2021/06/24

地球形成初期、鉄への水素の溶け込みは硫黄に阻害されていた

 

飯塚 理子(地殻化学実験施設 客員共同研究員/ 研究当時:特任助教)

後藤 弘匡(物性研究所 技術専門職員)

市東 力(研究当時:地球惑星科学専攻 修士課程2年)

福山 鴻(愛媛大学 PD/研究当時:地球惑星科学専攻 博士課程3年)

森 悠一郎(地球惑星科学専攻 修士課程2年)

服部 高典(日本原子力研究開発機構 主任研究員)

佐野 亜沙美(日本原子力研究開発機構 主任研究員)

舟越 賢一(総合科学研究機構 主任研究員)

鍵 裕之(地殻化学実験施設 教授)

 

発表のポイント

  • 地球形成初期を模擬した高温高圧下での中性子回折(注1) 実験を行い、鉄に取り込まれた水素の量を決定しました。結果として、硫黄の共存によって鉄の水素化(注2) が抑制されることが分かりました。
  • 鉄を主成分とする地球コアに含まれている軽元素候補の中で、地球コアに水素と硫黄が溶け込む際の相互の影響を明らかにしました。水素と硫黄が地球形成の初期段階で優先して固体の鉄と反応した後に、他の軽元素が鉄に溶けこみやすくなった可能性が示されました。
  • 本研究の結果は、原始地球の形成過程(特に、微惑星の集積〜コアーマントル分化(注3) のプロセス)における軽元素の振る舞いについての理解が進むと期待されます。

 

発表概要

鉄を主成分とする地球の中心核(コア)には、数種類の軽元素(H、C、O、Si、S等)が溶け込んでいると考えられています。しかし、どんな軽元素がどの程度存在し、それらがどのようにコアに入ったのかは明らかにされておらず、これまで数多くの実験・理論的研究がなされてきました。軽元素の有力候補の1つである水素は、地球形成初期の原始地球に大量に存在していた水を起源として鉄に取り込まれた可能性があります。しかし、その量やプロセスが他の軽元素によってどのように影響されるかは解明されていませんでした。

東京大学大学院理学系研究科の飯塚理子 客員共同研究員をはじめとする地殻化学実験施設の研究グループは、東京大学物性研究所の後藤弘匡 技術専門職員と日本原子力研究開発機構J-PARCセンター、総合科学研究機構と共同で、地球形成初期を模擬した高温高圧実験を行い、鉄に軽元素が取り込まれる過程を中性子回折によりその場観察しました。その結果、高温高圧下で含水鉱物から脱水した水と鉄との反応で起こる鉄の水素化が、共存する硫化鉄によって抑制されることが明らかになりました。このことから、水素と硫黄が固体状態の鉄に優先的に溶け込み、その後に溶融した鉄に他の軽元素が溶解した可能性が高いことが示唆されました。

 

発表内容

研究の背景
現在の地球コアは純鉄Feを想定した場合よりも密度が小さく、水素H、炭素C、酸素O、ケイ素Si、硫黄Sなどの軽元素が溶け込んでいると考えられています。我々のこれまでの研究から、地球の始源物質を模擬した鉄−含水ケイ酸塩試料において、含水鉱物の分解によって生じた水と固体の鉄とが酸化還元反応を経て、鉄の水素化反応が起きることが分かっていました(2017年プレスリリース参照 https://www.s.u-tokyo.ac.jp/ja/press/2017/5210/#a3)。しかし、この水素化に対する他の軽元素の寄与は明らかにされていませんでした。

 

研究内容
本研究では、始源物質となる鉄隕石や火星をはじめとする惑星のコアに多く含まれ、かつ、水素と同様に鉄の密度・融点を大きく下げる要因となる硫黄に着目しました。原始地球の組成を見立てた試料について高温高圧下での中性子回折実験を行い、鉄の水素化に及ぼす硫黄の影響を明らかにしました。

実験は、J-PARCの物質・生命科学実験施設MLFにある高圧ビームラインPLANET(注4) に設置された大型 6 軸プレス「圧姫」を用いて行いました。地球形成初期の状態を模擬するために、試料カプセルの中には地球の始源物質である鉄、硫黄および含水ケイ酸塩の原料となる混合粉末(クオーツSiO2 とブルーサイトMg(OH)2)を充填しました(実際の実験では、回折パターンのバックグラウンドを減らすために、水素の代わりに重水素(D)で置換したMg(OD)2を用いました(注1) )。比較のために、硫黄を含まない試料での実験も行い、6−12 GPa, 1200 Kまでの温度圧力領域で回折測定を行いました。試料を加圧した後に段階的に試料を加熱すると、Mg(OH)2が脱水して水が生成され、それが鉄の高温高圧相と反応して水素化鉄を生成します。出発試料に硫黄を含む場合は、鉄の高温高圧相とともに硫化鉄(FeS)が形成され、このFeSには水素は取り込まれていませんでした。得られた回折パターン(図1)をリートベルト解析(注5) して、鉄に取り込まれた水素の量を算出すると、硫黄を含んだ試料では、硫黄を含まない試料に比べてどの温度圧力においても少ないことが分かりました(図2)。これらのことから、硫黄を含む場合には、鉄と反応してできたFeSが鉄の水素化を阻害することが明らかになりました。

また、今回の結果は、これまでの含水鉱物を含まない試料の先行研究の結果(FeS合金と水素とを直接反応させると水素化したFeSが生成する)とは異なっており、実験中に生成した水が水素化反応のメカニズムや水素化鉄−硫化鉄の相平衡関係に影響を与えているものと考えられます。

図1:高温高圧下(6.7 GPa, 1000 K)で長時間測定して得ら れた中性子回折データを解析した結果の一例。重水素化鉄FeDxの高温高圧相(fcc)には、 結晶構造中の八面体サイト(D)と四面体サイト(D)に重水素が取り込まれ、共存する硫化鉄FeSには重水素は取り込まれていなかった。

図2:解析で得られた鉄の高温高圧相(fcc, hcp)中に取り込まれた重水素量と温度・圧力の関係(各データに添えられている数字は圧力値)。温度と圧力に対して正の相関を持ち、硫黄を含む試料では、含まない試料に比べて重水素量が減少することが分かった。また、温度圧力がより高くなっても、x ~0.4付近に存在する溶解度ギャップを超えられないことが予想される。

 

社会的意義・今後の予定
本研究では、水の存在下で水素は水素化鉄として、硫黄は硫化鉄としてともに固体の鉄に取り込まれることが分かりました。この結果から、原始地球では始源物質が集積していく初期段階で、水素は固体の鉄へと優先的に溶け込み、水素化鉄と硫化鉄の共存によって鉄の融点を大幅に下げ、より低い温度で融けやすくなった可能性が考えられます。このようにして溶融した鉄化合物中にその他の軽元素が徐々に取り込まれていき、地球の中心へと沈んで最終的にコアを形成していったことが考えられます(図3)。地球コア中の軽元素の謎の解明に向けて今後は、地球進化過程における水の起源とその量を考慮した上で、水素・硫黄だけでなく候補となる他の軽元素がいつどの程度鉄に取り込まれたのかを明らかにするために、複数の軽元素の寄与を同時に考えていく必要があります。

図3:原始地球の形成過程における、鉄への軽元素の取り込みのシナリオ。微惑星の集積時に固体の鉄へと水素と硫黄が取り込まれ、融点が降下してできた鉄メルトに他の軽元素が濃集してコア形成されたと考えられる。水がいつ、どの程度地球にもたらされたかがコア中の軽元素の謎を解明する鍵となる。

 

本研究成果は、若手研究(課題番号18K13630)、新学術領域研究(課題番号15H05828)、基盤研究S(課題番号18H05224)、住友財団基礎科学研究助成、及びKEK-物質構造科学研究所 量子ビーム科学研究助成の支援を受けました。また、高圧セルの改良・作成準備や回収した試料の分析については、物性研の共同利用プログラムを利用して行いました。

 

発表雑誌

雑誌名 Scientific Reports
論文タイトル Behavior of light elements in iron-silicate-water-sulfur system during early Earth’s evolution
著者 Riko Iizuka-Oku*, Hirotada Gotou, Chikara Shito, Ko Fukuyama, Yuichiro Mori, Takanori Hattori, Asami Sano-Furukawa, Ken-ichi Funakoshi, Hiroyuki Kagi
DOI番号 10.1038/s41598-021-91801-3
論文URL

https://www.nature.com/articles/s41598-021-91801-3

 

用語解説

注1 中性子回折

物質に中性子が当たると回折する物理現象を利用して、物質の結晶構造(固体状態の物質中で原子が規則正しく配列した状態)や磁気構造の解析を行う手法のことです。X線が原子中の電子と相互作用する一方で、中性子は原子核と相互作用するために、電子数の少ない軽い元素でも物質の結晶構造の中でどこにどの程度の量で存在するかを特定し、直接「見る」ことができます。このため、水素のような軽い元素に対しても大きな散乱強度を持つ中性子回折は、X線回折と相補的な情報を得ることができます。実際の中性子回折実験では、軽水素(H)を重水素(D)で置換した試料が用いられます。これは、Hが中性子に対して強い非干渉性散乱を起こして大きなバックグラウンドを与えるために、得られた回折パターンの精密な構造解析が困難になるのを防ぐためです。

注2 鉄の水素化(水素化鉄の生成)

鉄は3.5 GPa(1 GPaは約1万気圧)以上の圧力で水素を大量に溶かし込み、水素化鉄(鉄水素化物, FeHx)を作るとともに、相境界が変化し、融点が大きく降下することが知られています。水素化鉄は鉄の結晶中に、規則正しく層状に並んだ鉄の原子の間に水素が貫入して安定な状態になっています。温度圧力条件に応じて、さまざまな構造(相)に変化すること(=相転移)が知られており、含まれる水素の量も温度圧力によって変わります。下図のように、鉄の高温高圧相である面心立方構造のfcc(γ)相や六方最密充填構造のhcp(Є)相が水素化します。鉄と等モル量の水素が取り込まれた水素化鉄dhcp(Є’)相(x = 1.0)も知られています。圧力温度を下げていくとbcc(α)構造となり水素を吐き出してしまうために、水素化鉄の測定には高温高圧下でのその場観察が必須となります。

注3 コア-マントル分化

現在の地球は地表から中心へ向かって、地殻-上部マントル-下部マントル-外核-内核という層構造を形成しています。一方の原始地球は、始源物質が集積したまま未分化の状態で、マントルとコア(核)が分かれていませんでした。その後鉄の重力沈降により核が形成され、軽いケイ酸塩を主成分とするマントルと分かれて、現在の層構造が形成されたと考えられています。

注4 超高圧中性子回折装置PLANET

茨城県東海村の大強度陽子加速器施設(J-PARC)の物質・生命科学実験施設(MLF)に設置された超高圧中性子回折装置 PLANET では、パルス中性子線と大型高圧装置を組み合わせることで地球深部に相当する高温高圧条件下で中性子その場観察を行うことが可能です。X線実験では地球の中心約360 GPaでの高圧下でのその場観察も可能となっていますが、中性子実験では大容量の試料体積を必要とするために実験可能な圧力領域はまだ限られています。

注5 リートベルト法

粉末X線回折実験や中性子回折実験で測定した回折パターンから、構造情報を得る解析手法の一つです。具体的には、結晶構造(結晶格子の大きさや原子の位置)に関するパラメータをモデル化して得られる仮想の回折パターンと、実際に実験データとして得られた回折パターンとを比較しながら、結晶構造やピーク形状などに関するパラメータを精密化していく作業を行います。

 

―東京大学大学院理学系研究科・理学部 広報室―

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