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ゼブラフィッシュのべん毛の構造解析から軸糸ダイニン構築メカニズムの一端を解明
-繊毛・べん毛の解析手法として新たな脊椎動物モデルを開発-
科学技術振興機構(JST)
東京大学
概要
JST 戦略的創造研究推進事業において、東京大学 大学院医学系研究科の吉川 雅英 教授と同大学院理学系研究科の武田 洋幸 教授らは、遺伝子操作を行ったゼブラフィッシュの精子べん毛について、はじめてクライオ電子顕微鏡法を用いた微細構造解析を行い、軸糸ダイニン構築メカニズムの一端を明らかにしました。
繊毛、べん毛は単細胞生物から我々ヒトまで共通して存在する細胞小器官であり、精子の運動や、気管粘膜についたゴミの除去など、ヒトでも重要な役割を持っています。従来、繊毛、べん毛の構造解析にはクラミドモナスなどの単細胞生物や、ウニなどの無脊椎動物が主に利用されてきました。しかし、ヒトの繊毛、べん毛疾患(繊毛病)との関連から、よりヒトと遺伝子機能の共通性が高い、脊椎動物のモデル生物の開発も求められていました。
本研究グループは、実験動物としてすでに広く利用されている小型魚類ゼブラフィッシュに着目しました。ゼブラフィッシュはCRISPR/Cas9を用いた遺伝子操作技術が確立されており、また精子の採集が容易であるという点で、繊毛、べん毛の脊椎動物モデルとして優れた特徴を有しています。
本研究では、繊毛病の原因遺伝子であるKTU、PIH1D3と、そのたんぱく質ファミリー遺伝子(PIH1D1、PIH1D2)についてゼブラフィッシュの変異体を作製し、クライオ電子顕微鏡法を用いて精子べん毛の微細構造を解析しました。その結果、変異体では繊毛、鞭毛のモーター分子である軸糸ダイニンの構築ができなくなり、精子の運動に異常が生じることを明らかにしました。
本研究から、新たにPIH1D1、PIH1D2の2つの遺伝子が、その機能とともに繊毛病の原因遺伝子として示唆されました。脊椎動物モデルを使用した本成果は、繊毛病が生じるメカニズムを解明する上で、今後の研究に役立つ知見になると期待されます。
本研究成果は、2018年6月19日(英国時間)に国際科学誌「eLife」のオンライン版で公開されました。
図:各変異体における精子べん毛の3次元微細構造
野生型の構造と比較して、赤丸で示した軸糸ダイニンが欠損していることが分かる。
―東京大学大学院理学系研究科・理学部 広報室―