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ワイル粒子を用いた不揮発性メモリ素子の原理検証に成功
-ビヨンド5Gに向けた超高速駆動・超高密度メモリ開発に道-
東京大学物性研究所
東京大学大学院理学系研究科
理化学研究所
科学技術振興機構
概要
東京大学物性研究所の肥後友也 特任助教、Tsai Hanshen特任研究員、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻・物性研究所及びトランススケール量子科学国際連携研究機構の中辻 知 教授らの研究グループは、同研究所・同機構 三輪真嗣 准教授、大谷義近 教授、理化学研究所 近藤浩太 上級研究員、東京大学大学院工学系研究科の野本拓也 助教、有田亮太郎 教授らと共同で、反強磁性体中において、幻の粒子「ワイル粒子」の電気的制御に成功し、ワイル粒子の作る巨大電圧信号を利用した不揮発性メモリの動作原理を実証しました。
反強磁性体はスピンの応答速度が強磁性体に比べて2〜3桁早いピコ秒オーダーであるため、メモリ素子に反強磁性体を用いると、超高速の情報処理を行える可能性があります。この超高速性はビヨンド5Gに必要とされる性能であり、すでに応用されている強磁性体を用いた不揮発性メモリでは到達不可能な領域です。また反強磁性体では、スピンの方向が互いにキャンセルするように秩序するため、漏れ磁場がなく、大容量メモリ素子を作製できます。このように反強磁性体の利用は、IoT時代のBig Data処理に不可欠な省電力・超高速駆動・超高密度な次世代メモリの開発にブレークスルーをもたらします。
本成果の鍵となる「ワイル粒子」は、1927年の提案以来、ニュートリノなどの素粒子を記述すると考えられていましたが、自然界では未だに存在が確認されていない幻の粒子です。しかし、2015年に物質中での存在が確認されて以降、それが持つさまざまな量子的性質に世界中で大きな関心が集まっています。特に、磁性体中のワイル粒子は結晶の乱れなどに強靭であり、かつ、巨大な電圧信号を示します。従ってワイル粒子の電気的な制御は不揮発性メモリ等への応用において不可欠な開発要素でした。
本研究成果は英国科学雑誌「Nature」において、2020年4月20日付けオンライン版に公開されました。
図1 ワイル反強磁性体Mn3Snの結晶構造と磁気構造
(a) ワイル反強磁性体Mn3Snは c軸方向に磁性原子のマンガン(Mn、赤と青の球) からなるカゴメ格子が積層した構造をもち、420 K (約150 ℃) 以下で、Mnのスピンが逆120度構造と呼ばれる反強磁性秩序を示します。(b) 二層のカゴメ格子上のスピンを見ると、六角形で示されているクラスター磁気八極子と呼ばれる6つのスピンからなるユニットが同じ方向に揃っていることがわかります。
詳細については、物性研究所 のホームページ、東京大学大学院理学系研究科 物理学専攻/物性研究所・量子物質研究グループ 中辻研究室のホームページをご覧ください。
―東京大学大学院理学系研究科・理学部 広報室―