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有馬朗人先生の訃報に接して
東京大学元総長で29代理学系研究科長・理学部長の、名誉教授の有馬朗人先生の突然の訃報に接し、理学系研究科構成員一同言葉を失っています。心より深い哀悼の意を表します。
有馬先生は東京大学理学部を卒業、大学院修了を経て本学より理学博士の学位を授与されました。本学原子核研究所助手、理学部物理学教室講師、助教授を経て1975年に教授になられました。本学の大型計算機センター長、理学部長ののち、1989年から1993年には本学総長を務められました。本学退官後も理化学研究所理事長、参議院議員、文部大臣などの要職に就かれ、日本の学術振興や教育研究に多大な貢献をおさめられ、現在も武蔵学園の学園長を務めるなど教育現場で活躍されておりました。
先生のご専門は原子核物理学で、黎明期から当該分野の第一人者として研究を進められ、有馬-堀江の配位混合理論、相互作用するボソン模型など数多くの理論を提唱、発展されました。これらは今日の研究にも大きな影響を与えています。このような貢献に対し、仁科記念賞、フンボルト賞、フランクリン財団ジョン・プライス・ウェザリル・メダル、日本学士院賞、文化勲章などを受章されるなど、称えられています。いっぽう、俳人としても著名で『天為』俳句会を主宰し、俳人協会賞などの賞を受賞されました。
長年にわたる先生の学術への幅広いご貢献に敬意を表し、心からお悔やみ申し上げます。
令和2年12月8日
理学系研究科長 星野 真弘
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有馬朗人先生は1930年大阪生まれで、2020年9月に90歳になられたところでした。東京大学を卒業、学位取得後、東京大学を拠点にしつつ世界各地で研究・教育に励まれ、原子核物理学の黎明期から最近まで、数多くの業績を残されました。1949年のメイヤーとイェンゼンによる殻模型の提唱(のちにノーベル物理学賞受賞)のわずか5年後には、堀江久先生とともにその重要な発展である配位混合理論を出されました。今日の研究の礎にもなっています。原子核研究のための大型計算のグループを立ち上げられ、科学における数値計算の重要性をいち早く認識されて、東大大型計算機センター長などの職につかれて、今日にいたる大規模数値シミュレーションの流れを推進されました。原子核物理学ではアルファクラスターやスピンアイソスピン励起モードなどにも成果を残され、さらに1967年に出された独自のアイデアを基に、1974年からはヤケロ教授らとともに相互作用するボソン模型を提唱発展させて、原子核表面の変形に関わる集団運動の研究に大きな貢献をされました。これらの学術的業績により、仁科記念賞、日本学士院賞、文化勲章、海外からもアメリカのボナー賞、フランスのレジオンドヌール勲章などを多数受けています。
分野の研究者を多く育てられつつ、本理学部長、東京大学総長や文部大臣なども歴任され、我が国全体の教育や学術研究の基盤向上にも尽力されました。科学研究費の大幅な拡充から、大学院重点化、初中等教育の改革、大学法人化などまで、先生のこの面での足跡には大きな発展が数多くあります。理化学研究所の理事長などを歴任後、現在も武蔵学園長や子供への科学教育活動などをされていました。また、俳句に新しいスタイルを持ち込まれ、天為俳句会を主宰し、蛇笏賞を受賞されました。
このように、学術・文化に多くのご業績を残され、今もなお、国からの大学への支出を国際的なレベルに引き上げるべく尽力されていました。120歳まで生きるとおっしゃっていましたが、それは叶いませんでした。これまでの多岐にわたるご活動に感謝申し上げ、心よりご冥福をお祈り申し上げます。
東京大学名誉教授 大塚 孝治
―東京大学大学院理学系研究科・理学部 広報室―