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ヒッグス粒子とボトムクォークの結合、ついに初観測
物質の質量起源の解明- LHCのATLAS実験などの成果をCERNがプレスリリース -
東京大学素粒子物理国際研究センター
高エネルギー加速器研究機構
ATLAS日本グループ
概要
2015年度に従来の倍の衝突エネルギーに増強されたLHC加速器は、予想以上の順調な運転により多くのデータが蓄積されました。また、機械学習技術を応用した新しい研究を行うことで、実験的な困難を克服し、確度5.4σ(シグマ)の有意水準でヒッグス粒子とボトムクォーク対に崩壊している信号の観測(図)に成功しました。そして、現在の精度で、観測値が標準理論の予想値と一致しているということも明らかにしました。
図:観測されたヒッグス候補事象のイベントディスプレイ
WH生成過程のWがミューオン(赤線)とニュートリノ(点線)に崩壊し、ヒッグス粒子が2つのbジェットに崩壊した(青い三角錐)。
再構成したヒッグスの質量は120ギガ電子ボルト。
図:LHC第2期実験のデータで再構成したヒッグスの質量分布。
下図では観測データとヒッグス粒子の予想分布と比較している。
本成果によって、ヒッグス粒子がボトムクォークと結合する新しい相互作用(湯川結合)が存在することが実験的に初めて確認されたことは、物質を構成する素粒子であるフェルミ 粒子の質量起源やヒッグス機構の全容解明への大きなマイルストーンと言えます。
また、以前の研究成果を踏まえ、全ての第3世代フェルミ粒子とヒッグス粒子の反応やそれによる質量生成機構が解明されたことになります。以下の図に示すように、誤差の範囲内で、物質を形成する素粒子や力を伝える素粒子の両方が、同じヒッグス機構によって質量を獲得していることがわかりました。ヒッグス粒子の発見、質量の起源の解明と2つ目の節目を迎えたことになります。
図:観測されたいろいろな素粒子とヒッグス粒子結合の強さ(縦軸)と、それぞれの素粒子の質量(横軸) 。
横軸の単位:ギガ電子ボルト:10億電子ボルト。
今後は、第2世代フェルミ粒子との結合観測も目指し、素粒子物理学の大きな謎の一つである「素粒子の世代」の解明へむけて研究を進めていきます。また、これまで観測された結合の強さの測定精度を向上させ、標準理論の綻びを探していきます。
本成果は、欧州合同原子核研究機関 (CERN) が8月28日午前10時30分 (現地時間)、大型ハドロン衝突型加速器 (LHC) で行われた実験の成果を、プレスリリースしました。本プレスリリースは、LHCのATLAS測定器で実験を行うATLAS日本グループの主要メンバーである東京大学と高エネルギー加速器研究機構(KEK)が主体となり、同日のCERN発表後に情報発信しました。。
ATLAS 実験は38カ国、3000人の研究者が参加する大プロジェクトですが、日本でも17機関、約150人の研究者・大学院生が参加して、素粒子物理学の標準理論を超える新しい物理の発見を目指しています。今回の成果についても、ATLAS実験に参加する国内外の研究者による複数の論文として発表されています。
本研究は、ATLAS日本グループ共同代表の、物理学専攻 浅井 祥仁 教授(東京大学素粒子物理国際研究センター長)らのグループおよび素粒子物理国際研究センターのメンバーが参加しています。
【CERNのプレスリリース情報】
CERN Press Release
Long-sought decay of Higgs boson observed
【ATLAS Collaborationからのコメント】
ATLAS Press Statement
ATLAS observes elusive Higgs boson decay to a pair of bottom quarks
※日本語訳はこちらから
ATLAS日本グループ
東京大学、高エネルギー加速器研究機構、筑波大学、お茶の水女子大学、早稲田大学、東京工業大学、首都大学東京、信州大学、名古屋大学、京都大学、京都教育大学、大阪大学、神戸大学、岡山大学、広島工業大学、九州大学、長崎総合科学大学、以上の17大学、約150人の研究者(大学院生を含む)からなります。
詳細については、東京大学素粒子物理国際研究センター のホームページをご覧ください。
―東京大学大学院理学系研究科・理学部 広報室―