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ゲノム編集と人工授精を用いたヘテロ変異体ミツバチの作出に世界で初めて成功
河野大輝(生物科学専攻 博士課程2年)
久保健雄(生物科学専攻 教授)
概要
セイヨウミツバチ(Apis mellifera L.)は社会性昆虫であり、ゲノムが解読されていることから、社会性行動の分子神経基盤研究のモデル生物として利用されており、多くの社会性行動に働く候補遺伝子や脳領域が同定されています。しかしながら、社会性行動制御において、それら候補遺伝子や脳領域の機能が実証された例はありませんでした。
東京大学大学院理学系研究科の河野大輝大学院生と久保健雄教授は先行研究で、世界で初めて、ミツバチのゲノム編集の基礎技術を開発し、変異体雄蜂の作出に成功してきました [Kohno et al. Zool. Sci. 33, 505-512 (2016)]。
今回、彼らはこれらのゲノム編集技術を、ミツバチの脳高次中枢で発現するmKast遺伝子に適用し、mKastのタンパク質発現が完全に欠失した雄蜂と、その精子を用いた人工授精法によりヘテロ変異体働き蜂の作出に成功しました。
これは、変異体雄蜂を用いた人工授精による第2世代(F2)のヘテロ変異体ミツバチの作出に成功した世界で初めての例です。これにより、ミツバチの社会性行動を制御する分子神経基盤の解析が加速することが期待されます。
この研究成果は、Scientific Reportsに2018年8月21日付で掲載されました。

図1 mKast 遺伝子のホモ変異体働き蜂作出のためのプロセス
CRISPR/Cas9によって受精卵に変異を導入し、孵化した幼虫を女王蜂へと分化させることで、モザイク状にゲノム編集が起きた細胞をもつ「モザイク女王蜂(F0)」を作出する。次に、モザイク女王蜂に未受精卵の産卵を誘導し、変異雄蜂(F1)を作出する。さらに、変異雄蜂から採取した精子を用いて野生型女王蜂に人工授精してヘテロ変異体(F2)を作出する。今回の論文で達成された部分を灰色で示している[Kohno & Kubo Sci. Rep. (2018)より改変して引用]。

図2 ヘテロ変異体働き蜂の検出
変異雄蜂精子を用いて野生型女王蜂に人工授精した。この女王蜂が産んだ働き蜂のシーケンス解析の結果(上)。黄色縦線より下流(右側)で検出された波形の重なりを分離した結果、野生型の塩基配列と変異塩基配列の両者が検出され、ヘテロ変異体働き蜂が作出されたことが分かった(下)[Kohno & Kubo Sci. Rep. (2018)より改変して引用] 。
<発表雑誌情報>
雑誌名:Scientific Reports
論文タイトル:mKast is dispensable for normal development and sexual maturation in the male European honeybee.
著者:Hiroki Kohno and Takeo Kubo*
論文へのリンク:
DOI番号:10.1038/s41598-018-30380-2
論文URL:http://www.nature.com/articles/s41598-018-30380-2
―東京大学大学院理学系研究科・理学部 広報室―