学生が多かったせいかもしれないが、大半の人が卒業後就職する予定だと話してくれた。
  • 就職に関しては、大学のブランド力はあまり働かなく、結局は個人の能力が決め手だそうだ。日本でも東大のブランド力は低くなりつつあるのではないか。
  • 日本の企業にインターンシップで来る予定の人が何人かいた。日本で働くことを希望する学生も多い。
  • 少し前まではポスドクの就職状況は非常に厳しかったが最近は回復している。それでもポストは少なく、100通くらい願書を出すのは普通らしい。

その他、教育・社会問題、文化の相違など話題は多岐にわたりました。現地の学生の生の声聞くことが出来たのと同時に、英語でのディスカッション自体が始めての人も多く、とても貴重な経験になりました。日本の方が良いと思える点もあれば、その逆もあり、そして日本もアメリカも多くの点で異なるのだけれど、同じような問題を抱えている。非常に興味深いことだと感じました。ディスカッションが終わった後、何人かの学生に自分たちの Dormitory を案内してもらいました。非常に大きな建物で、Harvard の歴史を感じさせる厳かさがあったのが深く印象に残りました。

最後に、今回ディスカッションに参加してくれた学生達、準備段階でお世話になった Harvard Japan Society 代表の若林瑤子さんに感謝したいと思います。

Picower Institute (3/9)

図8 図9 図10

Picower Institute は MIT の School of Science 内の独立した研究所であり、記憶や学習のメカニズムを分子、遺伝子、細胞、システムなど様々なレベルから解明することを目的として設立された研究所である。Picower という名は Picower foundation からの寄付によってそれまであった研究所が新しくなったためについたものである。Picower Institute の研究者は Department of Brain and Cognitive sciences や Department of Biology に所属している。また、Picower Institute は理研 BSI と交流があり、理研から研究者が Picower Institute に来ていたり、Picower Institute の研究者が理研のretreatに参加したりしていている。建物内にも理研のポスター、パンフレットなどがいくつか見られた。Picower Institute では最初に利根川先生のお話を聞き、その後で研究所内を案内していただいた。

利根川先生のお話ではアメリカにおける研究や教育環境についてのお話を聞くことができた。その中で日本と大きく異なっていると感じたこととしては入試制度がある。アメリカでは日本と違い大学別の入学試験はなく、essay, interview, recommendation などによって入学が決まるというものである。この中でも特にinterview が印象的だった。これは卒業生がボランティアで行うもので、入学した学生の追跡調査が行われて interviewer 自身も評価されることで interviewer の質が保たれているというものである。また、UROP (undergraduate research opportunity program) があるおかげで学部生でも研究室で何かできる環境が整っているというが魅力的だった。また、アメリカでは大学院の最初の1,2 年では授業をある程度とらなければならないことや、テニュアの審査の際に教育に対する姿勢も評価されるなど教育が非常に重視されているとのことだった。

研究室の中ではマウスの行動学的な実験を行う部屋で頭に電極を埋め込んだマウスを見たり、2-phtone microscope のある部屋を見学した。部屋数が多く、全体的に設備も充実していて、机と机の間も広く感じた。また、これは今回訪問したほかの研究室もそうであったが、壁のいたるところにホワイトボードがありディスカッションが行われた跡が見てとれた。最上階にはセミナーハウスがあり外から人を招いたときなどに使用するとのことだった。建物は部屋などの配置が複雑であったが、外壁がガラス張りで内部が吹き抜けになっていることや、室内に竹が植えてあったことなどMITのほかの建物と比べても個性的であった。

Material Research Science and Engineering Center (MRSEC) (3/12)

MRSEC とは化学・生物・物理等における分野横断的な研究拠点のことで、Harvard 大学を含め MIT や Caltech、Cornell 大学といった複数の大学から多くの人々が参加している。またその一貫として学部生に研究の機会を与える Research Experience for Undergraduates (REU) といった教育活動も行われている。MRSEC の Harvard 大学拠点では26名の教員の方がメンバーとして参加しており、大きな枠組みごとに Interdisciplinary Research Group I-IV の4グループに分かれている。先日伺った Cynthia Friend 教授は IRG I に参加されている。

渡米7日目の3月12日の午前中から IRG III : Interface-Mediated Assembly of Soft Materials に属する Harvard 大学の Weitz 研を訪問し、David Weitz 教授と院生の Andrew Utada さんに案内して頂いた。

最初の実験室では、シリコン板に造られた微細な channel 内で水滴をつくることで、非常に狭い領域での化学物質の反応を見たり、細胞をその中で進化させてできた新しいタンパク質の環境適性を確かめたり、また液体そのものの性質を探ったりする手法を説明して頂いた。Weitz 先生が質問を受けるだけでなく、学生の側にも質問を投げかけてトピックについて考えさせていた姿が印象的だった。

次にシリコン形成に使われる optical lithography と呼ばれる手法についての説明があった。液状のシリコンに型版の上から UV を照射し、光が当たったところだけが固体になって形成されるとのことだった。実際の作業は全て粉塵などが混入しないようクリーンルームで行われていた。また後に実際に顕微鏡で1人ずつシリコン上の channel を見る機会もあった。

大半が液体で構成された細胞が形を保っているメカニズムの研究についての説明では、粘性を測定する方法(様々な周波数で回転方向に振動させる)を説明して頂いた。ここで物体が流体内を移動する際の速度と粘性の関係を示すために、コーンスターチを水に溶かしたものを用いた即興の実験を披露して頂いた。その後 CCD カメラを用いた測定技術などについても見学し、同じ建物の他の研究室も幾つか見せて頂くことが出来た。elastic membrane など、様々な研究をスライドや実際の機材を見ながらその場で実験している学生の方から聞くことが出来た。

見学後に伺ったところ、夜中の1時にミーティングが入ることもあるという。Andrew さん自身も博士論文を抱えた中で説明して下さっていた。充実しながらも大変な研究生活を垣間見ることができた気がした。

Center for Nanoscale Systems (CNS) (3/12)

CNS は、ハーバード大学が所有する設備や研究機関を共有するというコンセプトを持っている。設備を利用できるのはハーバード大学内部の人間に限らず、アメリカの研究者に幅広く提供しているという。また、技術支援を行ったり、スタッフを派遣したりすることも行っている。CNS では、ナノスケールの構成要素がどのようにして大きく複雑なシステムへと統合されるのかに焦点が置かれている。また、システムがどのように生じ、どのように構築され、どのように挙動するかについて研究がなされている。今回の渡航では、クリーンルームを初めとする研究設備の一部を見学させていただいた。

Nanoscale Science and Engineering Center (NSEC) (3/12)

NSEC は、ハーバード大学内の施設で、MIT、東大を含む11の機関との共同研究で、ナノスケールの装置内で、将来の電子工学への応用を睨んで電子やスピンの振る舞いを調べたり、物理的な手法で生物学的な現象の理解に応用することを目指したりしている学際的な研究所である。私たちは、まず研究所に関する全体的な説明を受け、その後約5人ずつのグループに分かれて研究室を巡って説明を受けた。

Donhee Ham lab では、大学院生の方に主にポスターで研究内容の説明を受け、装置を見せて頂いた。CMOS というチップとマイクロ流体を組み合わせた装置を開発し、それを用いて生物学的、化学的な反応を操作できるという話だった。CMOS チップは高速でプログラムできる磁場の再構築が可能なので、チャネル内の反応を高度にコントロールできるという強みを持っている。具体的には、細胞集団からの組織の再構築や、ガン細胞の選別などの応用に使われるとのことだった。

Kit Parker lab では、心筋細胞の形を変えたときに、どのような変化が生じるのかという研究内容について説明を受け、実際に拍動している心筋の培養細胞や細胞をはめ込む三角形の型を見せて頂いた。細胞骨格が細胞の形によって影響を受けるという仮説を検証するため、未成熟な筋原繊維を特定の形の細胞外基質の基盤の上で培養し、細胞の形を変えたときに細胞内の骨格にどのように変化するかを調べているそうだ。

George Whitesides lab では、Ph.D.4年の橋本さんにお話を伺った。教授の方針により研究室のメンバーはみなバックグラウンドが様々であり、実際に行っているテーマも細胞培養のための微細加工の手法など、非常に多岐に渡っているとのことだった。橋本さんご自身が取り組んでいらっしゃる研究テーマ(液滴形成の条件検討)について説明を受けた。George Whitesides lab では、Ph.D.4年の橋本さんにお話を伺った。教授の方針により研究室のメンバーはみなバックグラウンドが様々であり、実際に行っているテーマも細胞培養のための微細加工の手法など、非常に多岐に渡っているとのことだった。橋本さんご自身が取り組んでいらっしゃる研究テーマ(液滴形成の条件検討)について説明を受けた。

Robert Westervelt lab では、マイクロ流体を用いて細胞を操作したり、またカーボンナノチューブを用いてその上での電子の挙動を調べたりしているということを伺った。

Biodiesel@MIT とのディスカッション (3/13)

図11 図12

Biodiesel@MIT は2006年1月に始まった MIT の学生団体である。太陽電池で動くプロセッサーにより、MIT キャンパス内の食堂および Cambridge 地域のレストラン等からでる廃食油を biodiesel に換え、キャンパスバスの燃料に利用しようという試みを提案し、実現に向けて動いている。このシステムは環境にやさしいほか経済的にも石油価格の高騰の中 pay するものであるという。廃食油をバイオマス燃料にかえるというコンセプトは例えば化学工学のシステム思考の格好のモデルであり、参加する学生の教育的な場ともなる。また、この計画が実現すれば、米国でも初めての "sustainable campus" づくりにむけた、学生が主体となる本格的取り組みの一例となるということである。学部生から大学院生まで、数十人のメンバーを抱えるこの団体は、訪問時実際の装置などを設置する資金集めの段階であり、MIT からのファンドに加えて "ecomagination challenge" という mtvU 主催のコンペティションに応募し、最終ラウンドに残って$25000の助成金獲得を狙っているところであった。

この学生団体とのディスカッションは、ESSVAP 参加学生の一人である私(白水)の企画で、国際交流室の認可のもとプログラムに組み入れてもらったものである。企画の趣旨は (1) MIT の課外活動、学生団体の活動についての視察 (2) MIT 全体としての環境やエネルギー問題における取り組み、姿勢について知る (3) 現地学生との討論・交流の場を設ける の三点である。Matthew R. Zedler さんは MIT 機械工学科の4年生で、biodiesel@MIT の主要メンバーの一人であるが、私は彼と別のプログラムを通して知り合いであったため、そのつながりからアレンジを相談させていただいた。Matthew さんには ESSVAP メンバーにむけて、MIT の環境憲章、彼らの活動概要や発足から今までの経緯、プロジェクトの概要(上記参照)、そしてその他 MIT の学生の課外活動(例えば、MIT にはおよそ360の学生組織がある、一人の学生がおよそ3~4個の団体に所属している、time management の概念があることなど)について簡単なプレゼンテーションを行ってもらうことができた。その場には Matthew さん以外に二人の biodiesel のメンバーがおり、また non-member だが Matthew さんの友人で日本人 MIT 大学院生の佐藤さんも加わって、飛び交う質問に答えてくださり、有意義なディスカッションができた。参加者の立案をとりいれてくれるというプログラムの自由度に感謝し、その flexibility は来年度以降の ESSVAP にもつなげていってほしいものだと願う。

その後は Matthew さんと佐藤さんも加わり皆で MIT 近くのレストランに夕食に出かけた。プログラム最後の夜、おいしいボストンのシーフードとともに、遅くまで彼らと学生生活について等々、フランクな会話を楽しめたのは非常に良い思い出となったことである。

帰国後の3月22日、ecomigration challenge 優勝チームの発表があり、biodiesel@MIT は見事助成金$25000を獲得した。Matthew さんによると、そのファンドにより、今夏ごろまでにプロセッサーなどの設備を整え、運転を開始する見通しだという。学生が自分たちで立ち上げたプロジェクトを実現していくプロセスが、まさに実際に見られたという点で、これは話をした私たちにとっても嬉しいニュースであった。Congratulations to them!!