2018/09/12

死にゆく大質量星が星のごく近くに作る衝撃波を発見

 

水本 岬希(天文学専攻 博士課程※研究当時
日本学術振興会・海外特別研究員/
英国ダーラム大学・ポスドク研究員)

松永 典之(天文学専攻 助教)

小林 尚人(天文学教育研究センター 准教授)

河北 秀世(京都産業大学神山天文台長/同大学理学部 教授)

 

発表のポイント

  • 「はくちょう座P星」という死にゆく大質量星からの定常的なガス放出に伴う衝撃波が星のごく近くに作られていることを世界で初めて見つけました。
  • 高い波長分解能をもつ最新の近赤外線分光装置WINEREDを用い、星の周囲に放出されたガスの空間構造と速度構造を詳細に調べることで、本結果が得られました。
  • 大質量星がどのように死にゆくか、星の一生の解明に寄与することが期待されます。

発表概要

星の一生、すなわち星がどのように生まれどのように死んでいくかは、天文学の最大の研究テーマの一つです。なかでも重い星は、星の周囲だけではなく、銀河そして銀河宇宙全体の進化に多大な影響を及ぼすため、重要な研究対象になっています。太陽の8倍以上の質量を持つ「大質量星」は、その晩年期において、星の表面から大量のガスを放出し、衝撃波を形成します。このガス放出や衝撃波が大質量星の進化だけでなく多様な星間物質の形態や性質を決める重要な役割を担っていることはこれまでに分かっていましたが、肝心のガス放出や衝撃波の詳しい構造に関しては不明な点が多く残っていました。

今回、東京大学大学院理学系研究科の水本 岬希大学院生(研究当時)、小林 尚人准教授、松永 典之助教らの研究グループは、京都産業大学神山天文台などとの共同研究によって、0.91-1.36μm(マイクロメートル)の近赤外線波長帯において、ガス放出を起こしている大質量星としてもっとも有名な「はくちょう座P星」を観測しました。その結果、星のごく近くで、放出されたガスが星間物質にぶつかることで生じる衝撃波を観測することに成功しました。このような衝撃波の存在は理論的には予測されていましたが、実際に観測されたのは初めてです。観測が成功したことにより死にゆく星が作る衝撃波を詳細に調べられるようになったことで、理論モデルとの直接比較により星の進化過程のさらなる解明がもたらされると期待されます。

 

発表内容

星がどのように生まれてどのように死ぬか、その一生を解き明かすことは、天文学最大の研究テーマの一つです。星は、星雲のようなガスの濃い領域で、ガスが互いの重力によって引かれあって集まることで生まれます。生まれたての星がさらにガスを獲得すると、核融合反応を起こすようになり、主系列の星になります。星はその一生のほとんどを主系列の星として過ごしますが、それから先の晩年期の姿は星の質量によって大きく異なります。質量が太陽の8倍以上もある「大質量星」では、核融合反応が進むにつれ星内部からの輻射圧(注1)が非常に強くなり、膨張していきます。輻射圧が星表面での重力よりも強くなってしまうと、星表面でのガスは宇宙空間に放出されてしまい、星は「高光度青色変光星」とよばれる段階に移ります。ガス放出を続けて質量を失った大質量星は、やがて超新星爆発を起こしてその一生を終えます。

このように大質量星は、晩年期に多量のガスを周りの空間にばら撒くため、星間物質の形態や性質に決定的な影響を与えます。また超新星爆発によって重元素を生成するため、星間空間の化学組成を決定する役割も担っています。加えて、大質量星は非常に明るく輝くため、星間空間の分子や原子を壊す働きもしています。このように、大質量星を理解することは、われわれがいま見ている宇宙を理解することにつながります。

さて、高光度青色変光星は、大質量星が死ぬ準備を始めた時の姿であり、星の一生を解明する上で非常に重要な段階です。しかし、大質量星の寿命(およそ1000万年)に対し、高光度青色変光星として存在する期間はわずか1万年程度であり、非常に稀な星であるため、その詳細については詳しく分かっていませんでした。特に、高光度青色変光星がどのようなガス放出を起こすのかについては、恒星進化を調べる上で非常に大切な鍵であるにもかかわらず、不明な点が多く残されていました。

今回、東京大学大学院理学系研究科の水本 岬希大学院生(研究当時)、小林 尚人准教授、松永 典之助教らの研究グループは、京都産業大学神山天文台などとの共同研究によって、0.91-1.36μm(マイクロメートル)の赤外線波長帯において「はくちょう座P星」を観測しました。はくちょう座P星は地球から最も近い(5500光年)高光度青色変光星であり、太陽の80倍程度の質量を持っています。この天体は1600年に大規模な爆発を起こしていることでよく知られており(図1)、また現在に至るまでガス放出を続けています。

 

図1. [Fe II]輝線(1.64μm)で取得されたはくちょう座P星の画像。着色された領域は半径10秒角に広がっており、1600年の大規模爆発に伴うガス放出の領域を示している。中心にある星が明るく輝いているため、その影響を除くために中心部がマスクされている。(Adam Ginsburg氏提供)

 

観測は、京都産業大学神山天文台の荒木1.3m望遠鏡にて、東京大学と京都産業大学の研究者が参加するLIH(Laboratory of IR High-resolution Spectroscopy)によって独自開発された近赤外線高分散分光装置「WINERED」を用いて行われました。

図2上段は、1.26μmで観測される一回電離した鉄イオンの禁制線((注2); [Fe II]輝線と表します)の2次元スペクトルです。この波長の輝線は可視光で見られる[Fe II]輝線よりも明るいため、この波長をカバーしている近赤外線での観測が有効です。横軸はドップラー速度(注3)、縦軸は天体にあてたスリットの方向を表しており、どれだけの速度を持った成分がどのくらい空間的に広がっているかを示しています。横方向に長い帯として見えているのは星からの連続光で、それに加えて円環状の構造が見えています。 [Fe II] 輝線は衝撃波によって励起されることが知られているため、この天体では円環状に衝撃波が存在しているということがわかります。この円環状の衝撃波は、1600年に起こった大規模爆発によって突発的に放出された大量のガスによって作られたもの(以下、爆発シェルと表します)であることが知られています。この爆発シェルのサイズはおよそ10秒角(=2×1012km)です。次に、衝撃波の構造をさらに詳しく見ていきます。そのためには中心星からの強い光が邪魔なので、その成分を差し引いた2次元スペクトルを作ってみます(図2中段)。すると、半径10秒角に広がった爆発シェルの他に、中心付近に別の衝撃波の成分が出てきました。この衝撃波のサイズはおよそ3秒角(=7×1011km)と、星のごく近くに存在しています。図2下段は、空間方向に足し合わせた1次元スペクトルです。星のごく近くの衝撃波が速い速度を持っていることが分かります。

 

図2. 上段は、[Fe II]輝線周辺での2次元スペクトルを示している。横軸はドップラー速度、縦軸は空間方向を示す。横に長い帯として見えているのは星からの連続光の成分であり、その成分を差し引いたものが中段である。半径10秒角程度に広がった大きな円環状の構造に加えて、中心付近に別の成分が見えている。下段は、上段の2次元スペクトルを空間方向に足し合わせた1次元スペクトルである。連続光が1になるように規格化している。

 

この二つの衝撃波の位置関係をわかりやすく示したのが図3です。この星近くの衝撃波についてさらに調べたところ、爆発シェルのような突発的なガス放出がつくる衝撃波とは異なり、星からの定常的なガス放出によって作られたものであるということがわかりました。

 

図3. はくちょう座P星の周辺ガスの模式図。中心の星から放出されたガスは、周りのガスにぶつかり、内側の衝撃波を作る。外側に示した球殻は1600年の爆発に伴う衝撃波。

 

このような衝撃波がはくちょう座P星に存在することは理論的には予測されていましたが、今回初めて、観測的に存在が示されました。また、放射されている[Fe II] 輝線のほとんどがこの星近くに新しく発見された衝撃波によって作られていることもわかりました。

本研究により、高光度青色変光星からの定常的なガス放出によって作られる衝撃波の存在と、そのサイズが観測的に初めて明らかになりました。観測された衝撃波のサイズは理論モデルとよく一致しており、理論モデルの正しさを立証することが出来ました。また、定常的なガス放出に伴う質量損失率が正確に求められるようになったことで、大質量星がどれだけの速さで質量を失って死んでいくか、その進化過程の理解がさらに促進されると期待されます。加えて、これまで[Fe II] 輝線は衝撃波由来だということは知られていたものの、実際に衝撃波がどこで作られているかは分かっていませんでした。今回、[Fe II] 輝線のほとんどが星のごく近くの衝撃波から放射されていると分かったことで、これまでガス放出の証拠が見つかっていなかったほかの大質量星に対しても、[Fe II] 輝線を手掛かりにして新たにガス放出の証拠を見つけることができるのではないかと期待されます。

 

発表雑誌

雑誌名 Monthly Notices of Royal Astronomical Society(オンライン版:9月12日掲載)
論文タイトル A Newly identified emission-line region around P Cygni
著者 Misaki Mizumoto*, Naoto Kobayashi, Satoshi Hamano, Yuji Ikeda, Sohei Kondo, Hiroaki Sameshima, Noriyuki Matsunaga, Kei Fukue, Chikako Yasui, Natsuko Izumi, Hideyo Kawakita, Kenshi Nakanishi, Tetsuya Nakaoka, Shogo Otsubo & Hiroyuki Maehara
DOI番号 10.1093/mnras/sty2239
論文URL

https://doi.org/10.1093/mnras/sty2239

 

 

用語解説

注1 輻射圧

光の輻射によって物質の表面が受ける圧力のこと。光源が明るいほど、物質が受ける輻射圧は強くなる。

注2 禁制線

スペクトル線は量子力学的に2つのエネルギー準位間の遷移によって生じるが、そのなかでも遷移確率が通常のものより著しく小さく、通常の条件では遷移が事実上禁止されているものを禁制線とよぶ。禁制線は地上の実験室では通常観測されないが、宇宙空間において密度が極端に低い時、もしくは衝撃波などの外的要因によって電子が上の準位に十分な量だけ励起されている時に観測される。

注3 ドップラー速度

輝線を放射するガスが視線方向に速度を持っている場合、光のドップラー効果によりその速度の分だけ輝線の波長が変化する。逆に、波長の変化量からガスの視線速度を求めることができる。この速度のことをドップラー速度とよぶ。通常、遠ざかっている方向が正、近づいている方向が負となるように符号をとる。

 

京都産業大学ホームページ

―東京大学大学院理学系研究科・理学部 広報室―

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